「博士課程修了」とは、大学院の博士課程で所定の単位を取得したうえで、博士論文の審査に合格した場合をいいます。
今回の記事では、博士号をとるメリット・デメリットや、博士号取得後のキャリア、進路について解説します。
博士課程修了とは
「博士課程修了」とは、大学院の博士課程で所定の単位を取得したうえで、博士論文の審査に合格した場合をいいます。日本の博士課程には、以下の3つのパターンがあります。
①5年間の一貫制
②博士前期課程2年と博士後期課程3年の区分制
③2年間の修士課程修了後に3年間の博士後期課程がある区分制
一貫制博士課程は区分制博士課程の20分の1ほどと圧倒的に少なくなっています。いずれの場合でも博士の学位を得るためには、大学院に5年以上在籍して、30単位以上を習得し、必要な研究指導を受けたうえで博士論文の試験および審査に合格する、という条件を満たさなければなりません。
一方で、大学院に在籍しなくても「博士」の学位を得る方法があります。企業や自治体の研究所などで行った研究をもとに博士論文を書いて審査に合格し、博士課程を修了した人と同等の学力があることを確認してもらう方法です。この場合には、「論文博士」の学位が得られます。
参考:文部科学省 修士課程・博士課程の関係について
また、こちらの記事では学士・修士・博士の違いについて詳しく解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
単位取得満期退学とは
大学院で30単位以上の修得はしたものの、標準修業年限内に博士論文を提出せずに退学した場合、「満期退学」あるいは「単位取得退学」と呼びます。表記の仕方には制度的な決まりはなく、たとえば名古屋大学の人文科学研究科では「満期退学」、北海道大学の大学院教育学研究院では「単位取得退学」と呼んでいます。
大学院在学中に博士論文が完成しなかった、という場合だけでなく、博士論文の準備中に急に就職が決まって大学院を去るような場合にも、必要な単位をすでに修得済みであれば、満期退学あるいは単位取得退学として認められるのです。
履歴書には、「博士課程修了」ではなく、「博士課程満期退学」等の表記を用います。日本ではほぼ博士課程修了に近い扱いをされますが、海外では博士号を取得していない人とみなされることが多いようです。
参考:文部科学省 「円滑な博士の学位授与の促進」
博士号を取得するメリット・デメリット
博士号を取得するメリット
大学院に進学し、博士号を取得することのメリットとして、以下のことが挙げられます。
・興味のある研究に集中できる
・大学の教員になれる
・高い専門性や研究スキルを有しているとみなされ、研究機関の研究者になれる
・研究によって得た幅広い知識や、世界を見渡す視野を生かし、選択肢を広げられる
博士号取得は、自分を〇〇学の専門家であるとブランド化することです。そのブランドを生かして、大学教員や企業研究者の職を得られます。また、博士号は海外でも通用するので、海外の大学や企業で研究を進めることも可能です。
グローバル社会においては、自国だけにとどまらずチャンスがあればどこにでも行けます。博士号があれば、選択肢はどんどん広がっていきます。実力さえ証明できれば、日本では不可能なほどの高収入を得ることも夢ではありません。
また、既存の企業への就職だけではなく、研究を通して得た知識や考え方、幅広い視野を生かして、新たなビジネスを立ち上げる人もいます。
博士号を取得するデメリット
反対に、博士号を取得するデメリットにはこのようなものが挙げられます。
・経済的負担
・年齢のわりに社会経験が不足する
・博士号取得者向けの就職枠が限られている
日本の大学院の博士課程では、学生が授業料を払う必要があります。国公立の大学院でも年間約53万円の授業料に加えて入学金が約28万円、5年間で計約300万円が必要です。海外の大学院では、反対に給与がもらえるところもあり、その経済的負担は大きな差があります。
また、大学卒業後に5年間博士課程に在籍すると、修了時には27歳以上となります。年功序列を重視する民間企業では、年齢が高い割には社会経験がない博士課程修了者の採用に消極的なところも少なくありません。
そのうえ、大学や民間の研究機関での博士号取得者の就職枠も、それほど豊富ではありません。博士号を持っているから研究しかできない、研究職にしか就職すべきではないと思い込んでしまうと、選択肢はとても狭くなってしまいます。
参考:東京大学「授業料、入学料、検定料の額」
博士課程修了後、就職が難しいのは本当?
