理系大学院生に人気のある業界としては、製造業界やIT業界が挙げられます。一方で、あまり注目されにくい金融業界にも、理系の大学院生が活躍できる可能性が秘められています。
今回は金融業界が理系の院生を求める理由や、おすすめの就職先、志望するにあたって注意したいことなどを詳しくみていきましょう。就活で視野を広げたいと思っている理系の院生の方や、金融業界について知りたい方はぜひ参考にしてください。
金融業界を志望する理系院生は少数派
理系の大学院生や大学生にとって金融業界は人気とは言えない業界です。ここでアカリクが実施したアンケート調査の結果をご紹介します。
- 調査方法:大学院生・理系学生に特化した就活サイト「アカリク」会員のうち、2023年新卒の理系学生168名(内訳: 博士在学中19.3%、修士在学中:75.3%、学部在学中5.4%)
- 調査期間: 2022年7月8日から2022年7月15日

「民間就職を検討する際に特に志望していた業界を教えてください」という設問では、メーカーやIT業界が理系大学生、理系大学院生に人気であることが分かります。一方、金融業界を志望する理系の大学生、大学院生は少数派です。では、理系学生、院生が身に付けてきた能力を金融業界で発揮することは難しいのでしょうか。
理系院生を金融業界が求める理由
理系の学生、大学院生からの人気がそこまでは高くない一方、金融業界では理系人材のニーズがあります。その理由としては、論理的思考力に優れていることや、数値に対する高い理解力を備えていることが挙げられます。ニーズが高まっている理由についてみていきましょう。
論理的な思考力を持っている
理系の大学院生は論理的思考力に優れている人が多く、その強みは金融業界でも高く評価されています。研究を通じて培った分析力や論理性は、就職活動においても大きなアドバンテージとなるでしょう。
論理的な思考力はどの業界においても必要なスキルですが、金融業界では、お金を扱う性質上、感情や直感ではなく、事実やデータに基づく論理的な判断が強く求められます。そのため他の学生に比べて論理的思考力に長けている理系の院卒は優遇されやすいのです。
数字に強い
金融業界で理系の院卒が求められるもう一つの理由として、数字に強いことが挙げられます。理系の学生は数値データにもとづいて研究を行うことが多いため、数字を用いた論理的な説明能力に長けています。金融業界では、企業の決算書や損益計算書から競合他社との優位性や経営力を読み解き、投資の判断に数字を活用することも少なくありません。
そうしたポジションに新卒の社員を充てる場合、もとから数字に強い人を起用したいと考える採用担当者は多いはずです。金融業界のクライアントとなる企業の価値を読み解く力があるため、理系の学生は評価されやすいのです。
研究経験を活かせる
金融業界では研究で培われたスキルを活かせるケースが多く、理系の院生は重宝されます。たとえば機械工学を専攻していた学生が銀行に就職した場合、クライアントである精密機器を扱う企業の技術の高さがどれほどのレベルなのか、説明を聞けば大体イメージできるでしょう。
このように、理系の院生が専攻してきた分野は「企業の価値をはかる指標」として活用できます。もちろん財務状況をもとに論理的な判断を行うことも重要ですが、それに加えて、これまで研究してきた専門知識を活かせる場面も少なくありません。
前述の通り、理系から金融業界を志望する学生・院生は少数派です。そのため就職活動では、理系で培った知識やスキルを就職後にどう活かすかを明確に伝えることが、他の就活生との差別化につながります。
金融業界にはどんな就職先があるのか
金融業界で就職する際は銀行、証券会社、保険会社などさまざまな選択肢があります。それぞれの就職先の特徴や、理系の院生が活かせるスキルなどをみてみましょう。
銀行
一つ目の選択肢は銀行です。銀行では、個人や企業からの預金をもとに資金を運用したり、企業へ融資を行ったりと、資金の流通を担うさまざまな業務を行っています。銀行による企業への融資は、資金の流通を促し、経済活動の活性化につながります。
仕事内容によって行う業務はさまざまですが、お金を扱うという点では、銀行員はあらゆる場で社会貢献ができます。クライアントから感謝されたときには、大きなやりがいを感じられるでしょう。
証券会社や投資銀行
次の選択肢は証券会社や投資銀行です。個人を対象とした口座開設の営業や、資産を増やすためのコンサルティングなどを実施します。扱う商品は多岐にわたるので、状況や相手に最適なサービスを提案する力が求められます。
また株式や経済に関する調査も大切な業務であり、データを取って分析するという点では、理系の学生が研究でやっていたことと重複する部分もあります。
信託銀行
