「AJ出張版」は、株式会社アカリクが発行する「大学院生・研究者のためのキャリアマガジン Acaric Journal」の過去の掲載記事や、WEB限定の新鮮な記事をお送りするカテゴリです。今回はvol.4の掲載記事をお届けします。
「未来博士3分間コンペティション2021」は博士課程後期学生が3分間の限られた時間内に自身の研究のビジョンと魅力をわかりやすく伝えるスピーチ大会です。本大会において株式会社アカリクは特別協賛を行い、日本語部門・英語部門に対して「アカリク動画賞・Acaric Award」の冠賞を提供しました。本インタビューは日本語部門の冠賞を受賞された柳沢氏に、ご研究について伺いました。
― 今回動画賞を受賞された動画内で説明されていたご研究について、簡単に概要を教えてください
私は、泡沫の崩壊についての実験的研究を行っています。泡沫とは、液体中に気泡が高密度に詰まった状態のものです。食品や飲料品、洗浄剤や化粧品など幅広い分野で応用されていて、産業的にも非常に重要なものです。泡沫は安定な状態ではなく、時間が経つにつれ崩壊していき、最終的には消えてなくなってしまいます。そのため、どのようなときに、どのように泡沫が壊れるのかを解明することは、泡沫の安定性制御において、重要な課題です。
泡沫の崩壊では、近接する気泡と相互作用を伴い、複数の気泡が一気に崩壊するシャボン玉のような単一の気泡の崩壊とは異なったふるまいをすることが知られています。私のこれまでの研究によって、泡沫の崩壊では、液滴が飛び出し、離れた液膜を壊すことが重要な過程であることを解明していましたが、液膜がどのように崩壊して、液滴が放出されるのか、崩壊が起きるための物理的な条件についてはわかっていませんでした。気泡が割れるタイムスケールは、数ミリ秒と非常に短いため、肉眼では到底捉えることができません。
そこで私は、高速度カメラを用いて現象を直接観察することで、崩壊の仕組みの解明を行いました。その結果、崩壊の間にプラトー境界の曲率が反転し、液滴が飛び出すという、特異なふるまいをしていることを明らかにしました。更に、崩壊が起きるための物理的条件を解明し、崩壊が起きないように安定化させるには、液膜をたわみやすくして破れないようにすること、崩壊の衝撃によって生じる液体輸送の慣性を弱くすることが、重要であることがわかりました。
― 動画で使用されたスライド1枚を作る際に気を付けた点はどのようなところでしょうか？
口頭で話す説明を理解できるように、視覚的にイメージできる画像を多く載せた点です。最初に、日常生活でみられる泡沫の事例を挙げ、泡沫は身の回りに溢れていることを再確認させ、オーディエンスの知識を活用しようと思いました。液膜やプラトー境界といった専門的な用語はわかりにくいと思ったため、泡沫の構造を表す画像を載せ、それを元に話せるように工夫しました。最後に、本研究結果である泡沫の特異な崩壊の様子を示した専門的な図を載せました。ぱっと見難しく感じるかもしれませんが、研究に少しでも興味をもってもらえたら嬉しいと思ったので、敢えて専門的な図を載せることにしました。ほかには、プレゼンを聞きながらスライドの文章を読むのは大変だと思ったので、テキストは極力書かないように心掛けました。
― ご自身の研究に関する知見が活かされる可能性のある分野はどのようなところになるのでしょうか？また、どのように活かされると考えられますか？
私の行っている研究は物理学の基礎的研究ではありますが、泡沫の崩壊の仕組みや崩壊条件の解明は、泡沫の安定性制御に深く関わっています。泡沫が安定化されることで、酸化防止や断熱といった産業的な応用から、消火剤などの災害関連分野まで広い範囲にわたって応用されることを期待しています。一方で、化学薬品や可燃性液体の吹きこぼれなど、意図しない泡沫形成による災害が発生する場合もあります。本研究は、泡沫が崩壊しやすく、また形成されにくくすることにもつながり、泡沫の制御による産業への貢献が期待できると考えています。
― 将来はどのような進路を歩まれたいのか、教えてください。
博士の学位を取得した後は、数年間はポスドクとして大学の研究機関で泡沫に関連した研究を引き続き行いたいと思っています。その後についてはまだ明確ではありませんが、アカデミックな職業に限らず、一般企業への就職も視野に入れています。プレゼン能力や、これまでの研究で培った問題発見能力や問題解決能力、技術（定量的測定を行うための画像解析技術や、数値シミュレーション技術）を生かせる職業に就ければ良いなと考えています。今は目の前のことに全力で取り組んでいくことで、おのずと将来が見えてくると思っています。