正規雇用を得るのが大変
博士課程修了後の就職は難しくなっています。表1を見てください。
表1 進路先別の割合の抜粋(%)
正規雇用 | 非正規雇用 | 進学 | |
博士課程修了 | 63.6 | 6.2 | 1.3 |
修士課程修了 | 76.5 | 1.4 | 9.8 |
学部卒 | 76.2 | 1.5 | 11.3 |
博士課程修了者の進路で目を引くのは、正規雇用の割合の低さです。正規雇用の仕事に就けたのは全体の約半数ほどで、修士課程修了や学部卒ではおよそ4人に3人が正規雇用に就いているのと比べて大きな差があります。
そして、博士課程修了者に目立つのは非正規雇用の割合の高さです。
国の政策によって、博士課程修了者は増えました。しかしその一方で、大学や研究機関のポストは増えていません。需要と供給のバランスが崩れてしまったために、安定した職に就けない博士を増やしてしまったのです。
ポスドク問題とは
博士課程修了後に大学等で非常勤の研究員として働く研究者をポスドク(Postdoctoral Reseacher)と呼びます。通常1~3年任期の非常勤であり、昇給や社会保障の点でも手厚い待遇だとは言えません。
1990年代から増えた博士課程修了者に対して、大学や企業の研究員ポストは減少しているため、正規雇用のチャンスを待ちながらポスドクを続けている人が増えています。
2014年の調査ではポスドクの6割以上が35歳を超えた「シニアポスドク」です。正規雇用に就けないポスドクの存在は、結婚・出産・育児といったライフイベントとも重なり、ポスドク自身の生活にも大きな影響を与えています。
これら多くのポスドクの存在は社会的な損失であり、優秀な人材が博士号の取得を諦めてしまう、あるいは日本での活躍をあきらめて海外へ流出してしまう、といった状態を生み出しています。
参考:小林武彦(2017)「ポスドク問題の何が問題か」学術の動向 22巻 66-63
民間に就職するには
2000年以降は、民間企業でも博士号を持つ研究者の採用が少しずつ増加しています。企業側は、専門的な知識やスキルだけでなく、研究を通して培われた論理的思考力やプレゼン能力、プロジェクトを推進する能力、コミュニケーション能力などを高く評価し、博士課程修了者の採用に積極的になっています。
新卒の扱いだけではなく、中途採用、第二新卒などの枠での応募も可能なため、応募したい企業がある場合には選考時期や選考方法をよくリサーチすることが重要です。また、その企業が具体的にどのようなことを行っているのか、その中で自分のどんなスキルが役に立つのかを考えておくとよいでしょう。
面接やエントリーシートでは、これまでの研究内容について説明する機会がありますが、専門知識のある人向けだけではなく、専門知識がない人に向けて説明するつもりで用意してみてください。
企業では研究に関わる人だけではなく、人事や営業の担当者などとも接することになります。
博士だからこそ貢献できることとは何なのかをアピールできれば、就職につながるでしょう。
まとめ
博士課程を修了するデメリットとメリットについてまとめます。
<デメリット>
・経済的な負担が大きい
・学部卒の人と比べて年齢のわりに社会経験が不足する
・博士課程修了者を受け入れる研究職のポストは、多くない
・多くのポスドクが非正規の雇用に甘んじている
・長期間ポスドクを続ける人が多くなっている(ポスドク問題)
<メリット>
・博士課程での5年間は、研究のための十分な時間と環境に恵まれる期間である
・博士号取得で、大学教員や企業、海外で研究する道が開ける
・高い専門的知識とスキルが身につく
・研究を通して論理的思考力やプレゼン力、コミュニケーション能力などが身につく
グローバル社会において、博士課程修了者の高い能力が発揮できる場は研究者以外にもひらけています。メリットとデメリットの両方を知ったうえで、自分の未来のためによりよい選択をしていってくださいね。