学部生や修士課程の大学院生の皆さんにとって「就職するか、大学院(修士課程や博士後期課程)に進学するか」というのは大きな決断ではないでしょうか。
ところで、大学院生の収入事情についてはご存じでしょうか?
大学院生たちの暮らし向きを把握することで、進学後のイメージが沸き、不安も和らぐのではないかと思います。
そこで今回のコラムでは大学院生の収入事情を解説します。
大学院生の収入事情
世の大学院生たちは何を収入源に暮らしているのでしょうか?
2020年10月から11月にかけて行われた第11回全国院生生活実態調査によると、自宅生も下宿生も2万円台後半のアルバイト収入を得ています。
これ以外に奨学金と仕送りによる収入があり、これで収入のほとんどとなります。
アルバイト収入についてはコロナ禍の影響を大きく受けている学生が多いようですが、引き続きアルバイトによって収入を得ている学生も少なくありません。
参考:全国大学生活協同組合連合会 全国院生委員会 (2021-06-15) 「第11回全国院生生活実態調査 概要報告」
研究と両立できるかどうか
生活には収入が必要ですが、アルバイトと学校生活との両立が課題となります。
特に大学院生については、授業よりも研究による負担が大きいかと思います。
バイトを増やせば収入は当然増えますが、そう簡単にはいかないのが大学院生といえそうです。
大学院生の収入源
大学院生の収入源としてどのようなものが考えられるでしょうか。
学外で一般に求人がされているアルバイトの他に、学内での ティーチング・アシスタント (TA)や試験監督の仕事、奨学金などが挙げられます。
以下、順にご紹介します。
学外のアルバイト
まずアルバイトです。コロナ禍のあおりを受け、飲食店、特に居酒屋の営業時間は短くなり、それに伴い雇用も減少しています。
筆者の周りでは、授業や研究を切り上げて夜は居酒屋でアルバイトをしているという友人もいましたが、昨今の情勢で求人が少ないようです。
特にコアタイムが設けられている研究室に所属していたり、実験で忙しい大学院生にとってはアルバイトと研究の両立が大変なケースも多いと思います。
筆者の研究室では、コンビニで夜勤をしている先輩がいましたが、シフトの時間までに実験が終わらず、アルバイトの休憩時間に研究室に来て実験を継続するなど、かなり大変そうでした。
大学でのTAや試験監督
学外でのアルバイトが厳しい中、大学でできるTAや試験監督のアルバイトは心強いものです。時給も決して低くなく、大学院生の貴重な収入源になっています。
担当科目の授業に毎回参加し、業務をこなすということになるのですが、1科目担当しても週に1時間半の勤務です。複数科目を担当すれば勤務時間を増やせますが、それでも居酒屋のアルバイトと同等の収入にはなりえません。
そのため、貴重な収入源であるのは間違いありませんが、残念ながらTAで生活していけるような収入は得られません。
奨学金
先ほどご紹介した第11回全国院生生活実態調査においても、多くの大学院生が奨学金によって収入を得ているということが示されています。
ちなみに学部生の場合、学生支援機構の奨学金の審査は扶養者(一般的には両親)の収入と本人の収入を併せた額で行われますが、大学院生は本人の収入で審査されます。
したがって、多くの大学院生が貸与の対象になると考えられます。
ただし,仕送りを受けている場合や配偶者に収入がある場合にはそれらが収入として見なされるので注意してください。
もちろん、貸与型の奨学金には修了後に返還義務があります。
それでも利率は民間の金融機関とは比べ物にならないくらい低いですし、経済的な事情で進学を悩むのであれば、奨学金は重要な選択肢であると言えます。
参考: 日本学生支援機構 「大学院で受ける第二種奨学金の家計基準(在学採用)」
参考: 日本学生支援機構 「第二種奨学金の貸与利率」
日本学術振興会特別研究員
博士後期課程の大学院生が対象となる制度ですが、 日本学術振興会の特別研究員制度(通称:学振)というものもあります。特に「学振」や「DC1・DC2」といった言葉は、大学院生や大学院進学を検討している学部生の方は聞いたことがある人もいるかもしれません。
採択率20%前後と狭き門ではありますが、特別研究員に採用されると月20万円の生活費相当額と研究費が支給されるため、毎月安定した収入が得られ、お金の心配をせずに研究に打ち込むことが出来るようになります。
参考: 日本学術振興会(2021-07-01)「採用状況 | 特別研究員」
大学フェローシップ創設事業
大学院生の収入問題を打開するため、また博士課程に進む学生を増やすため、政府は2020年末にフェローシップ創設事業を打ち出しました。これは採択された大学に文科省から財源を割り当て、学生1人あたり年間200-250万円を支給するという趣旨の事業です。
また、対象の学生は修了後のキャリアパスにつながる支援を受けることができます。
これにより年間千人程度の大学院生が新たに支援を受けることができるようになります。
とはいえ博士課程の学生は全国に1.5万人ほどいますから、選抜に漏れてしまう学生も少なくないのは事実です。こうした動きが今後活発になれば、進学に悩む学生にとって大きな後押しになりますね。
参考:文部科学省 (2020-12) 「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業」
どうやって選抜されるのか?狭き門を勝ち抜くためには?
特別研究員(学振)もフェローシップ事業も選抜を勝ち抜かなくてはなりません。
選抜はものにより異なりますが、一般的には書類審査で自身の研究の独自性や将来の展望をアピールできるかどうかが重要になります。
特に基礎系の研究テーマでは非常に難しいポイントではありますが、日頃から自身の研究と社会との関わりという観点をもって研究を進めていくことが重要です。
学振申請書の作成についてはこちらの記事もチェックしてみてください。
学振申請書作り2021 with Cloud LaTeX
まとめ
今回の記事では大学院生の収入事情についてご紹介しました。
特にフェローシップ創設事業は動き始めたばかりの事業で、今後大学院生の待遇は大きく変化する可能性もあります。
もしあなたが大学院への進学に悩んでいるのであれば、最新の情報にアンテナを張って積極的に情報収集してみてください。