あのときの一言(4)「今のノウハウが活かせるか”試したい”」

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挨拶

こんにちは。みっつです。この連載では、大学院生活や社会人として生活する中で出会った言葉について振り返っています。当時の気持ちを思い出しながら、なぜその言葉が自分にとって重要だったのか、そして今の自分にどう影響しているのか、改めて考えてみようと思っています。読んでくださった方が何か気づいたり考えたりするきっかけになったら幸いです。

今回紹介する一言

当時すごく印象的で、かつ今の僕自身の考え方にも大きく影響している「今のノウハウが活かせるか”試したい”」という言葉について振り返ってみます。研究室の居室で隣の席だった先輩に、大学に残らず民間企業への就職を決めた理由を聞いた僕への返答の一言です。

あの時

進学から卒業まで3年間の博士後期課程ですが、いざ入ってみると時間があっという間に過ぎていく実感がありました。

1年目の冬には、一つ上の学年の先輩方が就職活動を始めている様子をみて「来年の今頃には進路について考えないといけないのか…」と焦りを感じていたのを覚えています。隣でいつも真剣に研究をしていた先輩も就職活動をしていた一人で、海外留学や学会、論文投稿の準備などとても忙しそうな生活の中、最終的には国内メーカーへの就職を勝ち取っていました。

その先輩の、誰よりも直向きに日々の実験に取り組む姿や、誰に対しても謙虚に真剣にディスカッションする姿勢を近くで見ていて、僕は「この人はきっと大学に残るんだろう」と、願望も含めて常日頃から思っていました。そんな先輩が就職活動をしていたことに対して疑問を感じていたので、ある日「どうして就職しようと思ったんですか」と尋ねてみたところ「今まで研究で培ったノウハウが、分野や環境を変えたときに活かせるか”試したい”」と答えてくれました。

この一言を聞いて「そんな考え方もあるのか。この人はそういうことを考えて日々過ごしていたんだ」と衝撃を受けたことを覚えています。同時に「試したい」という前向きな言葉が聞けて、先輩の選んだ道を心から応援しようという気持ちにもなれました。

今の解釈

この先輩の言葉を、僕は今「自分がそれまでに得た知識や方法だけでなく、その習得の過程も含めて新しいことに転用できる用意をして過ごすとよい」という意味で捉えています。自分にも訪れた進路選択の時期や、社会人になって新しい事に取り組む中で、いつも意識して過ごしてきました。

一度、目の前のことを抽象化・上位概念化することは重要だと感じています。例えば、合成する化合物の方針の検討やその物性評価などの特定のテーマ内での知識や手法の習得などについて「改めて全体を俯瞰してみると、いま自分がしていることはどういう位置づけになるだろうか。基礎の習得だろうか、応用的な範囲だろうか」「別の分野や対象においても通ずる部分や、同じく重視されるであろう考え方はどこにありそうか」とよく考えるようになりました。

また、何かうまくいったことがあると「その過程に潜む秘訣とも呼べるエッセンスはどこにあったのか」を振り返るようになりました。大学院での研究生活では、常に先生方や先輩、同期、後輩などから内容について“揉まれ続ける”ことで、一定以上の水準で物事を達成できる確率が比較的高いと経験から感じます。他者や環境の力も借りて得られた貴重な成功体験について、重要だったプロセスについて目を向けることで、より多くのことが得られるのではないでしょうか。思いを巡らせてみると、事前に十分調べ上げてから行動すること、基礎的な原理原則を疎かにせず身につけること、習慣化すること、時にまず行動に移してみること、定期的に人前に出して方向の修正を検討することなど、別の事柄に対しても汎用的に転用できそうな共通項が見つかると思います。

加えて、僕はそれら見つかった事柄の中でも「他者の力があって達成できたこと」がどの程度占めていたのかまで明らかにしておくようにしています。いつも同じように周囲の協力が得られるとは限らず、次はその部分を自分で補完する、あるいは補完してくれる人を自分で探す必要があるかもしれないからです。例えば、学生時代に設定されたテーマに関して成果をあげられた場合について考えてみると、日々の実験や各種検討、方針の決定においては自分自身の力で進めた部分が多く、その力が身についていると考えていいでしょう。一方でテーマそのものの立案や、更にその前段階の「研究室としての方向性を考えるステージ」においては、教授やスタッフの方々と共に十分なリサーチを行った上で動き始めていることが多く、初期段階での調査における能力については未熟さが残り得るのも事実です。研究テーマの成果をあげるという事について必要なエッセンスはどこにあったのか、そしてそのそれぞれにおいて自分がどの程度のウェイトで関与できていたのかまで明らかにしておくと、次に同じことを考える必要が出てきたときに抜けのないように努めることや、それを得意とする他者の意見を積極的に取り入れるなどといった手段を意識的に取れるようになるのではないでしょうか。

自分の経験の中に潜む「ノウハウ」は何だったのか。これについて考えるきっかけとなる一言に出会うことができたのはありがたい事だったなと、当時を振り返って思いました。いざ実行に移そうとしても、まだまだ時間がかかることも多かったり、自分の未熟さを思い知るばかりでなかなか前に進まないこともありますが、これからもこの考え方は大切にしていきたいと思っています。

その後の意識と、この記事を読んだ方へのメッセージ

上記のように考えながら過ごす中で、研究分野や環境が変わることに対して寛容になれたことは、自分の中で大きな変化だったと気がつきました。

一般的には、学生時代に何年も研究を行った対象がある分野や、身につけたバックグラウンドの延長線上にある領域で次の挑戦をするほうが障壁が低そうに感じることが多いと思います。しかし、それでもあえて別の世界で挑戦するということに対して楽しさや面白さを感じられるようになったのは、「試したい」という先輩の姿勢に触れたことが強く影響しています。就職活動をする際にも、それほど拘らず幅広く分野を見渡して選ぶことができましたし、社会人になってからも、それまで経験したことのない研究対象を与えられたときに積極的に向き合うことができました。そして対象は違えど、その向き合い方において通ずることは思いのほかたくさんあると感じる毎日を過ごしています。

この記事を読んでくださった方も、自分の経験したことや身につけた能力について、一歩引いてじっくり眺めてみてほしいと思います。どうしても研究生活はその性質から、突き詰めようとするほどに狭い特定の事柄に関する知識やスキルの習得になってしまいがちですが、そこにたどり着くまでの道のりにきっと光るものがあるはずなので、改めて見つめなおす時間をとってみるといいかもしれません。もしその過程を経て新しい可能性に気づいたり、挑戦する勇気を出せるようになってもらえれば、これほど嬉しいことはありません。

終わりに

今回は以上です。そろそろ就職活動シーズンでもあるかなと思い、この題を取り上げてみました。隣の席だったこともあり、たくさんのことを学ばせてもらった先輩からいただいた言葉についてゆっくり振り返ることができてよかったです。この内容がどこかで何かの機会になりましたら幸いです。最後まで読んでいただきありがとうございました。

<筆者について>

みっつ (工学博士)。超分子化学、光化学に関わる研究で博士号取得後、国内メーカーに就職。仕事以外の時間はSciKaleidoというチームにて「科学×バーチャル×エンタメ」を軸にコンテンツを開発中。

SciKaleidoについて: https://sites.google.com/view/scikaleido

筆者について: https://twitter.com/Mittsujp

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