工学の全国統計に、「材料工学」という区分はありません。金属や高分子材料を専門に学んでいても、検索で出てくる情報の多くは自分の学科名と一致しないため、どれを自分に当てはめて読めばよいのか判断がつきにくくなります。
この記事では、材料の系統がどの産業につながるのか、大学によって7割台から9割台まで開く大学院進学率、学位の選択で変わる就職先と応募の条件、自分の系統を特定するところから始める就活準備までを解説します。
1.「材料工学」は学科名にも統計の分類にも固定されていない
材料系の学生が「材料工学 就職」と検索したときに感じる違和感には、統計上の分類と大学ごとの学科名という二つの理由があります。どちらも自分の位置を見えにくくしている原因なので、先に切り分けておきましょう。
学校基本調査に「材料工学」という関係学科の区分はない
文部科学省の学校基本調査は、工学の卒業者を機械工学や応用化学など、「その他」を含めて12の関係学科に分けて集計しています。この一覧に「材料工学」「金属工学」という項目は置かれていません。工学の卒業者87,287人のうち、名前のついた区分のどれにも当てはまらない「その他」は26,352人で、工学分野の約3割を占めます。材料系の多くはこの「その他」の内側にあるため、全国の進学率や就職の状況を材料系だけで切り出すことはできません。
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 関係学科別状況別卒業者数」
学科名は大学ごとに違い、検索語と自分の課程は一致しない
材料系の課程の名前は、大学によってそろっていません。東京大学は「マテリアル工学科」、東京科学大学は「物質理工学院 材料系」、京都大学大学院は「材料工学専攻」と、同じ材料系でも呼び方が違います。検索語の「材料工学」と一致する学科名を持たない大学の学生が、自分に当てはまる情報にたどり着けないのは当然です。一般的な材料系の就職事情を読むより、自分が所属する課程が公表している進路実績を先に開くほうが確実です。
出典:東京大学マテリアル工学科マテリアル工学専攻「卒業後の進路」
出典:東京科学大学 物質理工学院 材料系「将来の進路」
出典:京都大学大学院工学研究科 材料工学専攻「進学・就職状況」
2.扱う材料の系統によって進む産業は変わる
学科名や統計の分類とは別に、進路を実際に分けているのは研究室で扱う材料の系統です。金属を扱う研究室と半導体材料を扱う研究室とでは、修了後に進む産業がはっきり違ってきます。
修士修了者の進路は素材の川上から完成品メーカーまで分散する
東北大学工学部材料科学総合学科の修士修了者96名の内訳は、業種ごとに次のとおりです。
| 主な内訳 | 割合 |
|---|---|
| 鉄鋼・非鉄・金属業 | 26% |
| 自動車・機械業 | 19% |
| 電気・電子部品・デバイス等 | 12% |
| 化学・素材業 | 5% |
| 情報通信業 | 2% |
| その他の業種 | 15% |
| 進学 | 19% |
最も大きい区分は鉄鋼・非鉄・金属業ですが、そこに集まるのは4分の1程度で、自動車・機械業や電気・電子部品・デバイス等がそれに続きます。素材の川上を担う企業から、それを使う完成品メーカーまで、進路は幅広く分散しています。
金属・鉄鋼系の研究室からは素材産業と重工業へ広がる
金属材料やその加工プロセスを扱う研究室からの進路は、鉄鋼・非鉄金属業界が中心です。東北大学材料科学総合学科の4コースのうち「金属フロンティア工学コース」はこの系統にあたり、修士修了者の業種内訳でも鉄鋼・非鉄・金属業が最も高い割合を占めています。京都大学大学院工学研究科材料工学専攻の修了者の就職先も、鉄鋼・非鉄金属・重工業・自動車・電機・電力・精密機械にわたっています。同専攻では修了者の1割以上が博士後期課程に進学し、日本学術振興会の特別研究員にも過去5年間で17名が採用されました。
出典:東北大学工学部材料科学総合学科「卒業後の進路」
出典:京都大学大学院工学研究科 材料工学専攻「進学・就職状況」
電子デバイス・半導体材料系の分岐は大学院のコース区分から見える
電子デバイスや半導体に使われる材料を扱う研究室からは、電気・電子部品・デバイス業界への進路が広がります。東北大学材料科学総合学科の「知能デバイス材料学コース」はこの系統に対応しており、修士修了者の業種内訳でも電気・電子部品・デバイス等が一定の割合を占めています。
東京科学大学物質理工学院材料系の大学院に置かれているのは、材料コースやエネルギー・情報コース、人間医療科学技術コースで、材料と情報・エネルギー分野を横断する研究に取り組める構成です。学部の学科名からは見えにくい専門の分岐も、大学院のコース区分まで見れば見分けられます。
