学振あれこれ:注意点、2021年度の変更点、そしてアドバイス

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若手研究者の登龍門

研究界隈にいれば一度はその名を耳にする「学振」、それは「日本学術振興会特別研究員」の略称であり、若き研究者たちにとっては登龍門のような存在と言えます。

歴史・規模、そして公的資金が投入されることのほか、現役の一流研究者が6人がかりで書類審査に取り掛かる贅沢な審査体制も学振の魅力を作り出しています。そこで高く評価されることは、若手研究者にとっても大きな励みになります。

さらに学振は、研究奨励金(DCは月20万円、PDは月36万円)と、年額150万円までの研究費を提供することによって、生活費と研究費の両方の心配をなくし、研究に専念させてくれます。特に自分のやりたいテーマに自由に使える研究費は、駆け出しの若手にとっては貴重なものになります。

 

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採択と申請区分に関して

魅力的なものには競争はつきものです。令和2年度と3年度の採択率はDC・PDのいずれも20%弱ほどと、決して高いとは言えません。分野の間では比率は変わりませんが、絶対数は大きな違いがあります。例えば令和3年度のPD申請者数は、最多の数物系科学では361名、最小の情報学では35名と、10倍以上もの開きがあります。

学際的な研究を行う者にとっては、申請を出す分野(区分)選びも重要な戦略です。その戦略の一つは、「業績数が該当区分で優位に立てるかどうか」です。例えば、自身の主分野は論文発表のサイクルが速く、5本以上の論文を有する若手も珍しくないとします。加えて、自身の隣接分野では論文発表が比較的に難しく、若手の段階で2~3本出せるのがやっとだとします。この場合、隣接分野で申請した方が、業績数において他の方よりも優位に立てることが推測できます。しかし、無闇に他分野で申請すれば良いというわけではなく、きちんと審査者を説得できるかどうかも考える必要があります。自分の研究テーマが該当分野にどの程度合致し、どれほどのインパクトをもって分野に対して貢献できるかをしっかり考えましょう。

 

学振の準備にあたって

申請にあたっては、区分・テーマ・業績量などに応じて対策が変わってきますが、共通する注意点も多くあります。以下では今年度のフォーマットの変更点を紹介した上で、筆者の経験(社会科学系DC2)をもとに、いくつかのアドバイスを提供します。

 

申請書のフォーマット変更にまつわるアドバイス

申請書のフォーマットは昨年度と今年度で大きな変更が見られました。これまで散々申請者を苦しめてきた「枠」がついに無くなり、歓喜の声が上がりました。そして内容の方にも、重要な変更点がいくつかありました。

 

「申請者のこれまでの研究」が「研究の位置付け」に

まずはDCとPDのいずれにおいても、申請書本体の冒頭部分にあたる「申請者のこれまでの研究の紹介」がなくなり、代わりに「研究の位置付け」を述べるよう求められる仕様になりました。つまり、これまで(コロナ禍の影響などで)業績が積みにくかった方にも書きやすくなりました。

しかし、行おうとしている研究テーマを俯瞰できる視点が必要なのは変わりありません。該当テーマが「どこからきたか」について横断的(属する分野、背景となる理論、他のテーマの関連)・縦断的(該当分野とテーマの歴史)に考察することが重要です。その上で、題目の提示に従って、明らかにされていている箇所や、明らかになっていない箇所について、「何が」「どこまで」を明確に述べる必要があります。その後、「明らかになっていない」点に対して、申請者がどの理論・視点から出発して、どのようにアプローチするかの概要を述べます。

 

研究計画を書くスペースが減った

次の変更点は、研究計画を書くスペースが以前よりも少なくなったことです。洗練さと計画の実現可能性を両立させることが一層必要になり、難易度が上がったとも言えます。この部分には概念図を入れることができます。審査員経験者に話を聞く限り、図が含まれることに対しては好意的な意見が多かったので、積極的に入れると良いかもしれません。もちろん、わかりやすくて情報価のあるものに限ります。

 

自己分析と目指す研究者像(DC)

DC区分では「研究遂行能力の自己分析」と「目指す研究者像」を書くことが求められるようになりました。一般的な就活ES(エントリーシート)の心得も少しは参考にできるかもしれませんが、あくまでも研究活動への申請書であるため、内容には注意が必要です。

自己分析を行う際には、ペラッペラな自己称賛にならないよう、具体的な経歴などを記すように心がけることが必要です。

第一歩として、研究遂行に必要な能力を分解してみましょう:

  • 文献を見つける、読む、理解する、まとめる力     
  • 研究計画を立てる力     
  • データを解析し読み解く力     
  • 論文化したり発表したりする力     
  • 成果を一般向けにアピールし実用化する力     

これらひとつ一つの能力に対して、具体性と根拠を持ってアピールすることが望ましいでしょう。論文・学会発表などの業績があればベストですが、足りないなら勉強会の参加経験、TAやRAの経験、習得できた統計や技能(プログラミング・実験手法)、熟読した文献など、アピールできる点を探していきましょう。

 

目指す研究者像に関しても具体性が重要です。その上で、申請する研究の内容やスタイルとの一貫性を意識することも必要です。量的研究であるか質的研究であるか、学際的であるか、共同研究を行うか単独で研究を進めるか、など、具体的な点に対応づけながら考えましょう。そして、申請の研究を行うことでその研究者像にどのように近づけるかについても述べましょう。

 

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最後に、書類作成上の一般的な注意点をいくつか挙げます。

大事なことは全部題目に含まれている

初めてこのような書類を書く人にとっては、どこから取り掛かればいいかわからなくなるものです。その場合、各部分の題目に書かれていることをじっくり読み、「何が」「どこまで」などの提示には一つずつ漏れなく対応することを意識すると良いです。具体例は、上に述べた「研究の位置付け」についてのアドバイスを参照してください。

 

最新の情報を自分の目で確認

募集要項・様式・スケジュールに関しては、必ず今年度の最新版の情報を、「自分の目」で確認しましょう。歴史のある研究室では、先輩からさまざまな経験やノウハウを引き継ぐこともありますが、先述のように情報は毎年変わるものです。経験則に足を掬われることのないように、必ず公式HPから最新情報を確認しましょう。

 

締め切りから逆算してスケジュールを立てる

書類は最終締め切りまでに書けば良いという訳ではありません。評価書を書いてもらう指導教員・受け入れ研究者が対応できる時間や、書類を他の人に添削・コメントしてもらう時間なども計算に入れ、いつまでに何を完成させないといけないかを逆算して計画しましょう。また、締め切り当日のアクセス集中によるサーバーの不具合もあり得るので、提出は少なくとも1、2日余裕を持つことがお勧めです。

 

チェック時は読み上げとプリントアウトで

文章を書くときには「第三者の目」からのフィードバックが重要です。他人のチェックとコメントはもちろん大事ですが、自力でできることもあります。音声で読み上げてみることです。目で追っても気がつかない問題点は、音声に変換すると気づきやすくなります。自分で声に出して読んだり、ワードまたはネット上の自動読み上げ機能を使ったりすると良いでしょう。

また、申請書は紙に印刷されて審査者に渡されます。そのため、最終版は必ずグレースケールでプリントアウトしてチェックしましょう。図表などの色が潰れていないか、フォントが指示に沿っているか、行のずれがないかなど、細部まで念入りに確認しましょう。

 

全ての申請者に幸あれ。

 

[文責・LY / 博士(文学)]

 

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