アクチュアリーという職業をご存じでしょうか。
この記事ではアクチュアリーの仕事内容や魅力について紹介いたします。
この記事は、以下の内容に当てはまる方にぜひ読んでいただきたいです。
- 数理系の知識を活かしたい
- 専門性の高い職業に就きたい
- 経営判断に関わる重要な仕事がしたい
- 自律したキャリアを歩みたい
- 出産・育児を経ても、キャリアを途切れさせたくない
- 海外でも活躍したい
多くの人々にとって、未来は常に不確実な要素に満ちています。「万が一」の事故や病気が、ひとりの人生を大きく狂わせることもあります。
アクチュアリーは、将来の出来事の発生確率を評価し、より多くの人を救済する仕組みをつくる職業です。
アクチュアリーとは
アクチュアリーは、日本語では「保険数理士」「保険数理人」のことで、生命保険、損害保険、信託銀行、官公庁など、幅広いフィールドで活躍する数理業務のプロフェッショナルです。確率や統計などの数理的手法を駆使して、保険や年金の料率設定、決算、商品開発、リスク管理などを担います。
また、コンサルティング会社や会計監査法人に所属し、保険や年金に関わるコンサルティング業務や外部監査などの仕事を担当するケースもあります。
近年では、年金事業、共済事業、資産運用など、さらに活躍の場を広げています。
公益社団法人日本アクチュアリー会によると、アクチュアリーは以下のように定義されます。
アクチュアリーとは、確率・統計などの数理的手法を活用して、主に、保険や年金に関わる諸問題を解決する専門職です。
保険会社や信託銀行、官公庁などに所属し、保険や年金の料率設定、決算、商品開発、リスク管理などに携わったり、コンサルティング会社や会計監査法人に所属し、保険や年金に関わるコンサルティング業務や外部監査に携わっています。
引用:公益社団法人 日本アクチュアリー会「アクチュアリー用語集」より
「日本アクチュアリー会」の試験に合格して資格を取得すると、正会員として登録が可能です。正会員になると一定水準の人材と認められるため、活躍の幅を広げられるのが大きなメリットです。
アクチュアリーの活躍分野
アクチュアリーが活躍する分野は、大きく分けて次の4つです。
- 生命保険分野
- 損害保険分野
- 年金分野
- リスクマネジメント分野
ここでは、それぞれの分野でアクチュアリーがどのような業務を担っているのかを紹介いたします
生命保険分野
生命保険は、大勢の人で保険料を負担し合い、保険加入者が死亡する、またはケガを負ったり病気を患ったりした際に、保険金や給付金が支払われる仕組みです。
生命保険を運営する生命保険会社は、保険金や給付金の支払いに関する契約を履行すると同時に、健全な会社経営が求められます。
生命保険分野のアクチュアリーは、会社全体の収支を分析するとともに、適正な保険料の算定や将来の保険金や給付金の支払いに備える準備金の評価などを行います。
損害保険分野
損害保険とは、偶然のリスクによって生じた損害をカバーするための保険です。
自然災害、ケガ、盗難、または損害賠償責任など、リスクに応じて、さまざまな損害保険があります。
リスクの発生頻度・規模はさまざまであり、損害保険分野のアクチュアリーはそれぞれの事故について、その発生頻度や損傷率を統計的に分析しながら、商品開発や商品内容・保険料の設定を行います。
年金分野
年金には、国が管理・運用する「公的年金」と、公的年金に上乗せして企業や個人が任意で加入することができる「私的年金」があります。
私的年金に含まれる「企業年金」には「厚生年金基金」「確定給付企業年金」「企業型確定拠出年金(企業型DC)」の3つの種類があります。
年金分野のアクチュアリーは、企業年金制度を実施する際に、企業のニーズを踏まえた制度を設計し、確率・統計の手法を用いた年金数理計算により掛金を算出するのが主な役割です。また、設計した制度の実施後も定期的に掛金や積立水準の検証も担います。
リスクマネジメント分野
リスクマネジメント分野のアクチュアリーは、エンタープライズ・リスクマネジメント(Enterprise Risk Management;ERM)に関する業務を中心に担当します。ERMとは、リスクマネジメント活動に関する全社的な仕組みやプロセスのことです。
具体的には、将来会社組織が直面する恐れのあるリスクを洗い出し、対策を検討します。
企業が直面するリスクには、情報漏洩リスク、自然災害リスク、システム障害リスク、コンプライアンスリスク、財務・人事リスク、リコールリスクといったさまざまな種類が存在します。
