The 17th IEEE TOWERS アカリク賞 受賞者インタビュー!

博士の日常

The 17th IEEE TOWERS (Transdisciplinary-Oriented Workshop for Emerging Researchers)(2020年11月28日 オンライン開催)にて、アカリク賞を受賞した中央大学M2の若松康太さんにインタビュー取材いたしました。蠕動(ぜんどう)運動するソフトロボットの研究開発の面白さや将来性を語っていただきました!

1_若松康太

<若松康太さんのプロフィール>
【所属先】中央大学大学院 理工学研究科 精密工学専攻 バイオメカトロニクス研究室(中村研究室)博士前期課程 2年(受賞当時)

【受賞テーマ】“Content Detection for Continuous and Efficient Production by Peristaltic Mixer”(蠕動運動型ポンプによる連続的かつ効率的な製造に向けた内容物検知)

【表彰理由】ロケット燃料の製造工程の課題を解決するために、動物の腸の動きを参考にした固形燃料製造装置をJAXAとともに開発され、バイオメカトロニクスの研究分野の中でも、生産技術や宇宙開発まで裾野が広い研究をされました。他の研究では機械学習も用いるなど、多様性と学際性に秀でており、弊社ミッションの「知恵の流通の最適化」に適う研究であると評価いたしました。

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今回The 17th IEEE TOWERSで発表された研究について改めて教えていただけますか?

今回は2件の発表を行いましたが、どちらも蠕動運動という腸などの動きを模した、汎用性の高いポンプロボットに関する研究の成果について発表しました。ポンプなので物を搬送するのですが、その際の時系列情報から搬送対象の物性を調べたり、分散的に設置したセンサで混合物の混合度推定を実施しました。学部生時代からこの研究テーマに取り組んできています。

4_国内学会発表(2019)

別の国内学会でのポスター発表の様子(2019年)

今回発表した研究テーマである腸の動きを模したポンプロボットは、幅広い対象に応用できるのが魅力的だと感じています。研究機関や企業との共同研究を広く行っていまして、例えばJAXAとは固体ロケット燃料の製造における応用を一緒に研究していたり、他にも建設現場での掘削土砂の搬送や印刷用トナーの搬送などに応用する研究もしてきました。私は特にポンプロボットの動作制御の効率化やセンシング技術の改善をメインで担当しています。

研究室全体としてはどのような研究課題に取り組んでいらっしゃるのでしょうか?

私の所属する研究室は「バイオメカトロニクス」という生物と機械と電子の領域を組み合わせた学際的領域を大きな対象としています。その中でも特に人間を含む「生物」の運動や機能を模倣することで、極限環境や既存技術における課題を解決することを目指しています。また、それと同時に人間と共存可能なメカトロニクス機器の開発も目指しています。

2_腸運動を規範とした蠕動運動型ポンプ_駆動の様子

ポンプロボットが空気圧により駆動する様子

蠕動運動型ポンプによって解決できる既存技術の課題例としては、「混合搬送」があげられます。実は混ぜながら搬送するという技術は存在していないんです。今までは「混ぜてから、運ぶ」という2段階なのですが、それを「混ぜながら運ぶ」というように同時にできるようになることで、製造上のコストが下がる可能性があります。例えばコンクリートを運ぶミキサー車は既に混ざっているものを運んでいると解釈しています。

そして、JAXAと一緒に研究している固体ロケット燃料の話になると、この「混合搬送」技術がさらに重要になってきます。今までは一度に窯の中で混ぜられる燃料の量には限界があり、さらに混ぜた後に人力で運んで型に入れていました。その一連の作業を混合搬送できるようになることで抜本的にコストカットできると見込まれています。燃料は爆発性のものなので製造時の安全性を高める必要がありますが、私たちのポンプロボットは空気圧で駆動し、燃料と接する部分がゴム素材なので、静電気が生じにくいという大きな利点があります。さらに揉みほぐすような混ぜ方になるので、大きなせん断力を生じさせずに混合や搬送が可能というメリットがあります。

若松さんの研究は制御やセンシングが中心とのことですが、研究室内での作業が多いのでしょうか?

