論文紹介とは、自分で選んだ論文を読み、紙媒体やスライドなどを使って、研究室のメンバーにその論文の内容をわかりやすく紹介することをいいます。
大学や研究室によっては、論文セミナー、抄読会、ジャーナルクラブなどと呼ばれることもあるようです。
論文を紹介するためには、まずその論文の内容をじっくりと読み込む必要があります。そして、その論文がどのような意味を持っているのか、なぜそのデータからその結論が導けるのか、歴史の中でこの研究がどのような位置にあり、今後どのように発展していくのか、などのポイントをまとめて、紹介していきます。
他の人に論文の内容を説明するのは、思ったよりも難しいものです。わかりやすく説明できるよう、しっかり準備して臨みたいですね。
論文紹介で得られるメリット
研究室に入ったばかりの学生にとっては、様々な言語の論文を読んで紹介するなど、とてつもなく大変なノルマで、気が重いと感じられるかもしれません。
しかし、論文紹介をこなしていくことで、学生は研究者として成長するのです。論文紹介で得られるメリットとして、次のものがあげられます。
・研究者としての力量が上がる
・プレゼンの練習の場となる
・質疑応答力を鍛えられる
ひとつずつ説明します。
研究者としての力量が上がる
研究者は、自分の研究をただ黙々と進めるだけではなく、世界中でどのような研究が行われているのか、またこれまでにどのような研究が行われてきたのかを知っておく必要があります。
論文紹介をする意味は、過去から現在の研究に触れることです。論文紹介をこなしていくうちに、その論文にどのような意味があるのかを的確に把握し、論理的に思考する力が身につきます。また、どのようにして論文を探すのか、自分に必要な情報をどこから得ればよいのか、という情報収集能力も高められます。
どんなに優れた人であっても、自分ひとりで読むことのできる論文の本数は限られています。しかし、同じ研究室のメンバーが論文を紹介しあうことで、より多くの論文に触れることができ、お互いに知識が増えていくのも論文紹介のメリットです。
プレゼン発表の練習の場として最適
学内での発表や学会発表など、研究室に入ると「研究発表」をする機会が増えてきます。特に学会では、スマートに発表して周りをあっと言わせたいものです。就活の面接でも、研究内容やスキルについて説明することが多いでしょう。
しかし、誰でも初めからスマートなプレゼンができるはずありません。少しずつ場数を踏んで、プレゼンに慣れていく必要があります。
論文紹介はプレゼンの練習に最適の場です。スライドやレジュメの作り方、話し方などの技術を磨いていくために、論文紹介を利用するという気持ちで臨んでみましょう。
研究室のメンバーがどんなプレゼンの準備をしているのか、また、実際のプレゼンをどのように進めているのかを間近で見るだけでも参考になります。
自分のプレゼンに対して、さまざまな意見をもらえるのも貴重な経験です。回数をこなしていくことで、より上手くプレゼンできるようになるのです。
質疑応答力を鍛えられる
論文紹介では、研究室の指導教員や先輩、同期などから鋭い質問を受けることがあります。それに対して、自分なりの答えを返すことは、質疑応答のよい練習になります。
学会や面接などで、想定外の質問をされても慌てないためにも、普段からこのようなやり取りをしておくことは大きな意義があります。
解釈の間違いを指摘されることもありますし、自分がうっかり見落としていたポイントや、異なる視点が、他の人からもたらされることもあります。論文の読み方や研究への向き合い方、多角的に物事を見る大切さも、論文紹介から知るのです。
また、自分が相手に質問する練習の場としても、論文紹介は最適だといえます。どんなところに注目して質問すればいいのか、どのように質問すれば相手の答えを引き出しやすいのかを知る、絶好の機会です。
論文紹介の準備の仕方を解説
よい論文紹介になるかどうかは、準備にかかっています。ここでは
・論文を探す
・論文を読み込む
・発表資料および配布資料の作成
・発表練習
・想定問答集の作成
の5つのステップに分けて、準備のやり方を説明します。
これらの準備には時間がかかります。論文紹介の準備は計画的に、早めに進めておきましょう。体調を崩したり実験が上手くいかなかったりして、前日に集中して準備するつもりだったのにできなかった!と悔し涙を流すケースも、よくあるのです。
論文を探す
最も重要なのは「どんな論文を選ぶか」です。
基本的には、自分や研究室のメンバーが面白いと思う論文であればOKです。ここでいう「面白い」とは、自分たちの研究と関係があるもの、あるいは学術的に重要な発見であるもの、などになるでしょう。
論文を探し出すには、以下の3つの方法などがあります。
1.Web上で探す
「J-STAGE」や「CiNii(サイニィ)」などの文献データベースサイトがWeb上にあり、ここで手軽に文献を閲覧することが可能です。
検索ボックスに興味のあるキーワードを入力し、言語や発行年、分野などの指定をして、検索していきます。
一般の検索エンジンであるGoogleのうち、学術用途に特化したものが Google Scholar です。こちらもキーワードを入れると該当する論文がヒットします。できるだけ具体的なキーワードを入れるほうが絞り込みができて便利です。
2.以前に読んだ論文の参考文献リストの中から探す
その論文が書かれた背景となる文献リストを読み込んでいくので、その分野の主要論文を知ることができます。
ただし、この方法では、より古い論文に当たっていくことになるため、最新の動向を知りたい場合には向きません。
