この記事は大学院生や研究者の就職支援に特化したサービスを提供しているアカリクが事業活動の中で得た知見をまとめたものです。本格的な就職活動を始める前や初期に今すぐ始められることをまとめています。基本的に大学院生を念頭に置いていますが、対策の仕方や姿勢は学部生でも大きく変わりません。
コア能力を手がかりに自己分析する
大学院生は専門性や研究内容に注目しがちですが、実はその基礎となっているコア能力は汎用性が高く、企業で活躍する社会人が身につけているものです。
大学院生の持つコア能力を詳解していくと、知的職務の遂行能力、相互的な情報共有能力、管理計画能力、個人的な資質、実務的な職能開発といった分類ができ、次のようなリストが出来上がります。
◆知的職務の遂行能力(研究者の基本的な能力)
・知識と専門性:高度で専門的な知識体系を有する
・問題解決:問題を発見し解決する能力を有する
・研究手法:適切な方法で研究を遂行する能力を有する
・研究倫理:規範を遵守し信頼できる倫理観を有する
・越境活動:産官学連携や学際的な活動を行う観点を有する
◆相互的な情報共有能力(コミュニケーション能力)
・情報リテラシー:情報を収集し取捨選択する能力を有する
・論文作成:学術論文を執筆し刊行する能力を有する
・情報発信:相手に合わせて情報発信する技術を有する
・社会への参与:実社会の問題を認識し社会貢献の観点を有する
・社交性と関係構築:専門家として人間関係を構築する能力を有する
◆管理計画能力(マネジメントスキル)
・自己管理:自己の活動を管理する能力を有する
・人員と資源:人員や資源などの管理能力を有する
・進捗管理:プロジェクトの進捗を管理する能力を有する
・キャリア設計:キャリア形成を長期的に管理する能力を有する
・危機管理:未然に危機を防ぐ対策を講じる能力を有する
◆個人的資質(人間的な魅力)
・創造性と革新性:創造性と革新性を発揮する能力を有する
・共同作業:他者とともに共同作業の能力を有する
・熱意と誠実:課題に対して意欲的に取り組む姿勢を有する
・リーダーシップ:周囲を適切に先導する技術を有する
・多様性と公平性:多様性と公平性の観点を有する
◆実務的な職能開発(高度な社会人スキル)
・国際的影響力:国際的に影響力のある実績を有する
・競争的資金と受賞:競争的資金の獲得や受賞などの実績を有する
・交渉力:高度専門職業人としての交渉力を有する
・実務的訓練:実務的訓練や実地研修などの経験を有する
・指導と監督:他者に対して実務的に補助する能力を有する
大学生の場合は能力や実績が足りずアピールできない項目が多々ありますが、大学院生であれば程度の差はあるとしても自分自身の経験について語ることができるのではないでしょうか。
この中から自分という人間をアピールするのに適している項目をいくつか選び出して、その根拠となる情報を思い付く限り書き出してみましょう。エントリーシートや面接での自己PRでは、最終的にこれらの情報を「ストーリー」として理解できる形に仕上げることが肝心です。
自己PRの内容が適切かどうかについては、専門分野について知らない家族や友人に協力してもらうのが最も効果的です。相手に理解してもらうことがコミュニケーションにおいて大切なことであり、自分が言いたいことを言うだけなのはただのスピーチです。目安として理想的には頭の良い中学生が理解できる程度の内容でまとまっていると良いでしょう。
業種・職種・企業の理解を深める
自己分析が進むことで、自分に合っているかもしれない仕事が垣間見えてきます。そのイメージを持ちながら四季報や就職情報サイトを利用すると、業種や職種への理解が深まり、企業ごとの違いについて気付くことができるようになります。そして理解が深まることによって志望動機が出来上がってきます。
就職情報サイトにも相性というものがあり、業種や職種によって使い分けていくことが重要です。例えば、大手就職情報サイトには30,000社ほどの求人情報が掲載されていますが、すべての企業や団体の情報が掲載されているわけではありません。特に、ニッチな分野で活躍する研究開発型ベンチャー企業、コンサルティング事務所、シンクタンクは大規模なナビサイトでは情報が埋もれてしまいがちですし、研究員や大学教員の募集などの情報は一般的な企業の求人募集とは別の探し方をする必要があります。
