挨拶
こんにちは。みっつと申します。工学部化学系の研究室で博士課程を修了したのちに、現在は国内の消費財メーカーで仕事をしています。
この連載では、大学院生活や社会人として過ごす中で出会った、印象的だった言葉について振り返っています。言葉をかけてくださった方や自分の当時の状況、その時の気持ち等を振り返りながら、その言葉が自分にとって重要だった理由や、今の自分にどう影響しているのかについてあらためて考えてみています。
どれも些細なN=1の体験かもしれませんが、自分にとっては重要な出来事でした。できるだけ生々しく書けたらいいなと思っています。この記事を読むことを通して、なにか気づいたり考えたりするきっかけになったら幸いです。
今回紹介する一言
今月は「これだけは負けないっていうことは何ですか?」という言葉について、振り返ってみようと思っています。大学院の修了間近の頃、研究室の飲み会の席にて、同じ研究グループだった後輩から問いかけられた時のものです。
自分の得意なことがわからなくなったり、自分のことを他人と比べてしまって落ち込みそうになるときなどに、今でもふと思い出すことがある、印象的な質問でした。
あの時
博士論文の審査や公聴会も終わり、修了に向けての準備をしていた頃のことでした。研究室で開催された打ち上げの二次会だったと思います。指導教官の先生と、後輩数人と、座敷の端でテーブルを囲んで話しているときのことでした。
どういう話の流れだったのかはあまり覚えていませんが、後輩の一人が上記の質問を投げかけてくれました。
彼は学力や研究能力、発想力などもさることながら、いわゆるコミュニケーション能力や人柄も兼ね備えた、紛うことなき次世代のエースという後輩でした。
そんな後輩からの問いだったので、(正直お前にゃかなわんよ…)といったようなことも胸の中でちらついたものの、本人がそのような答えを求めているわけではないのが分かっていたので、少し間をおいて「少なくとも僕らしさであれば君には絶対負けないよ」と伝えました。
肩透かしのような回答に思われてしまったかもしれませんが、就職活動や、最終年次の研究生活を過ごす中で考えていたことだったので、なにか伝わってくれたらいいなと思って答えたものでした。
それなりにお酒も飲んでいましたし、その他の話題は何も覚えていませんが、このやり取りだけはその後もずっと頭に残っています。
返答を受け取った彼が何を思ったか、そもそも会話を覚えているかどうかも不明ですが、修了直前のタイミングであらためて真正面から問いかけられたことで、僕としても考えるきっかけをもらえたので訊いてくれて良かったと思っています。
今の解釈
その後輩と僕との関係性の補足として、研究室では同じグループの研究テーマを扱い、数年間は席も隣り合わせで遅くまで議論を交わすこともしばしばという距離感でした。深夜に資料を作りながら「ポケモン言えるかな?」を一緒に歌っていたのはいい思い出です。
誕生日の関係から「実は数ヶ月しか年齢かわらないよね」ということもよく話していたこともあり、学年の違う後輩というよりは尊敬できる同僚、もしくはライバルのような目で彼のことを見ていました。
そういう間柄の上であらためて問われたことだったので、単に修了前の先輩に好きなことを聞くコーナーというわけではなく、彼も何かしら思うことがあった上で質問してきているのだろうと思いました。
「これだけは負けないこと」については、特に就職活動中によく考えさせられました。
研究成果がどれだけあるとか、〇〇が得意だとか、自分の特徴を表そうと数字や事実、実績をいくら並べても「上には上がいる」という感覚がつきまとってきます。何をやったとしても、1番になれることはそうそうありません。
こうしたことを考える中で最終的には、一つの特徴だけで自分を表すことを止めて、できること・できないこと、そしてそれぞれのレベル感まで含めて、そのバランスを見せる、表現することを意識して目指していました。こうしたバランス感については簡単に優劣をつけることは難しいので、自分ならではの独自性を見てもらえるだろうと考えて、就職活動期を過ごしていました。
これは就職活動だけにとどまることではないとも思っています。研究や仕事、その他のことにおいても、目の前の事に対して自分の持っているものを複合的にぶつけることが大切であるということです。