3.図書館で雑誌を手に取ってさがす
データベースでは見落としていた論文が見つかることもあります。その場ですぐに中身を確認できるのがメリットです。
論文を読み込む
読む論文が決まったら、次は論文を読み込んでいきます。かなり論文を読むのに慣れた人でも、1回読んだだけで完全に理解するのは困難です。
英文の場合、英語が苦手な人にとっては、辞書を引きながら読み進めるのは大変かもしれません。そんなときには、Google翻訳もおすすめです。誤訳もありますが、大まかな意味をつかめるので、論文を理解するスピードを上げてくれます。
1回目はキーワードは何かを探しながらざっと読み進め、全体像を把握します。
2回目以降には、付録情報やそれぞれのデータの意味など、細かい部分まで丁寧に読みましょう。特に、結論を導く最も重要なデータはどれか、その結果からなぜそう言えるのかを、説明できるようにしておきます。
忘れてはならないのは、この論文の新規性や重要性を説明できる状態にしておくことです。類似研究や先行研究との関係もつかんでおきます。できれば、参考文献にも目を通しておきましょう。
発表資料及び配布資料の作成
スライドを使うかどうか、配布資料は紙ベースかデータか、といった論文発表のやり方には研究室ごとのルールがあります。そのルールに従って資料を作成していきましょう。ここではスライド作成のコツをお伝えします。
1.発表の流れを作る
最初に、どのような順序で話をするのか、発表スライドは何枚ぐらいか、ひとつひとつのスライドで何を言うか、を考えておきます。枚数の目安は、発表1分につき1枚です。
2.スライドを作る
スライド1枚に1つの見出しを作ります。1枚のスライドにあまり多くの情報を盛り込まないよう工夫しましょう。たとえば「研究の背景」にさまざまな事柄がある場合には、「研究の背景1」「研究の背景2」とスライドを分けると、わかりやすくなります。
次に、テキストや画像などの情報を入れていきます。図形の位置を揃えたり、グラフの余白を多めにしたりして、見やすいスライドになるように工夫しましょう。
スライド1枚ずつに対応した、発表用の要点メモを作っておくと話しやすくなります。
3.文体やフォントなどが統一されているかを確認する
「です・ます」調と「だ・である」調が混ざってはいないか、文末に「。」があったりなかったりはしていないか、など全体な統一がとれているかどうかを確認します。
フォントは揃えて統一感を出し、必要に応じて大中小3つぐらいのサイズを使い分けましょう。
発表練習
スライドができたら、話す練習をしていきます。
スライドとそのメモを作っている時点で、既に頭の中には内容がほぼ入っていることでしょう。まずは手元のメモを見ずに発表練習をします。途中で止まったり、話しづらくなったらメモを見ましょう。
メモを見てもわからない場合は、スライドやメモに情報が不足している場合があります。必要に応じ、スライドとメモの両方に情報を加筆したり削除したりして、修正していきましょう。
話す言葉を逐一原稿に書いて発表の用意をする人がいますが、これは避けたほうが賢明です。原稿を読みながら話していると、1行飛ばして読んでしまうこともありますし、何より、原稿を握りしめて発表している姿はクールだとは言えません。
スライド、あるいはメモを少し見れば話が続けられる、という状態を目指して発表練習を繰り返しましょう。
想定問答集の作成
発表後に、教員や先輩、同期から質問されそうな点を、あらかじめピックアップして、想定問答集を作っておくと、慌てずに対応することができます。
自分が論文を読んでいるときや、発表練習をしているときにも、疑問が浮かんで来るはずです。なぜこの研究をしようと思ったのか、なぜこの手法で研究したのか、この研究がどのように役に立つのかなどの疑問に対して、自分なりの答えを用意しておきましょう。
他人の論文紹介を聞くときに気を付けるべきポイント
他人の論文紹介を聞くときに、わからないことがあれば何でも積極的に質問してみましょう。自分がわからないことは、他の人にもわからない可能性があります。
研究室に入ったばかりであれば、初歩的な質問をしても恥ずかしいと思う必要はありません。疑問をその場で解決することで、理解する力が少しずつついていきます。
少し慣れてきたら、「このデータは正しいのか」「このデータから本当にこの結論を導けるのか」といった批判的な視点で論文を見るようにしていきます。
「本当にそうだろうか」と疑ってかかるのが研究者のあるべき姿勢です。発表後には必ず、何か質問をしましょう。きちんと聞いていれば、疑問に思うこと、確認したいことがあるはずです。
逆に、1つも質問が出ないのは、あなたにはこの論文がまったく理解ができなかった、あるいは興味や関心が持てなくて聞いていなかった、と言っているのと同じです。
研究者として成長したいと思うなら、論文紹介での質疑応答に参加し、議論を戦わせましょう。
まとめ
論文紹介には、
・最先端の研究に触れる
・プレゼンの練習をする
・質疑応答力を鍛える
の3つの目的があります。
論文紹介を通してこれらを少しずつ鍛えていくことで、研究者としての力量が上がっていきます。
論文紹介で身につくのは、その分野に関する知識だけではありません。情報収集力、英語力、読解力、批判的にものを見る力、プレゼン力など、さまざまな力が鍛えられます。
慣れないうちには、論文紹介に失敗するかもしれませんが、それも大切な経験です。失敗を糧にして、より力のある研究者として成長していってくださいね。