大学卒業後の進路を考えるうえで、大学院に進学するかどうかはとても大きな選択です。
大学院に進学することで何が変わるのか、就職にどんな影響があるのか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
本記事では、学士・修士・博士それぞれの特徴や、就職での評価や難易度の違いについて、わかりやすく解説します。自分にとってベストな進路を考えるためのヒントにしてみてください。
学士・修士・博士の違いとは

大学や大学院では、必要な単位を取得し、学位論文を提出することで、卒業または修了時に「学位」が授与されます。
学位には種類があり、「学士」「修士」「博士」があります。ここでは、それぞれの学位について詳しく解説しましょう。
学士号とは
学士号とは、大学を卒業した方が得られる称号のことです。英語では”Bachelor’s degree”といいます。一般的に、大学を卒業した「大卒」といわれる方は、学士号を取得していることになります。
学士号というと何か特別なもののイメージがあるかもしれませんが、一般的な大学に通って必要な単位を取り、卒業論文などを提出して卒業した時点で、学士号を取得しています。
なお、短期大学を卒業した場合は、短期大学士という学位が授与されます。
修士号とは
修士号とは、大学院を卒業した際に得られる学位のことです。英語では”Master’s Degree”といわれ日本では「マスター」とも呼ばれます。一般的には、2年間の大学院課程を修了することで、修士号が授与されます。
修士号を取るためには「修士課程」や「博士前期課程」で求められる、専門性のある研究や一定の実績をあげて、大学院を修了する必要があります。教職大学院などの専門職大学院を修了した場合も修士号が授与されます。
修士課程に進むには、自分の専門分野を決めて、大学院の入試を受ける必要があります。学士課程での成績や、院進後の研究計画に基づいて、教授から推薦を得るケースもあります。そのため、自分の関心分野を明確にし、専門分野を絞る必要があります。
また、6年制の医学部、獣医学部、薬学部、歯学部などは学部卒業でも「修士相当」と認識されるのが一般的で、そのまま博士に進むことがあります。
博士号とは
博士号とは、大学院の「博士課程」や「博士後期課程」を修了した方が得られる学位です。
博士号は、大きく分けて次の2つに分類されます。
- 課程博士
- 論文博士
「課程博士」は、博士後期課程に3年以上在籍し、所定の単位を修得したうえで博士論文を提出し、審査に合格した場合に授与されるものです。
一方の「論文博士」は、大学院に在籍せずに博士論文のみを提出し、審査に合格した場合に授与されるもので、すでに実績のある社会人研究者や専門職経験者が対象となるケースが多くみられます。
ただし、論文博士の制度は現在、全国的に縮小・廃止の方向にあります。大学によってはすでに制度を廃止しているところもあり、今後は「博士課程を退学後、一定期間内に論文を提出する」など限定的な運用に移行しつつあります。志望校や研究分野によって制度の有無が異なるため、事前に確認することが大切です。
博士号は英語では”PhD”や”Doctor’s degree”と呼ばれ、日本では「ドクター」ということもあります。
博士課程の標準修業年限は(修士課程または博士前期課程と合わせて)5年となっていますが、博士号を取る頃には、年齢が30代になる方も多いでしょう。
医学部や獣医学部などの6年制の学部を卒業した方が大学院に進学する場合は博士課程に直接進むのが一般的です。
博士課程を修了した後に、大学や研究機関などで任期付きの研究員として働く方のことを「ポストドクター(ポスドク)」と呼びます。
大学教員となることを目指している方は多いですが、民間企業に就職する方も増えてきています。
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博士号と修士号の社会的評価とは

博士号と修士号ではさまざまな違いがありますが、ここでは博士号、修士号の社会的評価について解説していきます。
博士号の社会的評価とは
博士は国内だけでなく海外でも評価される学位です。1つの分野において専門的に研究を行って授与される学位のため、知識や研究能力が評価されます。
海外での学会参加や企業との共同研究もしていた場合、さらなる高評価が得られるでしょう。特にアメリカでは、博士号の評価が高く、就職率や給料も高い傾向にあります。
修士号も専門性の高さを評価される
修士号も博士ほどではありませんが、専門的な知識を持っており、自ら考えて研究を行っていることから、高い評価を得られます。
とくに専門的な分野を扱っている研究職や開発職のある国内企業からは評価が高く、関連する研究に真摯に取り組んでいる方は採用されやすいでしょう。
学士・修士・博士の給与の違いは?最新データで徹底比較