そうですね、私の場合は研究室でやる作業が多いと思います。実際に燃料の製造や燃焼実験は先輩方が取り組んでいたので、その先行研究を引き継いで私は制御やセンシングの領域で研究を進めています。

研究室主宰の中村太郎教授がベンチャー企業を立ち上げていて、そちらでは実際に研究室で開発したロボットを動かせるように取り組んでいます。JAXAと一緒に発表した論文には私が筆頭著者になっているものもあるのですが、学生が本当にファーストオーサーとして取り組むことが元々多い研究室です。外部の研究者とのやり取りも、定期的に進捗をはかるミーティングを行って、論文発表する際は原稿を見てもらうなどしています。特に共同研究は達成までの期間と目標が明確なので、こまめにミーティングで進捗を確認してもらっています。

中村先生は「メリハリをつけて研究生活を送る」ということをおっしゃっており、研究に限らず学生だからこそできる経験ができるようにメリハリつけて生活してきました。自分で決めて、休むときは休む。そういったところで「任せてもらえている」という実感があります。

これまで取り組んできた研究の分野・領域は、今後どのような方向へ発展するとお考えですか?

具体的な話だと、JAXAと共同研究している固体燃料の製造方法の開発については、宇宙産業に貢献すると期待しています。宇宙へロケットを打ち上げるビジネスでは、打ち上げのための燃料製造コストが抑えられることで世の中の需要にもっと応えられるようになります。

もう1つ別の例としては、ソフトロボットという生物規範の研究分野への貢献です。私の取り組んできた研究は別の言い方をすると「機械学習とソフトロボットの融合」なので、ソフトロボットの難解な動きを機械学習の技術で解析することで、今は難しいとされているソフトロボットの制御やセンシングができるようになる可能性があります。その先には「社会と共存するロボット」、例えば柔らかい動きができるロボットの開発に繋がっていくと考えています。

ちなみに機械学習のように多くの情報から答えを出すという仕組みそのものが、生物の神経システムを模している方法なんです。これをソフトロボットと組み合わせられたら、もしかすると実際の生物の腸のメカニズムのさらなる解明にも繋がるのではないかと思います。本物の腸を使って実験するのは難しい場合でも、ソフトロボットなら可能になるかもしれない。そうやってソフトロボットで得られる新たな知見が、生物の体内の深い理解に繋がるかもしれません。

研究室のメンバーはどのような進路を歩まれていますか?

同期のM2は私を含めて9人いますが、そのうち1人は博士課程に進学します。留学生もいたり、企業に就職してから博士課程へ進学してくる方もいらっしゃいます。中村研究室の場合は、新卒学生の多くの方は修士からメーカーに就職していますね。多種多様なモノづくりに携わる会社や仕事についているようです。研究室の活動で実際にロボットを設計開発する人が多いので、製品開発や生産技術に繋がる力が培われています。私自身は制御やセンシングに機械学習を使って取り組んでいるのでちょっと違いますけど(笑)。

コロナ禍で特に困ったことはありましたか?

研究室内でのディスカッションや交流する機会がオンライン中心になったことで、研究に関する議論を気軽にできなかったと感じました。対面だったら気楽に話せることでも、「わざわざチャットツール開いて話すほどのことかな?」と思って、手が止まってしまいますね。

5_国際学会発表(2019)

国際学会での発表の様子(2019年)

研究自体もロボットを実際に触って動かすのができないと進めにくいところがありました。ただその一方でソフトウェアの開発はうまくやっていけたのが幸いでした。それでも好きな時に研究室へ来て、実際にロボットをいじれないと作業しにくいですね。

大学の授業は対面とオンラインが並行していました。研究関連では、ほとんど制限ありませんが、退室しないといけない時刻が基本的に19時となりました。

若松さんは今後どのような道に歩まれるのでしょうか?

修士課程を修了したら企業就職するということは前から決めていました。色々な選択肢がありましたが、私は「人々の生活に寄り添う会社」というのを軸にして選びました。幸いにも自分の経験やスキルをいかせるメーカーに巡り会えました。

内定を頂いた企業の中で、「大きい規模で仕事ができるかどうか」「自分が携わったモノが広く多くの人の手にわたるかどうか」といったことを検討して、うまく当てはまった会社を選びました。直接お話する機会のあった社員や研究室OBの社員との相性が良さそうと感じたことも背景にあります。

ありがとうございました

(インタビューアー:株式会社アカリク 吉野宏志)

※この記事の内容はインタビューが実施された2021年3月当時の情報に基づいています。

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