【大阪ガス株式会社エネルギー技術研究所 津田氏・則岡氏】2050年カーボンニュートラル実現への挑戦 ―少数チームで味わう研究開発の醍醐味―

インタビュー

「AJ出張版」は、株式会社アカリクが発行する「大学院生・研究者のためのキャリアマガジン Acaric Journal」の過去の掲載記事や、WEB限定の新鮮な記事をお送りするカテゴリです。今回はvol.4の掲載記事をお届けします。

地球温暖化の大きな要因となっている二酸化炭素の排出を抑えようという、脱炭素化社会へ向かって、世界中が急速に動き出しています。大阪ガス株式会社は、2050年のカーボンニュートラル実現への挑戦を掲げ、カーボンニュートラル技術の研究開発拠点「Carbon Neutral Research Hub」(以下「CNRH」)を開設しました。今回は、その拠点で非常に高い目標へ挑むお二人の研究者に話を聞きました。

ー 現在に至るまでの道のりを教えてください

則岡氏:高校時代は理系科目が好きで、大学で理系に進むということは決めていたのですが、専門までは決められていませんでした。京都大学の理学部は、幅広く様々な理系技術について高いレベルの研究をされている印象があったので、まずは広い可能性を模索できる理学部に入学しました。授業を受ける中で、世の中の役に立ち、自分の興味にもあっているのが化学だったので化学専攻に進みました。大学時代は、水分解光触媒の研究をしていて、エネルギー関連技術には興味がありました。大阪ガスでは研究職としてではなく、理系総合職として採用されるため、営業も製造にも関われますし研究も続けられる、という選択肢の広さに惹かれました。

津田氏:高校生の時から環境とエネルギー問題に興味があり、それに関わる仕事に就きたいと思い、大学の専攻を選択しました。また、エネルギー業界において技術が社会に密接につながっており、かつ自分が関わったものが世の中に出ていくことを実現するには、メーカーよりインフラの方がより実現性が高いと考えインフラを志望しました。現在、私も則岡さんも社会人ドクターとして京都大学に通っていて、博士号の取得にもチャレンジしています。弊社には、博士号取得のチャレンジを後押ししてくれる環境があり、就職活動の際にそのような話は聞いていましたし、実際に入社してみて改めてそのことを実感しています。

ー 理系総合職として採用された場合のキャリアステップについてもう少しお伺いできますか

津田氏:新入社員は入社後1か月ほど研修を受け、その後希望の配属先や今後のキャリアの展望を一人ひとり面談して配属先が決まります。また、4年目以降で、幅広い業務領域での経験を積むゼネラルコースと、専門能力の向上を追求するスペシャリストコースのどちらを歩むか自ら決めるタイミングがあります。

スペシャリストコースの場合は専門性を追求するため、例えば博士号を取得してそのまま研究を続けることもできますし、ゼネラルコースを選択した場合は3~4年ごとに異動しながら幅広い経験を積むことができるキャリアステップになっています。我々2人は、スペシャリストコースですね。

ー 開設された 「CNRH」について教えてください

則岡氏:10月に開設した、Daigasグループ全体のカーボンニュートラルに関する技術を扱う研究拠点です。カーボンニュートラルに関する技術開発を行う部署は、以前からいくつかあり、カーボンニュートラルを実現するため、都市ガス、電力、水素やアンモニアといった様々なエネルギーに対してカーボンニュートラルに資する研究開発に挑戦しています。今回、弊社の研究開発の中心である大阪市此花区の酉島エリアに「CNRH」を開設することで、部署間の横のつながり強化や、社外とのアライアンスを拡大し、開発を加速する狙いがあります。CNRHで開発を行なう部署の一つに、津田さんと私が所属しているエネルギー技術研究所があります。