総合タイプの就職情報サイトを利用する場合は、検索する条件や目星をつける基準を先に考えておかないと、膨大な情報に圧倒されて時間を浪費してしまいます。例えば、修士課程の大学院生であっても、「博士の採用を明言している」あるいは「修士と博士で待遇に差をつけている」ような企業を探すと概ね良い結果を得られます。博士という存在を採用対象として認識している企業は、修士のことも学部生とは別格として扱う傾向にあるためです。
特化タイプの就職情報サイトを利用する場合は、掲載社数が少ない傾向にあるため、検索条件は広めに設定し、該当する全てに目を通して比較検討するのが定石です。化学メーカーの求人でも機械工学を専門とする方を最優先で採用しているケースや、プログラミングよりも物理や数学に精通していることを重視するIT企業も存在するため、全てを確認すべきなのです。
特化タイプの例
◆JREC-IN
・科学技術振興機構が運営するキャリア支援ポータルサイト
・大学をはじめとする公的機関の研究系公募求人が大多数を占める
・一部だが民間企業の研究開発職の公募求人も掲載されている◆アカリクWEB
・大学院生(博士・修士)ポスドク専用の就職情報サイト
・高度な基礎能力や、特定の専門能力を求める企業の求人を探しやすい
・関連サービスの「就職エージェント」では非公開求人を取り扱っている
業種や職種、そして個別に企業について理解を深めていく中で、改めて自己分析を行うことも有効な手段です。仮説は往々にして誤りであったり、修正が必要となるものですので、何度も繰り返して精度を高めていきましょう。
自分に近い条件の内定者から話を聞いてみる
もし就活をしていた先輩や内定を持っている同期が周りにいれば、どのように就活を行ったか聞いてみることも大切です。研究分野や志向性などが自分と近い人の実体験は参考になります。ただし、参考にはしても、そのまま自分に当てはめて考えなしに動き出すのは危険です。特に学ぶべきなのは、「どんな考え方で企業を選んだのか」、「アピールに困った点は何か」といった項目になるでしょう。
より多くの内定者の声を聞くためにインターネットを活用するのも有効でしょう。最近では大学院生による就活ブログなどもたくさん開設されているので、そういったところから生の情報を得ることもできます。
アカリクでも「大学院生・PDの就活/キャリアおすすめブログ26」や「内定者インタビュー」といったコンテンツを用意していますので役立てていただければと思います。
自分のキャリア計画案を書き出してみる
最初は理想的なライフプランでも構わないので、5年後と10年後の自分を思い描いてみましょう。そこから現実的な内容へとすり合わせていく過程で、「いま何をすべきか」と「1年後までの計画」も少しずつ形となってきます。
また、最初に就いた仕事が一生続くケースは稀で、現在では特に転職が身近になっていることから、同じ会社で一生を終えることも珍しくなっていくでしょう。その前提で「ファーストキャリア」で何を達成して、どのような「セカンドキャリア」で活躍するか、といった考え方をするのが現状では適しているでしょう。
例えば、大学院で物理学を修めたと仮定して、ファーストキャリアで数年間を技術者として製品開発に従事して、ものづくりや市場原理について学びつつ、物理現象への深い知見から製造工程の見直しで力を発揮するとします。その先には色々な可能性があり、セカンドキャリアとして同じ会社で製造部の管理職を目指してより大きな開発や計画に携わったり、あるいはコンサルタントに転職して製造工程の改善を行う仕事に就くかもしれません。
いずれにしても、やりがいや社会的意義の大きい仕事を担うことができるキャリアを求めていくことになるかと思います。5年後や10年後の自分を描くことで、そこに辿り着くために必要な過程を確認して、その差分を埋めるために必要なことを把握することが肝要です。
※大学院生・ポスドクの皆さんへ※
最終年度も実験や論文で忙しいという方は、アカリクが提供している「就職エージェント」をご利用いただき、コンサルタントとともに進路を考えることもご検討ください。各種サービスはクライアント企業からのコンサルティング手数料等で運営しているので料金はかかりません。