修士論文や博士論文、卒業論文等の学位論文を執筆している際に必要不可欠なことの一つに、先行研究などの引用があります。
引用の方法はいくつもあり、さらに、引用スタイルによっても細かな違いがあります。
そのため、引用をどのように記述すればよいのか混乱してしまう方もいらっしゃると思います。
本記事では、大学院生&理系学生に特化した就活サイト「アカリク」のアカリクリポーターズが、論文での引用の方法や参照文献の書き方を、様々ある引用スタイル別に詳しく紹介していきます。
自身の論文ではどの引用スタイルを使用すればいいのか、具体的にどのような書き方をすればよいのか、改めて確認し整理していきましょう。
引用とは
引用とは、デジタル大辞泉によれば「人の言葉や文章を、自分の話や文の中に引いて用いること」、つまり自分の論文などで他者の文章や図表などを用いることです。
引用をする場合は、先行研究と自身の研究を区別するためにも、また、読み手が引用元を特定できるようにするためにも、必ず出典を明示しなければなりません。
引用:デジタル大辞泉「引用」
参考:千葉大学 アカデミックリンクセンター「文献を引用する」
レポートや論文における上手な引用の仕方についてはこちらの記事で解説しています。
引用の種類
出典を明示しないまま引用するなど、不適切な引用方法を用いた場合は、盗用とみなされ著作権法違反となってしまうことがあります。
論文を書く際に適切な引用をするために、本文中での引用方法を詳しく見ていきましょう。
文献の引用方法は大きく分けて、
- 直接引用
- 間接引用
の2種類があります。
直接引用とは
直接引用とは、引用元の文章を一字一句変えることなく引用する方法です。
1文以内の短い文章を直接引用する場合は、「」で引用範囲を示し、同じ文章の中に出典を明示します。
(例) 新ストループ検査は、「一定の順序で行ってもそのことが各課題条件の成績に影響を及ぼすことはない」(箱田・佐々木, 1990)ため、~。
2文以上の長い文章を直接引用する場合は、「」を用いるのではなく、引用する文章の前後を一行ずつ空け、引用する文章を字下げすることで引用範囲を示します。
(例) 新ストループ検査は、 直後に,あるいは4週間後に反復実施することによって各課題条件の正答数,ストループ (SI), 逆ストループ干渉率(RI)は増加する,すなわち練習効果は認められるが,最初の実施のデータ と4週間後の反復実施時のデータとの相関によって調べた正答数の信頼性は高い(箱田・佐々 木, 1990, p.44) ものであるため、~。
直接引用は、引用元の表現をそのまま使うことにに意味がある場合に使用します。
多用しすぎると、自分の意見が論文にあまり書かれていないような印象を持たれるため、多用は避けましょう。
参考:上越教育大学 中山研究室「引用のしかた」
参考:千葉大学 アカデミックリンクセンター「文献を引用する 」
参考:中村・近藤・向井 (2017) 「 大学初年次のレポート作成指導で引用をどのように扱うか」
間接引用とは
間接引用とは、引用元の内容を要約して引用する方法です。
引用する文章が長い場合や、直接引用すると読みにくくなる場合、また別の言語で書かれた論文を引用元にする場合などに使用されます。
特に、直接引用と比べて、間接引用を用いた方が自分の論文の文章に組み込みやすくなり、読み手にとっても自然で読みやすい文章になります。
(例) ビッグファイブ ( Big Five personality traits)とは、人格を構成する要素は、外向性、神経症傾向、協調性、勤勉性、経験への開放性の5要因に分けられるとする、パーソナリティの記述モデルである (Goldberg, 1990)。
間接引用するには、引用元の意図する内容を曲げることなく、しかし引用元の文章の表現ではなく自分の言葉で説明することが必要である点に気を付けましょう。
原則孫引きをしてはいけない
直接引用であっても間接引用であっても、引用をする場合に特に気を付けなければならないのが、原則として孫引きを避けるということです。
孫引きとは、引用元がさらに引用している文献を引用することです。
つまり、「引用元が『(引用元が別の文献から引用した文章)』と言っている」と引用した場合、孫引きということになります。
外国語の文献を自力で翻訳するのではなく、日本語訳されたものから引用した場合も孫引きに当たるため、注意が必要です。
アカリクには、孫引きに関する詳しい解説記事があるので、一度目を通してみましょう。
文中での引用元の明示方法
直接引用でも間接引用でも、本文中で引用文献を示す方法は大きく分けて、
- 参照リスト方式
- 参考文献目録方式
の2種類があります。
どちらの方法を用いるかは、所属する大学院や専攻の採用している引用スタイルによって異なります
また、学会誌に投稿する場合であれば、その学会の投稿規定にあわせる必要があります。
そのため、今書いている論文がどのような引用方法を用いるべきなのかを必ず調べておきましょう。
参照リスト方式
参照リスト方式というのは、引用した文章の後ろに、著者名や出版年、ページ数等を括弧内に記述する方法です。
参照リスト方式の引用スタイル