出典:東北大学工学部材料科学総合学科「卒業後の進路」
出典:東京科学大学 物質理工学院 材料系「将来の進路」
化学・高分子・環境系は化学・素材業界が中心になる
高分子材料や環境・リサイクルに関わる材料を扱う研究室からは、化学・素材業界への進路が中心です。東北大学材料科学総合学科には「材料システム工学コース」「材料環境学コース」があり、修士修了者の業種内訳でも化学・素材業が一定の割合を占めています。東京大学マテリアル工学科は就職先企業を5つのカテゴリに分類して公表しており、「マテリアル・化学関連」はそのひとつです。系統によって就職先の中心が変わることは、複数の大学の実績に共通して現れています。
出典:東北大学工学部材料科学総合学科「卒業後の進路」
出典:東京大学マテリアル工学科マテリアル工学専攻「卒業後の進路」
3.材料系の大学院進学率は大学によって7割台から9割台まで開きがある
材料系は大学院に進学する学生が多い分野です。ただし進学率は一つの数字に収まらず、大学によって7割台から9割台まで開きがあります。
進学率の両端は九州工業大学の75%と東北大学の92%
九州工業大学工学部マテリアル工学科の進路比率は、大学院進学75%・就職25%です。ただし集計年度の記載がないため、特定の年度の実績ではなく学科全体の傾向として読む数字になります。一方の東北大学工学部材料科学総合学科では、令和7年度の学部卒業生106名のうち92%にあたる98名が大学院に進学しました。同じ材料系でも進学率には7割台から9割台まで開きがあり、平均的な一つの像を自分の学科に当てはめることはできません。
出典:九州工業大学工学部マテリアル工学科「主な就職先/進路」
出典:東北大学工学部材料科学総合学科「卒業後の進路」
九州大学の12学科のなかでは材料工学科の83%は低い側にある
九州大学工学部では、12学科の大学院進学率が同じページに並んでいます。材料工学科は83%で、これより低いのは土木78%、地球資源システム81%、建築82%の3学科だけです。いずれも令和7年3月卒業の数値であり、同一の大学・同一の年度で条件がそろった比較になります。材料系の進学率が高く出るのは大学の性格によるものではなく、工学のなかでの位置づけとしてそうなっていると読み取れます。
工学全体の40.4%と比べると材料系は進学が標準の側にある
文部科学省の学校基本調査によると、令和7年3月卒業の工学全体の進学率は40.4%です。ここまでに挙げた材料系の3つの学科はいずれもこれを大きく上回っており、進学は例外ではなく標準の側に置かれています。つまり学部を出て就職する人は、材料系のなかでは少数派の側です。だからこそ、学部卒での就職に何が伴うのかを先に確かめておく意味が出てきます。
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 関係学科別状況別卒業者数」
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4.学位の選択で変わるのは就職先の顔ぶれと応募できる区分
学位の選択で変わるのは、応募できる就職先の顔ぶれと、学位によって応募資格が区切られている制度の側です。学部で就職するか大学院へ進むかは、専門をどこまで深めるかという話に見えて、実際には応募先の範囲そのものを変えます。
九州大学は学部卒と修士修了の就職先を別掲で公表している
九州大学工学部の材料工学科では、主な就職先の顔ぶれが学部卒業後と修士課程修了後で違います。学部卒業後のリストにはJFEスチールやトヨタ自動車といったメーカーに加えて、ANA、中部電力、九電工、公務員が並んでいます。修士課程修了後のリストは日本製鉄やデンソー、東京エレクトロンなどメーカーが中心で、先に挙げた航空・電力・公務は現れません。どちらも「など」を含む例示で人数や割合までは分からないものの、学位ごとに別掲されているからこそ、この違いが見えます。
九州工業大学でも学部卒業生の欄にだけ公務や金融が現れる
九州工業大学工学部マテリアル工学科でも、学部卒業生と大学院修了生の進路は別に分かれています。学部卒業生の欄には京セラや三菱マテリアル、村田製作所といったメーカーとあわせて、公務員、宗像市役所、福岡入国管理局、外務省、大分銀行、西部ガスが並びます。大学院修了生の側に、これらの進路は現れません。二つの大学で同じ方向の差が現れている以上、これは一校だけの偶然ではありません。
出典:九州工業大学工学部マテリアル工学科「主な就職先/進路」
学部卒側で広いのは業種の幅であって、専門との距離は別の話になる