信託銀行は、一般的な銀行が行う業務に加えて信託業務などを実施する銀行のことを指します。信託業務とは、個人や企業からお金や不動産などを信託銀行に移して、運用をする仕事のことです。
銀行がやっている仕事だけでなく信託業務や併営業務などを事業としているので、仕事の幅も広く、扱う商品もバラエティが豊富です。
保険会社
生命保険や損害保険を扱う保険会社も、金融業界の選択肢の一つです。事故や入院、災害などが起こったときに保険に加入していれば金銭面の支援を受けられます。保険会社ではそのような保険商品の営業や、契約後のフォロー、新しい商品の企画・開発などを行います。
新しい保険商品の企画・開発には、統計の分析が必要となり、理系の学生のニーズが特に高まっているポジションともいえます。
保険会社で数理系の業務を扱う「アクチュアリー」も、数字に強い理系のニーズが高いポジションです。
アセットマネジメント
アセットマネジメントとは、個人や機関投資家に代わって資産運用を行う金融サービスのことを指します。投資信託や証券などの金融商品の開発も行い、債権、為替、不動産などの運用も業務です。資産の価値を大きくするための運用担当や、企画職のなかには理系で活躍している人も多く存在します。
政府系の金融機関など
政府系の金融機関とは、民間の金融機関では対応が難しい分野に対して経済的な支援を行うほか、政策的な目的に基づく特殊な金融業務を担う、公的資本によって設立された金融機関のことです。代表的な機関としては、国際協力銀行(JBIC)をはじめ、商工組合中央金庫、住宅金融支援機構などが挙げられます。
金融業界で理系院生が配属されやすい職種・部門
金融業界と聞くと、営業職や窓口業務のイメージを持つ人も多いかもしれません。しかし実際には、理系院生の強みである分析力や数値処理能力、研究で培った思考プロセスを活かせる専門的な職種・部門も数多く存在します。
特に近年は、金融機関においても高度なデータ活用やリスク管理、数理モデルを用いた判断が求められており、理系人材の活躍の場は広がっています。
ここでは、理系院生が配属されやすく、専門性を発揮しやすい代表的な職種・部門を詳しくみていきましょう。
リスク管理・審査部門
リスク管理・審査部門は、金融機関が融資や投資を行う際に生じるリスクを分析し、意思決定を支える役割を担う部門です。企業や個人の財務状況をもとに返済能力を評価したり、金利や為替の変動が与える影響を数値で予測したりするなど、データにもとづいた判断が求められます。
業務では、複数の情報を整理しながら仮説を立て、根拠をもって結論を導く力が欠かせません。そのため、研究活動を通じてデータ分析や検証プロセスに慣れている理系院生は、適性が高いと評価されやすい傾向にあります。リスク評価の精度は金融機関の安定性にも直結するため、専門性を活かして中長期的に活躍できる職種といえるでしょう。
クオンツ・数理分析系部門
クオンツとは、金融の世界で数学や統計学、数理モデルを用いて市場データを分析し、金融商品の価格設定やリスク評価、投資戦略の策定を行う専門職です。
金融機関や資産運用会社では、金融工学的な手法を活用して将来の変動を予測し、最適な意思決定を支える役割を果たしています。そのため、日々の業務では大量のデータを扱いながら数学的なモデルを構築したり、プログラミング言語を使ってアルゴリズムを組んだりすることが求められます。
理系院生は、研究で培った数理的思考や統計的手法への理解、プログラミングの基礎力を活かしやすく、こうした数理分析の分野で力を発揮しやすい傾向があります。また、クオンツ系の仕事は専門性が高く評価されるため、金融業界のなかでもポテンシャル採用や早期キャリア形成につながる機会がある部門といえるでしょう。
データ分析・DX推進部門
データ分析・DX推進部門は、金融機関が保有する膨大なデータを活用し、業務効率化やサービスの高度化を担う部門です。
近年は、取引履歴や顧客行動データを分析することで、顧客ニーズの把握やマーケティング施策の最適化、リスク予測の精度向上につなげる取り組みが広がっています。また、全社的なデジタル化を推進する立場として、データ基盤の整備やAI・機械学習の導入などに関わるケースも少なくありません。
こうした部門では、統計学やデータ処理に関する知識、プログラミングスキルが強みとして評価される傾向があります。理系院生が研究活動を通じて培ってきた分析力や技術的な理解を活かしやすいフィールドであり、データを起点とした意思決定が企業競争力の源泉となるなか、DX関連ポジションとしてのニーズも年々高まっています。
商品企画・金融商品開発部門
商品企画・金融商品開発部門は、顧客のニーズや市場動向を踏まえ、新たな金融商品やサービスを企画・設計し、提供まで導く役割を担う部門です。市場や顧客データを分析しながら商品コンセプトや収益モデルを設計し、銀行や証券、保険といった金融機関の強みを活かした競争力のある商品づくりを行います。
