学会発表:どこで発表するか、どのスタイルで発表するか?

博士の日常
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 新年度開始のバタバタに追われ、気がつけばもうゴールデンウィークに突入してしまいました。日本のアカデミアにとっては、5月から秋末までの間が学会シーズンのピークになるのではないかと思います。

学会発表のイロハや準備の要点については、下記のコラムも参考にしてください。

 本篇は学会の選択と発表スタイルに関する経験をまとめていきます。特に大学院生やポスドクなどの若手研究者の皆様のお役に立てることができると嬉しいです。

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数ある学会の中から自分に合うものを選ぶ

 自分の研究成果をどの学会で発表すれば良いかに関して悩む若手研究者も少なくないでしょう。自分のテーマに合う分野を扱う学会であることが大前提になりますが、そのなかにも、大きな学会から小さな学会まで、分野・テーマに特化した学会から学際的な学会まで、選択肢が多すぎるくらいあります。学会参加は時間的・金銭的コストも発生するため、ある程度の取捨選択も必要でしょう。

 迷ってしまったときは、自分は誰にこの研究を知ってほしいか、どこまでディープな議論を期待するかなど、自分が発表を通して達成したい目標を考えながら選んでいくと良いかもしれません。

学会規模によって何が違う?

数十人程度から数千人レベルまで、学会の規模はさまざまです。

大きい学会

一般的には規模が大きいほど扱うテーマが多様になりますので、そこで発表すると自分の研究がより多くの研究者の目に留まる可能性があります。若手が広く「顔を売る」には最適かもしれません。

その一方、大きな学会では発表数が多いため、並行セッションが多数存在したり、限られた時間にたくさんの研究を回りたくなったりして、参加者の注意が分散されてしまうことがしばしば問題視されています。また、オーディエンスが持っている予備知識のレベルのバラツキが大きいため、発表内容の構成は基礎的な知識に偏りやすく、ディープな議論まで達しにくいです。

小さい学会:

 逆に、小規模な学会の方は特定の分野・トピックに集中した構成が多いため、並行セッションの数や発表数が比較的少ないです。オーディエンスの範囲が限定されている代わり、プロの集まりになりますので、ディープな議論を行ったり、特定のテーマに特化した情報交換をするのには最適です。決まった顔ぶれが参加することが多いため、安定したアカデミック・ネットワークを作ることにも向いています。

専門性の高い学会と学際的な学会

 伝統的な学会は、分野によって分けられる(例えば日本社会学会、日本応用数理学会)ことが多いですが、同じテーマに対する複数の分野からのアプローチを扱う学会(例えば日本認知科学会)もあります。昨今では学際的研究に対する注目が高まっているため、後者のような学際的な学会も規模を拡大しつつあります。

 専門性の高い学会では、該当分野の歴史的流れも含めた知識の共有があり、専門的な理論・方法論に関する議論が展開されやすいです

 一方、学際的な学会では広い視野からの問題の捉え方を知ったり、研究成果を展開する方向を広げたりすることができます

初心者の学会選び

 筆者の私見ですが、院生や若手の方にとっては、該当分野の知識と方法についての基礎を固めることや、アカデミックネットワークを形成することの優先度が高いように思います。

 比較的に小規模な、専門性の高い学会の中で最も自分のテーマと関心に合致するものを「ホーム学会」とし、その上で中規模の学会にも定期的に顔を出せると尚良いです。さらに、研究成果に応じて、そして求職時期などのキャリアステージに応じて大規模な学会に出向くと、多くの研究者に自分の研究をアピールすることにもつながります。

 学際的な会合を選ぶかどうかは個々人のテーマによって変わってきます。ただし、駆け出しの段階では自分の基礎知識と専門性を高め、「○○研究者」として自信をつけることが重要であることを考慮すると、専門性の高い学会が向いている人のほうが多いかもしません。]

