半導体設計とは、半導体の集積回路を設計することです。集積回路とは、抵抗やコンデンサ、トランジスタなどの電子部品を1枚の基板(チップ)の上に実装したものです。
現在、半導体は様々な製品に利用されることから、半導体設計エンジニアは不足しているといわれています。
今回の記事では、半導体の基礎知識から、半導体エンジニアの仕事内容、求められる能力、適性、資格まで詳しく解説していきます。
半導体とは
物質には電気を通す「導体」と電気を通さない「絶縁体」があり、半導体はその中間の性質を備えた物質です。半導体は温度によって温度によって抵抗率が変化します。低温度ではほとんど電気を通しませんが、温度が上昇するにつれて、電気が通りやすくなります。
また、不純物をほとんど含まない状態の半導体は、ほとんど電気を通しませんが、特定の元素を加えることで電気を通しやすくすることができます。
このような性質が多くの電化製品の制御を行う上で非常に役に立つため、半導体の需要は増加しており、一般社団法人日本半導体製造装置協会によれば、2011年から2020年までの半導体製造装置等の販売高が右肩上がりで増加しており、2021年以降の需要も増加する見込みにあります。
引用:一般社団法人日本半導体製造装置協会「2021年7月発表 半導体・FPD 製造装置 需要予測 (2021 年度~2023 年度)」
また、半導体は以下の製品に使用されています。
- デジタルカメラに使われているメモリ
- スマートフォン、タブレット、PCに使われているCPU
- ビデオカメラに使われているGPU
- 炊飯器、洗濯機に使われているMCU
半導体技術の進化は、製品やシステムの効率化と小型化、そして省エネ化をもたらします。
私たちの生活を安全で快適なものにすると同時に、地球環境に優しい社会の実現にも貢献しています。
また、もののインターネットといわれるIoTやAIの技術とも密接に関わっていることから、半導体が担う役割は今後ますます大きくなっていきます。
半導体設計の仕事
半導体の設計フローについて紹介します。
半導体設計は、概ね次のような工程で進められます。
仕様検討
顧客や製品開発部門とコミュニケーションを取り、半導体の仕様を検討します。
機能、性能、コストなど多角的に検討しながら、仕様書を作成します。
回路設計
回路設計では、機能設計とゲートレベルシミュレーション・仮想配置配線シミュレーションを行います。
機能設計において、電子回路には、論理回路とアナログ回路の2つがあります。
論理回路とアナログ回路は、扱う信号の電圧を離散化するかどうかによって区別されます。
この回路設計によって、使用する電子部品が決まります。
レイアウト設計
設計した回路を実際にレイアウトし、パターン図として形成していきます。
回路設計の時点で記号や線として表していたものを、設計ツールによって実物の面積や太さに直します。
電気信号を視覚的に捉え、意思ある美しいレイアウトを追求します。
試作
実際の電子部品を使って半導体を試作します。
実機評価
製造された試作品の評価を行います。品質保証のためには、徹底したエラーチェックが必要不可欠です。
仕様書に定められた機能や性能を満たしているか、温度や湿度の影響、耐圧、輻射など様々な面から試作品を評価します。
量産
実機評価を満たした半導体はいよいよ量産されます。
半導体設計エンジニアになるために必要なこと
半導体設計エンジニアになる上で特別な資格は必要ありません。しかし、電気・電子の高度なスキルが求められるため、半導体設計エンジニアには、電気・電子工学を専門的に学んできた人が多いです。
もちろん、数学や物理など理系の知識があれば、研修によって実践的なスキルを習得できる企業もあります。
また、半導体設計エンジニアには、専門的な知識以外に、次のような能力が求められます。
- チームで働ける
- 新しい技術をキャッチアップできる
- 英語が得意である
以下、順番に説明いたします。
チームで働ける
1つの半導体を設計するために、多くの技術者が関わることがあります。
そのため、1つの目標に向かって、多様な人々と協力する姿勢、すなわちチームで働けることが求められます。
新しい技術をキャッチアップできる