厚生労働省が公表する「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、学士の平均初任給は、月額24万8,300円でした。修士と博士は「大学院卒」としてまとめられているものの、平均初任給は月額28万7,400円と、学士の給与とは4万円弱の差があります。
特に、研究職や技術職といった専門性の高い職種では、給与の差がさらに大きくなるケースも珍しくありません。理系分野では、博士号を持っていることで初任給が大きくアップするケースもあります。
たとえば、日本有数の工作機械メーカーである「DMG森精機」では、2023年4月入社の博士課程修了者の初任給を月額47万円台に設定し、修士卒と比較して約31%もアップしたことでも話題となりました。今後も、専門性の高さが待遇面にもしっかりと反映されている事例が増えていくと予想されているでしょう。
ただし、修士号や博士号を取るには、それだけ時間もお金もかかります。だからといって、「進学=年収アップ」につながるとは一概には言い切れません。しかし、より専門性を深めたいと考えている方や、高い専門性を武器に働きたいと思っている方にとっては、大学院での学びは将来の大きな強みとなるでしょう。
大学院で得られる力とは?就職で評価されるスキル

大学院での研究活動を通じて得られるスキルは、社会人になってからも高く評価されるものばかりです。
大学院での研究活動を通じて身につく主なスキルは、以下の5つです。
- 問題解決力・論理的思考力
- 情報収集力・分析力
- 文章作成力・プレゼンテーション力
- プロジェクトマネジメント力
- コミュニケーション力・リーダーシップ力
上記のスキルについて理解することは、面接での自己PRやエントリーシートの参考にもなります。ここからは、それぞれのスキルについて詳しくみていきましょう。
課題解決力・論理的思考力
大学院での研究では、「何が問題なのか」という課題を定義して、計画した実験を通してデータを集めて分析したうえで、解決策を考えるといった流れを何度も繰り返します。こうした経験を積み重ねることで、自然と問題を整理して考える「問題解決力」や「論理的思考力」が身についていきます。
特に実験や解析では、仮説どおりの結果が得られないことも多く、「なぜうまくいかなかったのか」「次に何をすべきか」を自分で考え、実行する力が求められます。失敗を分析して、条件を変えて再検証するプロセスは、「考える力」をトレーニングする絶好の機会といえるでしょう。
このような大学院での経験は、社会に出てからも課題や問題に直面したときに冷静に対応する力として活かされます。就職活動の面接では、研究で直面した課題や問題の乗り越え方を具体的に語って、問題解決力や論理的思考力が身についていることをしっかりアピールしましょう。
情報収集力・分析力
「情報収集スキル」や「分析スキル」は、大学院で研究を進める際に、信頼できる文献やデータなどを自ら探し出し、必要な情報を整理するうえで欠かせないスキルです。
たとえば、仮説を立てた後に裏付けをしたり、論文や実験データを読み込んで矛盾点を見つけたりするプロセスを繰り返すことで、情報収集力や分析力が自然と培われていきます。
また、研究について仲間たちと議論するなかで、物事を批判的に捉えて考える力や、自分なりの仮説を構築する力も自然と身につきます。
これらは、就職後のマーケティングや企画、調査・開発といった場面でも幅広く活用できるスキルです。面接では、研究にあたる際に「どのように情報を集め、どう判断するように意識しているか」を具体的に話すことで、説得力のある自己PRにつながるでしょう。
文章作成力・プレゼンテーション力
大学院での研究の進捗状況や実験結果を報告する際、文章や言葉で「人に伝える力」が求められます。
論文執筆や学会発表、研究室でのプレゼンを通して、複雑な内容を論理的に分かりやすく伝える力が養われます。また、大学教員や専門家を相手に発表をする際は、資料作成スキルやプレゼンテーションスキル、専門的な内容を正確に表現するスキルも重要です。これらの経験は、就職後に社内外の報告やプレゼンテーションを任された際にも大いに役立つはずです。
面接では、大学院在学中に培った「伝える力」を伝える実体験を、具体的にアピールしましょう。
プロジェクトマネジメント力
プロジェクトマネジメントとは、組織やチームの目標を期限内に達成できるように、進捗やスケジュール、リスクを管理しながら計画的に物事を進めていくことを指します。
大学院での研究では、テーマを決めるところから、実験の計画、データの収集・分析、そして報告書の作成までを自分で進めなければなりません。つまり、自分ひとりでプロジェクト全体を動かす経験ができるのです。
このようなプロジェクトマネジメントの経験やスキルは、就職後の業務やチーム運営においても重要視されます。計画力・調整力をアピールできるポイントとなるため、面接時には、スケジュール管理や進捗確認、周囲との連携をした具体的な経験を伝えていきましょう。
コミュニケーションスキル・リーダーシップ
大学院では、一人で黙々と研究に取り組むイメージがあるかもしれません。しかし、実際の研究は、指導教員や研究室の仲間と上手にコミュニケーションを取りながら進めていくものです。
特に、大きな研究テーマに取り組む場合は、個人ではなく複数人で役割を分担しながら進めるケースも多いため、人間関係を構築する力やチームワーク力が求められます。
また、研究の主体はあくまでも「学生自身」であることから、修士論文や博士論文を執筆する際は、自分で課題を整理し、周囲を巻き込んで進める「リーダーシップ」も求められます。
リーダーシップにはさまざまな定義がありますが、共通して重視されるのは「他者から信頼され、周囲を動かす力」です。このような力は、研究室の活動だけでなく、研究室以外のプロジェクトやイベントなどに参加する中でも育まれます。
異なる考え方や価値観を持つ方たちと交流し、意見交換をするなかで、自分の伝え方や関わり方を工夫するなかで、リーダーとしての視点や行動力が実践的に身につくでしょう。
学士と修士と博士の就職の違いとは

