子育て中の研究者にとって、学会への参加には困難がともないます。
平日であれば、学校や保育所がありますが、多くの学会は週末に開催されます。一時保育所を利用したり、配偶者に予定を調整してもらったりという選択肢がありますが、報酬が得られるわけでもない(むしろ参加費用を支払う)用事のために、家計から旅費や託児費用を捻出したり、休日に家族と過ごさずに家をあけるということについて、負い目を感じることもあります。
子連れ学会は、そういった課題へのひとつの解決策、もしくは苦肉の策です。
わたし自身、これまでに複数の学会に子どもたちを同伴させてもらってきました。ありがたいことに、最近では学会の主催者が委託した託児所を準備してくれている場合や、授乳室の用意があったり、会場に子ども同伴が可能であることを事前に公表してくれている学会も増えています。
特に宿泊を伴う開催地での学会に参加する場合、子どもを同伴するのは荷物の面や部屋の手配等、何かと大変ではありますが、それに値する安心感があります。自分の留守中の家族の心配から開放されることは大きなメリットです。わたし自身は、これまでに何度か子連れ学会参加を経験していますが、子どもの成長や開催地により、参加のスタイルはかわってきました。
学会の託児所を利用する
代表的なスタイルは、子どもを開催地に同伴し、学会委託の託児所に預けるパターンです。学会に託児所があれば、これが一番シンプルな方法です。特に乳児期には、母子共に長時間離れていることにまだ慣れておらず、発表を聞く合間に授乳をしたり、すぐに様子を見に行けることは大きな安心感がありました。
託児費用を学会が助成している場合や、研究費からの捻出を認めている場合もあり、費用の面でも助けられましたし、なにより学会に託児所が設けられているというのは「子育て中に学会参加をしてもいいのだ」と背中を押してもらえたようで心強いものです。また、託児室を利用するほかの参加者と出会う機会でもあり、境遇の似かよった同志の存在に勇気づけられたりもしました。
開催地まで配偶者にも同行してもらい、学会参加中の子どもの世話は配偶者にお任せする
遠方での学会に参加する際、子どもだけでなく配偶者にも同行してもらったこともあります。第二子を妊娠中で第一子もまだ幼かった時、自分一人で子どもを連れての出張には不安があったため、学会に家族旅行を合わせるような方法をとりました。開催都市が観光地だったので、わたしが学会に参加している間、子どもと配偶者は博物館を楽しんでいました。
この時は、子どもを連れて行く場所の下調べと合わせ、荷物の準備、宿泊ホテルの手配も配偶者に協力してもらえたので、自分の負担は少なくすみました。また、現地で学会開催中の時間は、家族は完全に別行動でこちらを気にせずに旅行を楽しんでいたので、わたしも不安や罪悪感から開放されました。
家族連れでの現地入りは、一人で学会参加するよりも旅費はもちろんかかりますが、休日に家族をおいてきているという背徳感がなく、むしろ「家族が楽しんでいる間に自分だけは仕事をしている」という感覚で学会に参加できるところが良かったです。
注意が必要なのは、研究費を使った出張になる場合には、家族の同伴がどのような扱いになるのか事前の確認が必要なことです。交通費が捻出できるのは本人の分だけというのは当然ですが、宿泊費が実費の場合、家族が一緒に泊まることが問題にされたり、家族を同伴、もしくは現地で合流した時点で公私混同とみなされる場合もあります。
わたしの所属機関では、研究倫理・コンプライアンス研修のなかで、事例として、私費で延泊をし、現地で家族と合流をして観光をして帰る場合は、研究目的の用務を含む出張であっても、研究費を使うことは不適切である、と紹介されていました。そのため、子連れ学会参加の際には、同伴者がいることについて事前に大学に相談をしましたが、私用での延泊がないこと、交通費と宿泊費は大学規定の固定額であることにより、子連れでも問題ないと確認がとれました。
(ちなみに、国外調査に子どもを同伴したことがありますが、この時も同様に問題ないとの許可がおりていました。ただし、大学に提出する航空券の領収書等の書類は自身の分の金額だけが記載されたものを用意することになっています。そのため、飛行機は家族の分をまとめて予約をする必要がありますが、見積もり、請求、領収書を別に作成する等、対応に応じてもらえるか代理店に確認したうえで予約をとりました)
