「大学院大学」をご存じでしょうか。
名前からは大学院なのか、大学なのか少しややこしいように思います。
今回のコラムでは、これから大学院への進学を考えている方に向けて、大学院の種類を取り上げながら、大学院大学について解説します。
皆さんの進路選択の一助になれば幸いです。
大学院の種類
大学院大学以外にも、日本にはいくつかの大学院が存在します。
ここでは、それらをご紹介するとともに、大学院大学が他の大学院とどのように違うのかご紹介します。
学部を持つ大学の大学院
学部を持つ大学の大学院です。
一般的に大学院と聞いてイメージするのはこのタイプの学校ではないでしょうか。
学校教育法第八十五条・第九十九条では、大学および大学院について以下のように述べられています。
第八十五条
大学には、学部を置くことを常例とする。ただし、当該大学の教育研究上の目的を達成するため有益かつ適切である場合においては、学部以外の教育研究上の基本となる組織を置くことができる。
第九十九条
大学院は、学術の理論及び応用を教授研究し、その深奥をきわめ、又は高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識及び卓越した能力を培い、文化の進展に寄与することを目的とする。
上記の通り、一般的には大学における学士課程の上に大学院が設けられます。
例えば、大学の工学部に対応する大学院の工学研究科、大学の理学部に対応する理学研究科などが設置されます。
専門職大学院
専門職大学院と呼ばれる大学院もあります。
専門職大学院は学校教育法第九十九条において以下のように述べられています。
第九十九条 (3) 専門職大学院は、文部科学大臣の定めるところにより、その高度の専門性が求められる職業に就いている者、当該職業に関連する事業を行う者その他の関係者の協力を得て、教育課程を編成し、及び実施し、並びに教員の資質の向上を図るものとする。
つまり、専門即大学院は研究者の育成が目的ではなく、高い専門性が必要となる職種に就く人材を育成するための大学院ということになります
専門職大学院としては法科大学院、教職大学院、経営大学院、会計大学院などがあり、修了すると○○修士(専門職)の学位が与えられます。
ただし、いわゆるロースクールと呼ばれる法科大学院は法律家の育成を目的としており、他の専門職大学院とは異なり、3年の修業年限となっています。
また、修了後には法務博士(専門職)が授与され、司法試験の受験資格が与えられます。
独立研究科
独立研究科は、その研究科に対応する学部を持たない研究科のことを指します。
例えば、エネルギー科学研究科、情報学研究科など、様々な研究科が全国の大学で設置されています。
持ち上がりで進学するわけではないので、様々な大学・学部から大学院への入学者が集まってくることになります。
大学院大学
学校教育法第百三条では、以下のように述べられています。
第百三条 教育研究上特別の必要がある場合においては、第八十五条の規定にかかわらず、学部を置くことなく大学院を置くものを大学とすることができる。
学校教育法第百三条の記述にある通り、学部を持たず、大学院だけが置かれている大学もあります。
これが大学院大学です。
言い換えれば、大学院大学は全ての研究科が独立研究科である大学院ということでもあります。
大学院大学は「独立大学院」や「独立大学院大学」などと呼ばれることもあります。
大学院大学も持ち上がりで進学してくることはなく、他大学からの進学のみになります。
学部生がいない分、学生数が少なく、また高校卒業後の大学進学の際には受験候補にならないことから、聞きなじみのない大学が多いという人が多いかもしれません。
大学院大学は大学院の一種?
