近年、あらゆる産業でデジタル技術を用いた業務効率化が求められる中、SaaS(サース)という言葉を耳にする機会が増えています。ただ、「具体的にどのようなビジネスなのか」「研究経験はどの職種で活かせるのか」が分かりにくいと感じている理系大学院生の方もいるのではないでしょうか。
SaaSの事業には、論理的な思考力やデータを扱う力が求められる場面が多くあります。研究で培った力を活かせる職種もあるため、仕組みを知っておくことが企業選びの助けになります。
本記事では、SaaS業界の基礎知識から独自のビジネスモデル、主要な職種、理系院生が就職活動を進めるうえでのポイントまでを、公的機関や企業の公開情報をもとに解説します。
SaaS業界とは?基本的な仕組み
SaaS業界を理解するには、まずSaaSがどのような仕組みで提供されるのかと、従来のソフトウェア提供の形との違いを押さえておくことが大切です。
ここでは、SaaSの定義、身近な例、オンプレミス型や受託開発型との違い、クラウドサービスの3つの分類を整理します。
SaaSの定義
SaaSは「サース」と読み、クラウドサービスの分類の一つです。「Software as a Service」の略で、クラウドサーバー上で稼働するソフトウェアを、インターネット経由でユーザーに提供するサービスの形態を指します。ユーザーは自分の端末にソフトウェアをインストールしなくても、ウェブブラウザやアプリからログインするだけで、必要な機能を利用できます。
データの保存や処理はクラウド上で行われるため、複数人での共同編集やデータの同期がしやすい点が特徴です。また、機能の更新は提供会社が行うため、ユーザーは最新の機能を使い続けられます。このような仕組みから、場所や端末を選ばずに使えるサービスとして、企業の業務で広く利用されています。
身近なSaaSの例
私たちの日常生活やビジネスの場面には、すでに多くのSaaSがあります。代表的な例として、オンライン会議の「Zoom」、ビジネスチャットの「Slack」、クラウド会計ソフトの「freee」、人事労務の手続きをデジタル化する「SmartHR」、法人向け名刺管理サービスの「Sansan」などがあります。
これらはいずれも、ブラウザやアプリからログインして利用するサービスです。個人で使えるものだけでなく、企業の業務を支える法人向けのサービスも多く、こうしたサービスを提供する企業が就職先の候補になります。研究室やアルバイトなどで使っているツールの中にも、SaaSが含まれているかもしれません。なお、本記事で挙げるサービス名や企業名は一例であり、特定の企業を推奨するものではありません。
オンプレミス型との違い
SaaSが広がる以前の主流だった「オンプレミス型」は、自社が保有・管理するサーバーにソフトウェアをインストールして運用する形態です。自社のセキュリティ基準に合わせた設計やカスタマイズがしやすい点が特徴です。一方で、サーバーの調達や構築、バージョンアップのたびの改修・検証など、導入や運用に手間とコストがかかります。
これに対しSaaSは、サーバーの管理や機能の更新を提供会社が行うため、導入企業の技術的・金銭的な負担を抑えやすい形態です。総務省の『令和2年版 情報通信白書』では、クラウドサービスを利用している理由として、「資産、保守体制を社内に持つ必要がないから」が45.9%で最も多くなっています(出典:令和2年版 情報通信白書 企業におけるクラウドサービスの利用動向(総務省))。
受託開発型との違い
受託開発型は、特定の顧客の要望に合わせて個別のシステムをゼロから構築し、納品するビジネスです。納品後に保守運用の契約を結ぶこともありますが、基本的にはシステムの納品に対して対価を受け取る形が中心です。
一方のSaaSは、自社が企画・開発した製品(プロダクト)を、複数の顧客が共同で利用する「マルチテナント方式」で提供するモデルです。多くのユーザーのフィードバックをもとに製品を継続的にアップデートし、その利用の継続に対して対価を受け取ります。このため、SaaSでは、製品を使い続けてもらうための改善や顧客への関わりが、ビジネスの中心になります。
どちらが優れているということではなく、ビジネスの仕組みが異なります。就活では、志望企業がどちらのモデルを中心にしているかを確認しておくと、仕事内容を理解しやすくなります。