テレワークの普及も進む中で、ビジネス(Business)とレジャー(Leisure)を掛け合わせた「ブレジャー(Bleisur)」、Work(ワーク)とVacation(バケーション)をかけ合わせた、「ワーケーション(Workation)」という言葉も使われ始め、最近では働き方の自由が認められる風潮が生まれてきました。公費を使う場合には慎重な対応が必要ではありますが、私費で学会に参加する分には、むしろ積極的に家族との時間を兼ねていくのも有効だと考えています。そうすることで、自身の心の負担が軽くなるほか、研究活動に対する家族の理解も得やすくなるように感じるのです。
会場に子どもも同席させる
子どもが成長してからは、学会の発表会場へ子どもを同伴しています。事前に主催校の準備委員会に問い合わせをして許可をいただき、託児のない学会へも小学生の子を連れていきました。
第二子が産まれた後の学会参加は、子ども二人のうち一人は配偶者に任せ、もう一人を同伴する、というスタイルに落ち着いています。宿泊をともなわない日帰りの参加であっても、二人の子どもを一日中、配偶者一人に任せておくのは難しいものがあるためです。また、子どもたちの性別と年齢の関係もあり、二人の子を父親ひとりで同時に連れて外出することがなかなかに大変で、たとえ開催地まで配偶者に同行してもらうとしても、観光していられる状態とは考えられません。
以前は、乳児だった第二子を学会会場の託児所に連れていき、第一子には配偶者と留守番を頼んでいたこともあったのですが、第二子が乳離れし、オムツも外れてからは父親との留守番や外出もしやすくなってきたので、反対に上の子を学会に連れて行くという選択肢がでてきました。
第一子はインドア派で、絵を描いたり、本やマンガを読んだりして、かなり長い時間集中して静かに座っていることができます。今年度は、未就学の下の子を配偶者に預け、小学生になった上の子だけを連れて学会へ行ってみました。遠方での開催で、新幹線で移動、二日間の開催でしたが、両日共、わたしが発表を聞いている間、子はその隣でゲームをしたり、電子書籍を読んだりして、静かに待っていてくれました。
(また、会場で会った先生方に挨拶をする際、事前に仕込んだ「母がお世話になっています」というセリフを棒読みながらも口にするというミッションも、一応こなしてくれました)
聞きたい発表が多かったため、合間に観光をする余裕も、現地の名物を食べる機会すらもないというスケジュールになってしまいましたが、かなり長時間、機嫌よく付き合ってくれました。決め手は、タブレット端末の存在です。親の研究や仕事にも使っている我が家のタブレット端末には、子ども向けのアプリもダウンロードしていますが、普段、家で子どもが使うのには制限をかけており、特別な時にだけ子ども二人で交代で使えることにしています。そのタブレット端末を、学会の際には音さえ出さなければ良いという条件で自由に使わせたので、大人の集まりに同席する気まずさなどどこ吹く風で、夢中になっていました。また、下の子に邪魔されることもなく、タブレット端末を独占して使える機会は貴重だったこともあり、セッションが長引いた際も、空腹も忘れて集中していてくれたのは助かりました。
これからの子連れ学会参加
学会会場や研究会でほかの子連れ参加者に出会うことも増えてきています。乳児を抱いて参加している姿や、夫婦が交互に休憩室で未就学児の世話をしている家族連れの姿も見られます。また、託児室や休憩室で子ども同士が交流したり、親同士で協力して子どもの世話を負担し合う流れができたこともありました。
子どもを連れて学会に参加する場合は、懇親会の参加が難しかったり、学会後に他の研究者と食事に行くなど、予定外の動きをすることはできなくなってしまう部分はやはりあります。しかし、子連れでの参加が増えてくることによって、学会は子育て中の研究者にとって、業績を積んだり、研究にまつわる最新の動向を聞ける場であるだけでなく、研究と子育ての両立にまつわる情報交換をする機会にもつながっていくのではないかと、密かに期待を寄せています。
[文責:子育てポスドク]
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