大学院博士後期課程修了者が目指す将来としてまず思いつくのは、大学教授などの教育研究機関や、公的研究機関の研究員などのアカデミックポストではないでしょうか。
しかし、アカデミックポストの倍率は概して高いうえに、“コネ”や運が大きく採用を左右する例もみられます。そこで今回は、アカデミックポストを目指す上で、知っておくべきことや、行うべきことを解説していきます。
アカポスとは「アカデミックポスト」の略
まずアカポスとは、アカデミックポストの略した言葉となります。大学院博士課程修了後は、ポスドクと呼ばれる非常に不安定な雇用形態のなか研究を進めることとなります。
このポスドクと呼ばれる立場の多くの人は、アカデミックポストで将来的に働くことを目標にそれぞれの教育研究機関で研究を行っています。
多くの博士人材が目指すアカデミックポストとは、どのような職業でその倍率はどの程度なのでしょうか。
アカデミックポストとは、大学の教員・公的機関の研究員のこと
アカデミックポストとは、学術研究機関(大学や独立行政法人系の研究機関など)における“任期の定めのない(パーマネント)”研究職のことを特にさします。
例えば大学の場合、教授・准教授・講師および一部の助教などのことをさします。また公的研究機関の場合、国所管の独立行政法人(理化学研究所や農業・食品産業技術総合研究機構など)における研究員のポストのこともさすと考えられます。
ポスドクが目指す先がアカポス
一般に、大学院博士後期課程修了者が修了後そのままパーマネント職である、アカデミックポストのポジションに採用される例は稀です。基本的に、ポスドクと呼ばれる期間を経るのが一般的です。
なおポスドクとは、大学や公的研究機関においておおよそ1年~数年程度の“任期の定めがある”研究員のことをさします。
大学院博士後期課程修了後の一般的なキャリアパスとしては、このようなポスドク職を数か所の研究所で経験した上で、大学や公的研究機関におけるアカデミックポストに採用されるという流れとなります。
このことから、研究機関などにおいてポスドク職として働いている人が目指す先、ある意味ゴールとなるのがパーマネント職であるアカデミックポストと考えられるでしょう。
アカポスの倍率とは
アカデミックポストの倍率は、概して非常に高いです。ほとんどの公募において採用予定人数は1人であるのに対し、数十人から時には100人を超えるような応募があるのが一般的です。
さらに文系のアカデミックポストの場合、博士人材が一般企業に就職する事例が少ないことからこの倍率はさらに高くなる可能性があります。
多くの公募の場合、書類審査などで候補者が数名に絞られたうえで
- 面接
- これまでの研究概要の紹介
- 模擬授業(特に大学の場合)
などを行い、最終的に候補者が1人に絞られていきます。
さらに、このように倍率が高いとされるアカデミックポストですが、ある程度は候補を想定した上で公募が行われます。
また、普段から学内だけでなく学会などで研究者同士のネットワークを広げておくことで、公募への応募を打診されることは実際にあります。
アカポスに就けない人の例
このように、倍率も高く“コネ”が必要とも考えられるアカデミックポストですが、博士後期課程やポスドクの期間における過ごし方によってアカデミックポストに就きやすい人、就きにくい人というのが出てくると考えられます。
ポスドクで就職活動をしていない
まずポスドクの期間中、就職活動をしていない場合に不利になる可能性があります。アカデミックポストを狙うのだから、就職活動はあまり関係ないのではというように考えるかもしれませんが、就職活動はある意味、自分自身の長所・役立てる点を理解し、企業や研究機関などに売り込む活動ともいえます。
このように、自分自身のことを十分に理解出来ていることは民間就職に就職するにしても、アカデミックポストを志すにしても、重要なことであると考えられます。
1か所で長期ポスドク・助教をしている
次に、1か所で長期ポスドク・助教を続けている人も、アカデミックポストを探すにあたり苦労する可能性があります。
この理由としては大きく2点考えられ
- 1か所で長期のポスドクを行うことで、研究の幅が狭まってしまう
- アカデミックポストを紹介してくれる可能性のある人・コネが狭くなってしまう
というようなことがあげられます。やはり複数箇所でポスドクを行うことにより、アカデミックポストに就くにあたって、求人を紹介してもらえる可能性が高くなるという点は重要ではないでしょうか。
出身大学でのみポスドク・助教をしている
また、出身大学のみでポスドク・助教をしているという点も、アカデミックポストを遠ざけてしまう原因となる可能性があります。1か所で長期ポスドクをしている場合と同様に、出身大学のみでポスドクをしている場合、どうしても研究の幅は広がらず博士後期課程で得た知識の延長にしか過ぎない可能性があります。
