就職活動を開始し始めた際に悩むこととして、大企業に絞って就職活動を行うべきか、中小企業も幅広く見ていくべきか、ということがあります。
そこで、今回のコラムでは、大企業に就職するメリットとデメリットについて紹介していきます。
中小企業のメリットとデメリットについてはこちらの記事を参考にしてください。
大企業の定義
「大企業」という分類には法律上の定義が存在しません。中小企業は、中小企業基本法で資本金・出資の総額と従業員数を定義されていますが、大企業について明確な定義はされていません。さしあたり、中小企業基本法で定義される「中小企業以外」ということができるでしょう。
中小企業基本法の定義から、大企業が「301名以上の従業員がいる、もしくは資本金が3億円を超える企業」のことだとすれば、大企業は全体のわずか0.3%です。
参考:中小企業庁「FAQ 中小企業の定義について」
大企業と「大手企業」の違い
大企業と近いニュアンスで使われる言葉に、「大手企業」という言葉もあります。大企業の中でも特別扱いされる企業に、「大手企業」という呼び方が使われています。
たとえば、日本郵政、三菱UFJフィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループという名前を聞くと、「大手企業」というイメージが持てると思います。
「大手企業」と呼ばれる企業は、「大企業」の基準となる資本金や従業員数をはるかに上回っている会社で、業種の中でも「その業種のシェア上位に入る大企業」の事を指します。先ほど名前を挙げた3社はいずれも資本金が2000億円以上で日本のトップ5に入り、従業員数も万単位です。
大企業と呼ばれる会社は多数ありますし、就職活動や転職活動で大企業が選択肢に入ることは珍しくありません。その中でも大手企業への就職・転職は人気が高く、難しいことは確かです。
大企業に就職するメリット
ここからは大企業に就職するメリットを大きく5つ紹介します。
会社による違いは当然ありますが、多くの大企業に該当するメリットを紹介します。
高い収入が得られる
大企業の特徴として漠然と「安定している」と見聞きすることが多いのではないでしょうか。「安定している」ことを示す具体的な指標である給与・賞与は、中小企業と比べて大企業の方が高いです。
厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査の概況」によれば、令和2年度(2020年度)の大企業正社員・正職員の平均賃金および前年増減率は、男性で395.7千円(前年比 -0.4%)、女性で294.8千円(前年比-1.3%)となっております。
大企業の正社員・正職員の男女含めた全体の賃金は365.4千円(前年比 -0.9%)です。
同じ令和2年度の中企業の平均賃金が318.2千円、小企業の平均賃金が287.1千円であるのと比べると、1ヶ月あたりの中小企業との賃金の差が、4万7千円から7万8千円あるということが分かります。
このことから大企業に就職するメリットとして「高い収入が得られる」ということが言えます。
引用:厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査の概況 第6-2表 雇用形態、性、企業規模別賃金及び雇用形態間賃金格差」
大学院修了者の初任給についてはこちらの記事を参考にしてください。
福利厚生がよい
「福利厚生がよい」というのもよく見聞きする話ですが、福利厚生と一口に言っても、その内容はさまざまです。
福利厚生には、「法定福利」と「法定外福利」の2種類があります。
法定福利は企業が社員に必ず提供する制度のことで、保険制度がこれに当てはまります。
一方、法定外福利は、これ以外で会社ごとに制度化された福利厚生のことを指し、大企業の場合、これが充実していることが多いです。
大企業についての「福利厚生がよい」という評判は、「法定外福利が充実している」という意味だと言ってよいでしょう。
多くの大企業が提供する優れた法定外福利には、以下のような制度があります。
- 社宅・独身寮完備
- 家賃手当・住宅手当
- 食事補助・社員食堂
- 結婚・出産お祝い金
