先週は研究者としての人生計画や心構えについて少し触れましたが、今回は共同研究の進め方について話したいと思います。
共同研究を行うことが主流な時代で生きる
分野によって多少の雰囲気の違いはありますが、筆者の目に触れる範囲の中では、単著よりも共著の論文が圧倒的に多い傾向があると言えます。特に一流雑誌に載るような素晴らしい成果は、分野・研究機関を超えた共同研究の賜物がほとんどです。
このような風潮の背後には様々な原因がありますが、一人の研究者が持ちうる時間、資金、その他の研究資源には限りがあるため、複数人の資源を統合して進める方がより大きな目標に達成できるという点は、その一つと言えます。
同時に、科研費などの競争的研究費にまつわる熾烈な競争においても、より規模の大きい、「華やかな」研究計画にシフトするように後押ししている面もあります(この風潮は必ずしも良い結果ばかりもたらすとは言えませんが)。
また、近年より目立つようになった異分野融合の流れからもわかるように、研究領域は高度な細分化の段階を経て、今度は融合的・俯瞰的に研究を進めることの価値が強調されるようになりました。共通のトピックに対して異なる視点・分野から横断的にアプローチするタイプのものもあれば、従来のトピックに対して新しい研究手法や解析手法を持ち込むタイプの共同研究もあります。
いずれにしても、一匹狼のような研究スタイルで得られる資源や成果は、科学研究の萌芽期とくらべるとますます小さくなっていくように思えます。今の時代を生きる研究者は個人的な好みに関係なく、共同研究を上手に進めるスキルを獲得しないといけないのでしょう。
共同研究のスタイル
「共同」研究と一言でいっても、その進め方にはいくつかの種類があります。
研究過程への参加の程度で分ける場合、研究の全体に参加するか、一部だけに参加するかで区別することができます。
前者は研究の立案、設計、データ収集、分析、論文執筆の一連の流れのすべてを、共同研究者の間で話し合いを重ねながら進めるスタイルであり、研究進行の中では比較的平等な関係性を保っていると言えます。逆に
後者は、例えば研究立案には参加せず、具体的な実験案の設計やデータ解析に専門知識を提供する形で共同研究に参加するケースを指します。また、比較文化研究や複数の手法を用いた複合的な研究計画の中で、一部の国のデータ採集だけに貢献することや、複数の研究のうちの一つにだけ参加することなどで、共同研究に加入することもありえます。
一般的には、研究への参加度の違いが論文のオーサーシップに反映されることがほとんどです。特に研究の立案段階と執筆段階への貢献は、具体的な実施・データ採集・解析などの「実務的」な段階よりも重視される傾向があります。ただし、どの程度まで参加したらどの程度のオーサーシップが認められるかに関しては、各研究者・研究室それぞれの方針があるので、実際には明確な合意に達するまで相談する必要があります。この点に関しては、後ほど詳しく説明します。
研究資金の提供の仕方の違いによって区別することもできます。大規模な科研費を持つ研究者が主導となり、研究計画の出費全体を拠出することがよく見られますが、複数の研究者が費用を出し合うスタイルもあります。もちろん、後者の場合はそれぞれの研究者が持つ経費の本来の研究目的に合致した支出であることが大前提であり、その上で各研究プロジェクトを通して一つ大きな目的が果たされるよう計画する必要があります。
共同研究者の見つけ方
共同研究を積極的にやりたいけど、そもそもどこから始めればいいかわからない。それは海外に飛び出したばかりのポスドクにとって特に悩みの種になるかもしれません。前回の記事では他の研究者とのつながりを作ることについて言及しましたが、その延長線上で共同研究者がいると思ってよいでしょう。
前回の記事:海外でポスドクをしようーー滞在編(3)
共同研究者と知り合うきっかけとしては、大きく分けて4つあります。
(1)所属先を通してつながる
同じ研究室・学科の人は日常的にもっとも交流するチャンスが多く、また、同じ分野内にいるので共通の関心がある人も多いでしょう。ほかにも学内イベントなどを通して、他の学部学科の方と知り合うチャンスがあります。
特に海外の大学ではECR(Early Career Researcher;若手研究者)同士を繋げるための組織や、大学に雇用されている人のユニオンが活発に活動している場合もあり、それらを通して学内の人と知り合う可能性もあります。また、大学によっては学内の部署間共同研究を促進するためにイベントが開催されたり、経費が提供されたりしていることもあるので、積極的に情報を収集してみるとよいでしょう。