SaaS・PaaS・IaaSの違い
クラウドサービスは、提供するレイヤー(層)の違いによって、SaaS、PaaS、IaaSの3つに分類されます。SaaSは、ユーザーがそのまま使える「ソフトウェア」そのものを提供します。
PaaS(Platform as a Service)は、アプリケーションの開発に必要なデータベースや実行環境などの「プラットフォーム」を提供するサービスです。IaaS(Infrastructure as a Service)は、仮想サーバーやストレージ、ネットワークなどの「インフラ」をインターネット経由で提供します。SaaSを構築する際に、IaaSやPaaSが基盤として使われることもあり、それぞれが役割を分担しています。志望企業が、どのようなクラウド基盤の上でサービスを提供しているかを調べると、技術面の理解が深まります。
SaaS業界のビジネスモデル
SaaS業界の大きな特徴は、一度売って終わりではなく、顧客に使い続けてもらうことで収益を積み上げていく点にあります。
ここでは、この収益の仕組みと、SaaSビジネスで使われる指標を整理します。SaaS企業の採用ページや決算資料を読むときにも、これらの考え方を知っておくと理解しやすくなります。
サブスクリプションモデルの仕組み
SaaSビジネスの土台になっているのが、定額の料金を継続的に支払ってもらう「サブスクリプションモデル」です。従来の買い切り型ソフトウェアと比べて、導入時の費用を抑えやすいため、新しい顧客を獲得しやすい面があります。
また、顧客が契約を続けてくれれば、翌月以降の売上が見通しやすくなります。契約期間や更新の仕組みは、サービスによって月単位・年単位などさまざまです。契約数が積み上がるほど売上は大きくなり、上位プランへの移行や利用ユーザー数の追加によって、同じ顧客からの売上を増やすこともできます。
一方で、顧客が解約すれば売上は減ってしまうため、導入後も使い続けてもらうための取り組みが欠かせません。この点が、次に紹介する指標や職種の考え方にもつながっています。
SaaSの課金形態
SaaSの課金設計には、いくつかの代表的な方法があります。1つは、アカウント数や利用量に応じて料金が変わる「従量課金」です。利用状況に見合った料金で使える点が特徴です。
もう1つは「フリーミアム」で、基本機能を無料で提供して利用者を広げ、高度な機能や追加の容量を求める利用者に有料プランを案内する方法です。
実際には、定額のサブスクリプションに従量課金を組み合わせるなど、製品の特性や顧客の使い方に応じて課金形態が選ばれることがあります。志望企業のサービスがどのような料金体系になっているかを調べると、ビジネスモデルへの理解が深まります。料金体系は、サービスの公式サイトの料金ページなどで確認できることが多く、企業研究の材料になります。
SaaSビジネスで重視される指標
SaaSビジネスでは、新しい顧客の獲得と、既存の顧客に使い続けてもらうことのバランスを、数値で確認しながら経営を進めます。そのため、SaaS特有の指標がいくつも使われます。
ここでは代表的な指標として、MRR、ARR、チャーンレート、LTV、CACを紹介します。
MRR
MRR(Monthly Recurring Revenue)は「月間経常収益」で、毎月継続して発生する売上を指します。初期費用など一度きりの売上は含めず、現在の契約状況から見込める、月ごとのベースとなる売上規模を把握するために使われます。
ARR
ARR(Annual Recurring Revenue)は「年間経常収益」で、MRRを12倍して年単位に換算した指標です。年間契約が多い法人向け(BtoB)のSaaSでは、事業の規模や成長のペースを年単位で捉えるために用いられます。
チャーンレート
チャーンレート(Churn Rate)は「解約率」のことです。どれだけ新しい顧客を獲得しても、解約が多ければ収益は積み上がりにくくなります。そのため、SaaSでは解約率を下げる取り組みが重視されており、後述するカスタマーサクセスという職種が置かれる背景にも、この考え方があります。
LTV
LTV(Life Time Value)は「顧客生涯価値」で、1社の顧客が取引を始めてから終えるまでの間に、自社にもたらす利益の総額を指します。計算方法はいくつかあり、簡易的には「顧客単価(ARPU)÷チャーンレート」で推定する方法が知られています。
