学振あれこれ:2023年(令和5年度)採用分の変更点およびアドバイス

博士の日常

 今年も学振(日本学術振興会特別研究員)の季節がやってきましたね。もはや科研費採択通知と同じように、年度末の風物詩になっています。

 今年は2月初頭に令和5年度の募集要項が開示され、同月末には説明会も行われました。令和5年度募集における変更点・注意点と共に、令和4年度の採用状況も見ていきたいと思います。

受付期間:2022年4月中旬〜6月2日17:00

*6月2日は申請機関による提出期限ですので、各大学・機関の内部締め切りはこれよりも早くなります。申請者皆様は、くれぐれもご自分の所属機関の内部締め切りを確認してくださいね!

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変更点:審査の流れが変わる

 令和5年度採用分において最大、そしておそらく唯一の変更点は審査の方式の変更でしょう。

 日本学術振興会の発表では、令和4年度採用分より面接審査を廃止し、令和5年度採用分より書面審査セットごとの二段階の書面審査方式による選考に変更がされるとのことでした。

二段階審査が導入されることは何を意味するか?

  まずは第一段階の書面審査では、これまで通り6名の審査委員が書面審査を対象区分内の申請者全員を対象に行います。その後、第一段階の審査で「ボーダーゾーン」となった申請を対象に、第二段階の審査が行われます。この際、審査者は第一段階審査と同じ6名の審査員になります。

 つまり、明らかに採用でもなく明らかに不採用ともならない、採用にするかどうかの判定が微妙なところにある申請書に対して、もう一度読み直されるチャンスが与えられるということになります。これは過去に行われている面接審査と同じことを書面審査の形式で行うということになりますね。

なぜわざわざ制度変更を行うのか?

 日本学術振興会が発表した「すべての申請者を公平・公正かつ効果的に審査するため」という理由を鑑みて、少なくとも以下の2点の理由があると思われます。

 書面審査にする理由の一つは「効果的」の部分にあると考えられます。

 審査対象者に現場まで出向いてもらい面接審査を行うよりも遥かに素早く進行でき、審査者の時間的・体力的コストも軽減されます。同時に、審査対象者が面接のために支払う旅費などのコストを節約することで負担軽減にもつながります。

 もう一つの理由は「公平性」の部分にあります。

 心理学などの分野では、面接審査ではさまざまなバイアスが働きやすいことが研究されています。その点に関しても、書類審査は申請内容のみによって判断が行われるので、より公平性が担保されることになるでしょう。

結果通知のタイミングも二段階になる

 二段階審査が導入されることによって、選考結果の通知も2回に分けてされます。第一段階で高評価を得た申請者に対しては早い段階で通知が行われ、その後第二段階で採用された申請者に対して通知が行われるということです。日本学術振興会の発表によると、前者は10月上旬頃、後者は翌年1月上旬頃までに開示されるとのことです。第一段階の公表で採用通知を得られなかった人にとっては、ソワソワ落ち着かない日々が3ヶ月にわたって続くので、なかなか辛い時期になるかもしれませんね。

申請書などの変更はない

 学振の申請書のフォーマットは令和4年採用分に抜本的な見直しが行われたばかりですので、令和5年度採用分に関しては、基本は同じフォーマットになります。

 筆者は昨年の同じ頃に、学振に関する基本的な紹介や、新フォーマットについての解説を書きましたので、こちらもご参照ください。

令和5年度の新規採用予定数

 各区分に対して新規に採用する人数の予定は下記の通りです。後述の令和4年度の採用状況と比較すると大きな変更がないことが予想されます。

DC1: 700名程度

DC2: 1100名程度

PD: 350名程度

RPD: 75名程度

令和4年度の採用状況

 次に、令和4年度の状況の概要を見ていきましょう。

 日本学術振興会が2022年2月24日に開催した説明会の資料によると、令和4年度採用分は前年度からの予算の変化がありませんでした。そのため、DC/PD/RPDのいずれにおいても、新規と継続を合わせた採用者総数に変化はなかったようです。

