大学入試の入試は1~2月の春入試と9~10月の秋入試があります。
多くの企業における就活は学部3年3月から解禁されますが、院進のための春入試も同じような時期に行われるので、大学卒業後就職するか、院進(大学院進学)するかで悩む人は多いのではないでしょうか。
また、単に院進するといっても、文系・理系どちらの大学院に進むかによって、院進後の就活のしやすさも大きく異なってきます。
今回は、院進のメリット・デメリットを理系・文系の状況の違いも考慮した上で解説していきたいと思います。
院進とは
院進の意味とは、大学院進学をさします。大学院とは一般的に研究者を養成するための教育課程であり、標準卒業年限を2年とした修士課程と、標準卒業年限を5年とした博士課程があり、それぞれ修了すると修士・博士の学位を取得することができます。
また、博士課程については、標準卒業年限を2年とした前期課程と、標準卒業年限を3年とした後期課程に分けて考えることが大半です。
なお、院進にあたっては院試(大学院への入学試験)があり、秋入試(9月~10月ごろ)と春入試(1月~2月ごろ)の大きく2回に分けて行われます。
また、同じ大学の大学院に進学する場合には、内部進学者用の院試を受験できる場合もあります。
院進するメリット
院進する最大のメリットは
- 専門性を必要とする職につきやすくなること
と言えます。とくに理系の場合においては、専門性が必要とされる職種(技術職・研究職など)で、修士以上の学位が求められる場合がよくあります。このことから、将来的に企業などで研究に携わりたい場合には、就職しやすくなるという大きなメリットがあると言え、理系で院進しないのは大きなデメリットとなるでしょう。
また
- 高い専門性を得ることができる
- 好きな研究に没頭できる時間ができる
など、就職面以外のメリットもあると考えられます。この中でも、好きな研究に没頭できる時間ができる点は非常に魅力的です。十分な時間を使って、自由な発想をもとに好きな研究に没頭することができるでしょう。
さらに近頃、大企業を中心に
- メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用
への転換が進められています。ジョブ型雇用では、専門知識を有した人材が必要とされることから、特に理系において院進をしないのはますますもったいない状況となってくるのではないでしょうか。
参考:「ジョブ型雇用」導入で鮮明になる大学院生の専門的能力

院進するデメリット
しかし、院進するデメリットがないわけではありません。
とくに
- 社会人になるのが最低でも2年遅くなる
- 在学期間が長くなるので学費がかさむ
という点がデメリットとなると考えられます。
院進して得るものは大きいですが、2~5年間の学費に加え、もし就職していれば得ていたかもしれない給与まで考えると、金銭面における負担が大きくなるという点は、理系でも文系でも院進をしない・できない最大の理由となるのが現実でしょう。
また、院進してみたら
- 思ったより授業や研究が厳しい
というように院進を後悔する声も聞かれます。
とくに修士1年次は、修了に必要な単位の取得と研究を並行して行う必要があることから、非常にハードなスケジュールであり、土日もまともに休みが取れないということはよくある話です。このようなイメージのミスマッチを生まないためにも、進学前に身近な大学院の先輩に話を伺ってみるのが大切であると考えられます。
文系は院進すると就職が難しい場合も
理系における院進は、就職に対しポジティブなイメージを持たれている一方、文系では院進すると就活が厳しくなるというイメージがあります。この理由としては
- 職場において文系院生の専門性を活かす場が少ない
という考えによるものではないかと思われます。
なお、この点について、理系の大学院出身者であっても、その専門性のみを評価されて採用されているわけではなく、大学院で得たスキルを発揮することを期待されて採用されている例のほうが大半です。
確かに、文系院生の専門性を活かせる場は少ないのも事実ではあり、専門性のみを見て就活を行うと難しい部分もあるかもしれませんが、大学院で得たスキルを活かせる就職先を探すという視野で就活を行うことにより、文系で院進したとしても、就職は可能であると考えられます。
参考:文系院生は本当に就職が不利になるのか

学部卒で就職するメリットとデメリット
学部卒で就職するメリット
学部卒で就職するメリットとして
- 大学院修了者と比べ2年以上早く実務経験を積める
という点がまず挙げられるでしょう。学部の新卒採用では、今後の成長性を重視した採用活動が行われています。
さらに日本型の企業では、自社で社員教育を行い、売上に貢献できる社員を育成することから、1年でも早い入職は歓迎されることも多いです。