リスクマネジメント分野のアクチュアリーは、こうしたERMに関する業務を担う職種です。
アクチュアリーの求人傾向
保険や年金関連、監査業務やコンサルティングなど、アクチュアリーが求められている分野は年々幅広くなっています。
特に、近年では金融機関のみならず、ITやヘルスケアなどの分野でも、数理的な知見を持つ人材としてアクチュアリーの需要が高まっています。
ここでは、アクチュアリーの求人傾向をより具体的に把握するために、主な就職先や勤務先、そして採用におけるポイントについて詳しくみていきましょう。
主な就職先・勤務先
アクチュアリーが活躍する場は多岐にわたりますが、特に次の業界・機関が主な就職先として挙げられます。
- 生命保険会社
- 損害保険会社
- 信託銀行
- 監査法人
- 公務員(厚生労働省数理職など)
これらの企業・機関では、保険料率の算定、年金制度の設計、リスク評価、商品開発、ERM(全社的リスク管理)など、アクチュアリーが担う専門的な業務が多数存在します。
求人募集の傾向としては、生命保険会社や損害保険会社における数理業務の実務経験を持つ人材や、日本アクチュアリー会の研究会員以上の資格取得者を対象としたものが多い傾向にあります。
大学院生向け求人の探し方
アカリクには大学院生・理系学生に特化した求人が掲載されています。アクチュアリーだけでなく、IT・通信系やメーカー系など、さまざまな業種の求人が掲載されているので、ぜひ探してみてください。

求人の中には、広く募集をするのではなく、ピンポイントで候補者の方と1対1のマッチングをして採用したいというものも多くあります。アカリクでは専門のエージェントがこうした非公開求人を多数扱い、みなさまに個別にご案内しています。
アカリク就職エージェントは企業とあなたの間に立ち、就職をサポートするサービスです。 ひとりひとりに専任のキャリアアドバイザーがつき、あなたに合ったキャリアを一緒に見つけていくことが可能です。ぜひ一度相談してみてください。

アクチュアリーになるためには資格取得を目指そう
アクチュアリーとして本格的にキャリアを築いていきたい方は、公益社団法人日本アクチュアリー会が実施する資格試験に合格し、正会員となることがひとつの大きな目標です。
しかし、実際のところは、資格が未取得でも知識や経験を活かしてアクチュアリー業務に従事している方も少なくありません。特に、数理的な知識が豊富で、実務経験を積んでいる方であれば、正会員でなくても活躍できるケースも多々存在します。
ここでは、アクチュアリーの資格を持っていない状態でも働けるケースや、試験の内容・流れについて詳しくみていきましょう。
業務経験者であれば資格なしでも可能
「アクチュアリーって、資格がないと働けないの?」と思う方も多いかもしれませんが、実は資格がなくても活躍できるケースもあります。
未経験者であったとしても、大学・大学院で数学・統計・金融工学といった数理分野を専攻していて、アクチュアリー資格の取得を目指している場合は、ポテンシャル枠として採用の対象となるケースも珍しくありません。
特に大学院生は、専門的な研究や分析能力に加え、論理的思考力やデータ処理スキルを兼ね備えていることが多く、「実務未経験だが即戦力になりそう」と評価してもらえる可能性が高いといえるでしょう。
例えば、すでに保険会社やコンサルティング会社などで、数理や統計に関わる業務経験がある人の場合、アクチュアリーの資格がなくてもアクチュアリー業務を担当することは可能です。
実際に、「数理スタッフ」や「アクチュアリー補助」といったポジションで働きながら、資格取得を目指している方も多く存在します。
このように、実務経験と数理の知識があれば、資格がない方でもアクチュアリーとして活躍できる可能性が大いにあるのです。
新卒でアクチュアリーを目指す場合の注意点
一方で、新卒のタイミングからアクチュアリーとして活躍したい場合は、まったくの未経験や知識のない状態で挑戦するのは難しいといえるでしょう。
アクチュアリーは「数学・統計・経済」などの専門知識を使う業務のため、大学や大学院でこれらの分野を学んでいることが大前提になるケースがほとんどです。
また、企業によっては「アクチュアリー会の1次試験の一部に合格している」「研究会員として登録している」といった実績を評価ポイントにしている場合も少なくありません。しかし、アクチュアリーの資格取得を目指して学ぶ姿勢があれば、採用されるチャンスは十分あります。