やはり、アカデミックポストに就いて研究を推進していく立場になることを考えた場合、多様な研究機関での経験が生きるものと考えられることから、機会があれば出身大学以外でポスドク職に就くというようなことも必要でしょう。
論文・共著論文が少ない
論文数も、アカデミックポストを得るには欠かせないポイントです。公募に応募する際の書類には、必ず“業績”に関係する書類の提出が求められ、主要な研究や論文を記載する欄があります。もし同等の能力を持った人材が、1つのアカデミックポストで競合した際、やはり論文が十分にあるかどうかというのは、1つの選考基準になることは間違いなく、論文数が少ないというのは不利になるでしょう。
学会発表はしていても論文が出ていない
研究は、実験・調査を行うのみでなく、その成果を論文として取りまとめるまでを含めて研究と考えるべきです。学会発表も重要ではありますが、業績としてはカウントされないこともあります。やはり学会発表よりも重視されるのは、論文として公表されているか、特に“査読審査を受けた論文”であるかどうかという点が重要です。
査読とは、同一専門分野の研究者が論文の内容を評価・検証することをさしますが、査読に通過しているというのはすなわち、同一分野の専門家が論文の内容についてお墨付きを与えているということもでもあります。
学会で全く質問しない
また、学会における存在感というのも大切かもしれません。学会は業績のためというよりも、学会を通じて自分自身を売り込む場でもあるのではないでしょうか。ポスドクであれ、アカポスであれ、学会における人とのつながりをきっかけに、採用につながることもあると考えられます。
所属先の知名度の高さで自分が偉いと勘違いしている
さらに、アカデミックポストに就くにあたり審査される点は“どこに所属している”や“どこで研究をしてきた”というよりも、あなた自身が出来ることはどのようなことなのかという点ではないでしょうか。すなわち“何の専門家であるのか”というところのほうが、よっぽど重要であると考えられます。
アカポスを目指すためには
確かに、アカデミックポストを得るには、“コネ”が必要であるということや、運が重要という言葉をよく聞くのも事実です。一方、アカデミックポストを得るにあたり、あなた自身が出来ることがないわけではありません。
業績を重ねる
まずは、業績を重ねていくことでしょう。やはり研究者の本業は、実験・調査を行い、その成果を世に広めていくことです。
この業績のなかでも最も重要視されるのは、
- “査読”を受け、公表済みの論文
ではないでしょうか。
なお、論文は数も重要ではありますが、それぞれの質も重要でしょう。論文数を追うがあまり、ハゲタカジャーナルなどに投稿しても、逆に評価を下げる可能性もありますから注意が必要でしょう。
また、業績は“査読”を受けた論文のみが注目されるわけではなく
- 著書
- 受賞歴
- 査読のない論文
- 学会発表
- 外部資金の獲得状況
- 共同研究の実績
などについて、応募書類に記入する欄があるのが一般的です。どの項目についても、日々の実験・調査の積み重ねにより得られるものと考えられることから、日頃からコツコツと実験・調査を行うということが大切なのではないでしょうか。
非常勤講師の経験を重ねる
また、アカデミックポストのなかでも、大学に関係するポストに応募する場合には、非常勤講師の経験も重要です。
大学では、研究のみではなく、学部学生などへの座学教育も重要な業務となります。このことから、大学におけるアカデミックポスト採用の場合、提出書類に教育歴の有無を記す欄が用意されていることが多いです。場合によっては、模擬授業を実施する例もあります(教育歴があれば免除されることもあります)。
そのため、大学教授などを目指す場合においては、非常勤講師として大学における講義を担当することで、教育歴を積んでいくことは重要なことでしょう。同等のキャリアの応募者同士で競う状況なった場合、大学における教育の観点から教育歴を積んでいた結果、有利になるということもあると考えられます。
コネをつくる
しかし、アカデミックポストを得るにあたっては、“コネ”というのも無視できません。募集を行う際、公募をかけるまえからすでに採用予定者がある程度絞れているということはよくある話です。
このように、ポストに空きが出た時に紹介してもらえるようになるには、日頃から所属する学会に顔を出し、多くの先生方とコミュニケーションをとり、まず自分自身のことを知ってもらう必要があるのではないでしょうか。
科研費・PD・DCに応募する
また、公的研究費(科研費など)を獲得する能力があるかも現在は重要です。国立大学における基盤研究費にあたる、国立大学法人運営費交付金についてその一部を各大学法人の実績に応じ、配分率を変動させる運用が始まっており
- 常勤教員当たり科研費受入件数・受入額
- 常勤教員当たり受託・共同研究等受入額