学会発表申込にあたって

 自分が発表したい学会が決まれば、いざ申込です。そのためには申込の時期・条件の確認を忘れずにやっておきましょう。

 学会自体の開催時期、申込締め切り、参加費支払い締め切り、原稿提出締め切りなどのスケジュールはもちろん確認が必要です

 ほかに重要なことは、発表するために発表者や連名発表者が会員である必要があるか、あるとすればどのタイミングまでに学会入会と年会費の支払いを済ませる必要があるかについて、早い段階で確認しておきましょう。例えば筆者がよくいく学会の一つでは、9月に開催される学会で発表するためには4月中に入会・年会費支払いをする必要がありますが、うっかりしていると年会費を払い忘れて参加できなくなります(筆者は何度かやらかしました)。

発表スタイルを選ぶ

 次に発表スタイルを選ぶ必要がありますが、まずはどんなスタイルがあるかをご紹介します。

 個人の発表では、通常は口頭発表とポスター発表の中から選びます。簡単にまとめると、前者は講演形式で決められた時間の中で研究を紹介し、後者は研究内容をまとめたポスターを掲げて来場者に紹介するスタイルです。

 それぞれのスタイルの紹介や準備の要点は以前のコラムもご参照ください。ここでは詳細を割愛します。

 下記のように、二つのスタイルはそれぞれの長所がありますので、各人は発表内容や自分の好みに合わせて選ぶと良いです。

発表の持ち時間

 口頭発表は十数分程度の発表時間内に全てを詰め込む必要があります。一方、ポスター発表は通常は半日程度の掲載時間を得ることができ、その上で発表者は30分〜1時間程度の持ち時間の中で参加者に直接解説することもできます。そのため、ポスター発表の方が時間に余裕を持てると言えます。

緊張の度合い

 上で述べたように、ポスター発表の方が時間に余裕があり、発表者は自分のペースで発表することができます。そのため、ポスター発表の方が比較的に緊張せずに済むとも言えます。この理由から、初めて発表する人や大勢の前で話すことが苦手な人、もしくは英語に苦手意識がある人が海外学会で発表する際は、ポスター発表を選ぶことが多いです。

内容配分

 発表に盛り込める情報には限りがあります。社会科学系の実証研究を例にあげると、いずれのスタイルも1〜2つの研究の背景・方法・結果を説明できる程度の量を盛り込むことができます。ただし、スタイルによって内容の配分が変わります。

 ストーリーの形で順番に説明していくことができる口頭発表は、研究の背景や理論について丁寧に説明することが可能です。

 それに対して、ポスターは紙面の中に文字を入れすぎると可読性が非常に下がってしまうため、研究背景や理論についての記述は最小限にとどめるのが望ましいと言えます。ポスター発表は研究結果の報告に集中し、結果のグラフや表に紙面を割く方が、良い発表になると思います。

他者に与える印象

 口頭発表はセッションに参加する人を対象に講演を行うスタイルであるため、少なくともオーディエンスには一定の印象を残すことができます。また、発表者と発表内容を結びつけやすく、「この人はこういう研究をしているんだ」のように覚えてもらいやすいです。そのため、広く顔を知ってほしい時には、口頭発表の方が良いと思われます。

 ポスター発表では、同じセッションに数多くのポスターがある中で自分の研究を掲載することになるため、多くの人に向けて強い印象を残すのは難しいです。参加者の中で全てのポスターを丁寧に閲覧する人は少なく、まず各ポスターのタイトルと概要を素早くみてから、興味あるポスターをじっくり見る人がほとんどでしょう。

 その代わり、自分のポスターの前に足を止めて質問する人との間でじっくり議論を交わすことができるため、ポスターの前でディープな議論を行うことに向いています

 以上のように、口頭発表とポスター発表はそれぞれ特徴があります。初心者の方は緊張を避けるためポスター発表を選ぶことが多いですが、筆者の考えでは、若手こそ積極的に口頭発表を行う方が良いように思います。

