建築学科を出た人の就職先は、ゼネコンと設計事務所だけではありません。住宅や不動産、製造業、そして自治体の建築職まで、進路は幅広く分かれています。一方、大学院へ進む人の割合となると、全国の統計と個別の大学とでは数えている母集団が違うため、平均から自分の見通しを立てることはできません。
この記事では、就職先の区分がどこまで広がっているのか、大学院進学率をひとつの数字で言えない理由、自治体の建築職が担う仕事、そして令和2年に変わった建築士試験の受験要件までを解説します。
1.建築学科の就職先は建設と設計事務所の外側にも広がっている
建築学科の就職先は、建設と設計事務所に限られません。住宅や不動産、公務員、さらに製造業や運輸にまで進路は分かれています。ただし、どの系統に何人が進んだのかまでは分かりません。大学が公開しているのは企業名と区分だけなので、ここから読み取れるのは人数の内訳ではなく、選択肢がどこまで広がっているかという幅です。
芝浦工業大学は就職先を5つの業種で区分している
芝浦工業大学建築学部建築学科の進路は、総合建設業・設計事務所・住宅建設業・不動産業・公務員/公社の5つに区分されています。総合建設業には大林組、設計事務所には日建設計や隈研吾建築都市設計事務所が並びます。住宅建設業は積水ハウス、不動産業はイオンモールです。公務員/公社の区分に東京都やさいたま市が入っており、民間企業と自治体の双方が進路先になっています。
近畿大学の区分には製造業と運輸/郵便業も入る
近畿大学建築学部の2025年度卒業生の実績は、建設業・製造業・不動産/ディベロッパー・公務員・運輸/郵便業に区分されています。建設業には鹿島建設、不動産/ディベロッパーには阪急阪神不動産、公務員には大阪府が並びます。製造業はYKK APや味の素、運輸/郵便業は西日本高速道路です。建設と公務は芝浦工業大学の実績にも現れる一方、製造業と運輸/郵便業はこちらだけに立てられた区分です。
九州大学工学部の資料は建設・設計事務所・官公庁に分かれる
九州大学工学部の建築学科では、主な就職先が建設・設計事務所・官公庁の3つの系統に分かれます。建設の系統には竹中工務店や住友林業、積水ハウスの名前があり、住宅を手がける企業も同じ枠に入っています。設計事務所は日本設計や三菱地所設計です。官公庁の欄には国土交通省や県庁、市役所が並び、国と地方の双方が進路先になっています。
区分の切り方は大学ごとに違う
3校の実績を見比べると、同じ企業が別の名前の区分に置かれています。積水ハウスは、芝浦工業大学では住宅建設業、九州大学工学部では建設の系統に入っています。住宅を独立させる大学もあれば、製造業や運輸を独立させる大学もあり、区分の粒度はそろっていません。3校の区分を足し合わせて、建築学科全体の平均像をつくることはできないわけです。
設計に関わる職種ではポートフォリオを求められることがある
就職先の系統がどれであっても、設計に関わる職種の選考では、これまでの作品をまとめたポートフォリオの提出を求められる場合があります。求められる様式や提出のしかたは、志望先の募集要項で確かめることになるでしょう。大学の設計課題で残した成果はそのまま素材になりますから、制作物を手元にどう残しておくかも進路の準備の一部です。
あわせて読みたい記事:
2.建築の仕事は意匠・構造・設備・施工・都市計画に分かれる
業種の区分が見えても、その先で何を担うのかまでは決まりません。建築の仕事は意匠、構造、設備、施工、都市計画といった職能に分かれ、どこを担うかで所属する組織も変わってきます。
設計は意匠・構造・設備に分かれる
設計と呼ばれる仕事は、一つの職能ではありません。空間や形を決める意匠、建物が力に耐えるかを扱う構造、電気や空調、給排水を担う設備に分かれています。同じ建物を対象にしていても、扱う対象と必要になる知識は別のものです。研究室や設計課題でどれに時間を使ってきたかは、そのまま志望する職能の手がかりになります。
施工管理は工程・品質・原価・安全を受け持つ
現場で建物をつくる側の仕事が施工管理です。工程、品質、原価、安全という四つの管理を受け持ち、設計された内容を実際の建物として成立させる役割を担います。図面を描く仕事とは日々の作業がまったく違うため、設計と施工のどちらに向かうかは早い段階で考えておく価値があります。
設計事務所には組織系とアトリエ系がある
設計事務所と一口にいっても、その中身は同じではありません。意匠・構造・設備をまとめて手がける組織系と、建築家個人が主宰するアトリエ系に大きく分かれるとされています。どちらを志望するかで、選考で見られるものも、入ってから任される範囲も違ってくるでしょう。事務所の名前を並べる前に、自分がどちらの働き方を想定しているのかを決めておくほうが選びやすくなります。