学部卒で就職をする場合と大学院へ進学後に就職をする場合ではどのように異なるのでしょうか。
社会人基礎力が評価される学部卒
就活生の中には学士号の取得を予定している方が多くの割合を占めます。
学士の場合、修士や博士のようにビジネスに活かせる専門性が高いとはいえないため、どれだけ自分から動いて仕事をこなしていけるかが重視されるのです。つまり、企業は、専門性の高さよりも、ポテンシャルを重視して採用をします。
そのため就職活動では、「学生時代にどんなことに挑戦し、どう工夫して乗り越えたか」をアピールすることがとても大切です。
したがって、学士の場合は、専門性があるかどうかはそこまで重視されないため、未経験の仕事にもチャレンジしやすいといえるでしょう。
たとえ専攻が希望職種と関係なくても、1つの目標に向かって「どのように考え、どのように行動したか」をしっかり伝えられれば、十分に評価されるチャンスはあります。大切なのは、結果だけでなく、そこに至るまでのプロセスを自分の言葉で語ることです。
専門職を目指すなら「修士」がおすすめ
修士の場合は、学士よりも専門性が高いため、専門職の募集では内定をもらいやすいといえます。
たとえば、メーカーの研究・開発職や、シンクタンクなどのコンサルティング業務などが該当します。
2年間研究を続けて、1つのことを極めてきた経験があるため、即戦力として企業に貢献できるとみなされるのです。
そのため、修士が専門職に応募する際は、学生時代に取り組んだことよりも、専門分野である研究に関する実績をアピールできるかがポイントになります。
とはいえ、アピールできるような高い実績がないとしても、持っている専門性の高さを十分に話せれば、学士より内定をもらえる確率は高いでしょう。
研究職や教授職を目指すなら「博士」がおすすめ
博士課程に進む方は、学士や修士のように民間企業に就職するのではなく、大学教員を目指すケースが大半です。
民間企業を目指す場合でも、一般的な職種ではなく、研究職など博士としての能力が特にいかせる仕事で採用されることが多くあります。
そのため、博士課程に進まれる方々は、教授職や研究職に就くことを目指す方が多いです。博士課程に進むと、研究者としてのキャリアが始まります。しかし、そこから大学教授になるまでは険しい道のりが待っています。
一般的には大学院修了後、ポストドクター(ポスドク)から始まり、助教、講師、准教授、教授の順番でランクアップしていきますが、全員がスムーズにその道を歩むわけではありません。
知識や研究の実績ももちろんですが、大学の教授枠があくかどうか、運の要素もあります。次のポストの空きを待たなければいけない場合や、任期付き職員として雇われることも多く、思うように昇進できないケースもあるでしょう。
仮に博士号を取得できたとしても、トントン拍子でキャリアアップできるかどうかはわかりません。民間企業の博士採用については、現状、一部の専門性の高い研究職での募集がほとんどです。
研究職以外では、例えばエンジニアやデータサイエンティストとして活躍する博士も多くいます。
修士や博士が就職で不利になる理由