二つの大学で学部卒側にだけ現れたのは、素材や電機以外の産業と公務でした。ここから読めるのは、学部卒のほうが応募先の業種が広く並ぶという事実であり、専門を生かす職務に近いかどうかまでは含まれていません。修士修了側が素材と電機のメーカーに集まっている点と合わせると、学位の選択は業種の幅と専門との距離のどちらを取るかという選択に近づきます。どちらが有利かという問いは、ここからは立てられません。
応募条件を学位で区切る制度は国家公務員採用総合職試験にある
人事院の国家公務員採用総合職試験は、院卒者試験と大卒程度試験に分かれています。院卒者試験を受けられるのは大学院修士課程または専門職大学院の課程を修了した方と、その修了見込みの方で、大卒程度試験は大学を卒業した方と卒業見込みの方が対象です。双方に「工学」の試験区分が置かれているため、材料系はどちらの試験からでも受験できます。ただし第1次試験は同じ日に実施されるため両方を受験することはできず、受験案内は院卒者試験の受験資格がある方には院卒者試験を受験することを推奨しています。
出典:人事院「国家公務員採用総合職試験(院卒者試験・大卒程度試験)受験案内」
第2次試験の種目も学位段階で分かれている
同じ受験案内によると、第2次試験の種目は院卒者試験と大卒程度試験で違います。院卒者試験は専門試験(記述式)に政策課題討議試験と人物試験が続き、大卒程度試験(教養区分を除く)は専門試験(記述式)に政策論文試験と人物試験が続きます。討議か論文かという違いは、判定しようとしている能力の置き方が学位段階で分かれていることを示すものです。民間企業の募集がこの形にそろうわけではありませんが、学位が応募資格だけでなく試験の中身まで変える例として確かめられます。
出典:人事院「国家公務員採用総合職試験(院卒者試験・大卒程度試験)受験案内」
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5.材料系の職務は職業分類が開発と開発以外に分けている
就職先の産業が見えても、その先で担う職務の中身までは進路実績からは読めません。材料系の職務は、開発を担う仕事と、それ以外の工程を担う仕事に分かれます。この線引きは、総務省が統計基準として設定した日本標準職業分類に定義があります。
「金属技術者(開発)」と「金属技術者(開発を除く)」
「金属技術者(開発)」にあたるのは、金属の製錬・精錬・溶解・鋳造・熱処理・圧延・表面処理・合金の製造などに関する技術の開発などの仕事です。同じ対象でも、「金属技術者(開発を除く)」は、生産性の検討・生産準備・設備計画などの工程設計、および工程管理・品質管理、監督、指導などの技術的な仕事にあたります。求人票で研究開発職、生産技術職、品質管理職と呼び分けられている枠に対応するのは、この二つの項目です。職種名ではなく、どちらの項目にあたる工程を受け持つ仕事なのかを見ると、自分の研究との距離が測れます。
出典:総務省「日本標準職業分類(平成21年12月告示)説明及び内容例示」
金属系と化学系では対応する職務の系統が違う
公的な職業分類では、製造技術者の項目が扱う対象ごとに分かれています。材料系に関わるのは金属と化学の二つで、それぞれに開発を担う項目と、開発以外の工程を担う項目が置かれています。高分子化学技術者(開発)という職業名は化学の側に例示されているため、高分子材料を扱ってきた場合の対応先は金属ではありません。自分の材料が金属か化学かで、あてはまる職務の系統は変わります。
出典:総務省「日本標準職業分類(平成21年12月告示)分類項目名」
出典:総務省「日本標準職業分類(平成21年12月告示)説明及び内容例示」
研究者は製造技術者とは別の分類項目に置かれている
「研究者」にあたるのは、公的研究機関や大学附置研究所、企業の研究所・試験所・研究室などの試験・研究施設において、基礎的または応用的な学問上・技術上の問題を解明するために従事する専門的・科学的な仕事です。「自然科学系研究者」の内容例示に挙がっているのは「金属材料研究員」です。製造技術者の側には、試験所・研究所などの試験・研究施設で基礎的な研究に従事するものは研究者に分類するという但し書きが置かれています。研究者と製造技術者を分けているのは所属する施設の性格であり、研究職と開発職は分類の上でも別の場所にあります。
出典:総務省「日本標準職業分類(平成21年12月告示)説明及び内容例示」
分類が前提にしているのは学位段階ではなく大学の課程である