特に、理系の大学院生は、数理モデルを扱った研究やデータ分析の経験がそのまま活かせるケースも多いため、非常に有利といえるでしょう。
アクチュアリーの資格試験について
アクチュアリーとして働くためには、資格取得は必須ではないものの、本格的にこの職業でのキャリアを築きたい場合は、資格の取得は大きな強みとなります。
日本国内では、公益社団法人日本アクチュアリー会の「正会員」になることが、正式なアクチュアリーとしてみなされる一般的な基準とされています。
日本アクチュアリー会は、以下のようにコメントしています。
「アクチュアリーの仕事をしている人」を「アクチュアリー」と呼ぶこともありますが、普通、日本において「アクチュアリー」とは、日本アクチュアリー会の「正会員」を意味します。正会員資格取得のためには、日本アクチュアリー会が毎年実施している資格試験の全科目合格とプロフェッショナリズム研修(初期教育)の受講が必須の要件です。
資格試験を全科目合格するためには、基礎科目となる第1次試験5科目、専門科目となる第2次試験2科目の計7科目に合格する必要があり、全科目合格までには最低でも2年を必要とします。また、「実際にアクチュアリーとして働く」ことを前提としている点も、この資格の特徴です。実際、ほとんどの正会員は、企業でアクチュアリー業務に携わりながら勉強を続け、試験に合格して資格を取得しています。
引用:公益社団法人 日本アクチュアリー会「アクチュアリーになるには」より
正会員資格取得のためには、日本アクチュアリー会が毎年実施する資格試験の全科目合格と、プロフェッショナリズム研修(初期教育)の受講が必要です。
アクチュアリー資格試験の内容
アクチュアリー資格試験は、第1次試験(基礎科目)と第2次試験(専門科目)に分かれています。第1次試験の基礎科目は、「数学」「生保数理」「損保数理」「年金数理」「会計・経済・投資理論」で構成されています。
第2次試験は第1次試験の全科目に合格した人だけが受験可能です。第2次試験はアクチュアリーとしての実務を行ううえで必要な専門知識や問題解決能力を持っているかを判定する試験となっており「生保」「損保」「年金」の3つのコースから1コース2科目を選択します。
なお、試験形式方法は「筆記試験」で、試験は年に1回、12月に東京と大阪で実施されます。
詳細は、公益社団法人日本アクチュアリー会のホームページを参照してください。
アクチュアリー資格試験の合格率
アクチュアリー資格試験の合格率は以下のようになっています。
2024年度の試験の各科目の合格率は、第1次試験の最も低い科目で「損保数理」の17.3%、最も高い「年金数理」でも67.1%、さらに、第2次試験の合格率も各科目20%以下となっており、合格するための難易度はかなり高いことがわかります。そのため、いかに難易度の高い科目を乗り越えることができるかが、合格するポイントです。
【参考】日本アクチュアリー会「日本アクチュアリー会 2024 年度資格試験結果について」
アクチュアリーの将来性
アクチュアリーはAIやデータサイエンスと親和性が非常に高く、これらの技術と組み合わせることによって今後さらに高度な仕事ができるようになると考えられています。そのため、非常に将来性のある職業です。
ここでは、アクチュアリーという職業を、人を相手にする仕事としての将来性、データを解釈する仕事としての将来性、海外でも活躍できる仕事としての将来性といった観点で詳しくみていきましょう。
人を相手にする仕事としての将来性
アクチュアリーは、「ひたすらデータと向き合う仕事」というイメージが強くあるものの、実は人と関わる場面が非常に多い職種です。
アクチュアリーは、お客様との関係構築やオーダーメイドの提案など、人を相手にする業務を担当します。そのため、保険や年金の仕組みについて企業の担当者やクライアントに対してわかりやすく説明したり、要望に応じた提案をしたりすることもアクチュアリーの大切な役割のひとつです。
相手のニーズを汲み取りながら、専門的な内容をかみ砕いて伝えるスキルが求められるため、コミュニケーション力や説明力も大きな強みとなるでしょう。
AIやデータサイエンスが進歩しても、データを的確に解釈してわかりやすく説明し、経営の根幹に関わるような重要な判断につなげていくという部分は、人にしかできない業務領域です。このような観点から、アクチュアリーは、人を相手にする領域の仕事として将来性がある職種といえるでしょう。