建築の外側にも専攻が接続する領域がある
建築学科で学んだことが生きるのは、建築の仕事に限りません。インフラ、不動産、IT、コンサルティングなど、専攻の知識が接続する領域は建築の外にもあるとされています。自治体の建築職や建築指導、都市計画を担う部署に進む道も、その一つです。志望先を建設と設計事務所だけに絞ってしまうと、こうした選択肢が視野から外れます。
3.大学院進学率は全国区分と個別大学で大きな開きがある
就職先の系統が見えてくると、次に立つのは学部を出た時点で就職する人がどれくらいいるのかという疑問でしょう。ただし、建築学科の進学率をひとつの数字で言い当てることはできません。全国の統計と個別大学の公表値では、数えている集団がそもそも違うためです。
全国区分の30.6%は土木を含んだ集計
学校基本調査で令和7年3月に卒業した土木建築工学の学生は12,235人で、うち進学者は3,748人、進学率は30.6%でした。同じ区分で就職した人は卒業者の64.9%にあたりますが、この分母には大学院へ進んだ人も入ったままです。工学計の進学率40.4%と並べれば、この区分の30.6%は工学のなかでは低い側に位置します。ただし区分の名称が示すとおり土木の分野も同じ枠に入っており、建築学科だけを抜き出した全国値ではありません。
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 関係学科別状況別卒業者数」
個別大学の公表値では建築学科の82%が大学院へ進学
九州大学工学部の建築学科では、令和7年3月卒業者の大学院進学率が82%でした。全国区分の30.6%と同じ年月をとらえた数字ですが、数えている集団は一つの大学の一学科と、全国の土木建築工学の卒業者という別のものです。どちらかが建築学科の正しい進学率というわけではなく、一方をもう一方の代表値として読むこともできません。
二つの進学率はどちらも志望する分野を示していない
30.6%も82%も、数えているのは進学した人数だけで、その人がどの分野を志望したかは含まれていません。先に見た3校の実績には、学部を卒業した人の進路として設計事務所も挙がっていました。設計に関わる進路は学部を出た段階でも選べるため、大学院へ進むかどうかは志望する分野とは別に決める判断です。その判断の材料になるのは、在籍先の学科が公表している進路実績のほうです。
あわせて読みたい記事:
4.自治体の建築職は独立した職種区分として置かれている
自治体の建築職が担うのは、建築確認の審査や指導、公有建築物の営繕、まちづくりに関わる仕事です。「役所で働く」という一言から想像されるより、職務の中身も配属される部局もはっきり決まっています。大阪府・新潟県・兵庫県の採用情報から、その具体を確かめます。
大阪府は建築確認の審査から府有建築物の耐震化までを担う
大阪府の建築職が担うのは、建築確認申請の審査、開発許可申請の指導、既存建築物の維持管理指導、府有建築物の建替えや耐震化です。試験区分は「技術(高校卒程度)」「技術(大学卒程度)」「技術(社会人等)」の3つに分かれます。配属先は都市整備部住宅建築局(建築指導室、公共建築室)と大阪都市計画局です。申請を受けて審査・指導する仕事と、府が所有する建物そのものを整えていく仕事が、一つの職種の中に収まっています。
新潟県は本庁と地域機関の両方に配属先を置く
新潟県の建築職が担うのは、建築物の確認審査、防災指導、学校や病院などの公共建物の整備です。配属先は、本庁が土木部(都市局建築住宅課、営繕課)と総務管理部(管財課)、地域機関が地域振興局地域整備部になります。本庁の部局と地域機関の双方に配属先が置かれているため、同じ建築職でも働く組織は一つに限られません。
兵庫県は職員個人の担当業務を例として示す
兵庫県の建築職が実際に担当している業務には、景観形成に関する建築物の指定業務、外壁の塗り替えや学校トイレの洋式化といった県有建物の改修工事、設計事務所・施工者・学校のあいだに立つ調整があります。配属先の例は、まちづくり部営繕課、まちづくり部都市政策課、加東土木事務所まちづくり建築課、兵庫県住宅供給公社です。
改修工事の一つひとつは小さく見えても、そこに設計事務所と施工者と利用者が関わる以上、調整そのものが職務の一部になります。ただしいずれも職員個人の担当業務と配属先の例であり、建築職全体の職務を定義したものではありません。
共通して現れる職務の柱は三つに整理できる