「研究者」と「製造技術者(開発)」は、いずれもその仕事を遂行するには通例、大学(短期大学を除く)の課程を修了したか又はこれと同程度以上の専門的知識を必要とすると定めています。ここに書かれているのは大学の課程であって、修士や博士という学位段階ではありません。職務の要件として求められている水準と、企業が募集で学位を指定するかどうかは、別の話です。
出典:総務省「日本標準職業分類(平成21年12月告示)説明及び内容例示」
6.データ駆動型の材料開発が求めはじめている力
材料開発の現場では、データを活用した進め方が広がりつつあります。この変化は、材料系の学生に求められる知識の範囲にもおよびます。
マテリアルズ・インフォマティクスで開発プロセスが変わる
マテリアルズ・インフォマティクス(MI)は、AI技術などを活用して材料開発を高速化・低コスト化する、データ駆動型材料開発と言い換えられる技術です。材料試作から工業的に利用可能な製造方法に至る開発をデータ活用で加速させる、プロセス・インフォマティクス(PI)という技術もあります。従来の材料開発は、研究者の経験と勘に頼って試行錯誤を繰り返す進め方が中心でした。フレキシブル透明フィルムの開発では、実験回数を従来の25分の1以下に削減できた実例が示されています。
出典:産業技術総合研究所「マテリアルズ・インフォマティクス、プロセス・インフォマティクスで何が変わる?」
求められる知識は材料とデータ解析の両方に広がっている
MIとPIが広がるなかで、材料系の研究者・技術者に求められる知識も変化しています。産業技術総合研究所は、「化学・材料分野の専門的な知識は欠かせませんが、同時にAIや深層学習などを使った分析・評価の専門的な知識も必要になります」と指摘しています。求められているのは材料の専門性をデータ解析に置き換えることではなく、二つを並べて持つことです。
出典:産業技術総合研究所「マテリアルズ・インフォマティクス、プロセス・インフォマティクスで何が変わる?」
研究室でのデータの扱いは選考で説明できる材料になる
面接やエントリーシートでは、研究テーマの内容だけでなく、実験データをどのように収集・整理・解析してきたかまで具体的に説明できると評価されやすくなります。実験条件をどのようなパラメータで管理したか、得られたデータをどんな手法で解析し、次の実験計画にどう反映させたかを整理しておけば、材料の専門知識とデータ解析の両方を同じ話のなかで示せるはずです。データ駆動型の材料開発が広がる流れのなかでは、この説明そのものが専門性の一部になります。
7.就活準備は自分の材料系統を特定するところから始まる
ここまでで紹介した判断基準は、系統と産業の対応、学位、職務の公的な定義の三つです。準備の順番は、この三つを自分の条件に置き直す形で組み立てられます。
自分の材料系統と産業の対応を書き出す
最初に確定させるのは、自分の研究テーマがどの系統に属し、どの産業とつながるのかです。金属・鉄鋼系であれば素材メーカーや重工業、電子デバイス・半導体材料系であれば電機・精密機器メーカー、化学・高分子・環境系であれば化学メーカーという結びつきが、複数の大学の公表資料から読み取れます。志望業界の候補を具体的に絞り込むうえで土台になるのは、この対応表です。研究テーマが複数の系統にまたがる場合は、対応する産業の候補もその分だけ広がります。
研究テーマと志望産業が一致しないときの説明を組み立てる
研究テーマの系統と志望する産業が一致しないケースも珍しくありません。この場合は、扱っている材料そのものではなく、材料設計の考え方や分析・評価の手法といった、系統を越えて使えるスキルを軸に説明を組み立てる方法があります。実験計画の立て方やデータの解析手法は、対象とする材料が変わっても応用できる部分が多い領域です。職務が工程で区切られている以上、材料名ではなく工程で自分の経験を語るほうがよいでしょう。
所属先が公表している進路実績を先に確認する
一般的な材料系の就職事情より先に確認したいのは、自分が所属する大学・専攻が公表している進路実績のページです。進路はコースや専攻ごとに分けて示されていることが多いため、自分の研究テーマが当てはまるコースの実績まで見ておくと、見通しの精度が上がります。学部卒と修了後を別掲している大学であれば、学位の選択が就職先の顔ぶれに与える差もそこで確かめられるはずです。
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まとめ
材料工学の就職は、「材料系」というひとくくりでは考えられません。まず自分の研究テーマがどの材料系統に属するのかを決め、対応する産業を書き出してください。学位の選択で変わるのは、業種の幅と、制度上の応募資格です。選考では材料名ではなく、どの工程を受け持てるのかを言葉にしておきましょう。









