食品メーカーの就職偏差値として企業名を並べた表を見ても、自分の学科や学位で応募できるか、選考がどの程度難しいかは判断できません。企業共通の公的な偏差値はなく、学校基本調査の就職者数にも応募者数や採用倍率が含まれないためです。
一方、実際に就職した人の専攻構成と、食品分野で働く人の平均的な待遇は公的統計で確認できます。
この記事では、食料品と飲料・たばこ・飼料の違い、農学系の就職実績、企業規模別の賃金を整理し、偏差値とは別に何を確認すべきかを解説します。
1.食品メーカーの就職偏差値では分からない4つのこと
令和7年度の学校基本調査によると、令和7年3月に食料品・飲料・たばこ・飼料製造業へ就職したのは、学部7,264人、修士1,638人、博士76人でした。この区分には食料品だけでなく、飲料・たばこ・飼料を製造する事業も含まれます。
就職者数は採用人数や応募者数ではなく、卒業後にその産業へ進んだ人の実績です。食品メーカーを検討するときは、偏差値表では分からない次の4点を分けて確認しましょう。
- 学科系統:自分に近い専攻からこの分野へ就職した人数
- 学位:学部と修士で異なる就職者の構成と製造業内での割合
- 産業区分:食料品を主とするか飲料・たばこ・飼料を主とするかによる条件の違い
- 企業規模:同じ区分のなかで給与に出る幅
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 産業別就職者数」
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 修士課程の産業別就職者数」
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 博士課程の産業別就職者数」
2.食品分野へ就職した人の学科系統を確認する
食料品・飲料・たばこ・飼料製造業へ就職した人数を学科系統別に見ると、学部と修士では次のとおりです。
| 学科系統 | 学部 | 修士 |
|---|---|---|
| 人文科学 | 852人 | 7人 |
| 社会科学 | 2,306人 | 39人 |
| 理学 | 327人 | 132人 |
| 工学 | 490人 | 335人 |
| 農学 | 1,328人 | 603人 |
| 保健 | 193人 | 62人 |
| 家政 | 917人 | 58人 |
| 教育 | 184人 | 14人 |
| 芸術 | 109人 | 3人 |
| その他 | 558人 | 385人 |
| 計 | 7,264人 | 1,638人 |
この区分の就職者には事務系の職務も含まれるため、人文科学や社会科学の人数もこの表に入っています。理系の学科系統で最も多いのは農学の1,328人で、家政の917人と合わせると全体の30.9%になります。工学は490人で6.7%、理学は327人で4.5%です。
学校基本調査の分類は、大学が使っている学科名とそのまま対応するわけではありません。応用生物科学や食品科学のような名称がどの分類で集計されているかは、学校基本調査の付属資料である学科系統分類表で確かめられます。
ここで示すのは就職後の実績であり、選考の通りやすさではありません。職種別の専攻要件は、研究、商品開発、生産技術、品質保証などの募集要項で別に確認してください。
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 産業別就職者数」
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 修士課程の産業別就職者数」
工学系と理学系にも就職実績がある
令和7年3月に就職した学部の工学系48,221人のうち、490人が食品分野へ進みました。割合は1.0%で、修士の工学系にも335人の実績があります。理学系は学部で327人で、この区分の就職者に占める割合は4.5%です。いずれも就職者がいることは確認できますが、応募可能な職種や採用されやすさまでは分かりません。
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 産業別就職者数」
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 修士課程の産業別就職者数」
製造業へ就職した農学系の58.9%が食品分野へ進んでいる
学部の農学系で製造業へ就職した2,256人のうち、1,328人が食料品・飲料・たばこ・飼料製造業へ進み、58.9%を占めました。これは食品分野の側から見た構成比ではなく、製造業へ就職した農学系の進路内訳です。農学で学んだ内容と食品分野の接点が多いことを示す実績として使えますが、個別企業の採用人数を示す数値ではありません。
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 産業別就職者数」
