大学院留学と日本国内の大学院へ進学するのとではシステムも準備内容も異なります。
今回の記事では米国大学院への留学を例に、大学院留学を検討する上でのポイントと出願の流れを紹介していきます。
研究力+英語力が求められる大学院留学
当然ですが、大学院留学は語学留学とは違い、研究する力が求められます。それも英語で研究する力です。以下のチェックリストをまずは確認してみましょう。
- 勉強することが好き
- 研究することが好き
- 英語で(英語「を」、ではなく)専門分野を学びたい
全てにチェック出来たら、大学院留学は良い選択肢でしょう。
大学院留学のメリット
大学院留学のメリットは無数にあります。国際的な研究の舞台に立つことができ、その後のキャリアの可能性を広げられます。
簡単に思いつくだけでも以下のようなメリットがあります。
- 英語力と専門性両方の証明になり、就職に有利
- 世界の一流人材と交流できる
- 資金が潤沢なところも多く、研究環境が整っている
- 給与支給および学費免除の可能性もある
- 外国に外国人として暮らすことで、主体性と多文化的な視点が身につく
大学院留学にデメリットはあるか
最初のうちは特に、慣れない環境、文化、言語によるストレスは大きいかもしれません。しかし、それは一過性のもので、何年も留学生活をしていると逆に日本文化の方にカルチャーショックを受けることもあります。
デメリットになる可能性があるのは費用です。特に自費で行く場合には熟慮したほうが良いでしょう。
以下、大学院留学をしていくうえで考えられるデメリットを挙げます。
- 州にもよるが、一人暮らしの家賃+光熱費は月1,000ドル程度
- 車がないと生活できない都市も多いため、生活コストが高い(ルームメイトがいれば安くすることも可能)
- 帰国(帰省)費用が高い
- 日本にいる家族に何かあった際、駆けつけることは難しい
- 授業も研究も全て英語のため、英語では説明できるが日本語では説明できないことが多くなる
費用についてはいったん就職し、貯金してから大学院に行くことも選択肢の1つとして検討できます。社会人を経験してから大学院に入るのは、米国では一般的です。むしろ、社会人としての経験は大学院の選考の過程でプラスに捉えてもらえます。
大学院留学の際の志望校の決め方
大学院は研究をしに行く場所ですので、自分のやりたい研究ができるかどうかが一番重要です。したがって、学校で選ぶというよりは研究室で選ぶと言う方が正しいです。研究内容の次は、費用、研究以外のサポート、教授の人物面などを考慮すると良いでしょう。
教授へのコンタクトの取り方
米国の大学院では、一つの研究室に教授、准教授、助教授がいるのではなく、一人の教授が責任者(PI: Principal Investigator)として一つの研究室を持っています。関心のある分野の論文を読んで情報収集し、行きたい研究室の目星を付けたら、その教授(PI)にEメールで以下の内容を伝えます。
- その分野の研究に関心があること
- 自分のこれまでの学歴と業績:履歴書(CV: Curriculum Vitae)を添付
- やりたい研究(1-2文でもOK )
- 大学院生を雇用する研究資金または経済援助があるか質問
数日待って返信が来なければ、リマインダーメールを送ります。PIは一日100通以上のメールを受け取ることも珍しくありませんので、見落としている可能性もあります。
一方で、リマインダーメールを送っても返事がない場合は見切りをつけましょう。実際、30人以上のPIにメールをしても返ってくるのは数件のみということもあります。見ず知らずの外国の学生からのメールには心理的ハードルが高い可能性もあります。国際学会等でPIと知り合いになったり、セミナー等で直接話す機会があれば、返信が来る確率はぐっと上がります。
大学院留学の前に調べておくべきこと
費用
私費留学か、何らかの経済支援を受けて留学するかによってかなり異なりますが、米国大学院の学費は高額です。全て自費ならば年間数百万円の支出を覚悟しなければなりません。
しかし、米国大学院ではフェローシップや経済支援も多く募集されていますし、講義の一端を担うティーチングアシスタント(TA)として給与を支給される場合もあります。
理系では特に、教授が研究プロジェクト毎にグラント(研究資金)を獲得し、その資金のなかに大学院生の給与を含めることが多いので、給与プラス生活費をもらえる場合が多くあります。
そのため、留学先でいくら費用がかかるのかだけでなく、留学先での収入の見込みについても事前調査が大切です。
期間および修了条件
博士課程・修士課程ともに、どのくらいの期間で卒業するのが一般的かは専攻によって、また指導教官によっても異なります。修了条件とは、履修する授業の種類や単位数、TA、インターンシップの経験など、修了するのに必要な条件です。
日本の大学院に比べると、修了条件は多く細かくなっている場合が多いので、大学のウェブサイトで確認しましょう。その研究室もしくは専攻に所属する人に直接聞くことができれば理想的です。
修了生の論文数および進路
アカデミア(学術研究分野)に残りたい場合は特に、論文数は自分の業績数そのものです。企業就職をしたい場合でも、研究プロジェクトを完遂し、ライティングができるという証明になります。
自分の行きたい研究室の修了生の論文数は、研究環境およびPIの論文発表に対する熱意を反映したものとなりますので、確認しておくと良いでしょう。
研究面以外のサポート
大学院生活を有意義に過ごしその後の就職にも役立てるには、研究だけではなく、キャリア形成(professional development)や対人能力(soft skills)の向上も必要です。大学全体および学部主体、あるいはプログラム単位で、キャリア形成や対人能力向上セミナー、ワークショップなどがどの程度開催されているかも、大学選びの良い指標となります。