このことから、自身が学んでいる分野外で就職を目指す場合には、大学院に比べ2年間早く実務経験を積むことのできる学部卒に利があると言えるでしょう。
さらに
- 大学院の学費がかからない
という点も学部卒のメリットといえ、国公立であれば修士課程にあたる2年間で約135万円、私立では約180万円の学費を節約できます。
また、卒業とともに就職をした場合、大学院卒の人に比べ早く安定した給与を得ることができる点もメリットの1つといえるでしょう。
学部卒で就職するデメリット
学部卒で就職するデメリットとして
- 景気状況に就職の難易度が左右されやすい
という点があげられるでしょう。リーマンショック時(2008年)の院卒者の就職率は、2008年の75.1%から2010年の71.4%と3.7%の低下でとどまった一方、学部卒者の就職率は69.9%から60.8%へと9.1%低下し、この低下率は院卒者に比べ大きなものでした。さらに、院進率も上昇する傾向にありました。
そして、2021年度の新型肺炎でも同様の傾向となるものと思われます。院卒者の就職率が安定している理由は、いくら不景気でも研究開発を止めるわけにはいかないことから採用人数が減りにくいためと考えられています。
このように学部卒の場合、就職の難易度が景気に大きく左右されやすいというデメリットがあるでしょう。
参考:平成24年度学校基本調査(確定値)の公表について
https://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2012/12/21/1329238_1_1.pdf
理系は修士の方が就職に有利なことも
なお、理系において
- 研究開発職
- 技術職
などを志望する場合には、修士卒の方が就職に有利なことが多いです。
この理由として、院卒者は専門分野への知識を幅広く有していることや、自身の研究遂行に関わり、問題提起・解決へのプロセス構築・実践し成果を出すという、企業で研究開発を行うにあたって必要となるスキルをすでに身につけていることから
- 企業によっては、研究開発職などは修士号を必須としている
- 学部卒と修士卒を一括採用した場合においても、研究開発の部門には修士卒を優先して配属することがある
ような事例がよくみられます。
このことから、研究開発職や技術職などの専門職を志望する場合には、院進し修士号を取得したほうが、これらの職種に就ける可能性を高めることができると考えられます。
就職するか院進するか決められない場合
就職と院進を並行して準備してみよう
学部卒で就活するか、院進を目指すか、やはりみなさん悩むでしょう。就活と院試は
学部新卒者採用:(説明会)学部3年3月頃~、(面接)学部4年6月頃~
大学院入試:(内部推薦)学部4年6月頃、(秋入試)9月頃、(春入試)2月頃
というようなスケジュールで行われることが一般的です。若干、院試の方が後に行われることから、並行して行うことも可能ではあります。
しかしながら
- 修士1年目:授業と研究の並行で多忙
- 修士2年目:就活と研究を並行する必要がある
ことから、学部4年次にあまりに就活に力を入れすぎてしまい研究をが行えないと、後々影響が出る可能性がある点については注意が必要と言えます。
学部生で就活をするメリット
院進すると決めている場合であっても、学部時代に就活をすることは大切です。
なぜなら
- 修士で修了するのであれば2年後に就活をする際の参考になる
というメリットがあると考えられるためです。
博士号を取得する予定がないのであれば、大学院修了時の就活は基本的に学部生と同じスケジュールで行われます。
学部時代に少しでも就活を行い、多様な業界・企業を知ったうえで就活を行うのと、全くの初めてで就活を行うのでは、就活の結果は大きく変わってくるのではないかと思います。
院進するとしても、学部時代から視野を広げ多様な業界・企業を知っておくことは重要なのではないでしょうか。
専門性が必要な分野では院進が重要になってくる
理系を中心に
- 専門性を必要とする職種(研究開発職・技術職)に就くことを希望する人
にとっては、大学院への進学がおすすめです。
一方
- 進学により就職が2年遅れる
- 金銭面の負担が大きくなる
- 思っていたよりも大学院の生活は大変
など、院進した時に後悔しないためにも、進学を決めるにあたっては周囲の先輩方に相談するとともに、進学して得たいものをしっかり見定める必要があると考えられます。
また、日本の雇用環境は急速に変化し始めており
- メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用
への転換がさらに進んだ場合には、専門知識を有する大学院修了者は貴重な存在となると考えられます。このことからも、自身の専門分野を鍛えるために院進するというのも、1つの良い選択肢といえるのではないでしょうか。