参照リスト方式を採用している引用スタイルには、以下のようなものがあります。
- SIST02 (Standards for Information of Science and Technology 02)
日本語で書かれた科学技術論文で使用される引用スタイルです。
(著者の姓1・姓2・姓3, 出版年) のように、括弧の中に著者の姓と出版年を記します。
日本語で著者の姓を書く場合、カンマではなく中点(・)で区切ります。
- APA (American Psychological Association)
心理学、社会学など社会科学系で主に使用される引用スタイルです。
(著者の姓1, 姓2, & 姓3, 出版年) のように、著者の姓と出版年を記します。
andを&と書くのがAPA方式の特徴です。
直接引用の場合は、出版年の後ろに、引用したページも書いておきましょう。
- MLA (Modern Language Association)
文学、言語学など人文系で主に使用されるスタイルです。
(A and B 20)、(A et al 20) のように、著者の姓とページ数を示します。カンマで区切らない点と出版年を書かない点が特徴的です。
- シカゴ(参照リスト方式)
歴史学・語学など人文系で主に用いられる引用スタイルです。
シカゴ方式には、参照リスト方式と参考文献目録方式の両方があります。
参照リスト方式の場合は、(著者の姓1 and 姓2 出版年, ページ数) のように、著者の姓と出版年の間にはスペースを、出版年とページ数の間にはカンマを打ちます。
参考:ワードバイス「APAスタイルでの文中引用方法と書誌情報の表記」
参考:ワードバイス「MLA Citation Quick Guide」
参考:ワードバイス「各スタイルごとの引用・参考文献スタイルの違い」
直接引用の例
例はすべてSIST02方式で記述しています。
例1. 新ストループ検査は、「一定の順序で行ってもそのことが各課題条件の成績に影響を及ぼすことはない」(箱田・佐々木, 1990)ため、~。
例2. 箱田・佐々木(1990)は、新ストループ検査に関して「一定の順序で行ってもそのことが各課題条件の成績に影響を及ぼすことはない」とした。
例3. 新ストループ検査は、 直後に,あるいは4週間後に反復実施することによって各課題条件の正答数,ストループ (SI), 逆ストループ干渉率(RI)は増加する,すなわち練習効果は認められるが,最初の実施のデータ と4週間後の反復実施時のデータとの相関によって調べた正答数の信頼性は高い(箱田・佐々 木, 1990, p.44) ものであるため、~。
間接引用の例
例はすべてSIST02方式で記述しています。
例1. ビッグファイブ ( Big Five personality traits)とは、人格を構成する要素は、外向性、神経症傾向、協調性、勤勉性、経験への開放性の5要因に分けられるとする、パーソナリティの記述モデルである (Goldberg, 1990)。
例2. Goldberg (1990) は、人格を構成する要素は、外向性、神経症傾向、協調性、勤勉性、経験への開放性の5要因に分けられることを示した。
参考文献目録方式
参考文献目録方式というのは、引用した文章の後ろに番号を振り、脚注または文末脚注で、番号に対応した引用文献が示される方法です。
脚注は引用をした文のページ下に、文末脚注は本文の最後に引用文献リスト内に、それぞれ引用文献が明示されます。
参考文献目録方式を採用している引用スタイルには、以下のようなものがあります。
- バンクーバー
生物学や医学系で主に用いられる引用スタイルです。
(1) など括弧内の数字で番号が振られることが多いですが、ジャーナルによって異なるので、必ず確認しましょう。
- IEEE (Institute of Electrical and Electronics Engineers)
工学系で主に用いられる引用スタイルです。
バンクーバーと同様、[1]など括弧内の数字で番号が振られることが多いですが、ジャーナルによって異なるので、必ず確認しましょう。
- シカゴ(参考文献目録方式)
歴史学・語学など人文系で主に用いられる引用スタイルです。
シカゴ方式には、参照リスト方式と参考文献目録方式の両方があります。
参考文献目録方式の場合は、上付き数字で番号が振られます。
参考:ワードバイス「Vancouver Style Quick Guide | Wordvice」
参考:naist.jp「Writing Papers」
参考:weblogographic.com「脚注と文末脚注の違い(比較表付き)」
引用文献リストの書き方
文中で引用元を示した後は、本文の最後に引用文献リストを設けるのが一般的です。
引用文献リストの書き方は、
- 参照リスト方式・著者名のアルファベット順
- 参考文献目録方式・本文中での引用順
の大きく分けて2種類あります。
繰り返しになりますが、引用文献の書き方は分野ごとで異なります。
今書いている論文がどのような引用方法を用いるべきなのかを必ず調べておきましょう。