商品化の過程では、法務をはじめ、リスク管理やシステム、営業など多くの部署と連携し、法規制やコンプライアンスにも配慮しながら企画を具体化していきます。リリース後も利用状況や市場の反応を分析し、改善を重ねていく点が特徴です。
また近年は、デジタル技術を活用した金融サービスや新しい顧客体験を生み出す取り組みも増えており、データ活用やDXの視点が商品開発に求められる場面も多くなっています。
こうした業務では、企画力や分析力に加え、関係者と協働しながらプロジェクトを前に進める調整力が重要です。学生時代に培った課題発見力や論理的思考力、研究やプロジェクトでの検証経験は、この分野でそのまま活かしやすい強みといえるでしょう。
企業分析・アナリスト関連業務
企業分析・アナリスト関連業務は、企業や業界の財務状況や市場環境を調査・分析し、経営判断や投資判断、戦略立案を支える役割を担う仕事です。財務諸表や業績データ、経済指標、競合情報などを整理・分析し、企業価値や将来性、リスク要因を明らかにします。
この業務では、数値を扱う力に加え、企業のビジネスモデルや競争環境を理解し、課題や成長機会を見極める視点が求められます。分析結果はレポートや資料としてまとめられ、経営層や関係部署の意思決定に活用されます。
企業分析・アナリスト業務には、企業価値評価や収益性・リスク分析、競合比較、将来業績の予測などが含まれます。論理的思考に基づいてデータを解釈し、分かりやすく伝える力が重要であり、学生時代に培った分析力やレポート作成経験を活かしやすい分野といえるでしょう。
金融業界で評価されやすい理系専攻分野とは
金融業界は文系出身者が多いイメージを持たれがちですが、実際には理系ならではの専門性や論理的思考力が評価される場面も増えています。近年はデータ活用やDXの進展により、数理的・技術的なバックグラウンドを持つ人材への期待が高まっています。
ここでは、金融業界で強みとして評価されやすい理系の専攻分野を詳しくみていきましょう。
数学・統計・物理系
数学・統計・物理系の専攻は、金融業界のなかでも特に評価されやすい分野のひとつです。金融の現場では、リスク管理や金融商品の価格算定、投資分析など、数値に基づいた意思決定が欠かせません。そのため、確率・統計や微分積分、数理モデルを用いて論理的に物事を捉える力は大きな強みとなります。
また、物理学で培われる仮説構築力や、複雑な現象を数式で表現・検証する力は、変動の激しい金融市場を分析する場面でも活かされます。定量的な思考力や問題解決力を備えた人材は、アナリストやリスク管理、クオンツ関連業務などを中心に、幅広い分野で活躍の機会が広がっています。
情報系・データサイエンス系
情報系・データサイエンス系の専攻は、金融業界のなかでも近年とくに存在感を高めている分野です。
金融機関には取引履歴や顧客データ、市場データといった膨大な情報が集積されており、それらをいかに分析し、業務やサービスに活かせるかが競争力の差につながります。プログラミングやデータベース、機械学習に関する知識は、業務効率化や不正検知、リスク管理、マーケティング施策の高度化など、さまざまな場面で活用されています。
データを起点に課題を整理し、具体的な改善策へと落とし込める人材は、データ分析部門やDX推進部門を中心に、活躍のフィールドを広げていくことができるでしょう。
工学系
工学系の専攻は、金融業界において「課題解決力」や「実装力」が評価されやすい分野です。
工学では、与えられた条件のもとで最適な解決策を設計し、検証・改善を重ねていくプロセスを重視します。こうした考え方は、金融機関の業務改善やシステム刷新、DX推進の現場と親和性が高いといえるでしょう。
また、プログラミングやシステム設計、データ処理などの技術は、金融システムの安定運用や業務効率化に欠かせません。複数の関係者と連携しながらプロジェクトを進める経験を持つ工学系人材は、IT部門やDX関連部署を中心に、金融業界でも活躍の場を広げています。
生命科学・医薬・バイオ系
生命科学・医薬・バイオ系の専攻は、金融業界との結びつきが想像しにくい分野ですが、近年は専門性が評価される機会も広がっています。
研究活動を通じて培われるデータ分析力や仮説検証力、結果を論理的に説明する力は、金融における分析業務やリスク評価と高い親和性があります。さらに、医療・ヘルスケア分野への投資やESG・サステナブルファイナンスの領域では、生命科学の知見を背景にした企業評価や事業理解が求められる場面も少なくありません。
専門分野への深い理解と定量的な思考力を併せ持つ点が、この分野ならではの強みといえるでしょう。
就活スケジュールと業界を絞り込む時期

就活に取り組むにあたって、就活全体のスケジュールを予め把握しておくことが重要です。
