今回は出国の準備の話をする予定でしたが、その前に、申請のファイナルステージとも言える面接についてまだご紹介したいと思います。
科研(科学研究費)に直接応募するタイプのグランドポスドクは必ずしも面接が行われるわけではありませんが、機関ポスドクやプロジェクトポスドクに関しては、書類選考の後に、最終候補者を相手に面接が行われることが多いです。
面接のスタイルは公募機関それぞれだと思いますが、以下では筆者自身の経験をもとに情報をシェアします。ご参考になれば幸いです。
大まかな流れ
多くの面接は以下の部分によって構成されます。
①応募者の自己紹介
②雇用側からの質問
③応募者側の質問
④その他の雑談
以下では、それぞれの部分について筆者の考え方を述べます。
自己紹介
自己紹介は必ずと言っていいほど含まれるものですが、問題は「どのような内容を、どれくらいの長さで行うべきか」を見極めることです。
内容については、まずは冒頭に「自分の氏名」、「博士号を取得した大学」と「分野・主な研究テーマ」を紹介すると良いでしょう。次に、「過去の研究経歴」、「今後の方向性」や「なぜこのポストに興味を持ったのか」などについて話すことができます。
ここでも書類準備と同様に、公募内容の熟読が役に立ちます。このポストはどのような能力・専門知識・経歴を持つ人を欲しがっているのか、就任した後にどのような貢献を求めているか、などの情報は、全て公募内容から読み解けます。それに応じて、自己紹介の内容も調整すると良いでしょう。
例えば、独立して研究を遂行する人が求められているなら、過去に「自分が独自に、もしくは主導して研究を行なった例」を簡潔に紹介すると良いでしょう。逆に、チームに参加して共同にプロジェクトを進めることが求められているポストなら、「自分が行なったチーム研究や共同研究の事例」や、「自分がその中で果たした役割」を紹介すると良いと思います。
以上は「過去」についての部分ですが、「未来」について語ることも含めて良いと思います。自分がどのようなビジョンを持ち、何に対して情熱を注ぐことができるのか、そして、今応募しているポストのどのようなところに惹かれ、そこで何を成し遂げたいのか、これらの内容に言及することによって、公募側にとって「なぜ我々のところに来たいと思ったか」の質問に答えることになります。
長さについては、実際の面接の流れが事前に連絡されない限り、いくつかのバージョンを事前に準備すると良いでしょう。30秒〜1分、3分〜5分、10分程度などと、短いものから長いものまで、いくつかのバリエーションを持つと良いでしょう。特に30秒程度の短い自己紹介はエレベーター・トークとも呼ばれるもので、たまたま他の人と短い挨拶をかわすチャンスを有効に利用し、相手に印象を残すのに有益であるとされています。学会やビジネスの場でも応用される機会が多いものですので、ぜひ力を入れて準備してください。
自己紹介は事前に準備しておくことができますので、何回かは練習してみましょう。面接は最初の自己紹介で一番緊張しやすいので、緊張しても自動で話せるくらいになると安心です。
何を聞かれるか
さて、自己紹介が終わったところで、面接は本番に入ります。
ここで何を聞かれるかは、一概には言えませんが、過去の研究経歴についてより詳しい紹介を求められたり、特定の能力(例えばプログラミングや統計など)について具体的な応用例を求められたり、「このポストに対して何を期待しているか」について尋ねられることが多いでしょう。
先にも述べたように、公募の要求を熟読することによって、相手の興味関心をある程度まで予測できますので、それにあわせて準備すると方向性が掴みやすいでしょう。書類作成の時と同様、ここでも具体的な事例などを挙げる方が相手に伝わりやすいと思います。
駆け出しの研究者にとっては、自分の経歴は内容が乏しいと思い込み、どのようにアピールすれば良いかわからない時もあります。しかし、一点一点具体的に行なってきたことを分析し、例を挙げることによって、「できる」という感覚を引き出すことができます。また、若手であることは経験が浅いことを意味する一方、短い経歴を通して成長した程度の大きさをアピールする機会でもあります。たった一つの小さなプロジェクトを行っただけで新たなスキルを得られたということは、それだけ自分に「のびしろ」があること意味しています。
一つアドバイスしたいのは、嘘をつかないことです。面接では自分をよく見せたいというのは当然のことですが、自分の能力や性格を偽ってその場をやり過ごそうとしても、ボロが出てしまいます。重要なのは、真実の経歴と能力に対して、どこに焦点を絞り、どのようにポジティブに提示することができるか、ということに尽きます。
何を聞くか
面接が後半に入ってくると、今度は応募者側から質問をするチャンスがやってきます。