 なぜなら、アカデミック・ネットワークの構築も、求職活動も、若手研究者が直面している課題だからです。口頭発表を積極的に行い、他者に認識してもらう方が有利に働きます。逆に、ある程度の業績を積み、落ち着いて研究を進めることができる立場になったら、定期的に成果を報告し、関連トピックに詳しい人とじっくり議論するためにポスター発表の場を活用する方が良いかもしれません。

口頭発表とポスター発表の準備について

 どのような発表であっても、オーディエンスに研究の内容を理解してもらうことが目的です。発表準備についての一般的なアドバイスは、冒頭のコラムもご参照いただきたいが、ここでは口頭発表とポスター発表それぞれに関して準備する時に心がけるべきことを述べます。

口頭発表の準備

ストーリーテラーになろう

 口頭発表はスライドと合わせて口頭で研究の説明を行うのですが、ただ単に論文や原稿を読み上げるだけでは、オーディエンスの理解は望めないでしょう。持ち時間を使って一つの物語を語るように心がけるほうが、観客に強い印象を残すことができます。

 そのためには、使用する言葉は、なるべく書き言葉よりも話し言葉を使う方が、理解が進みます。学術発表ですので、一定の専門用語を使うのは避けて通れませんが、それ以外の語りに関しては、敢えて難解な単語や言い回しを使う必要はありません。

 物語の中で観客の注意を惹きつける工夫も必要です。落語のようにストーリーの起伏を設計する必要はなくとも、起承転結を意識して構成を考えるのは悪いことではありません。要所ごとにオーディエンスに問いかけ、知的好奇心を掻き立てるのも、注意を惹きつけることに有効です。

 また、発表する際の話し方も重要です。はっきり聞き取れる発音を心がけ、声には適度に抑揚やリズムをつけ、ほどよい速さの範囲にある方が良いでしょう。話し慣れてない方は少しゆっくり進めていきましょう。自分の話し方を録音して聴いて見ると、いろいろと改善点が見えてくるかもしれません。

オーディエンスの短期記憶を信じるな

 口頭発表はスライドを順番に進めていきますので、新しい内容に接することで前の内容の印象が薄れていきます。そのため、各スライドの情報を詰め込みすぎないことと共に、これまでの要点をまとめたスライドを適宜挟むことで、オーディエンスの理解が進みます。

 特に発表の最初に30秒バージョンのダイジェスト、最後にtake home messageのまとめを入れると、内容への理解が格段に上がります。

ポスター発表の準備

Less is more

 ごちゃごちゃしている会場の中で、ポスターをゆっくり熟読してくれる人はほとんどいないと思っておきましょう。とにかく一目で要点が目に留まるようにする必要があります。そのためには、まずは文字を詰め込みすぎないことが重要です。

 箇条書きを使ったり、フォント・太字・色の活用で要点を突出させたりするのも良いでしょう。また、グラフと表を積極的にいれるのも良いです。

 ただし、色を使いすぎて絵面をごちゃごちゃさせると逆効果です。デザイン力に自信がない場合は、とにかく一つか二つの色の系統の中で濃淡を調整することでバリエーションを増やしましょう。

配布資料とQRコードで情報量を確保

 後でじっくり読みたい人もたくさんいるので、ポスターの内容を紙に印刷して配布する人は少なくありません。そのやり方はもちろん結構ですが、せっかく配布資料という手段があるのなら、研究手法や結果の詳細などといった、ポスターに入りきれない情報も追加してしまうのも良いかもしれません。

 もちろん、配布資料の量を無限に増やしていいわけではありません。会場を巡る時は荷物もたくさん持ち歩けないので、配布資料の枚数は多すぎないほうが貰う方も助かります。両面印刷を駆使して1枚にまとめるか、ボリュームある情報はオンラインにおいてダウンロード用のQRコードを配布・掲載するとスマートです。

[文責・LY / 博士(文学)]

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