ヘルシンキ宣言とは?人間を対象とした医学研究で遵守しなければならない倫理的原則について解説

研究・大学生活

「研究倫理」は研究を行う上で非常に重要なものであり、研究倫理に違反している研究は基本的に行えません。

研究倫理については、自信を持って理解していると答えられる大学院生もいれば、正直なところ、あまり理解できていない、という大学院生も多いかと思います。

今回のコラム記事では人間を対象とした医学研究にまつわる研究倫理の歴史を中心に解説していきます。

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人間を対象とした研究倫理の歴史

人間を対象とした研究の倫理の歴史は、第二次世界大戦中の人体実験をきっかけとした「ニュルンベルク綱領」、ニュルンベルク綱領をもとに世界医師会が作成した「ヘルシンキ宣言」、そしてヘルシンキ宣言をより具体化した「ベルモント・レポート」という3つの出来事に分けることができます。

ニュルンベルク綱領

第二次世界大戦中、ナチスドイツの研究者たちは強制収容所に捉えられた捕虜たちに対して非倫理的な人体実験を実施していました。
この反省を踏まえ、人体実験における普遍的な倫理基準として1947年に明文化されたのがニュルンベルク綱領です。

ニュルンベルク綱領では10の要点がまとめられました。簡単に要約すると以下の通りになります。

  1. 被験者の自発的な同意が必要不可欠である
  2. 不必要な実験は行わない
  3. あらかじめ動物実験を行う
  4. 不必要な身体的・精神的な苦痛を避ける
  5. 死や障害が予想される実験は行わない
  6. リスクがリターンを上回ってはいけない
  7. 周到な準備と適切な設備を整える
  8. 科学的有資格者によって行われなければならない
  9. 被験者は自由に実験を中止できなければならない
  10. 被験者に死や障害が及ぶと予想される場合、実験者はいつでも中止できる心構えがなければならない

言われてみれば当たり前のように思うかもしれませんが、ニュルンベルク綱領が明文化される以前はこうした倫理規範もなく、被験者の同意なく残忍な人体実験が繰り返されていました。

参考:福岡臨床研究倫理審査委員会ネットワーク「ニュルンベルク綱領」

ヘルシンキ宣言

ニュルンベルク綱領の明文化を受けて、世界医師会により作成され、1964年に採択されたのがヘルシンキ宣言です。正式には「人間を対象とする医学研究の倫理的原則」と言います。

ヘルシンキ宣言は、「インフォームド・コンセント」という用語が導入されたことでも有名で、人を対象とした医学研究における重要な指針として知られています。

参考:日本医師会「ヘルシンキ宣言

ベルモント・レポート

ヘルシンキ宣言の内容をさらに具体的に落とし込んだものが、ベルモント・レポートです。

1979年にアメリカの「生物医学および行動学研究の対象保護のための国家委員会」により作成されました。

ベルモント・レポートでは、人間を対象とした医学研究における3つの基本的な倫理原則として、「人格の尊重」・「恩恵」・「正義」を定め、この3原則を研究に適用する際に考慮する要件として「インフォームド・コンセント」・「リスク対利益の評価」・「研究対象者の選択」についてまとめられています。

参考:福岡臨床研究倫理審査委員会ネットワーク「ベルモント・レポート

人間を対象とした医学研究(臨床研究)は、これらの宣言・指針に則って実施されています。

研究倫理に則った研究活動とは

これまで、人間を対象とした医学研究における倫理指針が作成されてきた歴史を振り返ってきました。ここからは、実際に私たちが研究活動を実施する上で、どういったことに注意しなければならないのかを具体的に考えていきます。

臨床研究

人間を対象とした医学研究とは、「臨床研究」と言い換えることができるでしょう。

臨床研究を実施する上で極めて重要となるのが、「インフォームド・コンセント」です。

厚生労働省が発表している臨床研究に関する倫理指針では、インフォームド・コンセントについて、以下のように述べられています。

“被験者となることを求められた者が、研究者等から事前に臨床研究に関する十分な説明を受け、その臨床研究の意義、目的、方法等を理解し、自由意思に基づいて与える、被験者となること及び試料等の取扱いに関する同意をいう”

引用:厚生労働省「臨床研究に関する倫理指針

また、ベルモントレポートでは、インフォームド・コンセントを構成する要素として、「情報」・「理解」・「自発性」を挙げています。

ここで述べられている「情報」とは、

  • 研究の方法・目的
  • リスクと期待される利益
  • 代替的な方法
  • 質問の機会や研究参加を撤回する機会がいつでも対象者に与えられているという記述
  • 対象者の選択方法
  • 研究責任者

などを指しています。
臨床研究では上に挙げたような情報を被験者に正しく開示することが求められます。

インフォームドコンセントを構成する要素の2点目は「理解」についてです。

一般的な対人コミュニケーションにも共通して言えることですが、説明が早すぎる、相手が知らない専門用語を多用する、情報を伝える方法が複雑など、相手の理解を妨げるようなことを避けることを意味します。

被験者の知識レベルや年齢、国籍などを考慮して分かりやすい説明を実施することが求められます。

インフォームドコンセントを構成する要素の3点目は 「自発性」についてです。

研究参加への正式な同意は、被験者が自らの自由意思に基づいて自発的に研究に参加することを決定した場合に成立します。

つまり、被験者の意思決定に何らかの強制力や不当な影響があってはなりません。

例えば、権威のある者が研究への参加を促したり、高額な報酬の対価として研究への参加を提示するなどが考えられます。

このように、被験者は十分な「情報」を与えられたうえで、それを「理解」し、「自発的」に研究に参加することが求められます。

参考:日本学術振興会「科学の健全な発展のために

動物実験

大学院生が人間を対象とした医学研究に関わる機会はあまりないかもしれません。

しかしながら、動物を使った研究を行う方は大学院生の中にも多くいるのではないでしょうか。

ヘルシンキ宣言の第21項には、

“人を対象とする医学研究は、一般的に受け入れられている科学的原則に従い、科学的文献の徹底し た理解、その他の関連情報源、研究室での十分な実験と、妥当な場合は、十分な動物実験に基づいていなければならない。研究に使用される動物の福利が考慮されなければならない。”

引用:世界医師会「ヘルシンキ宣言」(邦訳は日本医師会によるもの)

とあります。

また、日本薬理学会の動物実験に関するガイドラインによれば、

“ヘルシンキ宣言のヒトを対象とする医学研究の倫理的原則(2002年追加)第12項に示された「研究に使用される動物の健康を維持し,または生育を助けるためにも配慮」や動愛法に示された動物実験に関する3Rの原則を尊重しなくてはならない”

引用:日本薬理学会「動物実験に関する日本薬理学会指針

とあります。

このように動物実験を実施する際にも守るべき倫理規範があります。

まとめ

このコラムでは、ヘルシンキ宣言に代表される人間を対象とした医学研究における研究倫理について、その歴史と実際の研究活動の際に守るべき事柄をまとめてきました。

研究に関わる大学院生においても、研究倫理についてしっかりと理解した上で、高い倫理観を持った研究者として研究に励んでいただきたいと思います。

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