参考:千葉大学 アカデミックリンクセンター「文献を引用する | Encourage YOUR Research! 」
参考:ワードバイス「各スタイルごとの引用・参考文献スタイルの違い」
参照リスト方式・著者名のアルファベット順
参照リスト方式では、引用文献リストを筆頭著者の姓のアルファベット順に論文を並べます。
引用スタイルによって引用文献リストの書き方が異なるため、例としてSIST02、APA、MLAの書き方を1つずつ見ていきましょう。
- SIST02
日本語で書かれた科学技術論文で使用される引用スタイルです。
「著者名. 論文名. 誌名. 出版年, 巻, 号, ページ数. ISSN. 」の順に書きましょう。
(例) 箱田・佐々木. 集団用ストル-プ・逆ストループテスト -反応様式,順序,練習の効果(資料). 教育心理学研究. 1990, 38 (4), p. 389-394.
- APA
心理学、社会学など社会科学系で主に使用される引用スタイルです。
「著者名. (出版年). タイトル. 雑誌名, 巻 (号) , ページ数.」の順 に書きましょう。
(例) Goldberg, L. R. (1990). An Alternative “Description of Personality”: The Big-Five Factor Structure. Journal of Personality and Social Psychology, 59, 1216–1229.
- MLA
文学、言語学など人文系で主に使用されるスタイルです。
「著者名. “タイトル.” 雑誌名 巻.号 (出版年): ページ数. 出版形態」の順に書きましょう。
(例)Goldberg, Lewes R. “An Alternative ‘Description of Personality’: The Big-Five Factor Structure.” Journal of Personality and Social Psychology 59 (1990): 1216–1229. Print.
参考:ワードバイス「APA 7スタイルの引用・参考文献自動作成(無料)」
参考: ワードバイス「MLA 7スタイルの引用・参考文献自動作成(無料)」
参考:科学技術情報流通技術基準「参照文献の書き方」(2021年10月31日閲覧)
参考文献目録方式・本文中での引用順
参考文献目録方式では、引用文献リストを本文中での引用順に論文を並べます。
引用スタイルによって引用文献リストの書き方が異なるため、例としてバンクーバー、IEEE、シカゴ(参考文献目録方式)の書き方を1つずつ見ていきましょう。
- バンクーバー
生物学や医学系で主に用いられる引用スタイルです。
「著者名. タイトル. 雑誌名. 出版年;巻(号):ページ数.」の順に書きましょう。
(例) (1) Goldberg LR. An Alternative ‘Description of Personality’: The Big-Five Factor Structure. Journal of Personality and Social Psychology. 1990;59:1216–1229.
- IEEE
工学系で主に用いられる引用スタイルです。
「著者名, “タイトル,” 雑誌名, 巻, 号, ページ数, 出版年」の順に書きます。
(例) [1] L. R. Goldberg,“An Alternative ‘Description of Personality’: The Big-Five Factor Structure,” Journal of Personality and Social Psychology,vol.1, pp. 1216–1229, 1990.
- シカゴ(参考文献目録方式)
文学、言語学など人文系で主に使用されるスタイルです。
「著者名. “タイトル.” 雑誌名, 巻 (出版年): 引用した章全体のページ数.」の順に書きます。
(例) 1. Goldberg, Lewes R. “An Alternative ‘Description of Personality’: The Big-Five Factor Structure.” Journal of Personality and Social Psychology, no.1 (1990): 1217-22.
参考: ワードバイス「バンクーバースタイルの引用・参考文献自動作成(無料)」
参考:ワードバイス「Vancouver Style Quick Guide」
参考: naist.jp「Writing Papers」
まとめ
引用には、異なる種類の引用方法があり、文脈や意図によって使い分けていくことで、より完成度の高い論文を書くことが出来ます。
また、一言に引用といっても、文中での引用元の明示方法や引用文献リストの書き方には細かいルールの違いがあります。
学位論文を書くにあたって、自分の書く論文ではどのような引用方法が適切か、改めて確認してみましょう。
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