卒業論文や修士論文の提出を終え、ひと息ついている方も多いことでしょう。
「長い時間をかけて取り組んできた論文が形となり、ようやく一区切りできる」と感じている方もいるかもしれません。
しかし、卒論生・修論生にとって、論文の提出はゴールではありません。その後には、「口頭試問(口述試験)」という重要なステップが控えています。
「口頭試問は未経験で、何を質問されるのかわからない」「どのような準備すればいいのか不安だ」と感じている方も少なくないでしょう。論文の内容をどこまで理解していればよいのか、どのように説明すればよいのか、緊張や戸惑いを覚えるのも自然なことです。
そこで本記事では、筆者自身の経験をもとに、口頭試問とは何か、どのような点が評価されているのか、そしてどのように対策すればよいのかを解説します。これから口頭試問を控えている方の準備や心構えに、少しでも役立てば幸いです。
質疑応答対策|想定問答リストの作り方
口頭試問当日の立ち振る舞いとNG行動
そもそも論:なぜ口頭試問が行われるか
口頭試問とは、提出した論文の内容を前提として、その研究をどの程度理解し、自分の考えとして説明・議論できるかを確認するための試験です。論文の完成度そのものだけでなく、研究の背景や目的、用いた手法の妥当性、得られた結果の解釈について、主体的に説明できるかどうかが問われます。
「論文を既に提出しているのだから、文章を読んで評価すれば十分なのではないか」「なぜ改めて口頭試問を行う必要があるのだろう」と疑問に感じている方もいるでしょう。確かに、通常の定期試験や学術論文の投稿と比べると、卒論・修論・博論では論文審査に加えて口頭試問が課されるという点で、少し特殊な形式に見えます。
しかし、口頭試問は単なる「論文内容の確認」ではありません。論文と口頭試問をセットで行うことで、その研究成果が本人の理解に基づくものであり、学位を授与するに足る知識・思考力・説明力を備えているかを総合的に評価しています。言い換えれば、筆記試験としての論文と、面接に近い形式での口頭試問を通して、「この人が研究者として最低限求められる力を身につけているか」を見極めているのです。このように、書面と対話の両面から評価する仕組みは、大学入試や就職活動など、他の選抜の場面でも広く用いられています。
「防御」を意味するDefense(ディフェンス)は、指摘や疑問に対して感情ではなく論理で応じ、自らの立場を明確にする姿勢を象徴しています。
単に知識量を示すのではなく、一研究者として自分の研究をどう捉え、どのように位置づけているのかを言葉で示せるかどうかが、口頭試問で重視されているポイントだといえるでしょう。
口頭試問で求められるもの
以上のことを踏まえると、口頭試問で求められることも少しクリアになってきたのではないでしょうか?
つまり、知識、観点、論理の三点が求められています。
また、それらを口頭の形で表現し、他人に理解してもらえる能力も求められています。
もう少し具体的に見ていきましょう。
知識
知識については、一連の「なに」「どれ」「どのくらい」への回答が求められます。
あなたが選んだテーマについて、あなたはどこまで知っていますか?例えば、
・そのテーマについてはこれまでどのような研究が行われてきたか
・誰がどんな主張をしているか
・それについての研究はより大きな背景(例:分野全体の研究テーマ、時代背景)の中でどのように位置付けられるか
などが質問として想定されます。
あなたが使っている研究方法や解析方法について、あなたはちゃんと理解していますか?例えば、
・それはどんなタイプの研究手法であり、それによってなにを明らかにできるか
・その手法の限界や問題点はどこにあるか
・あなたが使っている解析手法はどんなものであり、解析結果の具体的な数値一つ一つはどんな意味を持つか
・この解析手法にどんな問題が存在しうるか
などが質問として想定されます。
観点
観点については、一連の「なぜ」への回答が求められます。
例えば、
・あなたはなぜこのテーマが重要だと思うか
・なぜこのような主張を提唱するか
などが問われます。また、「自分の研究成果はどのような貢献をもたらし、どんな問題を残したと思うか」なども、観点への問いに該当します。
ここで非常に重要となっているのは、自分自身の目的と考えをはっきり意識することです。全ての核心は「あなた自身」であり、先行研究や指導教員などの他の人であってはなりません。
論理
論理については、「どのように」への回答が求められます。
例えば、
・あなたが提唱した主張はどのように導き出されたか
・その主張を証明するには、どのように研究手法と解析手法が選ばれたか
・あなたが得た結果はどのように結論を導き出せるか
などの質問があります。