CAC
CAC(Customer Acquisition Cost)は「顧客獲得コスト」で、新しい顧客を1社獲得するためにかかった広告費、営業活動費、人件費などの総額を指します。LTVとCACの比率(LTV/CAC)は、顧客1社あたりの採算性を見る指標です。
ベンチャーキャピタリストのデビッド・スコック氏は、LTV/CACが3を上回ることを、健全なSaaSビジネスの目安として提唱しました(出典:SaaS Metrics 2.0 – Detailed Definitions(forEntrepreneurs))。同氏は後に、LTVとCACを計算する時期や状況によって解釈が変わると述べており、目安として参考にすることが大切です(出典:LTV:CAC(forEntrepreneurs))。
ホリゾンタルSaaSとバーティカルSaaSの違い
SaaS製品は、対象とする顧客や業務の広さによって、大きく2つのタイプに分けて説明されることがあります。「ホリゾンタルSaaS」は、会計、人事労務、チャットツールなど、特定の部門や機能に特化し、業界を問わず幅広く使われるプロダクトです。
一方の「バーティカルSaaS」は、医療、建設、製造、介護、不動産など、特定の業界に固有の業務の流れに合わせて設計されたプロダクトです。
前者は利用できる業界が広い分、競合する製品も多くなります。後者は、その業界の商習慣や専門知識に合わせた設計が求められるため、業界への理解が重要になります。志望する企業がどちらのタイプなのかを把握しておくと、仕事内容のイメージがつかみやすくなります。
SaaS業界の市場動向
SaaS業界を取り巻く市場の動きを、公表されている調査データから確認します。市場規模の予測は調査会社や調査時点によって異なるため、数値は一例として参考にしてください。
あわせて、DXの推進、法改正への対応、生成AIの組み込みという3つの動きを整理します。
国内市場の規模
富士キメラ総研の調査(2026年10月1日公表)によると、企業向けソフトウェア52品目の国内市場は、2025年度に3兆23億円となり、SaaS/PaaSがけん引する形となりました。2030年度には4兆4,768億円(2025年度比149.1%)に拡大すると予測されており、SaaS/PaaSが市場に占める割合は2030年度に8割強になると見込まれています(出典:企業向けソフトウェア52品目の国内市場を調査(富士キメラ総研 プレスリリース第26106号))。
また、IDC Japanによると、2024年の国内クラウド市場は前年比29.2%増の9兆7,084億円でした。レガシーシステムのクラウド移行の本格化や、AI需要に対応するサービスプロバイダーの大型投資が背景にあるとされています(出典:国内クラウド市場予測を発表(IDC Japan))。なお、この数値はSaaS以外も含むクラウド市場全体のものです。
DX推進による業務効率化ニーズの高まり
企業では、業務の効率化やデジタル化を進めるDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが広がっています。富士キメラ総研は、2025年度の企業向けソフトウェア市場について、業務効率化やDX推進に加え、レガシーシステムの刷新や、場所を問わずシステムを利用できることへのニーズが増え、SaaS/PaaSがけん引したと分析しています(出典:企業向けソフトウェア52品目の国内市場を調査(富士キメラ総研 プレスリリース第26106号))。
同調査では、業務の標準化や運用負荷の軽減、短期間でのシステム導入を求める企業で、従来のパッケージからSaaS/PaaSへの移行が進んだともされています。初期の投資を抑えて、必要なサービスを必要な期間利用できるというSaaSの特徴が、こうしたニーズと合っていると考えられます。
法改正への対応ニーズ
法改正や制度の変更への対応も、企業がSaaSを導入する動機の一つです。例えば電子帳簿保存法では、令和6年(2024年)1月から、電子取引データを保存要件に従って保存することが必要になりました(出典:電子取引データの保存について(国税庁))。また、2023年10月には消費税のインボイス制度が開始されています(出典:インボイス制度特設サイト(国税庁))。