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3.修士では農学系が4割近くを占め製造業のなかでの比重は下がる
修士1,638人のうち農学は603人で36.8%を占め、学部の18.3%を上回ります。一方、家政は学部917人に対して修士58人でした。食品分野が製造業の就職者に占める割合は、学部15.2%、修士6.6%です。修士で製造業へ進んだ農学系1,378人のうち603人、43.8%が食品分野へ就職しています。博士の食品分野への就職者は76人で、農学と保健がそれぞれ17人でした。
学部と修士では母集団も専攻構成も異なるため、この差を院進による有利・不利とは解釈できません。大学院進学は、希望する研究・開発職が修士の研究経験を求めているかを募集要項で確認して判断しましょう。
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 産業別就職者数」
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 修士課程の産業別就職者数」
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 博士課程の産業別就職者数」
研究テーマと照らし合わせる食品メーカーの主な職務
食品メーカーで理系の新卒が就く技術系の職務は、扱う対象によって分かれます。主な職務と、それぞれが何を対象にどんな仕事をするのかは次のとおりです。
- 基礎研究:原料の成分や機能性、加熱・発酵などの工程で起きる変化を調べ、将来の商品の種になる知見をつくる
- 商品開発:原材料の配合や製法、風味、包装を決めて試作を重ね、工場のラインで量産できる形に仕上げる
- 生産技術:試作したレシピを工場で安全かつ衛生的に大量生産するための工程や設備を設計・導入する
- 生産管理:原材料の手配や在庫、製造の日程を計画し、営業と製造現場を調整して計画どおりに出荷する
- 品質保証:製品の規格書や原材料表示を整え、不良や苦情が出たときに原因を調べて再発を防ぐ
- 品質管理:原材料や製品を検査・分析し、基準どおりにできているかを確かめる
同じ研究開発でも、基礎研究の成果は将来の商品の種になる知見ですが、商品開発では決まった予算と期限のなかで製品にすることが求められます。品質保証と品質管理も名前は似ていますが、品質管理が検査や分析で基準を確かめるのに対し、品質保証は規格や表示を整え、問題が起きたときの原因調査と再発防止まで受け持ちます。生産技術と生産管理をまとめた部署や、研究と開発を分けない部署もあり、職務の名前や分け方は会社によって同じではありません。
自分の研究で扱ってきたものが原料の成分や機能性なのか、製造の工程なのか、検査や分析の手法なのかを当てはめると、どの職務の説明会や募集に目を向ければよいかを絞れます。
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4.入試後の条件は産業区分と企業規模で動く
学校基本調査で1つの区分にまとめられている範囲は、賃金の統計では2つに分かれます。厚生労働省の賃金構造基本統計調査では、食料品製造業と飲料・たばこ・飼料製造業が別の産業中分類です。
入社後の給与や労働時間を見るときは、どちらの区分の事業が中心かと、企業の規模がどれくらいかの2つで条件が変わります。どちらの区分に入るかは企業の優劣ではなく、統計上どの事業を主としているかの違いです。
食料品と飲料・たばこ・飼料では給与も労働時間も違う
大学卒25〜29歳の民営事業所・男女計・企業規模計でそろえると、2つの区分の条件は次のようになります。
| 産業区分 | きまって支給する現金給与額 | 所定内実労働時間数 | 年間賞与その他特別給与額 | 年収換算 |
|---|---|---|---|---|
| 食料品製造業 | 約28.4万円 | 170時間 | 約65.6万円 | 約407万円 |
| 飲料・たばこ・飼料製造業 | 約30.1万円 | 159時間 | 約78.8万円 | 約440万円 |
きまって支給する現金給与額は残業代を含む月額で、所定内給与額とは別の値です。年収換算の欄は統計表に載っている数字ではなく、月額を12倍して年間賞与を足した値です。
元データから換算すると、食料品製造業は約406.9万円、飲料・たばこ・飼料製造業は約439.8万円になります。所定内実労働時間数も170時間と159時間で違い、超過実労働時間数はそれぞれ16時間と17時間でした。月額の差だけでなく、働き方の条件も同じではありません。
2つの区分は主とする事業が違うため、集計対象となる事業所も異なります。