ー カーボンニュートラルの考え方について教えてください

津田氏:我々は、原料にCO2を用いて都市ガスの主成分であるメタンを作る、カーボンニュートラルメタンの製造技術に関する研究開発を行っています。これは、回収したCO2から都市ガスを作ることで、都市ガスを使ってもCO2の排出が実質プラスマイナス0になるというものであり、カーボンニュートラル化を実現するために、弊社が力を入れている取り組みです。

ー 今後のキャリアの展望についてお聞きできますか

津田氏:カーボンニュートラル社会の実現という大きな目標を実現するための取り組みは、日本だけにとどまりません。今後は技術が先進している欧州などの海外との連携も必要になってくると思っています。海外の研究者や技術者とやり取りしながら、カーボンニュートラル社会の実現に向けた挑戦を進めていきたいです。

則岡氏:今取り組んでいるメタネーション技術のような、脱炭素社会実現のための技術開発をこの先も続けて極めていきたいです。これから長い時間をかけて研究を進めていけるテーマに運よく巡り合えたと思っています。日本全体としてカーボンニュートラル実現を目指す2050年は、私がちょうど定年の頃ですので、私のキャリアをかけて技術をものにしたいと考えています。

ー 人生をかけたミッションですね。カーボンニュートラルの実現に向けての意気込みをお聞かせください

津田氏:当初、パリ協定における日本のCO2排出量削減目標は2050年までに80%削減とされていました。そんな中、2020年10月に菅前首相が、CO2排出量を実質的にゼロにするカーボンニュートラルを2050年までに達成することを表明し、社会の流れが大きく変わりました。これからはどの業界でもCO2排出量が問われる時代になると思います。例えば、Appleが2030年までにサプライチェーン全体のカーボンニュートラル化を掲げていて、これまでは高品質で低価格なものを作れば良かったのですが、今後は「CO2排出をせずに」高品質で低価格なものを作ることが求められると思います。モノづくりの領域に関してもそのように時代の流れが変わってきていると感じています。我々も、研究開発を進める上でCO2排出という観点は、戦略上大きな焦点になると思っています。

則岡氏:我々としても、この2〜3年の動きには驚いていて、世の中が急速にカーボンニュートラルに向けて動き出しています。天然ガスは他の燃料と比べ、燃焼時のCO2排出が少ないこともあり、弊社では以前より低炭素・脱炭素に関する技術開発を積極的に行っていました。そのような背景もあり、今回のタイミングでも、CNRHの開設を始めとして技術開発の加速に素早く取り掛かれたのだと思います。日本が2050年までにカーボンニュートラルを達成するには、政治、経済、社会、技術の全ての面で変革の必要がありますが、中でも技術がキーになっているため、技術者たちの努力が重要だと思います。我々は技術者として、革新的な技術開発で貢献できるように頑張っております。

ー 民間企業で研究する魅力について教えてください

則岡氏:技術について、初期の開発段階だけでなく、実際に商業化されるまで関わることができるのは大きな魅力だと感じます。過去、私が開発した触媒が実際のプラントに採用されたことがあります。不安もありましたが、様々な性能評価・耐久評価を完了して、実際にプラントに触媒が充填されるのを見たときは、とても大きな達成感を感じました。このような経験は、民間企業でなければなかなか味わえないことだと思います。また、他社と関わる機会もかなり多く、社外との打ち合わせや契約交渉、海外のメーカーとのディスカッションなど、幅広い方々と様々な関わり方ができます。

津田氏:大阪ガスの技術開発には、メーカーでは体験できない面白さがあると思います。我々はインフラ会社であるため、何か商品を開発する際は、メーカーを巻き込み開発を進める必要があります。そのため、他社とのアライアンスや連携が必要となります。社内外を問わずたくさんの人と連携しながら開発を進めることで、自分1人では成し遂げることのできないような開発にチャレンジできることをとても魅力に感じています。

ー 大阪ガスへの入社の決め手は何だったでしょうか

津田氏:就職活動中に社員の方々から、「何事にもトライしてみよう」という雰囲気を感じました。せっかく仕事をやるのであれば、チャレンジしようという社風に惹かれましたね。