富士キメラ総研は、請求書の受領や保管を行う「請求書受領管理」の市場について、郵送料金の値上げ、インボイス制度への対応、電子帳簿保存法の改正などによる特需が2025年度に一段落した一方、業務効率化やペーパーレスを背景とした新規導入が増え、市場は拡大したと分析しています(出典:企業向けソフトウェア52品目の国内市場を調査(富士キメラ総研 プレスリリース第26106号))。法改正が市場の動きに影響する例と言えます。
生成AIの組み込みが進むSaaSの新たな動向
近年は、SaaSの製品に生成AIの機能を組み込む動きが進んでいます。富士キメラ総研は、生成AIの活用が本格化する中で、ソフトウェアへの機能搭載が進み、機能強化や付加価値の向上に伴う製品の値上げが予想されると述べています(出典:企業向けソフトウェア52品目の国内市場を調査(富士キメラ総研 プレスリリース第26106号))。
具体例として、ラクスは経費精算システム「楽楽精算」で、領収書を選択するとAIが関連データを解析・紐づけして申請伝票を自動で作成する「伝票作成AIエージェント」を、2026年6月16日から提供しています(出典:「伝票作成AIエージェント」を提供開始(ラクス))。
一方で、同調査はノーコード開発の分野について、自然言語の指示だけでアプリを自動生成できるAIエージェントが競合になりつつあると指摘しています。SaaSの価値の出し方は今後も変化していくと考えられるため、志望企業がAIをどのように取り入れているかも、企業研究の観点になります。
SaaS業界の主な職種
SaaS企業では、顧客の獲得から契約後の定着までを、複数の職種で分担して進めることがあります。ここでは、代表的な職種とその役割を紹介します。
職種の名称や役割の範囲は企業によって異なるため、志望企業の採用ページで確認してください。
分業型の組織モデルとは
SaaS企業では、「THE MODEL(ザ・モデル)」と呼ばれる分業型の組織が採用されることがあります。マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスという各プロセスに担当の職種を置き、それぞれが目標とする指標を追いながら、顧客の獲得から定着までを連携して進める考え方です。
リクルートの調査では、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスを「新しい営業職」と定義し、その求人が2019年度比で2.62倍に増加したとされています。背景として、サブスクリプション型のサービスが増え、導入後も持続的に価値を提供することの重要性が高まったことが挙げられています(出典:「新しい営業職」に関する求人と転職の動向(リクルート))。
マーケティング
マーケティング職は、プロダクトの認知度を高め、見込み顧客(リード)の関心を引き、質の高い問い合わせを獲得する役割を担います。広告や展示会などの手段を選び、見込み顧客の関心を高めていく「リードナーチャリング」を行うこともあります。
データをもとに施策の効果を確かめ、改善を重ねていく場面が多く、研究で培ったデータ分析の経験を活かしやすい職種の一つです。マーケティングの範囲(広告運用、コンテンツ制作、イベント企画など)は企業によって異なります。志望企業では、扱う製品の対象顧客や、マーケティングが目標とする指標(問い合わせ数など)を確認すると、仕事内容をイメージしやすくなります。応募の前に、募集要項の業務内容も確認しておきましょう。
インサイドセールス
インサイドセールスは、マーケティングが獲得した見込み顧客に対して、電話やメール、Web会議などを使い、非対面で最初のアプローチを行う内勤の営業職です。
顧客企業の状況や課題をヒアリングし、関係を築きながら、適切なタイミングで商談の機会を設定して、フィールドセールスにつなぎます。
仮説をもとに顧客への問いかけを組み立て、反応から課題を探る進め方は、研究で仮説を検証してきた経験と通じる部分があります。非対面のやり取りが中心になるため、短い時間で要点を整理して伝える力も活かせます。
インサイドセールスの役割や、フィールドセールスとの分担の仕方は企業によって異なるため、募集要項で業務範囲を確認しましょう。応募前に確認しておくと、入社後のイメージとのずれを減らせます。
