時が過ぎるのは速いものです。あっという間に師走に入りました。年末年始のシーズンは、みな忙しく過ごしていますが、研究者、特に大学教員にとっては、公私ともにイベントが盛りだくさんです。たとえば卒業論文や修士論文の指導、クリスマス、冬休み、小規模の学会やシンポジウムなど、いろいろなイベントがあります。
卒論・修論の指導:走れ、大学教「師」
ほとんどの大学では卒業論文の提出期限が12月半ばから1月末の間に設定されています。そして修士論文は卒業論文の提出の少しあとに期限を迎えることが多いです。
そのため、年度の後半に入ると卒論生・修論生は少しずつ緊張感を高めていき、教員の論文指導も徐々に本格化しはじめていきます。その熱気は締め切りに近づくにつれ高まり、ついに12月頃にピークを迎えます。たくさんの卒論生・修論生を抱えているゼミなら、なおさらのことです。
本来なら学生が主体となって進めるはずの卒論・修論ですが、マイペースに進めている卒論生・修論生本人よりも、教員側のほうが緊張感を高く持つ(持たざるをえない)こともしばしばあります。この時期に学生の論文進捗で一喜一憂している大学教員は少なくありません。
ツイッターで研究者や大学教員を多くフォローしていると、そのような声はよく伝わってきます。毎年のように、年の最後の数ヶ月になると卒論に関するつぶやきが多くなります。その内容には「学生がもう卒論の原稿を出してきた」、「よく書けている」などの歓喜の声もあれば、「(10月後半だというのに)学生がまだ卒論のテーマ決めていない」や「データ収集が間に合うのかな」などといった、進捗への心配も少なくありません。ときには、「卒論原稿にコメントを入れたのに、次に提出した時には全く修正がなされていなかった」のように、指導に対して費やした努力や時間が報われないように感じてしまう出来事もあります。
また、カリキュラムの構成などの理由から、より早い段階の授業中に論文の書き方の指導や研究法についての指導が十分に行われていないことも、残念ながら散見されます。その場合、学生は卒論執筆に必要なトレーニングを積んでおらず、「研究とは何か」に対する理解、研究の進め方、文献の探し方や正しい引用の仕方、アカデミック・ライティングのスキルなど、いろいろな点に不足を感じさせてしまうことが多いです。その状態で卒論生になってしまうと、指導する教員はとても苦労してしまいます。
それでも、ほとんどの教員は精一杯学生と向き合い、卒論生・修論生の指導に力を尽くしています。学生それぞれの進捗状況を常にフォローし、ゼミの全体ミーティングや個別相談ミーティングで細やかに指導を行います。実験や調査のデータを取る学生に対しては、データ収集の指導はもちろん、場合によっては研究費や教員自身の人脈を活用して、データ収集を手伝います。データが集まれば、ベストな解析手法や妥当な解釈について一緒に悩み、仕上がった原稿を何度もチェックしていきます。
これらのプロセスを、指導している学生全員に対して行っていきます。それはとても大変なことで、体力も時間も精神力も多く費やされます。それでもほとんどの教員は精一杯向き合っていきます。
締切日のあとに教員が口にする「今年も全員無事に提出できました」の一言には、どれほどの安堵の気持ちが含まれているかは、少しは伝わりましたでしょうか。その日までに経験したことを全て思い返し、学生と共に努力した成果が形になって仕上がったことが、どれほど嬉しいことであるか。それは、同じ教員の立場になってみると、とてもよく伝わってくるはずです。
研究会やシンポジウム
冬は典型的な学会シーズンとは言えません。さまざまな地方にある大学がほぼ同じような時期に夏休みに入るため、夏には大きな学会が開催されることは多いです。それに対して、12月に大きな国際学会が開催されることはあまり多くありませんが、ローカルの学会や、中規模・小規模の研究会・シンポジウム・学会は開催されます。特に12月の前半は秋学期の忙しさがひと段落するようになり、かつ本格的な年末年始の忙しさまでまだ時間があるなどの理由から、研究者たちも比較的に出張の時間をとりやすいのでしょう。
この時期に研究発表を行うことは、年度前半に行った研究活動をまとめ上げ、年度内に論文などの成果物に仕上げたい研究者にとって有利に働きます。そのためか、筆者が知っている冬の学会・研究会・シンポジウムは、発表と議論が活発に行われているものが多く、参加者も積極的であることが多いように見えます。
それぞれのクリスマス
年末の忙しさは、半分はいろいろな締め切りによるもので、半分は私生活のイベントによるものだと思っても間違いないでしょう。
キリスト教系の大学を除けば、クリスマスもただの平日のはず…とはいいますが、やはりなにか特別なお祝いをしてみたくなるものです。研究室でクリスマスパーティをやるゼミも聞いたことはありますが、恋人同士で過ごしたいであろう学生の邪魔をするのは無粋なので、あまり多くはありません。この日は各々が好きなように過ごすことになります。
研究者に関しては、家庭持ち、特に小さな子どもがいる人は、全力で家族とクリスマスを祝うことが多くあります。親となった研究者同士の間では、今年のクリスマスプレゼントをどうするか、子どもが何歳までサンタクロースを信じるか、などの情報交換も行われます。
一方、独身の研究者は自分の時間を楽しむ人もいれば、仲間で集まってパーティまたは飲み会を開催することもあります。しかしクリスマスの夜に大学の廊下を通ると、いつものように夜遅くまで光を灯しつづける研究室も少なからず目に入ります。卒論・修論指導の対応を急いでいる教員もいれば、年末で少しまとまった時間ができた機会に、授業期間中に遅れてしまった論文執筆を行う研究者もいます。
ただ、欧米諸国ではクリスマス休暇をしっかり休む人が多いため、海外の研究者との連絡や論文査読などの仕事は、年末年始の間はあまり進む見込みがありません。それらのタスクを抱えている人にとっては、むしろしっかり休むチャンスかもしれません。
冬休み:つかぬまの休息
その年によって日付はズレますが、日本の大学のスケジュールでは概ね12月28日頃から冬休みに入り、1月4日前後から仕事始めになることが多いです。その間にある、ほんの数日の休日が冬休みになります。
家や研究室を掃除して心機一転するのもよし、1年間を振り返りながら業績リストを更新するのもよし、論文執筆に集中するのもよし、普段目を通す時間のなかった「積読」書や論文を一気読みするのもよし。逆に、年末年始くらいは研究から離れ、漫画、ゲーム、小旅行や趣味に時間を費やすことを選ぶ研究者も少なくありません。
帰省に関しては、研究者は企業勤めの人と比べたらスケジュールが柔軟であることも多いため、例年であれば、年末年始のラッシュ期を避けて帰省時期を決める人は少なからずいます。特に2月後半から3月の、授業や入試などの業務がない春休み期間のほうが、年末年始よりも移動がしやすいため、この時期に帰省を検討する方が都合が良いこともあります。
しかしコロナ禍の影響で、多くの人は長い間自由に帰省できませんでした。今年の冬もまだ第8波の影響がありますが、一時期よりは状況が改善されていますので、今年こそは帰省を検討する人が多くなりそうです。
[文責:LY / 博士(文学)]
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