また、専攻やプログラムによっては大学院生会があり、友人を作り助け合う場となります。
教授(PI)の人的評価
指導教官との相性はきわめて重要です。指導教官は、卒業後に推薦状が必要な際に最初にお願いする人物であり、大学院生として給与をもらう場合は、指導教官はあなたの雇用主ともなるからです。
指導教官にも、マイクロマネジメント型、放置型、学生のためになる行動を惜しまない人、そうでない人など、いろいろな人がいます。
卒業生や学部内での違う研究室の人に聞くほか、できれば電話でその人と話をして、研究の方向性や人となりについて掴むことができれば理想的です。
出願準備
出願には大きく分けてGRE(Graduate Record Examination)のスコア、英語試験(TOEFL、IELTSなど)、エッセイが必要となります。
GREや英語試験の受験料は高額ですし、エッセイも執筆、修正等に時間がかかります。9月入学の場合、出願の締切は前年の11-12月頃です。計画を立て、余裕を持って出願しましょう。
GREと英語試験は、最低スコアが学部や専攻によって指定されています。
英語試験は、最低スコアにあと少し届かないくらいであれば、入学後に英語の補習授業を受けることを条件に受け入れてもらえる場合もあります。その場合、補習授業の学費が余計にかかってしまうことは考慮に入れましょう。
以下、GRE、英語試験、エッセイに関するポイントを紹介いたします。
GRE
GREは米国人、外国人関わらず、大学院受験に必要な試験スコアです。読解、数学、小論文からなります。読解は英語を母語とする人向けの試験であるため非常に難易度が高いです。逆に、数学は日本の中学校レベルですので高スコアが狙えます。
小論文は、短時間で長く論理的な文章を書くことが求められます。
GREを運営するETSの公式ウェブサイトに練習問題が載っていますので、制限時間を課して練習しましょう。
参考:ETSウェブサイトのGRE小論文例題 https://www.toeflresources.com/sample-toefl-essays/
英語試験
英語試験はTOEFLかIELTSが一般的です。こちらは英語を母語としない学生向けです。参考書が多く出版されているので、対策してから臨みましょう。
出願先の大学院によっては実用英語技能検定やTOEICなどは有効な試験ではないことが多いため、対象となる試験をよく確認しましょう。
エッセイ
大学院志望理由、研究計画、キャリアプランなどのテーマで、2ページ程度のエッセイの提出が求められます。エッセイは形式的なものではなく、教授たちはこれを熟読してどの応募者を採用するかを決めています。
エッセイに書く研究計画は、入学前には具体的に決められないことも多いですが、行きたい研究室の論文等をよく読んで計画を立ててみましょう。書いた研究計画書は、その研究室のPIに送ってコメントをもらえば、研究計画をより良いものにするだけでなく、自分を覚えてもらうきっかけにもすることができます。
米国大学院生活の例
次に、米国大学院の流れの一例を紹介します。予備審査試験を除き、修士課程・博士課程共通です。
1-2年目
- 授業を履修し、課題をこなす
- 研究計画書(Research proposal、必須であれば)を書く
- 論文審査委員会とのミーティングを行う
- 修士論文あるいは博士論文の研究を開始する
3年目以降
- 予備審査試験(博士課程のみ(※))を受ける
- 研究成果を論文化する
(※)予備審査試験は、論文審査委員会の教授陣から、自分の専攻分野に関して筆記および口頭試験を受けるものです。分野、専攻によって試験スタイルは異なりますが、出題範囲があってないような膨大な勉強量が課されます。博士課程では、ここが正念場です。
最終年
- 公聴会(ディフェンスセミナー)で研究成果を発表し、口頭試験を受ける
メインは上記の通りですが、これに加えて、スキルをさらに上げるためのワークショップやセミナーの参加、ボランティア活動、インターンシップ等も重要です。週末も課題をしたり活動をしたり、極めて多忙な生活になります。
ただし、自分でスケジュールを組めるので、友人との時間を過ごしたり、夏季や冬季に1-2週間程度の休暇を取ることは可能です。
米国大学院で最大限の学びを得るために
米国大学院にはあらゆるリソースがあり、主体性をもって貪欲に学ぶことが大切です。
日本人のハードルとしてはおそらく、「何でも自分からやりたいと言う必要があること」かもしれません。与えられる情報も最低限であることが多いので、自分で情報を集めることが必要です。
逆に言えば、やりたいと言えばチャンスが巡ってきます。学会発表、課外活動、新しい研究プロジェクト、他の学部の講義聴講など、やりたいという意思は最大限尊重してもらえます。
そして一度経験を積むと、そのさらに先、そのさらに先、といったように道が拓けてきます。
逆に、受け身で授業や研究のみをこなし、自分のキャリアや極めたいことを突き詰めずにいると、修了時に路頭に迷うことになりかねません。
まとめ
大学院はその道の専門家になるためのトレーニングです。研究室にまずは受け入れてもらい、種々の試験をクリアして、研究を行い、学位を取得するまでは長い道のりです。
専攻分野によって異なりますが、米国の場合修士課程では最低2年、博士課程では最低4年かかることも多いので、人生の時間を投資することになります。投資分を回収できるように、準備と下調べをしっかり行いましょう。
そうすれば大学院留学は、研究力と英語力をつけ、世界中の研究者とのコネクションを作る貴重な機会となるでしょう。