フィールドセールス
フィールドセールスは、インサイドセールスがつくった商談を引き継ぎ、提案や条件の交渉、契約の締結までを担う営業職です。
顧客企業の課題を理解し、自社の製品でどのように解決できるかを提案する力が求められます。
顧客の課題を整理し、論理的に提案をまとめる点は、研究で課題を整理して説明してきた経験と重なる部分があります。技術的な説明が求められる製品では、専門知識を理解する力が役立つ場面もあります。
営業職に不安がある場合は、インターンシップや社員との面談で、実際の仕事の進め方を聞いてみるとイメージがつかみやすくなります。働き方や評価の仕組みは企業によって異なるため、募集要項や説明会でも確認しておくと安心です。
カスタマーサクセス
カスタマーサクセスは、契約後の顧客企業に能動的に関わり、製品を業務に定着させて、顧客の目標達成を支援する役割です。
問い合わせを受けてから対応するカスタマーサポートとは異なり、利用データをもとに顧客の活用状況を把握し、活用の促進や追加機能の提案を行って、解約の防止や継続利用につなげます。
利用データを分析し、仮説を立てて施策を試す点は、データ分析の経験を活かせる場面です。顧客との対話も多く、相手の状況を理解して説明する力が求められます。
企業によっては、導入支援、活用支援、契約更新や追加の提案など、役割を分けている場合があります。志望企業でカスタマーサクセスがどこまでを担当するのかは、募集要項などで確認しましょう。
エンジニア職
エンジニア職は、顧客の利用状況や要望をデータで把握しながら、プロダクトの改善や新機能の追加を行い、安定して稼働させる役割を担います。担当する領域によって、次のような職種に分かれます。
フロントエンド
フロントエンドエンジニアは、ウェブサイトやアプリケーションのうち、ユーザーが実際に操作し、目にするブラウザ側の部分(UI/UX)の設計・開発を担います。見た目を整えるだけでなく、HTML、CSS、JavaScriptなどによる使いやすさや動作のスムーズさも追求します。
バックエンド
バックエンドエンジニアは、サーバー、データベース、アプリケーションのロジックなど、画面の裏側で動くシステムの設計・構築・運用を担当します。大量のデータを速く、安全に処理する仕組みをつくり、サービスの安定した提供を支えます。
インフラ
インフラエンジニアは、システムの基盤となるサーバーやネットワーク、セキュリティの環境を構築・運用する職種です。クラウドインフラ(AWS、GCP、Azureなど)の設計や運用を担うことも多くあります。
SRE
SRE(Site Reliability Engineering)は、プロダクトの信頼性(拡張性、可用性、性能、監視体制など)を、ソフトウェアエンジニアリングの手法で自動化・向上させる職種です。障害を未然に防ぎ、新機能を安全かつ迅速にリリースできる体制を整えます。
プロダクトマネージャー
プロダクトマネージャー(PdM)は、プロダクトで「なぜ作るのか」「何を作るのか」「どのように価値を高めるのか」を考え、開発の優先順位を決めてチームを導く役割です。
技術的な実現可能性、ビジネス上の戦略、ユーザー体験のバランスを取りながら判断します。
データや調査結果、開発メンバーの意見を整理して判断する点は、研究で複数の情報をもとに方針を決めてきた経験と通じる部分があります。一方で、技術の知識だけでなく、顧客や事業への理解も求められます。
インターンシップや個人開発などで製品づくりの経験を積んでおくと、仕事のイメージがつかみやすくなります。企業によってPdMの役割は異なるため、募集要項で確認してください。
理系大学院生が研究経験を活かせるSaaSの職種
研究で身につけた課題解決の力は、SaaS企業のさまざまな職種で活かせる可能性があります。ここでは、研究経験とつながりやすい職種を3つの観点から紹介します。
専攻や研究内容によって活かし方は異なるため、自分の経験に近いものを参考にしてください。
開発系の職種
大学院で分散システム、データ構造、アルゴリズム、ネットワークなどを学んできた方にとって、バックエンド、インフラ、SREといった職種は、研究経験とつながりやすい領域です。研究室で書いた大規模なシミュレーションコードや、並列処理の知見は、大量のアクセスを処理するSaaSプロダクトの開発や運用で活かせる場面があります。