「何を聞いてはいけないか」が気になる方もいるかもしれません。特にお給料について言及しない習わしがある日本の学術界では、給与待遇について聞くのをタブー視する人もいます。しかし、少なくとも筆者が見聞きしている限り、海外ポスドク公募についてはそのような心配はしなくても大丈夫です。気になることは、なんでも聞けますし、率直に訊ねて構いません。
相手に聞く質問の内容は応募者それぞれだと思います。以下では参考としてよくある質問を羅列します。
・待遇面についての質問:
給与面は公募の時点で開示されているのがほとんどですが、それをさらに細かく聞いても問題ありません。他にも、機関研究費などの経費はあるか、着任の時の費用(旅費や引越し代など)は出るか、住居を探すときのサポートはあるか、保険や年金はどうなるか、休暇はどれくらいあるか、家族を同行させることはできるかなど、色々あります。
・研究体制についての質問
どこまで独立した研究/チームでの研究が行われるか、どのような人とどのような形で研究体制を共有するか、研究以外の教育または学務の担当はあるか、論文発表などの成果物を出す要求はあるか、研究室・実験室などの研究環境はどうなっているか、などの質問があります。
なお、プロジェクト・ポスドクのポストを応募する方は、プロジェクトの成果を論文化する際のオーサーシップについて確認することや、自分のメインとなるプロジェクト以外の研究を行う自由がどこまであるかについて聞いておくのも良いでしょう。
また、将来的に教職に就きたい場合は、教育歴を積むことも重要ですので、教育の負担がないポストでも、何らかの形で教育経験を積めるかどうかについて確認しておくと良いと思います。
言語は大事、でも全てではない
海外の人と面接を行う際に、多くの方は言語の問題を心配するかもしれません。確かに、先方にとっては、これから同僚として働く人を選ぶ際に、コミュニケーションが取れない人を選ぶことはできませんね。
しかし逆に言えば、流暢でなくても意思疎通ができる程度に話すことができるのであれば、何とかなります。それよりも、研究者として研究の内容について意見交換できるかどうかが問題です。
英語による面接がほとんどだと思いますが、ネイティブ・スピーカーの知り合いや英会話サービスなどを通して、ネイティブの人との会話を少し練習すると、会話のリズムなどに慣れてくると思います。
本番の際には、聞き取れない時には緊張せずに、「ごめんなさい、もう一度言ってくれませんか」と素直にお願いして問題ありません。「今の話は、言い換えればこういう意味でしょうか?」と自分の理解を随時確認しながら話していくのも、スムーズなコミュニケーションをする上で役に立ちます。
自分が軽い文法的な間違いをしても、相手はネイティブ・スピーカーですから、ちゃんと内容を理解できるはずです。アクセントを気にしたり、流暢さに気を取られたりする必要もありません。むしろ話の内容に集中して研究者としての自分をみせることや、リラックスした状態で研究への情熱を伝えることが良い結果につながると思います。
オンライン面接は環境整備に注意
海外ポスドクに応募する場合、面接のためにわざわざ相手国まで飛んでいくことを要求されることはほぼありません。基本はオンライン面接を想定しましょう。コロナウイルス流行後の影響で、zoomなどを使ったオンラインビデオ会議はアカデミアにとっても日常になりました。ツールの操作は問題ないでしょう。
少し準備した方が良いのは、ビデオ会議のための環境整備です。
静かで照明が十分にある部屋と音声が雑音なくキレイに伝わるマイクとイヤホンは必需です。雑音を拾いやすい内蔵マイクよりも、ちゃんとマイク機能付きのイヤホンまたはヘッドセットを使うことをおすすめします。特にラップトップPCを使う方は、夏場はファンの音が意外にうるさいので、ご注意ください。
また、ビデオカメラの位置も事前に確認しましょう。自分が程よい距離に映ることや、なるべくカメラの高さが視線と同じ高さになることを意識すると良いです。カメラが近すぎて顔の半分しか映らない、または角度の問題で自分がカメラを見下ろす形になるのは、あまり良い印象を与えると思えません。
そして最も重要なのは、ネットワークの安定です。筆者の経験ですと、普段は問題なく使っているネットワークでも、重要な会議の時に限ってトラブルを起こします。もし有線通信できる環境があれば、Wi-Fiよりもそちらを選ぶと良いかもしれません。そしてモバイルWi-Fiなど、いざという時には素早くネットワークを切り替えられるプランBがあると、より安心できます。
次回こそ、出国の準備の話をします。
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[文責・LY / 博士(文学)]
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