- 家族手当
- 退職金
- リゾートホテル優待
- リラクゼーションサービス
これらがあることで会社の近くに住むことができ、通勤のストレスが小さくなるなどの分かりやすいメリットがあります。もちろん、経済的な負担もかなり軽減されます。プライベートを充実させ、仕事のパフォーマンスを高められるように、企業が全面的にサポートしているのです。
メンタルヘルスのカウンセリング、フィットネスジム、マッサージといったリラクゼーションサービスの福利厚生を備える大企業は、この一例です。
また、企業によっては「企業型確定拠出年金」など、大手企業の従業員のみが加入を許されている厚生年金などの制度も存在します。大企業では、平均的には3万円前後の支給が各種配当によって見られます。
採用を増やしている大企業が税制優遇を受けている
2021年度からは、大企業の採用を促進する税制優遇措置が導入されています。
これは、新卒や経験者の新規採用者に支払う給与支給額が前年度より一定の金額増えた企業に、支払額の15%を税額控除するものです。新型コロナウイルス感染症による採用減により、若年層の雇用環境が「氷河期」のような状態に陥らないように税制で手当てする政策です。
一般に、資本金が1億円を超える大企業には外形標準課税が適用されて、法人税が高くなりますが、大企業の採用を促す措置がとられている現在では、大企業に勤める人にとって、給与が維持・増額されやすい制度が整備されていると考えてよいでしょう。
参考:日本経済新聞 2020年11月28日「大企業に採用増で税優遇」
教育制度が充実している
新卒の就職活動を行う学生の場合、入社後に成長できるような教育制度があるか、自分がそこでスキルを身につけていけるかは重要な観点です。
大企業ではしっかりとビジネスの基本が学べる場合が多く、教育制度が充実しているというところが大企業のメリットのひとつです。
特に、新卒で初めて社会人となる方には、名刺の渡し方や会議室への入退室の仕方など、基本的なビジネスマナーを研修といった形で教えてもらうことができます。
ビジネスマナーばかりでなく、資格取得・自己啓発セミナーの実施、ジョブローテーション制度を導入するなど、大企業によっては独自の教育・研修制度を実施しています。
中小企業やベンチャー企業と比べて、新入社員を教育した上で着実にスキルアップさせていくだけの余裕と制度があるため、大企業ではきちんと教育を受けて成長していく将来設計を立てることができるというメリットがあるのです。
異動や転勤が有利にはたらく
多くの大企業では、社員の能力開発を目的とした定期的な「ジョブローテーション」が行われています。ジョブローテーションとは数年単位で部署を異動したり、職種を変更したりして、様々なスキルやコネクションを身につけることを促す、人材育成施策の一環です。
勤める会社を変える転職と違い、社内異動であれば、会社の雰囲気はわかっていますし、社内のキーマンとの関係をある程度継続しながら新しい仕事をすることができます。
事業部門をまたいだ異動や海外赴任は、収入や福利厚生の安心感を保ったまま、新たな経験をすることでさらなる昇進や成長につながるでしょう。経験する部署が増えれば、それだけ知っている人や取引先の数も増え、人的ネットワークの多様性が生まれます。
また、様々な部署の様々な人の考え方に触れることで、思考が広がることもあります。
大企業に就職するデメリット
ここまで、大企業に就職するメリットを5点、紹介してきました。
もちろん、大企業に就職することに利点ばかりがあるわけではありません。
ここからは大企業への就職におけるデメリットを説明します。
採用の難易度が高い
リクルートワークス研究所の調査によれば、2022年3月卒の従業員規模5000人以上の大企業の大卒求人倍率(民間企業への就職を希望する学生1人に対する、企業の求人状況を算出したもの)は、0.41倍という厳しい数字です。
そのため、大企業に就職するメリットだけを考えて、求人倍率が低い大企業だけに絞って就職・転職活動をしてしまうと、うまくいかない可能性があります。
引用:リクルートワークス研究所(2021年)「大卒求人倍率調査(2022年卒)」