ただし、本番環境での運用や障害対応など、研究とは異なる経験が求められる点もあります。インターンシップや個人開発を通じて、こうした実務の経験に触れておくと安心です。
研究経験をどのように開発の仕事につなげられるかは、使ってきたプログラミング言語や、扱ったデータの規模などによって変わります。自分の研究で担当した部分を整理しておくと、志望職種との接点を説明しやすくなります。
データ分析系の職種
SaaS企業では、自社製品のログイン状況や機能の利用状況といった行動データを分析し、プロダクトの改善に活かす取り組みが行われています。データサイエンティスト、機械学習エンジニア、データアナリストといった職種があります。
大量の実験データを分析し、統計処理や機械学習モデルを使ってきた経験は、ユーザーが離脱する前兆の検知や、よく使われている機能の特定といった分析の場面で活かせる可能性があります。
データ分析系の職種では、統計や機械学習の知識に加えて、分析結果を事業の判断につなげるために、関係者へ分かりやすく伝える力も求められます。研究での発表や議論の経験は、この点でも役立つ可能性があります。募集要項で、使用するツールや求められるスキルを確認しましょう。
技術とビジネスをつなぐ職種
顧客企業の課題を聞き取り、システムの構成案を提案するソリューションアーキテクトやセールスエンジニア、「何を作るべきか」をデータと論理をもとに決めていくプロダクトマネージャー(PdM)も、研究経験とつながりやすい仕事です。
複雑な課題を整理し、関係者に技術面とビジネス面の両方を分かりやすく伝える場面で、学会発表や共同研究を通じて身につけた対話力や構造化の力が役立ちます。
これらの職種では、技術の知識に加えて、顧客や事業への理解も求められます。インターンシップや社員との面談を通じて、実際の仕事の進め方を確認しておくと安心です。職種名や役割の範囲は企業によって異なるため、募集要項の仕事内容を読み込みましょう。
理系院生の研究経験がSaaS企業で活きる強み
理系大学院生が研究室での活動を通じて身につけた習慣や考え方は、数字をもとに改善を重ねるSaaS企業の仕事と共通する部分があります。
ここでは、研究経験を活かせる強みを3つの観点から整理します。人によって経験は異なるため、自分の経験に置き換えながら読んでみてください。
仮説検証の経験を活かした問題解決力
研究は、問いに対して仮説を立て、それを確かめる実験を設計し、結果をもとに次の行動を決める「仮説検証」の繰り返しです。SaaSの開発やビジネスの現場でも、「この機能を入れれば解約率が下がるのではないか」「このアプローチなら商談につながる割合が上がるのではないか」といった仮説をもとに施策を実施し、データを確認して改善します。
研究で仮説検証を繰り返してきた経験は、この流れに近いものです。面接では、仮説をどう立て、何を根拠に判断し、どう修正したかを具体的に話せると、経験が伝わりやすくなります。研究室での実験計画や、うまくいかなかった結果の検討など、具体的に話せる場面を整理しておくと、面接で伝えやすくなります。
データに基づいて考える定量的思考力
SaaSでは、施策の結果が指標として数値で確認されることが多く、感覚ではなくデータをもとに判断する場面が多くあります。論文や学会発表で、データに基づいて根拠を示してきた経験は、この考え方と通じる部分があります。
また、データをグラフにして課題を見つけるデータリテラシーは、プロダクトの改善や営業活動の振り返りなど、幅広い場面で役立ちます。
データを扱う経験の中身は、研究分野によって異なります。実験データの統計処理、シミュレーション結果の評価、アンケート結果の分析など、自分の研究でどのようにデータを使ってきたかを具体的に振り返ってみましょう。面接では、どの指標をなぜ見たのかを説明できると、考え方の過程が伝わりやすくなります。
複雑な内容を整理して伝える力
学会などで、専門外の聴衆や別分野の研究者に研究内容を分かりやすく説明した経験や、論文を書いた経験は、ビジネスの場面でも役立ちます。SaaS企業では、営業、開発、カスタマーサクセスなど複数の職種が連携するため、共通の認識を持てるように情報を整理して伝える力が求められます。