則岡氏:まさにその通りで、今回の「CNRH」開設もですが、新しいことへ果敢にチャレンジする姿勢を感じました。また、入社してからの選択肢の広さ、幅広く研究や業務に携われる点にも魅力を感じました。

津田氏:実際に入社してみて、開発のスキームやスケジュールに関しても挑戦的な計画を立てて、そこに挑んでいく社風を肌で感じています。

ー どのような人が、大阪ガスに向いていると思われますか

津田氏:研究開発に限らず、社員が使命感を持ち、非常に高い目標に向かってチャレンジしている会社だと思います。「困難なことをいかに実現するか」「難しい部分をどうやったら達成できるか」と前向きに考えられる人が来てくれると嬉しいです。

則岡氏:カーボンニュートラル社会の実現に向けて、世界全体が大きく変わっており、特にエネルギー業界は大きく変化しているので、変化の中に進んで身を置きたい人が向いていると思います。また、おそらく、理系の学生がご覧になっている他の会社と比較すると、弊社の研究開発部隊は少数な方で、一人の社員が幅広い業務を担当しています。技術のコア部分だけではなく、出口をどうするのかといった部分まで考えられる人が向いていると思います。

津田氏:社会で求められる変化が大きいとその分、技術開発にやりがいを感じられると思います。現在、カーボンニュートラルの実現というエネルギー業界の根本を覆す非常に激しい変化が求められています。そういう意味では技術者として、非常に恵まれたおもしろい時期に巡り合うことができたと思っています。

ー 読者の方へメッセージをお願いします

則岡氏:脱炭素化やデジタル化が加速されるなど社会の変化が激しく、とりわけ技術の重要性が再認識される時代になっており、技術者にとっては、わくわくするような時代だと思います。このような流れの中、個人として、専門性と幅広い知識を持った技術者が求められていると感じます。技術者としてのキャリア形成のためには、日々の研究や業務の中で自然とこれらが身につく環境というのが理想だと思っています。その点、私の今の職場では、日々の業務に取り組む中で、専門分野はもちろん、その他にも環境に関する様々な情報を、自然と得ることができており、恵まれていると感じます。私もそうでしたが、皆さん研究がお忙しい中、就職活動との両立は大変だと思います。ただ、将来を決める大切な選択をすることになるので、研究も就活もしっかりバランスをとって進めてほしいと思います。

津田氏:学生生活の中で日々、大学の研究室にいると、社会全体の動きや、社会でどのようなことが起き、何が求められているのかなど、外部の情報をキャッチすることが難しい部分があります。そのような環境の中で、ご自身が面白いと感じることや、やりたいと思えることの方向性を見つけることが重要だと思います。積極的に外部の情報を収集しながら日々の研究生活を進めて欲しいと思います。

プロフィール(取材当時)

津田 裕司  氏

大阪ガス株式会社 エネルギー技術研究所 SOECメタネーション開発室兼エネルギー変換デバイスチーム。京都大学大学院工学研究科修士課程修了。2015年新卒入社以来、エネルギー技術研究所にてSOFC(Solid Oxide Fuel Cell/固体酸化物形燃料電池)の基礎研究に従事。その後、同所属でSOEC(Solid Oxide Electrolysis Cell/固体酸化物型水電解セル)や関連する触媒の開発に携わり現在に至る。専門分野はSOFC、SOEC、固体触媒。

則岡 慎平  氏

大阪ガス株式会社 エネルギー技術研究所 脱炭素・エネルギーイノベーションチーム兼SOECメタネーション開発室。専門分野は固体触媒。京都大学大学院理学研究科化学専攻修士課程修了。2016年入社以来、エネルギー技術研究所にて触媒開発に従事。研究テーマは、燃料電池用燃料改質触媒の開発 ・水素製造用触媒の開発 ・メタネーション触媒の開発。

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