口頭試問の段取り
口頭試問の段取りには共通なことが多い一方、大学や研究室それぞれの慣習や決まり事も存在しています。以下の内容はあくまでも参考ですので、必ず早めに自分の研究室の先生や先輩方に段取りを確認してください。
口頭試問のなかで行われること
口頭試問には論文内容のプレゼンテーション(プレゼン)と質疑応答の2つの部分が含まれます。
発表者がプレゼンを最後まで行った後に、質疑応答を受ける形式の方が多く見られますが、発表の途中で質問を受けることを可とするところもあります。後者の場合、発表者はより緊張しやすく、また、話の流れを折られてしまうことによってスムーズに進行できない可能性があります。
いずれにしても、発表している最中には、現在は全体の流れのどの部分をお説明しているか、次は何を話すことになるかを意識しながら進めていく方が、スムーズに進行できると思います。パワーポイントの発表者ツールやコメント欄を活用して、自分用のメモや目印を残すのも役に立つかもしれません。
口頭試問の時間
通常の口頭試問は限られた時間の中で行われます。短いものでは15分程度のものもあり、長いものでは1時間以上続くものもあります。通常では20分〜30分程度のものが多く見られます。また、卒論は修論よりも短い口頭試問が設けられることが多いです。
この時間の中で何分がプレゼン用、何分が質疑応答用であるかについては、あらかじめ目安が提示されることが多いです。その時間配分を守ってプレゼン資料を作成することをお勧めします。もちろん、多少の時間の前後があっても大丈夫だと思いますが、プレゼンの時間が長すぎたり短すぎたりするのはオーディエンスに悪い印象を与える可能性があるので、注意しましょう。
オーディエンスに試験官以外が含まれるか
口頭試問の際、試験官の先生はもちろんその場にいることになりますが、他の学生や関係者などが来場できるかは大学によって様々です。例えば卒論生全員が一堂に集まり、順番に発表を聞くスタイルもあれば、その場にさらに研究室の院生などが同席することもあります。逆に試験官と発表者である学生以外に誰もいない場合もあります。
どのような状態で試問が行われるかについて、あらかじめ確認してみましょう。その場にはどのようなオーディエンスが在席しそうかについて知ると、準備期間のイメージトレーニングが進みます。また、仲の良い同級生など、心を許せる相手がその場にいるなら、緊張もほぐれやすいかもしれません。
口頭試問の準備
口頭試問の準備は決して楽なものではありません。上記にあるように、論文の内容への徹底的な理解や、自分の研究目的などに対する「自分探し」が求められることは言うまでもありませんが、他にもプレゼンの仕方を工夫することや、質疑応答の準備などが必要になります。
プレゼンは「理解しやすさ」が命
口頭試問は限られた時間の中でのプレゼンです。そして試験官の先生はたくさんのプレゼンを聞かざるをえないため、疲れている状態である可能性も十分あります。プレゼンを聴く側は、視覚情報と聴覚情報を同時に処理しないといけないですし、論文内容の理解は決して楽なことではありません。そのため、プレゼンの内容を作る際にはいかに相手にわかりやすく伝えることができるかを考えて作り上げた方が良いでしょう。
まずは、本文は要点を簡潔にまとめることにとどめておきましょう。
箇条書きを使い簡潔に書き、文字数は少なめに抑え、一枚のスライドの内容を盛りすぎないように注意しましょう。目標は、集中力が一瞬切れてしまって話を聞き逃した相手でも、スライドに戻り話を聞いていると、また追いつくことができるくらいのわかりやすさです。たくさんの詳細内容や結果があるかもしれませんが、それらは付録として、プレゼンの最後にいれましょう
次に、段階的なダイジェストスライドを入れることも効果的かもしれません。
例えば、
・発表の最初に「論文の内容30秒バージョン」のような、全体内容を非常に簡潔にまとめたダイジェストを入れることによって、オーディエンスに発表の全体像を与えること
・序論、方法、第1実験、第2実験それぞれのセクションの発表の最後に、その部分の内容を1〜2行でまとめたダイジェストを提示すること
などの方法があります。これによって、オーディエンスの理解を常に促すことができます。
また、オーディエンスの注意を惹きつけるテクニックを駆使してみるのもよいでしょう。
例えば、
・声の抑揚に気をつけて、平坦すぎる声でしゃべらないようにすること
・時々「みなさんならどうしますか/どう思いますか」のような質問を投げかけ、一緒に考えてもらうこと
・おもしろ画像や視覚エフェクト(例:パワーポイントのアニメーション)を入れて視線を惹きつけること