半導体の技術は、急速に進化しているため、専門的に学んだ知識は仕事の基礎として役立つものの、新しい技術を継続してキャッチアップする力が求められます。
常に、アンテナを張り巡らし、貪欲に情報を収集する姿勢が大切です。
英語が得意である
半導体業界設計に関する最新の情報をいち早く仕入れるためには、英語で発表された学術論文や技術書を読む必要があります。そのため、半導体設計エンジニアには、ある程度の英語力が求められます。
英語を使うときは、文献を読むことが中心になるので、特にリーディングのスキルを磨くことが求められます。
半導体設計エンジニアに向いている人
半導体設計エンジニアに向いている人の特徴として次の2つが挙げられます。
- LSI設計・ソフトウェア開発・AI/IoTシステム開発に興味がある
- これからのイノベーションに挑戦したい
以下で順番に解説していきます。
LSI設計・ソフトウェア開発・AI/IoTシステム開発に興味がある
LSI(large scale integration)とは、集積回路の集積度がさらに高まったもののことです。半導体技術の歴史は、部品の微細化(高性能化)の歴史でもあります。LSIは、現在電池、電気で動くほぼすべての電化製品に使われています。
特に近年では、AIやIoTが注目されていますが、そこでもLSIは活躍しています。
例えば、センサー系で使われるLSIは、温度、圧力、磁力、電波、光などの現実世界の事象をデジタルに変換する重要な素子です。
また、AIの分野では、AI技術に必要な高速処理と処理の自由度を同時に再現するために、小型で消費電力の少ないLSIが使われています。
これからのイノベーションに挑戦したい
半導体の技術は、私たちの生活に欠かせないものです。私たちが普段使っているスマートフォンにも半導体が使われています。
半導体技術の歴史は、部品の微細化(高性能化)の歴史であるため、もし半導体の技術が進化していなければ、私たちはズボンのポケットにスマートフォンを入れることはできなかったかもしれません。
半導体技術の進化によって、これからのイノベーションに挑戦したい方は、半導体設計エンジニアになることも1つの方法です。
半導体設計エンジニアに必要な資格
半導体設計エンジニアになる上で特別な資格は必要ありませんが、「ディジタル技術検定」や「CAD利用技術者試験」は半導体設計エンジニアに求められるスキルと関わりがあるため、半導体設計に関心がある方はこれらの試験に挑戦すると良いでしょう。
ディジタル技術検定
公益財団法人国際文化カレッジが主催するディジタル技術検定は、ものづくりに必要である情報処理から情報制御までの総合的なITの知識を証明する試験です。
半導体の仕組みから回路理論、通信などの基礎知識は、半導体設計エンジニアに必要なスキルであり、ハードウェアとソフトウェアの幅広い範囲から問題が出題されます。
参考:公益財団法人国際文化カレッジ「ディジタル技術検定 – トップ」
CAD利用技術者試験
CAD利用技術者試験とは、一般社団法人コンピュータ教育振興協会が主催するCADオペレータに関する試験です。
半導体設計はCADやCAMなどの設計支援ソフトウェアで行うため、半導体設計エンジニアには、このようなソフトウェアの操作スキルも必要になります。
参考:一般社団法人コンピュータ教育振興協会「CAD利用技術者試験 – ACSP 一般社団法人コンピュータ教育振興協会」
まとめ
今回の記事で紹介した内容を簡単にまとめます。
- 半導体とは、電気を通す「導体」と電気を通さない「絶縁体」の中間の性質を備えた物質のこと
- 半導体設計とは、その半導体の集積回路(電子部品を1枚の基板の上に実装したもの)を設計すること
- 半導体の設計フローは、仕様検討からはじまり、回路設計、レイアウト設計、試作、実機評価、量産という流れになる
- 半導体設計エンジニアは、専門的な知識以外に、チームで働けること、新しい技術をキャッチアップできること、英語が得意であることが求められる
- 半導体設計エンジニアになる上で特別な資格は必要ないが、ディジタル技術検定やCAD利用技術者試験は半導体設計エンジニアに求められるスキルと関わりがある
この記事を読んで半導体設計に少しでも興味を持った方はぜひ進路の選択肢の1つとして検討してみてください。