 新規採用者数に関しては、DC(1と2合わせて)で61名増で1793名になり、PDでは37名減少の305名となりました。予算によって採択総数が決まっているため、継続者数に応じて新規採択者数を微調整していると思われます。RPDの新規採択数は75名で変化がありません。また、PDとSPD採用者のうち、海外研究機関で研究活動を3年間行うCPDに関しては、令和元年に新規に開始した事業であることもあり、令和4年度は既存の採用者がそのまま継続し、新規に14名が採用される形になっています。

令和4年度の申請状況と採択率

 学振の各区分の申請者総数に関しては、DC1とDC2はそれぞれ105名と242名の増加を示している一方、PDの申請者数は95名減と、平成27年度からの減少傾向が続いています。そのため、採用率で見た場合、DC区分では近年ではほとんど変化が見られていませんが、PDの採用率は年々上昇している状態です。ただし、いずれも19%~20%程度であるため、現在の新規申請者において、DC申請者よりもPD申請者の方が採択率が高いというわけではありません。

 日本学術振興会の資料は下記よりご参照ください。
 https://www.jsps.go.jp/j-pd/pd_setsumeikai.html

学振特別研究員以外の選択肢

 学振は狭き門です。しかし、それは唯一の道ではありません。ポスドクと学生それぞれにとって、他の選択肢もたくさん用意されていることを忘れないでほしいです。

ポスドク(博士号所持者)の選択肢

 ポスドクの皆さんは各種科研費と民間団体の研究費に積極的に応募することが必要になります。特に民間団体によって提供される研究費に関しては、各団体が目標とする分野やトピックに制限がかかるため、応募できる場合は競争相手も比較的限られていると考えてもよいと思います。また、科研費とは異なる運用ルールが適用されますので、場合によっては科研費では支出の手続きが大変になる出費(例:海外調査費用など)も支出できる可能性がありますので、積極的に応募しましょう。

 また、日本学術振興会が提供する海外特別研究員事業(2年間)も継続的に行われているため、海外でポスドクをする意欲がある方にとっては、CPD以外のもう一つの選択肢になるでしょう。

博士課程の学生の選択肢

 博士課程在学中の方々においては、さまざまな給付型奨学金をチェックしていただく必要があります。

 しかし、より見逃せないのが2021年からスタートされた、JST(科学技術振興機構)が主体となる次世代研究者挑戦的研究プログラム(以下、「次世代プログラム」)です。下記の通り、手厚く支援してもらえる上、次世代プログラム自体は現在ではまだ認知度が十分に高くない状況のようですので、「今がチャンス」という気持ちで積極的に申し込んでみるとよいでしょう。

 以下ではごく簡単に事業の概要を紹介します。各大学で詳細の規定が変わる可能性がありますので、必ず自分が所属する大学の状況を確認してください。

次世代研究者挑戦的研究プログラムの概要

 次世代プログラムは、博士後期課程学生への経済的支援とキャリアパスの整備を主たる目的としています。学振のように、申請者が所属機関を介して直接日本学術振興会に申請書を提出し、日本学術振興会によって一括で審査する形式とは異なり、次世代プログラムは各大学が事業統括を行います。つまり、大学がJSTに対して事業統括することを申請し、それが受理された場合には経費が割り当てられます。そして申請者(学生)は大学に対して申請を行い、大学が選考を行うことになります。

 無事採択される場合には、学生に対して生活費相当額と研究費を合わせた経費が支給されます。生活費は年間180万円〜240万円で支給され、そして研究費も年間数十万円規模が支給されます。少なくとも生活費においては学振DCによって支給される生活費(20万円/月)に近い水準を獲得できるので、より研究に専念できることになると思います。

 また、別事業からの支援(国費留学生制度、大学や企業からの十分な水準の支援、給与・役員報酬などの安定的な収入も含む)を受けている人は原則対象外になりますが、TA(ティーチングアシスタント)やRA(リサーチアシスタント)は許可されるので、TAやRAの経験も諦める必要がありません。また、採用規模に関しても大きく、令和3年度の合計採用分は最大6000名と、学振DCの採用者総数(4200名弱)を遥かに上回る規模です。風の噂では、申請者数が採択者予定数にすら届いていない大学もあったりしているので、高い採択率が見込まれる状況です。これは絶対に見逃せませんね。

[文責・LY / 博士(文学)]

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