などがあります。それぞれの人のプレゼンスタイルが異なるので、各自に合う方法を取り入れることが良いと思います。
質疑応答について
口頭試問の中で最も緊張する時間が質疑応答の時間でしょう。どんな問題が飛んでくるか予測もできないですし、万が一答えられずに止まってしまうと、その後は余計に緊張してしまいまともに回答できなくなります。
しかし対策がないわけではありません。入念に事前準備することも、現場での対応テクニックを会得することも、質疑応答への緊張感から私たちを救ってくれます。
事前準備
問題予測集はもうそこにある
ほとんどの学生にとって、口頭試問で初めて卒論/修論の内容を発表することはありません。ゼミ、授業、学会などいろんな場で、論文内容の一部または全部を他者に発表することは、きっとあったはずです。そして論文を提出する前にも、大体は指導教員の意見を確認するチャンスがあったはずです。これらの場で得られたオーディエンスからの反応や質問は、口頭試問で出る質疑応答を予測するためには非常に役に立ちます。
今からでも遅くありません、「あの時発表したとき、どんなことを聞かれたっけ?」と、思い出してみてください。
付録はしっかり作りましょう
プレゼンスライドの本文は簡潔にしましょう、と先述しましたが、それは他の内容を無駄にするという意味ではありません。むしろ、質疑応答に関しては、プレゼンスライドの本文に入りきれなかった内容についてのことがよく聞かれると思ってよいでしょう。そのため、付録には詳細な情報を盛り込む必要があります。特に方法の細部や、追加の分析結果などについては、念入りに準備すると吉です。
場数は力なり
ありきたりな話かもしれませんが、練習を行うことはとても重要です。
プレゼンは口に出して話してみないと、いろいろな問題に気づきにくいです。話の流れだったり、言葉のチョイスだったり、内容と内容の連続性だったり、何度も練習を重ねていくうちに、より自然なものになってきます。
また、他の人の前で喋るのも重要です。人間相手に喋る時の緊張感になれることや、他者が自分の話の内容に対して表す意見や質問、そして表情やうなり声、それらは全て自分のプレゼンの問題点を見つけ、可能な質問ポイントを探し出すことに役に立ちます。先輩や同期、さらには全く異なる専門分野の友達や家族を捕まえて、何度でも何度でも練習をしてみて、その反応を確認してみましょう。その努力は必ず報われます。
当日の対応テクニック
質問に確認の質問を返す
プレゼン当日では、緊張や様々な理由で、相手から投げかけられた質問を完全に飲み込めないように感じることがあります。その時に頭が真っ白になると、「緊張―答えられない―さらに緊張」の悪循環に陥ってしまいます。
この場合に使えるテクニックがあります。それは、相手の質問を自分の言葉に言い換え、そして意図確認することです。例えば、「今のご質問について確認させてください。○○はなぜ△△であるかとご質問されましたが、それはつまり○○に△△の特徴が見られたと結論づけた根拠について確認したい、ということでよろしいでしょうか?」というように言えます。
これを行うことによって、まずは自分の中で言葉を組み立てる際にゆっくり相手のコメントを消化する時間を作ることができます。そして、相手の意図を確認することによって、相手からの追加の説明を引き出すことができ、それによって自分の理解を促進することができます。最後に、このやりとりを行うこと自体は、自分のパニック状態を緩和させ、落ち着きを取り戻すことにも役に立ちます。
なお、当日緊張しすぎるとこのテクニックを使うこと自体もままならなくなりますので、日頃のゼミやリハーサルにおいても積極的にテクニックの練習を行うことをお勧めします。
答えられないときは素直に謝る
完璧なプレゼンを求めようとすると、その分緊張感も高まります。特に分析の不備な点や、研究設計の不足部分など、その場ではどうにも挽回できない問題を指摘された場合には、挫折感は強くなります。その際に無理して否定したり、弁明したりするのは、相手にもあまり良い印象を与えず、自分も挫折感を抱いたままになります。むしろ素直に相手の指摘に感謝し、いますぐには対応/回答できないことを謝り、そして今後どのように対応するかを述べた方が、印象はよくなります。
以上は筆者自身の経験を基にしたものになります。少しでもご参考になる点があれば幸いです。これから口頭試問を迎える卒論・修論生の皆様が無事試問を通過できることを心から願っております。
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[文責・LY / 博士(文学)]
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