修士や博士は経験を積んでいる分、就職で有利になると思われるかもしれませんが、一概に仕事を見つけやすいとはいえません。
ここでは、修士や博士が就職で不利になる理由を2つ紹介します。
専門・研究分野によっては募集が極端に少ない
修士や博士は専門性が重視されるため、専門職なら仕事を見つけやすいイメージがあるかもしれません。
しかし、研究分野によっては、関連する仕事の数の少なさが懸念されます。
極端に数が少ないポストだと、同じような分野を専攻している学生の応募が殺到するため、競争率が高くなってしまいます。
競争率が高いポストでは、ずば抜けて優秀でないと採用されないこともあるため、修士課程、博士課程に在籍しているうちにただならぬ努力を重ねる必要があります。
もし専門分野の仕事が見つからなければ、学部卒と同様に一般的な職種で就職することになりますが、それまでの経験や研究で得た知見を活かせなくなってしまう可能性が高いです。
現在、大学院進学を考えている方は、自分の進みたい分野の仕事がどの程度あるのか、あらかじめ確認し、修了後のキャリアについて事前に調べておくとよいでしょう。
大学院修了者にとって、民間企業への就職活動において年齢がネックになる場合も
大学院修了後の就職活動になると、就職する際に年齢がネックになる可能性があります。修士課程修了の場合では25歳前後、博士課程を修了した場合では30歳前後になることが考えられます。
そのため、学部卒が圧倒的に多い新卒の枠で応募すると他の就活生との年齢差が目立ってしまいます。
とくに民間企業では、新卒枠での採用の場合、「若さ」や「フレッシュさ」が求められることが多いです。
また大学院修了者の場合は、20代の大半を研究に費やしているため、考え方が固まってしまっているというイメージをもたれてしまうことがあります。
そのため、就職活動では、企業側に修士・博士課程修了者に対する誤解や先入観があるかもしれないことを踏まえたうえで、自身の「積極性」や「柔軟な思考力」などを意識的にアピールすることが大切です。
大学院修了者が円滑に就職活動を進めるために「就活サイト」を活用してみるのがおすすめです。
就職活動は情報戦ともいわれており、多くの情報を効率的に集められるかがカギとなります。
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修士や博士でも理系・文系で大きく違う

修士と博士では、専攻している分野が文系か理系かによっても求められる内容が異なります。どのような職種が就きやすいのか、それぞれの傾向を詳しくみていきましょう。
理系の就職先は専門分野の仕事が多い
理系の場合、大学院卒業後は、研究の専門分野に関する仕事に就くケースが大半です。化学メーカーなどの研究職や、エンジニアがよい例でしょう。
研究職の募集は、その分野に精通している方を対象としているところが多く、修士はそういったポストに応募するのが一般的な流れです。
専門分野の仕事に就くためには、大学院に在籍している間にしっかり専門的な知識をつけて、研究の一連の流れを習得していれば、内定をもらえる可能性は高いといえます。
ただ、専門外の職種に就くハードルは高く、研究を離れて新しいことに挑戦してみようと思っても、なかなか企業に受け入れてもらえないかもしれません。
理系の修士や博士に進む際は、その分野では専門外の仕事も含めてどんな就職事例があるのか調べておきましょう。
理系の修士の就活についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
文系は専門性より基礎教養を重視される
同じ修士、博士でも文系の場合は、専門性よりも基礎教養が求められます。
文系は理系よりも人数が少なく、研究内容がビジネスに直結しにくいため、個人のスキルや実務能力がより重視されます。
たとえば、就職活動で企業に見られるのは、社会人として様々なバックグラウンドの人たちとコミュニケーションが取れるかどうかや、仕事をまわすうえでのPDCAを実践できているか、といったことです。
そのため文系の就活では、大学院のときに行っていた研究の内容そのものではなく、その研究活動の中で得られた仕事で活かせる基礎教養がどのくらいあるかをアピールすることが大切になります。
つまり、就職活動ではビジネスにおける環境で、研究から得た経験をどう活かせるかを意識することがポイントです。
さらに研究と並行して、仕事をするうえでのビジネス的なマインドや、希望する業界で活かせそうな時事問題に関する知識を身につけておくといいでしょう。
文系学生のキャリアについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
自分の適性に合った就職先を早めに確認しておこう
本記事では、「学士」、「修士」、「博士」の違いと、それぞれが就職で求められる内容や状況の違いを説明しました。
就活の場では、学士卒の方の割合が多いものの、修士や博士になると、専門性の高い職種に就けるチャンスが広がります。一方で、専門分野に特化している分、採用枠が限られていたり、他分野への転向が難しくなったりするケースも少なくありません。
自分の興味や強みを踏まえたうえで、将来どんな働き方をしたいかをイメージしながら、納得のいく進路を選択していきましょう。
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