「大学や研究機関などにとどまるべきか、民間企業に就職するのか?」
これは、博士課程・ポストドクターの方であれば、誰もが向き合う重要な問いです。多くの方は、アカデミアの道を選びたいと思っているかもしれません。しかし、選択肢の多い民間企業もまた魅力的です。この記事では、アカデミアと民間企業の違いやポイントをご紹介します。
博士課程修了者の就職難
まずは、博士課程修了者がおかれている就職の状況について見ていきましょう。大前提として、博士は就職に不利である。ということが言えます。下のグラフは、「学部」「修士」「博士」それぞれの卒業(または課程修了)後の進路状況を示したものです。
(文部科学省『令和元年度 学校基本調査』「状況別卒業者の比較」を参考にアカリク作成)
3つのグラフを見比べると博士の就職が難しい状況にあることが分かります。「学部」「修士」の正規雇用者が約75%であるのに対し、「博士」では54.8%と大きく下回っています。また「進学も就職もしていない率」は17.2%と、「学部」6.7%、「修士」9.4%を遥かに上回っています。高い専門性を備え持つ博士人材ですが、「学部」や「修士」と比べると、修了後の活躍の場に恵まれていないようです。博士の約50%は正規での仕事に就く事ができず、その中の約4割は就学も進学もしていない、つまりニートであるのが現状です。
なぜ博士課程修了者の就職は難しいのか
なぜ、時間と労力をかけて専門性を磨いてきた博士人材が、就職という土俵ではこんなにも不利になってしまうのでしょうか。その理由は「アカデミア」と「民間企業」で大きく異なります。
<アカデミアの場合>
簡潔に述べると「ポストの数が足りていない」ことが大きな原因です。日本では、1991年に文科省により10年間で大学院学生の人数を2倍に増やすという方針(大学院の量的設備について)が提言されました。その提言通りに博士の数は倍以上に増加し、現在もその数は微増を続けていますが、課程修了後の活躍の場となる大学や研究機関のポストは増える事が無かったのです。
課程修了後の行き場を無くした人材が、不安定な状態でさまよい続けているのです。また昨今では、少子化による大学の定員割れなどの問題から、経営難に追い込まれている大学が増えているようです。こういった状況では、今後もアカデミアのポストが増える事には期待できそうもありません。かつては、博士課程卒業後のキャリアとして一般的だったアカデミアの道も、限られた人だけのキャリアとなってしまったのです。
しかしながら、アカデミアの道を志望する比率は多いようです。下のグラフは、博士課程後期の在籍者の就職希望先の分布を示したものです。
(文部科学省『博士課程在籍者等のキャリアパスに関する意識調査』を参考にアカリク作成)
大学や公的研究機関であるアカデミア志望者は6割を超えています。今後さらなる博士課程在籍者数の増加に伴い、アカデミアのポストを巡る競争が激化し、さらに深刻な状況へと進むことも予測できます。そこで勝ち残るためには、自分の実力をどれだけ磨こうとも、ポストが空くタイミングなどの環境的な運が大きな要素となってしまうのです。
一方で、民間企業を希望する割合は約2割とその少なさが目立ちます。それでは、企業での就職の状況はどういったものなのでしょうか。
<企業の場合>
民間企業の多くは、博士人材の採用に対して消極的だというのが現状です。その背景には「博士人材は研究分野以外のことに対応できないのでは」「専門分野を自社の事業内容においてすぐに活かせるだろうか」といった懸念や、「新卒で30歳前後ということが扱いにくい」「年齢の若い学部生・修士から育てたい」という年功序列が中心の日本企業ならではの考えなどがあります。
一方で、少しづつではありますが、そのような企業の意識は確実に変化が見られ、状況は改善されはじめています。NISTEPによるアンケート調査結果(民間企業における博士の採用と活用)においては、博士課程修了者を採用した企業の約8割が、博士課程修了者の印象を「期待通り」「期待を上回った」と評価していることや、文部科学省の実施する博士課程教育リーディングプログラムに対して、国内企業から博士人材の雇用の希望の声が拡大するなどの状況が見受けられます。
最近では、博士課程修了者を積極的に採用する企業や、特別な処遇や専門分野のキャリアコースを整える企業が出始めるなど、企業側の姿勢も変わりつつあります。
また、より先進的な海外に目を向けると、博士人材に寄り添う企業の姿勢が顕著に現れています。博士号取得者は非常に評価が高く、重宝されており、日本の状況とは全く異なります。下のグラフは諸外国と日本の企業研究者の博士号取得者の割合を比較したものです。
(文部科学省『各国企業における博士号取得者の状況』を参考にアカリク作成)
世界的に見ると、日本では企業で活躍する博士人材の割合がまだまだ低いことが分かります。また、例えば米国では、多くの大学院修了者(博士課程修了者も含む)が研究職に留まらず、管理職としても活躍しています。
(文部科学省『各国企業における博士号取得者の状況』を参考にアカリク作成)
日本では、海外に比べて博士人材が民間企業で活躍していないという現状は重大な問題として扱われ、この差を埋めるために国として問題解決に取り組んでおり、企業の間口が広がりつつあります。今後、経済の更なるグローバル化に伴い、このような流れは更に加速することで、博士人材にとって活躍の場が広がることが予測されます。
まとめ
■博士号取得者は学部や修士に比べ、就職が厳しい
■6割以上がアカデミア(大学や公的研究機関)の道を希望しているが、ポスト不足により状況は厳しく、今後も改善される余地はない。
■2割未満しか希望していない民間企業の状況は改善しつつあり、既に海外では博士人材が広く活躍している。
博士人材を取り巻く就職難の背景には、アカデミアの道にこだわる求職者側にも少なからず要因があるのではないでしょうか。民間企業への就職も視野に入れることによって、選択肢がひろがり、可能性もひろがる事は確かです。それは、ある意味では時代の先端ともいえる選択なのかもしれません。
(文責・高谷翔太)
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