学内の共同研究のメリットはなんといっても緊密に連携が取れることや、互いの状況を暗黙に把握しやすいことにあるでしょう。しかし一方ではデメリットとして、互いの持つ資源(例えば研究実施場所、参加者プールなど)が重複することもあります。共同研究を実施することによって研究にどれほどプラスになるかをしっかり見極める必要があります。
(2)学会や研究会を通してつながる
特に国際学会を通して知り合った異なる地域や国の研究者が、連携してデータを取るようなタイプの研究(例:文化間比較研究)がよく見られます。
学会での知り合いを作るためには、研究者としての自分を知ってもらうことと、個人的なつながりを作ることの両方が欠かせません。
前者に関しては、とにかく学会発表を通して自分がどんな研究をやっている人であるかを知ってもらうことが重要です。学会発表に関しては、おいおい記事をまとめたいと思いますが、ひとまず自己アピールする目的だけを考える場合には、ポスター発表よりも口頭発表の方をおすすめしたいです。なぜなら、後者は発表時間内に半ば強制的にオーディエンスの注意を惹くことができるからです。「売り出し中」の若手研究者には特におすすめです。一方、ポスター発表は持ち時間が長めなので、じっくり説明したり、議論したりすることに向いています。
個人的なつながりを作るためには、会話するチャンスを持つことが重要です。
口頭セッションの質問時間、セッション間の休憩時間、そしてなにより懇親会の時間、これら全てを活用して、自分が興味を持っている相手、もしくは自分に興味を持って質問などしてくれた相手と、個人対個人のコミュニケーションをすることが大事です。
以前も説明した自己紹介の30秒/1分/3分版を活用し、相手に「この人はこういう研究をしているんだ」という印象をもってもらいましょう。また、相手の話にもきちんと関心を持ち、自分が相手の研究のどのポイントが面白いと思ったか、どこをもっと知りたいかについて、伝えましょう。
学会を通して作った知り合いは、互いが持つ資源に重複は少ない一方、同じ分野の研究者同士では共通の研究関心を持ちやすいため、研究計画が立ち上がりやすいです。また、共有する知識が多いため、研究の背景・実施手法に関する認識が一致することが多く、コミュニケーションが取りやすいことも大きなメリットです。
そして同じ分野で研究を進める同志として、学会で知り合ったアカデミック・フレンドは、その後の研究人生を通してずっと大事な仲間になる可能性がとても高いです。ぜひ、大事にしましょう。
(3)SNS上で広がるネットワーク
今日ではTwitterやFacebookなどのソーシャルネットワークサービス(SNS)は人々の社会生活の重要な一部になりました。SNS上で活躍する研究者や、学会・研究会のアカウント、論文情報を呟くアカウントなど、学術関連のアカウントがたくさんありますので、もしSNSを使っているなら積極的にフォローするのもよいでしょう。また、#AcademicTwitterなどのタグにも情報が集まることがあります。
SNSを一方的に情報源として使うのはもちろん問題ないですが、できれば双方向のつながりの形成に役立たせたいですね。そのためにはまず自分も研究者であることを知ってもらうことが必要です。例えば個人情報の公開内容に配慮しつつ、プロフィールに自分の専門分野やトピックを書いてみたり、自分の研究や興味のある論文について時々呟いてみたりすると、相手側から「この分野の研究者だ」と認知されます。
その上で、リツイートなどを使ってインタラクションをとってみたり、返信を送ってみたりして、ちょっとずつSNS上の距離を縮めると良いと思います。もちろん「あなたのこの論文を読んでとても面白いと思いました!」と、ダイレクトに自分の関心を伝えるのも一つの手段です。
ほかには、Facebookの学術系コミュニティに参加し、その中で知り合いの輪を広げるのも効果的な手段に繋がります。
いずれにしても、現実社会の交流と同様にSNS上の礼儀とマナーを守ることや、インターネットリテラシーを持つことを意識しながら進めていくことが必要です。
(4)知り合いの知り合いとも知り合いになる
アカデミック社会も人間社会の一部ですから、その中でネットワークを通して遠くの人にたどり着くこともあります。ソーシャル・キャピタル理論の中の「橋渡し型」関係に似ていますね。
