物理学系の学科に所属していて、民間企業への就職を検討している人は、就職と進学、どちらのメリットが大きいのかわからず悩んでしまうこともあると思います。どちらに進むかによってキャリアパスは大きく変わるので、不安に思うこともあるでしょう。
しかしきちんと双方のメリット・デメリットを知れば、自分に合う道が見つかるはずです。今回は物理学系に焦点を当てて、就職と進学それぞれのメリット・デメリット、就職先などを紹介します。進路に悩んでいる物理学系の学生の方はぜひ参考にしてください。
博士進学と就職、どっちを選ぶべきか
現在修士課程に在籍している人は、博士進学と就職のどちらを選ぶか悩むことがあると思います。まずは博士課程への進学と民間企業への就職、それぞれのメリットとデメリットを知って、自分が進みたい方を検討してみてください。
博士課程に進むメリット・デメリット
博士課程へ進学するメリットは以下の通りです。
- 研究を続けられる
- 学歴が評価される
- 就職までの時間が長い
博士課程に進めば、自分が専攻する分野を深く掘り下げることができ、研究者として更なる実績を積めるでしょう。博士号を取得すれば、社会的に高い学歴を持っているという評価ももらえ、その後の就活でも有利になるはずです。
また民間企業への就職を検討している人なら、キャリアパスを考える時間の余裕も生まれます。博士課程で研究をする傍ら、じっくりと自分の仕事について考えられるでしょう。
一方で、博士課程に進むデメリットは以下の通りです。
- 進む道が狭まる
- 前例が少ない
- 就活との両立が大変
博士課程に進めば専門性は高められますが、その分新しい分野への挑戦はしづらくなるでしょう。博士課程を終えた人はアカデミアに残って教授を目指す人も多く、進む道が狭まることも考えられます。
また博士課程に進む人はほんの一握りのため、参考になるOBやOGの数が多くないのが現状です。情報収集するためには、積極的に人脈を増やしていく必要があるでしょう。また、博士課程の研究と就活を両立するのは体力面でも大変なため、睡眠時間を削らなければいけないこともあるかもしれません。
民間企業に就職するメリット・デメリット
民間企業に就職する場合のメリット・デメリットを見てみましょう。まずメリットとしては以下の点が挙げられます。
- 新しい分野へ挑戦しやすい
- 経済面の安定が見込める
- 進学先の選択肢が多くなる
民間企業へ就職した場合、今まで取り組んでいた研究分野以外への道にも進みやすいのが大きなメリットです。さらに正社員であれば、毎月の給料も安定しており経済的安心が得られるでしょう。
そして、社会人として経験を積んだ後に進学するという選択肢もあります。興味がある分野の仕事に就いて、ある程度知識を付けてから大学院に行けば、研究者として活躍できる可能性も高くなるでしょう。
社会人として働いたあとなら、大学院の学費も捻出できるため、大学卒業後すぐに大学院に行くよりも経済的負担が少ないというメリットもあります。
対してデメリットは以下の通りです。
- 専門性やスキルが求められる
- 募集枠に対して倍率が高い
- 社会経験が少ない
修士課程を終えて民間企業に就職する場合は、学部卒と違い、ある程度の専門性やスキルが求められます。大学院で学んだことを仕事に活かす必要があるので「これから知識を身に着ければいい」という考えは通用しないこともあるでしょう。
そして、ポストによっては募集枠が数えるほどしかなく、応募が殺到することも考えられます。
特に専門職では、それまで積んだ実績やスキルが評価されるので、就活のやりづらさを感じるかもしれません。たとえば募集人数が少ない研究者の職に応募する場合は、高い研究実績をあげている他の学生と比較され、簡単に受からないこともあるでしょう。
また学部卒で就職した人と比べると「社会経験が少ない」とみなされてしまうこともあります。学部卒で社会人になった人は基本的なビジネスマナーなどを身につけていますが、大学院を卒業したばかりの人は、これから勉強しなければいけません。
年が上であっても、ビジネスの面では学部卒の社会人よりスキルが低いと思われてしまう可能性もあります。
物理学系の就職先事情
物理学系・化学系の就職は実際どうなのか、どんな仕事があるのかを紹介します。自身が所属している分野の状況を理解して、仕事探しに役立ててください。
専攻にこだわると就職しにくいのは本当?