の2項目が評価項目として含まれています。そのため大学としても、運営費交付金をできるだけ多く受け取るために、科研費などの公的研究費を獲得する能力のある人材を欲していると考えられます。
さらに、国立大学法人運営費交付金予算額は、平成16年の1兆2415億円から令和2年の1兆807億円へと徐々に減少しており、そのしわよせとして教員の個人研究費は減少しており、国立大学教員の6割が年間50万円未満であると言われています。このことから、国立大学の場合、外部資金なしには研究どころではない状況に陥っています。そのため研究自体を推進していくにあたっても、外部資金を獲得できる能力も重要となっています。
また、PD・DC1・DC2と呼ばれる特別研究員の申請も有利に働くのではないでしょうか。これらの応募にあたっては、自身の研究内容がいかに社会に役立つかなど記載する必要があり、科研費申請にも共通する部分があります。また、特別研究員の採択率は概して低いことから、研究者としての1つの経歴ともなり、アカデミックポストを得るにあたり1つのアピールポイントにもなると考えられます。
参考:令和2年度国立大学法人運営費交付金 「成果を中心とする実績状況に基づく配分」について
次代を担う研究者をめぐる危機[P29]
必要な資格やスキルを確認し身につける
さらに、アカデミックポストを得るにあたっては、多岐にわたるスキルが必要となるでしょう。なお、分野により必要となるスキルは異なるため、一概に表すことは困難ですが
- 問題発見力や解決能力
- 一定程度の英語力(分野によっては、海外ポスドク経験)
は、どの分野においても必須でしょう。
また、今の時代にアカデミックポストを得るためには
- 博士の学位
は必須となってきているのが現実といえます。
アカポスになる人の年齢は?
アカデミックポストを目指す人材の多くは、大学院博士後期課程を修了後(27歳前後)、数年~10年程度のポスドク経験経たうえで、アカデミックポストに採用されます。実際どの程度の年代の人がアカデミックポストに採用されているのでしょうか。
30代~40代
アカデミックポストに採用される年齢は、30代から40代が大半であると言われています。
国立大学の年齢別の教員数の調査結果によれば、30歳未満で教員になっている割合は非常に低く、平成元年に5.6%、平成25年には1.5%となっています。30歳未満が少ないのは、大学院博士後期課程修了自体が27歳前後であることから当然の結果ともいえます。
一方、問題となっているのは30~39歳の教員数です。平成元年には31.1%であったのが、平成25年には24.5%まで減少しています。この結果は近年、30代のうちにアカデミックポストに就くことができず、40代になってはじめてアカデミックポストに就くような事例が増えてきている証拠であると考えられます。
この原因は、大学院重点化による博士人材の増加に対し、若手研究者のポスト増加が追い付かなかったことに起因すると考えられています。すなわち、アカデミックポストに就くことができず、任期の定めがあり不安定な職であるポスドクを続けざるをえない状況になっているものと考えられます(ポスドク問題)。
関連記事:ポスドク問題とは?仕事内容や給与・課題
さらに、国立大学法人運営費交付金の減少は、常勤教職員人件費を圧迫しており、教職員の雇用の不安定化も懸念されています。
実際に、国立大学法人の経常費用の推移をみると、常勤教職員人件費の割合は平成16年の58.56%から平成26年の46.83%と、10年間に11.73%の減少となったことも、原因の1つとなっている可能性が考えられます。
アカポスは狭き門!広い視野を持ち経歴を積もう
1990年代の大学院重点化による、博士後期課程修了者数の増加や、国立大学法人運営費交付金の減少のあおりを受けた結果、大学における常勤教員(教授・准教授など)や、公的研究機関における研究員をはじめとしたアカデミックポストの倍率は高く、ポストに就くのが厳しいのが現実です。
その結果として、なかなかアカデミックポストに就くことができない“ポスドク問題”にもつながっているものと考えられます。
そのため、大学院博士後期課程修了後、アカデミックポストに就くまでの間に経験することとなるポスドクの期間において、広い視野を持ち多くの経験を積むことが大切でしょう。例えば
- 複数の研究所・研究室でポスドク経験を積む
- 機会があれば、学外のポスドク公募に応募する
- 論文投稿で業績を積む
- 学会発表で業績を積むとともに、自分が進みたい分野の研究者の知り合いを多く作る
- 多少の分野変更や民間企業への就職も含め、広い視野で将来を考える
ようなことが大切となってくるのではないでしょうか。
確かに、1つの公募に対して、数十人~100人といった多く応募があることから、狭き門であるアカデミックポスト。しかしながら、ポスドク期間の過ごし方次第では、アカデミックポストに就ける可能性も高まると考えられることから、今の期間を無駄にせずできることから行動していきましょう!