データを解釈する仕事としての将来性
データサイエンスによって、使えるデータが増えて、これまで一次元でしか見えなかったものが多次元で見えるようになりました。その結果、これまでは発見できなかった新たな課題を発見できるようになったのです。
膨大なデータの中から価値ある情報を見つけ出し、保険や年金制度、リスク管理などの現場で的確な判断材料を提供する役割を担っています。今後さらに、医療や気候変動、サステナビリティ分野など、数理分析のニーズは多様化していくと考えられています。そのため、アクチュアリーが活躍できるフィールドは、保険業界にとどまらず、今後はさまざまな業界へと広がっていくでしょう。
海外でも活躍できる仕事としての将来性
日本アクチュアリー会の正会員には、リスクマネジメント分野の1つであるERMの国際資格「CERA(Chartered Enterprise Risk Actuary)」の受験資格が与えられます。
CERAは、理論的・実践的なカリキュラムと、専門職としての行動規範を結びつけた、先進的なERM資格です。
CERAとは、世界各国のアクチュアリー会によって締結された協定書に基づいて認定され、各国のCERAは、協定を締結した他国のアクチュアリー会においてもCERA資格保持者と認められます。
近年は、国際CERA協会によるCERA資格の普及活動を通して、CERAの認知度や信頼性は世界で高まってきています。そのため、アクチュアリーは国内を問わず海外でも活躍できる仕事の1つとして将来性のある職業であるといえるでしょう。
【アクチュアリーになるために】大学院で身につけたい5つのスキル
アクチュアリーを目指すうえで、大学院での経験やスキルは大きな強みになります。
特に、英語やIT、論理的思考といったスキルは、就職活動だけでなく、実際に働きはじめてからも活かせるでしょう。
ここでは、大学院生が持っているスキルのなかでも、アクチュアリーとしてのキャリアに役立つスキルを詳しく解説します。
語学力
大学院生のなかには、研究論文を英語で執筆したり、プレゼンを英語で実施したりと、日常的に英語を使用する経験がある方も多いと思います。
このような経験を活かし、英語を含めた語学力を強みにしておくと、就職後の昇進などでも有利にはたらくケースも少なくありません。
大学院での英語の勉強法についてはこちらの記事で解説しています。あわせてご覧ください。
ITスキル
ITスキルに関しては、アクチュアリーだけでなく、どのような仕事においてももはや必須スキルです。
大学院生は研究において、IT機器を少なからず使う場面があり、さらにプログラミングも経験している場合が多いため、そのような経験をしていない場合と比べて、かなり大きなアドバンテージとなるでしょう。
コミュニケーション力
学会発表をはじめとしたさまざまな場所で、人前で発表をする経験をしてきた大学院生も多いでしょう。
ビジネスシーンにおいても、この経験が活かせる場面が多くあります。
また、語学を含めたコミュニケーション力と専門性があることで、採用試験の際に英語面接があった場合などもスムーズに突破できるというメリットもあるでしょう。
論理的思考力
論理的思考力は大学院生が最も得意とするスキルでしょう。
論理的思考力はかなり汎用性が高く、ほとんどの業務で必要となるものです。PDCAサイクルを回したり、納期に合わせたタイムマネジメントをしたりといった管理業務場面でも役立ちます。
数字・統計への理解力
研究を進めるうえで数値計算や統計分析を必要とするケースが多いはずです。それらの分野を専門とする院生は、数字を扱うことへの抵抗感が少ない傾向にあります。
特に理系院生の方であれば、数字に抵抗がないという方がほとんどでしょう。以下の記事では、理系院生の方に向けた「研究職以外」の職業の選択肢を紹介しており、その中でアクチュアリーについても触れています。こちらの記事もぜひ参考にしてみてください。
終わりに
本記事では、数理業務のプロフェッショナルであるアクチュアリーについて紹介しました。
アクチュアリーの資格試験の難易度は非常に高いものですが、それゆえ専門性が高く、将来性のある仕事の1つであるといえるでしょう。
大学院で数学を専門に研究している方はアクチュアリーを将来の選択肢の1つとして検討してみてはいかがでしょうか。