3つの自治体に共通して現れるのは、建築確認をはじめとする審査と指導、公有建築物の営繕、都市計画やまちづくりという三つの柱です。そしていずれでも、建築は土木や機械・電気とは別の職種区分として設けられています。職種区分が分かれていることは、採用の段階から建築を専門とする人を対象にした枠が用意されているという意味です。ただし、ここで挙げた柱は三つの自治体から読み取れる範囲であり、全国の自治体に一律の職務が定まっているわけではありません。
出典:大阪府人事委員会事務局「建築職の仕事」
出典:新潟県人事委員会事務局「職種別の仕事内容:建築」
出典:兵庫県人事委員会事務局「職員採用/建築職」
5.実務経験は建築士試験の受験要件ではなく免許登録の要件になった
建築士の資格を得る過程は、試験に合格する段階と、免許を登録する段階に分かれています。令和2年の制度改正で実務経験が置かれたのは後者の側であり、試験そのものは実務経験を積む前に受けられます。
大学を卒業してすぐに受験できる制度に変わった
令和2年の建築士試験から、受験要件だった実務経験は、免許登録までに積んでいればよいことになりました。大学を卒業してすぐに試験に合格し、その後で実務経験を経て免許登録するという順序も認められています。試験に合格した時点と、建築士として登録される時点は、この改正によって切り離されました。学生のうちに準備を進める意味があるのは、この順序が制度として認められているからです。
一級建築士試験は学科と設計製図の二段階
一級建築士試験は、学科の試験と設計製図の試験の二段階に分かれています。国土交通省の公表によれば、令和7年の学科の試験は合格者が4,529人、合格率は16.5%でした。設計製図の試験は、合格者が3,988人、合格率は35.0%です。学科と設計製図では受験する母集団が異なるため、二つの合格率を掛け合わせて最終的な割合を求めることはできません。
出典:国土交通省「令和7年一級建築士試験「学科の試験」の合格者を決定~4,529人の合格者、16.5%の合格率~」
出典:国土交通省「令和7年一級建築士試験「設計製図の試験」の合格者を決定~3,988人の合格者、合格率は35.0%~」
6.建築士試験を受けられるかは卒業時点で取った単位数で決まる
実務経験が登録の要件へ移ったことで、在学中に効いてくるのは指定科目の単位数になりました。何単位取れば受験できるのかは、学校の種類と総単位数によって決まっています。
一級建築士は指定科目30単位が必要で、登録までの年数は総単位数で変わる
4年制の大学等を出た場合、一級建築士の受験には指定科目のうち必須の①〜⑨で30単位が必要です。総単位数は60単位、50単位、40単位のいずれかで区切られており、受験に必要な実務経験は卒業後0年です。ただし免許登録に必要な実務経験は、総単位数に応じて卒業後2年、3年、4年に分かれます。同じ4年制大学を出ても、取った単位数によって登録までの年数が変わります。
出典:公益財団法人建築技術教育普及センター「一級建築士の受験・免許登録時の必要単位数(学校種類別)」
短期大学等では総単位数の区切りが変わる
3年制の短期大学等では、指定科目30単位に加えて総単位数50単位または40単位が区切りになり、受験に必要な実務経験は0年、免許登録に必要な経験は3年または4年です。2年制の短期大学等では、指定科目30単位・総単位数40単位で受験でき、登録には4年の経験が必要になります。受験できる時期は学校の種類で変わらず、変わるのは登録までの年数のほうです。
出典:公益財団法人建築技術教育普及センター「一級建築士の受験・免許登録時の必要単位数(学校種類別)」
二級建築士と木造建築士は必要な単位数の水準が下がる
二級建築士と木造建築士は、大学・短期大学・高等専門学校等であれば総単位数40単位、30単位、20単位のいずれかで受験でき、必要な実務経験は卒業後0年です。免許登録に必要な経験は、単位数に応じて卒業後0年、1年、2年に分かれます。総単位数40単位を満たしていれば、卒業してすぐに登録まで進める計算です。在学中にどの科目を取るかが、資格を得る時期を直接左右します。
出典:公益財団法人建築技術教育普及センター「二級建築士・木造建築士の受験・免許登録時の必要単位数(学校種類別)」
まとめ
建築学科の進路は、平均像を探しても見えてきません。まず自分の学科の実績を確認し、建設・設計・住宅や不動産・公務のどこを軸にするかを決めてください。自治体を考えるなら建築職の採用区分を、設計を志すなら課題で残した制作物のまとめ方を、いまのうちに確かめておきましょう。