出典:厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査 一般労働者 産業中分類 第1表 年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(E 製造業)」
志望先がどちらの区分に近いかは主な製品から見当をつける
食料品製造業と飲料・たばこ・飼料製造業のどちらの数値を参考にするかは、会社の呼び名ではなく、主に何を製造しているかから見当をつけましょう。
畜産・水産の食料品や調味料、パン・菓子・めん類、冷凍調理食品などを製造していれば、食料品製造業に当たります。一方、飲料・たばこ・飼料製造業の範囲は、清涼飲料、酒類、茶、コーヒー、氷、たばこ、飼料、有機質肥料の製造です。
上場している会社なら、EDINETで公開されている有価証券報告書の「事業の内容」で主な製品を確かめ、2つの範囲に照らせば参考にする区分の見当をつけられます。有価証券報告書を出していない会社については、主に製造しているものを同じ範囲に照らして判断してください。実在の会社に当てはめると、次のようになります。
| 区分 | 会社 | 主な事業 |
|---|---|---|
| 食料品製造業 | カルビー | スナック菓子・シリアル食品 |
| 食料品製造業 | キユーピー | マヨネーズ・ドレッシング類、サラダ・惣菜 |
| 食料品製造業 | 森永乳業 | 乳製品・アイスクリーム |
| 飲料・たばこ・飼料製造業 | 伊藤園 | 茶葉・飲料(飲料の生産は委託) |
| 飲料・たばこ・飼料製造業 | 中部飼料 | 畜産飼料・水産飼料 |
| 飲料・たばこ・飼料製造業 | 日本たばこ産業 | たばこ事業・加工食品事業 |
どちらの区分の会社も食品メーカーと呼ばれますが、給与と労働時間の表でどちらの区分を確認するかは主な製品によって変わります。日本たばこ産業を飲料・たばこ・飼料製造業の側に置いたのは、事業の内容で最初に挙がるのが、製造たばこの製造・販売を行うたばこ事業だからです。
一方でグループには子会社が営む加工食品事業もあり、1つの企業グループの事業が2つの区分にまたがることもあります。区分は工場などの事業所ごとに主な製品で決まるため、志望先についても、配属される工場や部門が何を製造しているかまで見ておきましょう。
出典:総務省「日本標準産業分類(平成25年10月改定) 製造業 食料品製造業」
出典:総務省「日本標準産業分類(平成25年10月改定) 製造業 飲料・たばこ・飼料製造業」
出典:カルビー株式会社「有価証券報告書 第77期(自 2025年4月1日 至 2026年3月31日)」
出典:キユーピー株式会社「有価証券報告書 第113期(自 2024年12月1日 至 2025年11月30日)」
出典:森永乳業株式会社「有価証券報告書 第103期(自 2025年4月1日 至 2026年3月31日)」
出典:株式会社伊藤園「有価証券報告書 第61期(自 2025年5月1日 至 2026年4月30日)」
出典:中部飼料株式会社「有価証券報告書 第79期(自 2025年4月1日 至 2026年3月31日)」
出典:日本たばこ産業株式会社「有価証券報告書 第41期(自 2025年1月1日 至 2025年12月31日)」
同じ食料品製造業でも企業規模で給与の幅が出る
食料品製造業の大学卒25〜29歳を企業規模別に見ると、給与と労働者数は次のようになります。
| 企業規模 | きまって支給する現金給与額 | 労働者数(十人) |
|---|---|---|
| 企業規模計 | 約28.4万円 | 1,886 |
| 1,000人以上 | 約30.6万円 | 328 |
| 100〜999人 | 約28.6万円 | 1,107 |
| 10〜99人 | 約26.4万円 | 451 |
1,000人以上と10〜99人の差は約4.2万円で、企業規模計で見た区分の差である約1.6万円より大きくなっています。規模をそろえても区分の差は残り、1,000人以上どうしでは食料品製造業の約30.6万円に対し、飲料・たばこ・飼料製造業は約34.2万円です。
労働者数を見ると、この年齢層は100〜999人の規模に最も多く分布しており、企業規模計の平均もこの層に引かれます。志望先の企業規模は、有価証券報告書の従業員の状況にある提出会社単体の従業員数が表のどの規模に当たるかで目安がつきますが、持株会社の場合は単体の人数が小さく出るため、採用する事業会社の従業員数で見てください。
出典:厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査 一般労働者 産業中分類 第1表 年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(E 製造業)」
5.学歴別の平均給与は年齢階級によって差が異なる