過去に経験したことや身につけたもの、知ったことの合わせ技で取り組んで初めて、自分が実行する価値があるのではないかと感じています。そして「自分なりの取り組み方で価値を出す」という点においては、自分はきっと他人には負けないと思えるようになりました。
そういう経緯があったので、後輩の問いかけに対しては
「僕らしさであれば君には絶対負けない」
という回答をしました。
同時に「その後輩らしさについては、間違いなく自分は敵いっこない」と感じていたと思います。
その後の意識と、この記事を読んだ方へのメッセージ
それから社会に出て仕事をしていますが、
「これだけは負けないことはあるか」=「自分の強みは何なのか」
という問いは少し形を変えて
「この仕事を自分がやる意味はどこにあるのか」
「どう取り組むことでこの仕事の価値を向上させられるか」
という問題としてよく目の前に立ちはだかります。
誰かから仕事を渡された時もそうですが、たとえ自分が発案した仕事だとしてもこれは同じです。思いつくだけなら誰にでもできることですし、同じ状況になれば似たようなアイデアはたくさん出てきます。一方、誰でも思いつくような形のままで、排他性をもたせる結果を生み出すのは非常に難しいです。自分が、または自分たちが取り組むことでこその形を目指すというのは、関わった人たちの軌跡を残すこと以上に、それをいいものにするという点で重要だと感じます。携わった人の色が出ることが、創った物事の独自性や価値に繋がるという事例はよく目にします。そしてこれはきっと、それぞれの経験や思考の合わせ技により実現されるのだと考えています。
その引き出しは趣味の中で考えたことでもいいですし、過去にしていた習い事に端を発してもいいですし、小さい頃に一緒に遊んでいた友達が言っていたことから着想を得てもいいはずです。
自分の特徴や経験を総動員して事にあたること、そういう状態を心がけて日々過ごすことの重要性についてあらためて問いかけてくれた後輩の言葉には感謝しています。
僕の回答はあくまで一例でしかありませんが、この記事を読んでくださった方も、せっかくなので一度考えてみていただけたらと思います。
あなたの「これだけは負けない」っていうことはありますか?
終わりに
今回は、後輩からの質問について振り返りました。
半分は僕の回答についての内容になってしまいましたが、振り返って頭を整理することができました。一つの考え方として読んでいただけたら幸いです。
あらためて考えていますが、少なくともあの場で、例えば「集中力」とか「柔軟さ」のような明確な特徴を返答したとしても、実際に口にするかは別としておそらく勝つ負けるの議論になってしまっていたと思います。たとえ後輩がその場で「この点は勝った」と思った部分があったとしても、いつかさらに優れた人に出会う可能性は否定できません。正しいかどうかはわかりませんが、立ち去る者からの回答としては良かったのではないかと思いました。
また、今回の記事を書いていて、かつて指導教官だった先生が「同じテーマを与えても、誰がやるかで研究は全く違うものになる」とおっしゃっていたことを思い出しました。当時はあまり腑に落ちなかったのですが、いまはすごく納得できます。
さらに余談ですが、たまたま最近お話を聞く機会のあった方が「自分のままでよいと思えることはとても大切だ」とおっしゃっていました。これは仕事や研究、就職活動以前にとても大切なことだと思います。
無理して「かくあるべし」と緊張状態でやる仕事や研究よりも、ほどよくリラックスして自分らしく取り組みたいと、あらためて考えています。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
具体的なメッセージをなにか提示できたかはわかりませんが、なにか考えるきっかけにしていただけたら嬉しいです。
<筆者について>
みっつ 。超分子化学や光化学に関わる研究で博士号取得後、国内メーカーに就職。研究活動、商品開発、新規サービス立ち上げなどに従事。本業と別でSciKaleidoという有志チームにて「科学×バーチャル×エンタメ」を軸に、研究や科学の世界を直感的に体験できるコンテンツを開発中。
筆者について: https://twitter.com/Mittsujp
SciKaleidoについて: https://sites.google.com/view/scikaleido
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