こうした経験の内容は人によって異なります。ゼミでの発表や研究室内での議論など、自分の経験を振り返って整理してみましょう。職種によっては、資料やドキュメントを通じて情報を共有する場面も多くあります。論文や学会発表のスライドを作った経験は、そうした場面でも活かせる可能性があります。ゼミや研究室内での議論でも、専門が異なる相手に分かりやすく説明する場面があれば、その工夫を振り返っておくとよいでしょう。
代表的なSaaS企業
SaaS業界でのキャリアを考えるうえで、国内外の代表的な企業の事業内容を知っておくと、企業研究の入り口になります。
ここでは、国内外のSaaS企業の例を紹介します。紹介する企業は一例であり、特定の企業を推奨するものではありません。事業内容は変わることがあるため、最新の情報は各社の公式サイトで確認してください。
国内の代表的なSaaS企業
国内の例として、まず「Sansan」があります。法人向けのクラウド名刺管理サービスを提供しており、名刺をはじめとする顧客との接点の情報を、管理・活用できるサービスです。
「マネーフォワード」は、個人向けの家計簿・資産管理アプリや、経理・人事労務などのバックオフィス業務を支える法人向けのクラウドサービス「マネーフォワード クラウド」を展開しています。「freee」は、クラウド会計ソフトや人事労務ソフトなど、法人や個人事業主向けのバックオフィスのサービスを提供しています。
企業のIR情報や採用ページを読むと、事業の方向性や、求める人材について確認できます。無料プランやデモがあるサービスは、実際に使ってみると、ユーザーの視点で理解が深まります。
海外の代表的なSaaS企業
海外の例として、まず「Salesforce」があります。顧客関係管理(CRM)のサービスを提供しており、同社は自社を世界No.1のCRMと位置づけています。2021年7月には、ビジネスチャットサービスを提供するSlack Technologies, Inc.の買収を完了したと発表しました(出典:セールスフォース・ドットコム、Slackの買収を完了(セールスフォース))。
「Adobe」は、PhotoshopやIllustratorなどのクリエイティブツールを、クラウド経由のサブスクリプション形式の「Creative Cloud」として提供しています。「Zoom」は、オンライン会議などのコミュニケーションサービスを提供しています。
海外のSaaS企業では、日本法人で募集している職種や、業務で英語を使う場面が企業によって異なる場合があります。志望企業の日本法人の採用ページで、募集職種や求められるスキルを確認しましょう。
理系院生がSaaS業界を目指す際の就活のポイント
理系大学院生が持つ研究経験は、伝え方によって受け取られ方が変わることがあります。ここでは、SaaS業界を目指す際の準備のポイントを紹介します。
志望する職種や企業によって準備の中身は異なるため、自分に必要なものを選んで取り入れてください。
研究内容をビジネスの価値に結びつけて言語化する
面接では、研究の専門用語をそのまま説明するのではなく、企業の視点に立って「その研究を通じて、どのような力(課題設定力、データの扱い、粘り強く検証する姿勢など)を身につけたか」という形で伝えることが大切です。例えば、「私の研究テーマは○○で、データの異常値から課題の仮説を立て、検証するスキルを磨きました」のように、実際のビジネスの課題やプロダクトの価値への貢献と結びつけて話すと、伝わりやすくなります。言語化の際は、研究の目的、自分が担当した部分、工夫した点、得られた結果を整理すると話しやすくなります。
研究内容の言語化に不安がある場合は、院卒出身のアドバイザーが研究内容の言語化やES添削をサポートする、アカリク就職エージェントを活用する方法もあります。
インターンシップで実務を経験する
インターンシップに参加して、プロダクト開発やデータ分析、あるいはインサイドセールスなどの実務に触れておくと、仕事内容のイメージが具体的になります。実際のビジネスデータの扱い方や現場のスピード感を体験することで、入社後のミスマッチを防ぐことにもつながります。