食料品製造業での大学卒と大学院卒の月額は、年齢階級ごとに以下のようになります。
| 学歴と年齢階級 | きまって支給する現金給与額 | 労働者数(十人) |
|---|---|---|
| 大学卒 25〜29歳 | 約28.4万円 | 1,886 |
| 大学院卒 25〜29歳 | 約28.5万円 | 173 |
| 大学卒 30〜34歳 | 約31.0万円 | 1,443 |
| 大学院卒 30〜34歳 | 約35.1万円 | 88 |
25〜29歳のきまって支給する現金給与額は、大学卒が約28.4万円、大学院卒が約28.5万円で、差は約400円です。30〜34歳では大学卒が約31.0万円、大学院卒が約35.1万円で、差は約4.1万円でした。
これは同じ時点の異なる集団を比べた結果で、大学院進学によって30代の給与差が生じたことを示す追跡調査ではありません。対象も食料品製造業に限られ、大学院卒の推計人数は25〜29歳が約1,730人、30〜34歳が約880人と大学卒より少なくなっています。月額だけで学位の効果を判断すると、賞与や職務の違いが抜け落ちるので注意しましょう。
出典:厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査 一般労働者 産業中分類 第1表 年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(E 製造業)」
月額が同じでも年間賞与には差がある
25〜29歳の年間賞与その他特別給与額は、大学卒の約65.6万円に対し大学院卒は約81.0万円です。月額がほぼ同じでも、年間で受け取る額には差が出ています。
食料品製造業で集計された労働者数は、全年齢の合計で、十人を単位として大学卒13,359に対し大学院卒893と少なくなっています。人数の少ない集計の平均は振れやすいため、この差だけで院進の損得を決められません。分野の平均給与よりも、修了後にどの職務へ就くかを判断材料にしましょう。
出典:厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査 一般労働者 産業中分類 第1表 年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(E 製造業)」
6.専攻そのものが要件として書かれている職務がある
学科系統が意味を持つのは選考の場面だけではありません。課程名が法令に条件として書かれている職務もあります。
食品衛生管理者は、食品衛生法第48条第1項が定める、政令で定める食品・添加物の製造・加工を行う施設ごとに置く専任の担当者です。乳製品や内閣総理大臣が定めた添加物のように、製造・加工の過程で特に衛生上の考慮を必要とする食品と添加物が対象になっています。資格は同条第6項が4つの区分で定めており、次のとおりです。
- 第1号:医師・歯科医師・薬剤師・獣医師
- 第2号:大学で医学・歯学・薬学・獣医学・畜産学・水産学・農芸化学の課程を修めて卒業した人
- 第3号:都道府県知事の登録を受けた養成施設で所定の課程を修了した人
- 第4号:高等学校卒業後に対象の製造業・加工業で3年以上の衛生管理の業務に従事し、都道府県知事の登録を受けた講習会を修了した人
理系の学科系統が制度の言葉で扱われている例が、第2号の課程名です。畜産学や水産学、農芸化学といった課程は、食品衛生管理者という職務に就くための要件として条文に書かれています。
自分が履修した課程がこの並びに当たるかどうかは、卒業要件と履修証明で確かめられます。該当しない課程であっても、資格そのものが閉じているわけではありません。第3号の養成施設や、第4号の実務経験と講習会という経路もあります。
食品衛生管理者を置く義務があるのは政令で定める施設に限られる
課程名が条文に並んでいると、この資格がなければ食品メーカーへ応募できないように見えるかもしれません。食品衛生法が設置義務の対象としているのは、政令で定める食品・添加物の製造・加工を行う施設です。採用の応募要件として定められているものではなく、学科系統の優劣を示すものでもありません。
第2号の課程に当てはまらない場合は、養成施設の課程を修了する経路と、実務経験に登録講習会を組み合わせる経路が用意されています。在学中に該当するかどうかは、履修した課程名で確かめておくとよいでしょう。
まとめ
食品メーカーの就職偏差値は、企業別の応募者数や採用倍率に基づく公的指標ではありません。公的統計から分かるのは、農学系を中心とした就職実績と、食料品・飲料などの産業区分や企業規模で異なる平均待遇までです。
また、食品衛生管理者の資格要件は一部施設の責任者に関するもので、新卒採用の共通条件ではありません。志望先では、主な製品に合う統計を選び、希望職種の専攻・学位要件を募集要項で確認しましょう。