ご紹介したように、大学院大学は学部をおくことなく、大学院のみで設置される大学となります。
国立として総合研究大学院大学、公立として東京都立産業技術大学院大学、私立として京都情報大学院大学などが挙げられます。
制度上大学の形を取っていますが、学部はありませんので、進学先の候補として考える際には、大学院としての認識で問題ありません。
日本国内にある大学院大学
ここでは、日本国内にある大学院大学を国立・公立・私立それぞれ1校ずつご紹介します。
総合研究大学院大学
日本初の博士課程のみの国立大学院大学として設置されました。
2021年12月現在では文化科学研究科、物理科学研究科など6研究科が設置されています。
それぞれの専攻では人間文化研究機構、高エネルギー加速器研究機構などの大学共同利用機関を活用されているのが特徴です。
東京都立産業技術大学院大学
「東京都立」の名の通り、公立の大学院大学です。
東京都立大学や東京都立産業技術高等専門学校と同じく東京都公立大学法人が運営する大学ですが、この学校は専門職大学院であり、研究者ではなく技術者の育成を目指しています。
京都情報大学院大学
京都市にある私立の大学院大学です。
日本初のIT専門職大学院として開設されました。
応用情報技術研究科が設置されています。
東京都内にサテライトキャンパスを設置している点も特徴として挙げられます。
大学院大学の特徴
一般的に馴染みがないかもしれませんが、研究力が高く評価されている大学院大学もあります。
2019年のSpringer Nature社によるランキングでは「Leading academic institutions (normalized)」部門で沖縄科学技術大学院大学が世界9位、日本国内ではトップに位置付けられています。
同ランキングで東京大学は40位だったことから、東大超えの研究力ということで話題になりました。
ここからは、大学院大学の特徴を知るために、通常の大学院と比較してみたいと思います。
これらの違いは進路選択のうえでも決め手になるのではないでしょうか。
参考: Springer Nature(2019-06)「Nature Index 2019 Annual Tables」
研究リソース
大学院大学には豊富な研究リソースがあることが特徴として挙げられます。
例えば、沖縄科学技術大学院大学は運営費や施設整備費として政府から巨額の補助を受けていることが知られています。
このほか、研究助成金などの外部資金も獲得しており、豊富な研究資金を有しています。
また、国立の総合研究大学院大学では高エネルギー加速器などの共同利用機関と連携して教育・研究を行っています。
こうした研究資金や研究設備は通常の大学院とは一線を画すものがあり、それにより優れた研究成果やユニークな研究を実施することができるのは大学院大学の利点と言えるのではないでしょうか。
人のつながり
大学院大学では、ノーベル賞受賞者が理事長を務めていたり、ユニークな研究組織を設置していたりするところもあります。
また、大学院大学の学生は学部からの繰り上がりではなく、様々な大学・学部から進学してくるため、多様なバックグラウンドを持った人との交流を通じて視野が広がることも期待できます。
他にも、公用語を英語としていたり、留学生が学年の半数に上るなど、他の大学院とは異なる独特の環境になっているところもあります。
英語が苦手な人にとってはハードルが少し高いと感じるかもしれませんが、研究者として大きく成長できる環境であると言えるでしょう。
また、大学院大学では修士課程(博士前期課程)から博士課程(博士後期課程)までの5年一貫での教育プログラムを採用しているところも多くあります。
こうした大学院大学では博士課程の修了を見越して進学する学生も多く、自身の進路として博士号取得を目指すのであれば、同じ志を持った仲間がいることは心強いことでしょう。
博士課程に在籍する先輩も多いので、奨学金や研究費の申請、研究の進捗など、悩んだときに相談できる人が身近にいるというのも良い点でしょう。
学部生がいない
大学院大学には学部生がいません。
これは、例えば、学部のある大学の大学院に所属する場合と比べて、研究機材を使用するための待ち時間が短い点や、後輩の面倒を見る時間が少なくなるといった点では、自分の研究を効率的に進められるため、利点と言えるかもしれません。
一方で、学部生のいる大学の研究室と比べると、研究室の平均年齢は高めになりがちですし、後輩の研究指導や実験の手伝いなども貴重な経験であるといえます。身近な後輩指導の機会が減るという意味では、将来大学での教育に携わりたい人にとってはデメリットと言えるかもしれません。
まとめ
今回は大学院大学についてご紹介しました。
大学院大学は学部を持たない大学院だけの大学です。
人によってはあまり聞き馴染みがなかったかもしれませんが、研究成果や教育の質で高く評価されている大学も多くあります。
ぜひ、進学先のひとつとして検討してみてはいかがでしょうか?