研修の内容は企業によって異なります。募集している職種や期間、実施形式は、志望企業の採用ページで確認し、早めに準備を進めましょう。インターンシップでの経験は、面接で具体的なエピソードとして話す材料にもなります。インターンシップによっては、選考と関連する場合や、実務に近い課題に取り組む場合があります。応募の前に、募集要項で内容や期間、参加条件を確認しましょう。
個人開発で成果物を公開する
エンジニア職やプロダクト職を志望する場合は、研究で書くコードとは別に、公開できるWebサービスやツールを自分で開発(個人開発)し、成果物として示せるようにしておく方法があります。GitHubなどで設計やソースコードを公開し、どのような課題を解決するためにその技術を選んだのかを、論理的に説明できるようにしておきましょう。
ただし、個人開発は必須ではありません。研究で取り組んだシステムの開発や解析の経験を、課題と工夫を中心に整理して伝える方法もあります。自分の状況に合わせて選んでください。個人開発を行う場合は、規模の大きさよりも、課題の設定、技術の選び方、工夫した点を説明できるかが大切です。短い期間で作れる小さなものから始める方法もあります。
技術ブログで知見を発信する
QiitaやZenn、個人の技術ブログなどで、学んだ技術やつまずいたエラーの解決方法、個人開発の記録などを継続的に発信する方法もあります。自分の「技術への関心」や「インプット・アウトプットの習慣」、「文章で論理的に説明する力」を、面接以外の場でも確認してもらえる材料になります。
ただし、発信は無理のない範囲で続けることが大切です。研究との両立が難しい場合は、研究で学んだ手法の整理や、読んだ論文のまとめなど、小さな内容から始めてみましょう。発信する内容に決まりはありません。研究で使った技術の入門記事や、エラーの解決方法、読んだ論文の要約など、続けやすいテーマを選びましょう。公開する前には、研究室や共同研究先の情報、未発表のデータが含まれていないかを確認することも大切です。
自分に合ったSaaS企業の選び方
SaaS企業といっても、事業の内容や組織の状況はさまざまです。ミスマッチを防ぐために、次の3つの視点から企業を見てみましょう。
企業のフェーズ
企業の成長段階によって、任される範囲や学べる内容は異なります。創業して間もない企業では、仕組みが整っていない分、幅広い業務に関わる機会がある一方、決まった育成の仕組みが少ない場合もあります。事業や組織がある程度整った企業では、先輩の指導のもとで、事業の進め方を体系的に学べることがあります。
また、経済産業省は、スタートアップの人材獲得の手段として、ストックオプションなどのインセンティブ報酬の活用を促すガイダンスを公表しています(2025年2月。出典:スタートアップの成長に向けたインセンティブ報酬ガイダンス(経済産業省))。報酬の仕組みは企業ごとに異なるため、募集要項などで確認しましょう。
技術スタック
エンジニアとして関わる場合は、企業が使っているプログラミング言語やフレームワーク、クラウドなどの「技術スタック」が、自分の関心や強み、研究で使ってきた環境と合っているかを確認します。
技術ブログや採用ページで、使用している技術や開発体制を公開している企業もあります。
企業文化
データや数値(KPI)を重視する文化か、顧客や組織内のコミュニケーションを重視する文化かなど、企業ごとに大切にしている価値観は異なります。
企業の採用イベントや現役社員との面談などを通じて、自分が大切にしたい働き方(主体的に動きたい、データをもとに判断したいなど)と合っているかを確認してみましょう。説明会や面談では、働き方について具体的に質問することをおすすめします。
まとめ|研究経験を活かしてSaaS業界での仕事を考えよう
SaaS業界は、顧客に使い続けてもらうことで収益を積み上げるビジネスモデルを持ち、開発、データ分析、営業、カスタマーサクセス、プロダクトマネージャーなど、さまざまな職種があります。市場の動きとしては、DXの推進や法改正への対応、生成AIの組み込みなどが、SaaSの需要や価値の出し方に関わっています。
研究で培った仮説検証や定量的な思考、分かりやすく伝える力は、SaaS企業の多くの職種とつながりがあります。まずは自分の経験と関心に近い職種を絞り、企業の採用ページやインターンシップで仕事の内容を確かめてみてください。
研究内容の言語化や企業選びに迷ったときは、アカリクのスカウトサービスや就職エージェントも活用してみましょう。