例えば「〇〇のトピックに詳しい研究社を探しているのだけど、知り合いにいない?」「〇〇の国際比較実験をやろうと思っているんだけど、日本で興味ありそうな人知ってる?」といったような問い合わせを、他の研究者から受けることがあります。
また、アカデミックの知り合いが開催する個人的なホームパーティーなどで他の研究者に紹介されることもあります。このように、人間関係を辿って知り合うことも、新たな知り合いを作る重要な手段です。
共同研究の注意点
最後に、共同研究をスムーズに進めるための注意点について話したいと思います。
役割・エフォート(貢献度)・オーサーシップを明示的に確認すること
論文の著者として名前を並べることができるか、どの順位になりうるか(特に筆頭著者と責任著者がだれであるか)については、事前に決めておきましょう。これは最も重要で、もっとも揉めやすい点ですので、明示的に、できれば研究に本格的に取り掛かる前から、参加メンバー全員で合意してください。
その上で、研究プロジェクトを進めていく上でだれが主要な決定権を持つか、だれがみんなを取りまとめるか、メンバーそれぞれはどの部分に責任を持つか、研究のための費用はどこから支出されるか、そしてそれらの内容がちゃんとオーサーシップと釣り合うか、これらの内容についても合意が必要です。
今日の研究者のほとんどは業績獲得に関する大きなプレッシャーを抱えており、特に若手研究者は安定した職を獲得するために業績の需要が非常に高くなっています。複数の研究者が進めていく研究プロジェクトでも、最終的な成果物は論文一本のみ、という場合はめずらしくありません。
もちろん若手にとっては、中心的な役割でなくても、共同研究に参加することによって経験を積むことなどのメリットがありますし、第二著者以降の著者として名を連ねることも業績として数えることができます。ただし、時間と体力は無限にあるわけではないので、自分の努力・貢献に見合うものを得ることができるかを見極めた上で共同研究に参加することが必要です。
長期的な視点で考える
上記では貢献量と得られるものを考えようと書いたのですが、だからと言って、一回一回の共同研究でコストと利益にこだわりすぎるのはおすすめできません。
一つの論文では第一著者が一人しかいませんが、共同研究を繰り返して行える関係であれば、常に一人だけにメリットが偏ることは少ないでしょう。今回は自分がサポート役に回るが、次の自分主導の研究を計画するときにも相手に協力を求める、そんなこともよくあります。
Give-and-take(もちつもたれつ)の長期的な関係性を築くことによって、効率的かつ双方にとってwin-winな共同研究関係が形成されることがあります。
もちろん、相手は長期的な関係性を築けることができる人(客観的な条件、能力面、性格面を総合的に考えて)だと思えることが大前提です。
丁寧に、そして根気よくコミュニケーションをする
人と人の間で何かをコーディネートするのは簡単なものではありません。特に分野や、国・研究機関が違うと、いわゆる「常識」も「暗黙な了解」も一切通用しないと思った方がいいでしょう。
部分参加型の共同研究では、言い渡されたタスクをこなすような感覚で仕事がスイスイ進むこともあるでしょうが、複数の研究背景を持つ人々が研究アイディアから共同研究を作る場合、特に分野を跨ぐ共同研究である場合では、コミュニケーションは非常に深いレベルまで達する必要があります。
互いが「何について興味をもっているか」「どの角度から研究したいか」について本当の意味で理解し合える状態まで辿り着くには、数ヶ月、場合によっては数年の時間を費やします。そのため、まずはそれぞれの角度から必要なデータが手に入るような研究を設計し、それを進めると同時に議論を重ね、本当の意味で分かり合えるまで根気よくコミュニケーションを取り続ける、という方式をとるなどの工夫を考える必要があります。
つまり、これから共同研究を始める方に対して伝えたいのは、共同研究を始めた頃に話が通じなかったり、通じたと思ったら最後に食い違ったことがわかったり、そんな問題にぶち当たっても失望しないでください。自分の考えていることや、その背景にある「暗黙な了解/知識」を言語化して、相手に伝える過程を、丁寧にそして根気よく続けてください。その過程は、共同研究をよりディープなものにするだけではなく、自分自身を客観視し、視野を広げていく過程でもあります。時間と努力を要するかもしれませんが、決して無駄になりません。
[文責・LY / 博士(文学)]
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