現在、博士課程に在籍している人は「博士論文を書くときのポイントはなんだろう?」と疑問に思うこともあるでしょう。質の高い論文に仕上げるための正しい書き方や、困ったときのポイントを知ったうえで、論文作成に取り掛かりたいと思うこともあると思います。
そこで今回は、博士論文に関する基本的な情報や、論文を書く際のポイント、困ったときの対処法などをお伝えします。これから博士論文を書く人は、ぜひ参考にしてください。
学位論文とは
学士、修士、博士などの称号を学位と呼びます。大学や大学院では、それぞれの教育理念に基づき「ディプロマ・ポリシー」と呼ばれる学位授与の方針を定めています。この方針に従い、学位が授与されます。
学士課程においては卒業論文の提出を課さない大学もありますが、大学院での学位を取得するためには単位の取得とともに学位請求論文の提出が必要です。
博士論文・修士論文・卒業論文の違い
ここで、博士論文・修士論文・卒業論文の違いについて解説します。それぞれの違いがよくわかっていないという方は、この機会にそれぞれの意味や違いを理解していただければと思います。
卒論
卒論とは大学を卒業する際に提出する論文のことを指し、「卒業論文」の略です。英語ではgraduation thesis、senior thesisのほか、最近ではcapstoneなどと呼ばれることもあります。
前述の通り、大学や学部によっては卒業試験に代えるなどして課さないこともあります。ある分野に対して論じるテーマを決めて、自分の主張の根拠となるデータを調査することが大切です。卒業研究は初めて研究現場に関わる機会であり、卒論には研究者としての力はあまり要求されないと言えます。
修論
修論とは「修士論文」の略です。英語ではmaster’s thesisや単にthesisと呼ばれます。
大学院の修士課程、もしくは博士課程前期を終える際に成果物として提出する論文です。既存の研究テーマなどを基に自身の研究課題を設定し、オリジナリティのある意見などを述べることが求められます。研究分野や所属機関にもよりますが、一定以上のページ数となるよう指示がある場合もあります。
博論
博論とは「博士論文」の略です。「D論」と呼ばれることもあります。英語ではdissertationやdoctoral thesisと呼ばれます。
大学院に在籍している博士後期課程の学生が、自身の研究テーマのまとめとして提出する論文のことです。博論では原著論文や学会、国際会議などで発表済みの内容を基にまとめ直す必要があります。
この論文を基に学位審査が行われ、基本的にはその全文が所属機関または国会図書館にて公表されます。近年ではインターネット上で自由に閲覧できるようになっていることが多く、国立情報学研究所のウェブページから検索が可能です。
参考: 国立国会図書館「国内博士論文の収集」(2023-07-31参照)
参考: 国立情報学研究所「CiNii Dissertations – 日本の博士論文をさがす」(2023-07-31参照)
論文博士
博士論文とよく似た言葉で「論文博士」というものがあります。これは乙号博士とも呼ばれ、いわゆる「課程博士」と区別されるものです。
大学院の博士課程において所定の単位を取得し、提出した博士論文が審査に合格すれば与えられる課程博士(甲号博士)に対し、論文博士の授与においては博士課程への所属は問われず、論文審査によって行われます。
課程博士と論文博士についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
博士論文の書き方
ここからは博士論文の書き方について紹介します。
既にご紹介したように、博士論文は既発表の内容をひとつの論文にまとめ直すことになり、一般の原著論文とは違った構成になります。
各論文の研究背景とは別に、博士論文としての位置付けを意識し、全体の流れを構成する必要があります。
テーマの決め方
論文としてのテーマが決まらず悩んでしまうこともあると思います。
そんなときは「研究結果から得られる成果の大きさ」を意識してみるといいでしょう。
テーマによって、得られる成果の大小は異なります。
それぞれの原著論文が既に揃っているのであれば、それらで言及した研究背景やモチベーションはあるはずです。それらを結びつける大局的な方向性や将来の展望を手がかりに考えてみると良いでしょう。
構成
論文は序論、本論、結論の3つのパートに分けられます。博士論文の場合、基となる論文ごとに章を分け、再構成することが多いです。
序章は論文全体のテーマとして取り上げている研究の目的や背景などを解説し、本論で研究の成果について述べます。さらに、それぞれの章で個別の話題について研究成果のほか、具体的な研究背景や目的、小結を配置します。そして研究全体から分かった事項を結論にまとめあげる、といったイメージです。
構図や図の取り入れ方
博士論文には構図や図を積極的に入れることをおすすめします。特に博士論文の場合、研究科内の異分野の先生たちが読むことになるので、専門知識がなくても分かりやすいよう執筆することが重要です。
特に図表は異分野の人にも重要な部分を理解する助けになるので手を抜かないようにしましょう。その図で伝えたいことは何なのか、どの部分に注目すれば良いのかが伝わるよう構図や配色を工夫すると良いでしょう。
また、博士論文特有の注意点として、既発表の内容を記述することが挙げられます。自己盗用とみなされないよう注意が必要です。本文の丸写しはもってのほかですが、図面にも著作権が発生するので博士論文に使用しても問題ない状態かどうか確認しておきましょう。書籍や文献レビューに再使用する場合には所定の使用料が掛かるものの、博士論文であれば無料、使用料は無料でも申請が必要であったりと、出版社によって取扱いが異なります。多くの出版社ではWeb上の論文掲載ページから情報の確認や申請ができるようになっています。
引用の仕方
引用をする際はルールに従った書き方をすることが求められます。たとえば参照文献には「著者名(発表年).題目, 雑誌名, 巻(号), 頁.」といったようにテンプレートに当てはめる必要があります。
ただし書籍と学術誌では表記の仕方が少し異なり、また引用のスタイルは様々あるため表記の仕方が分野や学科によって異なります。所属している学科の規定を一度確認してみてください。
論文における引用や文献についてはこちらの記事で解説しています。
謝辞を入れる場合
論文の末尾に謝辞を入れる際は、研究をするにあたってお世話になった教授などの指導者、助言を下さった方、試料や情報を提供してくれた方などの名前を入れるといいでしょう。
また奨学金や研究費などを得ている場合は、謝辞に提供元やプロジェクト番号を記載するよう指定されている場合もあるので注意してください。
謝辞の記載についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
博士論文は研究者人生の入り口
博士論文を書く際のポイントや注意点について紹介しました。
博士論文を書く際はテーマ決めなど迷うことが出てくると思いますが、一つずつ問題を解決していけば、おのずと内容の濃い論文が出来上がるはずです。
必要であれば周囲の人のアドバイスなどをもらいながら、自身の研究テーマを深めていってください。