大企業から内定を得るためには綿密な準備が必要となります。就活に向けて大学院生が出来ることについてはこちらの記事を参考にしてください。
業務範囲・専門の狭さ
大企業では会社から指示された業務をこなすのが基本となり、数多くの社員やスタッフを部署・役職ごとに細かく分けます。そのため、1人あたりの担当業務が全体のごく一部になり、幅広いスキルや視点を育てることが難しいと言われます。つまり、希望する仕事ができない、会社全体の業務を把握しにくい、という悩みが生じやすいのが大企業の特徴です。
また、何千、何万といった同じ業務をこなす社員がいるため、小さな成果では目立つことはありません。多数の中にいると、たとえ高い成果をあげても、その成果が全体に占める割合は必然的に小さくなってしまいます。
経営陣との距離が遠い
大企業では社長や役員クラスに、経営方針や会社の仕組みについて意見を通す機会が中小企業と比較すると少ないです。現場と上層部の間の壁が厚く、一般社員は経営陣がどんな仕事をしているのかが見えませんし、逆もまた然りです。
個人の考えや意見などが反映されるケースが少なく、上層部から現場の一般社員への期待も小さくなります。経営陣との距離が遠いことでモチベーションが下がりがちな人にとっては、この大企業の特徴はマイナスに働くと考えられます。
このような、大企業に所属する従業員に見られるネガティブな意識や業務態度は「大企業病」と呼ばれることもあります。大企業病と呼ばれるような状態が続けば、業務効率が低下したり、イノベーションが起こせなくなることが考えられます。
そしてそのような環境に長く身を置いてしまうと、自分がその会社でやりたいことができなくなったり、先ほど挙げたような大企業のメリットが享受できなくなったりする可能性もあります。それゆえ、「大企業だから」と安心するのではなく、企業全体や配属される部署の雰囲気をきちんと把握しておくことが大切であるといえるでしょう。
就活では「大手病」に気を付ける
「大手病」とは就職活動の際に中小企業や中堅企業に見向きもせずに大手企業ばかりにエントリーすることを指します。
有名大学に在籍していたり、大学院に進学していたりすると「誰もが知っているような大企業に就職しなければならない」と焦る気持ちになるかもしれません。
しかし、先ほども述べたように大企業への入社は狭き門であり、選考を通過できないことも珍しくありません。そこで、会社の名前や規模だけに囚われず、業務内容や社風など総合的に考えてエントリーすることが大切であるといえるでしょう。
就職活動におけるキャリアビジョンについてはこちらの記事を参考にしてください。
自分に合う企業を見つけよう
企業選びに大事なのは企業の規模よりも「その企業が自分に合うかどうか」であると言えます。
自己分析や企業研究を通して、「自分のやりたいこと」と「その企業でできること」を十分検討すると良いでしょう。
「大企業=良い会社」とは必ずしも限りません。どれだけ雇用条件が良かったとしても、社風や価値観が合わなければ働くうえで苦痛となり早期退職につながります。
会社の規模や知名度、ブランドにこだわらず中小企業やベンチャー企業など幅広い視野を持って企業を調べ、自分に合う企業を選ぶことが大切です。
中小企業についてはこちらの記事を参考にしてください。
ベンチャー企業についてはこちらの記事を参考にしてください。
まとめ
ここまで、大企業に就職するメリットについて解説してきました。
働く人によって、メリット・デメリットと感じる内容も違うものです。
就職・転職活動を考える際には、自分がどのように働きたいのか、どのような職場の環境を希望しているのか、自己分析をした上で進めることが大切です。
その自己分析にもとづいて、大企業と中小企業それぞれの特徴を理解した上で、自分にあった就職先を決定すると良いでしょう。
大企業への就職活動に不安なときはエージェントを活用しよう
大企業への就職活動を進めるうえで、何から始めると良いか分からずに困ってしまうこともあるかもしれません。
そのようなときは就職エージェントを活用するとよいでしょう。
プロから客観的なアドバイスをもらえることでやるべきことが明確になり、効率よく就職活動を進めることができます。