非常勤講師の試行錯誤  一コマの授業をどう構成するか(対面編)

博士の日常

 大学の授業は、以前は一コマ(1時限)90分が一般的でしたが、クオーター制の導入や学事暦に合わせ、100分や105分の授業を行う大学も増えている印象があります。

 小学校から高校までは、授業時間は45分~50分であるのに対し、大学では約2倍に伸びることになります。大学の制度やしくみには、それ以前の学校のものと大きく異なる部分は他にもたくさんありますが、授業時間の増加は、改めて考えてみるとかなり大きな変化です。

 以前の記事では、大学の授業時間にまつわる前提についてまとめましたが、こちらの記事では、長時間化している大学の一コマの授業をどのように構成するか、その試行錯誤についてご紹介していきます。

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大学の授業は長時間化する傾向に

 大学の授業は、「一単位の授業科目は総学修時間が45時間となることを標準とする」という基準が示されていますが、授業形式によって大学が定めることができ、一回あたりの授業時間や回数に定めはありません。

 90分から120分の授業を13週から15週で一単位としている大学が多く、最低でも90分間というまとまった時間が割り当てられています。以前は90分授業が主流でしたが、「大学設置基準」の一部改正を受け、近年では多くの大学が、一回あたりの授業時間を延長し、100分以上へと移行する傾向があります

 授業時間が長いほど、単位取得のための期間(セメスター)は短くなるため、学生にとって、ボランティアやアルバイト等の学外活動に在学中から従事する機会が増えるほか、教員のほうも、教育活動が集中する期間と研究活動に充てられる期間を明確にしやすくなります。つまり、長期休暇が長く確保されることが、一コマあたりの時間が長いことのメリットのひとつです。

 また、実験科目、実習科目等はまとまった時間が確保されるほうが効率が良いという側面もあります。

100分前後という授業時間をどう使うか

 一方で、時間が長くなると悩ましいのが集中力の持続性の問題です。

 小中高までの授業は、「学校教育法施行規則」によって時間は45分または50分と定められています。そのため、多くの学生は大学入学後にはじめて長時間授業を経験することになります。

 実習科目や実験など主体的な動きのある授業や、ゼミや演習科目といった少人数の教室は、十分な時間を生かして充実した学びにつなげることができますが、講堂での講義になると、大勢の履修者を初めから終わりまで惹きつけておくのは至難の技です。

総学修時間をどう捉えるか

 実質の講義の時間ははやめに切り上げ、残りの時間はリアクションペーパーの記入や任意の質疑応答の時間に充てるという方法もありますが、この方法では、長時間化している大学の授業時間を十分に活かせているとはいえません。特に、カリキュラムが変更され、一コマの授業時間が延長され、回数が少なくなったという場合には、延長された分の時間を有効に使えなければ、回数が減った分、授業内容が減ってしまうことになります。

  「大学設置基準」に示されている「一単位の授業科目は総学修時間が45時間となることを標準とする」という文言ですが、「学修」には、演習室や講義室で授業を受けている時間そのものだけでなく、予習や復習といった教室の外での学びも含まれています。

 授業時間は45時間のうちの半分程度に設定されている大学が多く、授業と同程度の時間、学生による自律的な学びが行われることが想定されています。質疑応答や、アウトプットの時間を授業時間内に設定することは有効ですが、講義の時間を大幅に減らしてしまうと、想定されている「講義とそれ以外の学びの時間」のバランスが崩れてしまうことにもなりかねません。

 つまり、講義を短くして、残りの時間を他の学修にあてるということは、授業時間外で行うはずの学修を授業時間内に終わらせてしまうことになるので、結果的に総学修時間が足りなくなってしまう可能性があるわけです。

 しかし、一コマの授業時間を長くし、週数を少なくするという近年の傾向を考えると、実際に学生たちが教室で学ぶのと同程度の学修時間を確保するというのは、なかなか厳しいように思います。授業後に次の講義までに行う課題を出すよりも、授業時間内に自律的学修の時間を設けてしまうほうが、学生にとっては効率的で都合が良い場合もあるでしょう。

休憩をはさんで集中力の改善をはかる

 単純に、一コマの時間のなかに区切りを入れ、休憩時間を挟むという方法もあります。なかだるみしてきたところで一旦休憩をいれ、仕切り直してから残りの授業を再開するというやり方です。前半と後半のふたつに区切る場合、ちょうど高校までの授業と同じくらいの時間になります。

 日常生活における長時間の座位行動がもたらす健康被害も指摘されていますし、長時間座りっぱなしになってしまうことを避け、少しでも体を伸ばしたり、立ち上がったりすることには、学習面以外においても良い効果がありそうです。

参考:厚生労働省「座位行動」<https://www.mhlw.go.jp/content/000656521.pdf>

 また、運動と学習能力には相関があるという研究もあり、脳科学の視点からは、思考力や集中力は、運動後に高まるといわれています。集中物質であるドーパミンの分泌量が運動によって上がるためです。

参考:
ジョンJ.レイティ 、 エリック・ヘイガーマン (著)、 野中香方子(訳)2009年『脳を鍛えるには運動しかない』NHK出版。
アンダース・ハンセン (著) 御舩由美子(訳)2018年『一流の頭脳』 サンマーク出版。

 ドーパミンの分泌を促すのに効果的なのは、心拍数をあげる有酸素運動です。授業中に休憩がはいったからといって、ジョギングや縄跳びに匹敵するような運動をする学生はまずいないとは思いますが、それでも一度立ち上がって歩くだけでも、ある程度のリフレッシュにはなるのではないでしょうか。

 休憩を入れる場合には、時間のみで区切るのではなく、前半と後半の二部で授業を構成し、休憩の前後でまとめや質疑応答の時間を設けることも考えられます。新しく入ってきた情報を都度、整理と確認をしながら授業を進めることで、長い授業時間を活かし、知識の定着をはかる方法です。

 履修人数の多い講義の場合、個別に質問がある学生は、講義の開始前や終了後に教壇に立ち寄って講師に声をかけることができますが、教室移動の時間や友人付き合いを気にして、諦めてしまう学生もいます。中休みを入れることで、個別に講師にアクセスする機会を増やすこともできるかもしれません。

最後は古典的な方法もやはり有効?

 90分といわず、45分であっても、人がひとつのことに集中するのはなかなか大変です。講義を行っている側にも疲れはありますが、受講側は別のタイミングで集中力が切れてくるものです。

 約15分ごとにコマーシャルが入るテレビ番組の構成に倣い、単調な講義が続いてしまわないよう十数分毎に話題を変えるなど、ひとの集中力が続く長さを意識した工夫も必要になってきます。

 履修生の姿が見える環境であれば、注意が散漫になってきたときには、あくびをしている人の姿が見えたり、私語が聞こえたりと、雰囲気で感じ取れるので、休憩をはさむほか、雑談を入れたり、話題をかえてみたり、その場で緩急をつけることも有効です。

 また、配布資料を虫食いにしておいてメモを取らせるなど、漫然と講義を聞くだけにならないような仕掛けを用意しているという先生もいらっしゃいます。そしてやはり、任意の学生を指名して発言をうながすのが、聴衆に刺激を与える常套手段であるという話もあります。「学生を当てる」という授業は学生たちには敬遠されがちですが、結局のところ、いかに学生のために良い授業をするか、という試行錯誤の先に行きつく最もシンプルな方法なのかもしれません。

[文責:子育てポスドク]

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