大学の授業は、以前は一コマ(1時限)90分が一般的でしたが、クオーター制の導入や学事暦に合わせ、100分や105分の授業を行う大学も増えている印象があります。
小学校から高校までは、授業時間は45分~50分であるのに対し、大学では約2倍に伸びることになります。大学の制度やしくみには、それ以前の学校のものと大きく異なる部分は他にもたくさんありますが、授業時間の増加は、改めて考えてみるとかなり大きな変化です。
こうした長時間の授業をどのように構成していくかというのは、大学教員にとっての課題となっています。その試行錯誤について書いていきたいと思いますが、こちらの記事ではその前に、大学の授業時間にまつわる前提について確認します。
大学の一コマあたりの授業時間に決まりはない?
小中高では、授業時間を45分または50分とする、という定めが「学校教育法施行規則」に記載されています。しかし、実は大学には一回の授業の時間について、統一された決まりはありません。
大学については、文部科学省が発行する「大学設置基準」が参照されます。
「大学設置基準」は
「大学を設置するのに必要な最低の基準」であり
「大学は、この省令で定める設置基準より低下した状態にならないようにすることはもとより、その水準の向上を図ることに努めなければならない。」
とされる基準です。
参照:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=331M50000080028
この「大学設置基準」は、2022年10月に一部改正されました。
参考:文部科学省「令和4年度大学設置基準等の改正について」https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/daigaku/04052801/index_00001.htm
従来のものは、単位数について以下の基準が示されていました。
「第二十一条
各授業科目の単位数は、大学において定めるものとする。
2 前項の単位数を定めるに当たつては、一単位の授業科目を四十五時間の学修を必要とする内容をもつて構成することを標準とし、授業の方法に応じ、当該授業による教育効果、授業時間外に必要な学修等を考慮して、次の基準により単位数を計算するものとする。
一 講義及び演習については、十五時間から三十時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもつて一単位とする。
二 実験、実習及び実技については、三十時間から四十五時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもつて一単位とする。ただし、芸術等の分野における個人指導による実技の授業については、大学が定める時間の授業をもつて一単位とすることができる。
三 一の授業科目について、講義、演習、実験、実習又は実技のうち二以上の方法の併用により行う場合については、その組み合わせに応じ、前二号に規定する基準を考慮して大学が定める時間の授業をもつて一単位とする」
https://www.kyoto-u.ac.jp/uni_int/kitei/reiki_honbun/w002RG00000949.html#e000000642
⇓
改正後は以下の文言によって、単位取得に必要な時間数が示されます。
⇓
「 単位の計算方法
単位数を定めるに当たっては、1単位の授業科目を45時間の学修を必要とする 内容をもって構成することを標準とし、授業の方法に応じ、当該授業による教育 効果、授業時間外に必要な学修等を考慮して、おおむね15時間から45時間までの 範囲で大学が定める時間の授業をもって1単位として単位数を計算するものとすること。」
https://www.mext.go.jp/content/20220930-mxt_daigakuc01-000025195_01.pdf
これまで「講義及び演習」、「実験、実習及び実技」と、それぞれの科目をわけて授業時間が定められていたのが、改正後は、一単位に必要な授業時間について授業形式別の規定が撤廃されます。様々な形式を柔軟に取り入れた授業方法に対応するためだとされています。
本来の実験や実技が新型コロナウイルス感染症の拡大によって行えず、座学に変更されたケースや、オンライン授業と対面授業のハイフレックス制の授業が行われる例なども増えています。授業の形式を区別すること自体が難しくなってきたこととも考慮されての改正かもしれません。
大学の授業は、「一単位の授業科目は総学修時間が45時間となることを標準とする」という基準が示されていますが、授業形式によって大学が定めることができ、一回あたりの授業時間や回数に定めはありません。
授業時間=学修時間ではない
①90分授業を15週、
②100分授業を14週
③105分授業を13週
多くの大学は上記のように単位を構成しています。
それぞれ、時間に換算すると、
①90×15=1350 (22時間半)
②100×14=1400 (23時間20分)
③105×13=1365 (22時間45分)
となり、いずれの場合も45時間には満たない計算になります。
一単位としての総学修時間には基準がありますが、「学修」には、演習室や講義室で授業を受けている時間そのものの時間だけでなく、予習や復習といった教室の外での学びも含まれるととらえられているためです。
改正後の基準で
「おおむね15時間から45時間までの範囲で大学が定める時間の授業」
と記されているように、45時間の学修時間をすべて授業で構成する単位もあれば、授業時間は15時間で、その2倍に相当する教室外での学びの時間を想定する単位もあっていい、ということになっています。
その意味では大学の単位は、授業に出席するだけではなく、それ以外にも学修を行うことによって得られるものだということです。そのため、学生に公開されるシラバス(授業要項)には、授業の予習、復習に要する時間の目安や授業外での学修内容を明記しておくことが求められています。
つまり、大学の科目を担当する講師は、一コマずつの毎回の授業をどう構成するかだけでなく、その事前、事後の学修のサポートも含め、授業計画を立て、展開していく必要があるのです。
学生の時間は有限
しかし、基準のうえでは、一単位45時間の学修が標準とされていたとしても、実際にその時間に相当する学修を学生に求めるのは必ずしも適切とは考えられません。
講師としては自身の科目を中心にとらえてしまいがちですが、学生には当然ながら他の科目の学修もあります。そのほかサークル活動やアルバイトといった学外活動、私生活を充実させることや在学中に就職活動を行うことも、日本においては大学在学期間中の若者たちのあるべき姿とされているところがあります。
大学卒業の要件として
「124単位以上の修得」が必要とされています。
4年間の前期後期でこの単位量を修得するとして、単純計算で1学期に約15~16単位を学修するという計算になります。
学生に必要な学修時間を考えると、一単位につき45時間の学修を前提とし、13~15週の期間、週5日間で計算した場合、一日平均9~11時間の学修が必要ということになります。
実際には興味関心や資格取得のため、卒業要件よりも多く履修したり、一,二年次に集中して多くの単位を修得したりすることも一般的です。そのため、計算上は学生はそれよりもさらに長い時間が学修に必要だということになります。
法定労働時間である「1日8時間、週40時間」を超えた学修は現実的ではなく、すべての大学が、基準に示される通りの厳密な学修時間を想定したシラバスを作成しているわけではありません。それぞれの大学の判断により、一単位45時間の内容に相当する学修内容を行う、ということになります。
90分授業を15週、100分授業を14週、105分授業を13週…
効率よく学べるようにしていくために、構成によってそれぞれ別のアプローチが必要になり、多くの大学教員が悩み、試行錯誤を続けているのではないでしょうか。
[文責:子育てポスドク]
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