物理学系は所属にもよりますが、専攻にこだわりすぎると就職しづらくなってしまいます。機械や電機メーカーなら就職のしやすさが上がるかもしれませんが、素粒子など、そもそも自身の専攻分野を扱っている企業が少ない場合は苦戦する恐れがあります。
就職先を見つけるためには、専攻にこだわりすぎず「研究で得た考え方やスキル」を活かせる仕事も視野に入れるといいでしょう。自身が研究してきたテーマに携われないと、残念に思うかもしれません。しかし研究を続けてきて学んだフレームワークは他の分野でも、仕事を進めるうえで役に立つはずです。
企業は専門性だけでなく、仕事に幅広く適用できるスキルや能力も見ています。理系の学生はコツコツと一つの研究を続けられる、という点では文系より評価されやすいのです。自身のスキルや、研究で得た学びをうまくアピールできれば、専攻分野かどうかに関わらず就職先を見つけられるでしょう。
物理学系の就職先は多め
物理学系の就職先は比較的数が多い傾向にあります。主な就職先をまとめて見てみましょう。
メーカー
理学系の就職先として思い浮かぶのはメーカーが多いのではないでしょうか。機械・電機などさまざまな種類があり、研究開発や品質管理の仕事では、理系の人材の需要が高まっています。
自身の分野に当てはまる職種が見つかれば、研究で得た知見を活かしながら働くことも可能でしょう。大手メーカーに勤められれば、高い収入や充実した福利厚生制度を活用することも可能です。
IT業界
物理系を専攻している人なら、IT業界でエンジニアなどの仕事に就くこともあります。最近はAIやビッグデータといったデジタル領域の発展が著しく、こうしたデータを扱える人材は特に重宝されます。
IT業界については、こちらの記事も参考にしてください。
保険・金融業界
意外かもしれませんが、保険・金融業界も物理学系の学生の就職先として向いています。保険・金融ではアナリストとして物理学系の学生を採用するところが多くあります。研究で培った思考は、ビジネスにおける調査などに応用できるためです。
金融業外については、こちらの記事でも解説しています。
教師・講師
教員も理学部全体に需要がある職種です。物理の講師として公立高校などに勤める人も増えてきています。学校だけでなく学習塾などでも理系の講師は募集しているところが多く、幅を広げるために就職先の一つとして考えてもいいかもしれません。
物理系の学生に人気の就職先企業
特に技術的な専門知識が必要な分野では、物理学の知識があると就職に有利になります。また、物理学と密接な関係にある数学や化学も有利に働くことがあります。
特に次のような分野での就職をお勧めします。
電機メーカー
物理学系の学生は、電気メーカーを始め製造業で就活の際に有利です。
近年この分野の企業は、家電製品だけでなく、ロボット工学や自動運転工学など、専門的な立場から多方面に活躍の場を広げています。
情報通信分野で権威のある日立製作所、三菱電機、パナソニック、富士通、NEC、映像・音響分野で著名なSONYなど、この分野の有名企業へのチャレンジも可能です。
家電メーカーについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
医療機器メーカー
医療機器メーカーは、高齢化やパンデミックによる医療機器の需要増加により、物理学専攻の学生からの人気が高まっています。
MRI(磁気共鳴画像装置)やCT(コンピュータ断層撮影装置)などの医療用画像機器に注力しているメーカーもあれば、植込み型ペースメーカーや透析装置などの治療技術の製造に注力しているメーカーもあります。
また、医療機器メーカーの営業担当者は医療機器に精通している必要があるため、物理学科出身者にとって、大学で学んだ専門知識を活かせる求人が多くあります。
就職先の主な医療機器メーカーは、オリンパス株式会社、キヤノン株式会社、富士フイルム株式会社など、光学機器に特化した企業が人気です。
治療機器に特化した企業では、テルモ株式会社、日本光電工業株式会社、オムロン株式会社などがあります。
半導体メーカー
半導体は、パソコンやスマートフォン、家電製品など、私たちの身の回りにある多くの電子機器を制御するために欠かせない部品です。
かつてはほぼ日本国内で生産されていましたが、国際競争の激化に伴い、海外企業のシェアが高まるなど、厳しい状況になっています。
しかし、半導体の世界的な需要は拡大し続けており、特に日本製の高品質な半導体が求められています。このため、物理を学ぶ学生にとって魅力的な分野となっています。
一方で、インテルコーポレーション、サムスン電子、マイクロン・テクノロジといった海外の有名企業が、半導体分野で優位に立ち続けていることも確かです。
国内では、キオクシア株式会社(元東芝メモリ)がトップの売上高で市場をリードしており、日本企業で唯一100億ドルの大台に乗っています。
金融・コンサルティングファーム
物理学科で学んだことを活かそうとすると、技術系の職種に限定されると思っている学生も多いようですが、そうではありません。
一般的に文系の学生から人気のあるような業界にも、物理学科出身者が活躍できる職業が数多くあります。
金融業界やコンサルティング業界はその代表格で、物理系出身者にとってやりがいのある仕事の機会は十分にあります。固定観念に縛られることなく、数ある選択肢の中から賢く就職先を選びましょう。
現在金融の世界では、昨今の超低金利政策により、金利のみに依存した利益創出が精力的に行われつつあります。その代替として、為替、株式、債券などのデリバティブが盛んに行われています。
デリバティブで利益を上げ、リスクを抑えるには、市場の癖や企業の予兆など、膨大なデータを見極めることが重要です。
このような仕事は、「クオンツ」と呼ばれる職種に該当し、物理学の知識を応用することができます。
まとめ
本記事では、物理学系の学生に向けて、進学と就職のメリット・デメリットや就職先を紹介しました。ポイントは以下の通りです。
- 博士課程への進学はキャリアを狭める恐れもあるが、学問を深められ、学歴アップにつながる
- 民間への就職は専門性やスキルが求められるが、経済面の安定や分野の転向がしやすい
- 就活する際は、専攻にこだわりすぎないことが大切
- 就職先としては民間企業が仕事を見つけやすく、教員などの選択肢もある
これらの点を踏まえて、自身に合った道をよく検討してみてください。本記事が進路を考えるうえでの参考になれば幸いです。