理系の院生が金融業界に就職するためには、まずインターンシップに参加することをおすすめします。インターンに参加することで、企業とのミスマッチを防ぎ、就活を有利に進めやすくなるためです。インターンの募集は主に夏と冬、もしくは通年で受け入れている会社もあります。それぞれの時期や特徴について紹介します。
夏のインターン(時期やタイミング)
夏のインターンは例年7月から9月の間に行われます。金融業界のみならず多くの業界では2から3日間ほどの短期インターンが多く、グループワークやテーマに基づいたディスカッションなどを行うことが多いです。募集は1か月ほど前から行われるので、気になる企業がある場合は早めに確認しておきましょう。
冬のインターン(時期やタイミング)
冬のインターンは主に1月から3月の間で盛んに開催されます。冬のインターンに参加するタイミングは、就活が本格化する前です。企業文化を知るためや、事業について理解を深めるために参加する人が多いといえます。
夏のインターンは幅広く、冬のインターンで本命に
さて、ここで前述のアンケート調査の結果をもう一つご紹介します。「最終的に志望する業界を絞った時期はいつですか」という設問の回答をグラフに示します。

この結果によれば、卒業・修了の前年度、つまり学部3年生または修士1年生の12月頃から志望業界を絞り始める人が多いようです。

また、「就職活動を進める上で志望業界や職種は変化しましたか」という設問では36.9%の人が変化したと回答しています。
卒業・修了前年度の夏の段階ではインターンシップへの参加も含め、幅広く様々な業界に目を向けて情報収集することで冬以降の意思決定に必要な判断材料を集めておくと良いでしょう。
理系院生が金融業界の就活でアピールすべきポイント
理系の院生が金融企業を志望する際には、あらかじめチェックしておきたい点があります。また、相手を納得させる志望動機が必要です。具体的な就職先を決める前に、いくつかのポイントを押さえておきましょう。
自分の学んできたことを活かせる職種か
金融業界を志望する際は、大学院での学びを活かせる職種かどうかを見極めることが重要です。たとえば、同じ銀行でも営業職と企画職では業務内容が全く違います。営業職はコミュニケーションスキルや交渉力が問われますが、企画職ではマーケティング能力や分析能力などが必要です。
研究をするうえで分析能力を身につけられたと思うのなら、企画職の方が適職といえます。大学院で学んだことが活かせる職場かどうか、じっくり企業研究を行ってみてください。
自分の研究を活かし何をその企業で実現できるか
自身のスキルが企業でどのように貢献できるか、具体的なビジョンを描いておくことが重要です。たとえば情報技術を専攻している院生なら、ITリテラシーの高さを銀行で活かせます。融資を判断する際に、最新の情報技術を扱うIT企業の事業内容に対する理解を深められるでしょう。ひいては、IT企業の売上拡大に貢献できるかもしれません。
志望する企業のどの職種で何を実現したいのかまで具体的に考えると、内定の可能性を大きく高められます。
業界、業種、仕事内容を希望する具体的理由
就活では業界、業種、仕事内容それぞれについて、なぜ志望するのか具体的な理由を考えておくことも不可欠です。「その仕事でないと実現できない」と思われる理由がないと、企業の面接官を納得させることはできません。特に金融業界の仕事は、所属している分野とは違う分野のため、志望動機はしっかり考えましょう。
そのためには業界・企業研究を入念に行うことが必要です。業界が何を扱い、そのなかで志望する企業はどんな立ち位置にいるのか。どのような価値を提供しているのかを調べましょう。自分のスキルや志向性、やりたいことを企業の特性と照らし合わせることで、「その会社でなければならない理由」が明確になります。
自分の強みを把握し、人材像との結びつきを明確にしておこう

理系の院卒でも金融業界に就職できる理由やおすすめの就職先、就活における大切なことなどを解説しました。
- 理系の院卒は数字に強く、論理的思考力に長けているので金融業のニーズは高い
- 就職先としては銀行、証券会社、アセットマネジメント、政府系金融機関などがある
- 金融業界に進むためにはインターンに参加するのがおすすめ
- 応募する前になぜその業界・業種・仕事でないとだめなのか、具体的に理由を考えると内定に近づきやすい
業界を問わず、自分の強みである能力や知識を就職後にどう活かし、どのように貢献できるかを明確にして伝えることが重要です。特に理系から金融業界への就活では「専攻分野と異なるのに、なぜ金融業界を志望したのか」と質問されることが想定できます。自分なりに理由を考えて、採用担当者が納得できるような準備を行いましょう。




