公募書類を書き始める前に
前回では、海外ポスドクのポストは大まかに以下の3種類に分けられることをお話しました。
- グラントポスドク:グラントを獲得した上で、研究機関に受け入れてもらうポスドク
- 機関ポスドク:研究機関が設けるポジションで雇われるポスドク
- プロジェクトポスドク:大きなプロジェクトのメンバーとして募集されるポスドク
今回は、実際に応募書類を準備する段階の注意点などについてお話します。
自力で研究費を獲得するグラントポスドクは少し別になりますが、機関ポスドクとプロジェクトポスドクに関しては、通常は機関または研究チームから出されている公募に応じて書類を準備する必要があります。そのため、まずは公募の内容、特にJob description, Criteria, Qualificationなどの部分をじっくり読み解かなければなりません。特に以下の点に注意してみると、応募書類の作成時にどのような点に重みを置くべきかが見えてくるでしょう。
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ポストの種類と自由度
まずは機関ポスドクであるか、それともプロジェクトポスドクであるかを確認しましょう。概して機関ポスドクの方が自由度が高く、プロジェクトの方が具体的な仕事が決まっています。ただし、その中でも程度の違いはあるので、どこまで具体的なテーマ・プロジェクトに寄与することが求められているか、逆にどこまで自由に研究テーマを定めたり、「本業」以外のテーマに関与したりすることができるかについて、確認しましょう。
要求される領域
個々の公募では、特定の研究領域に限定されることが多く、場合によってはより細かく研究テーマが制限されることもあります。応募する前には必ず求められる領域・テーマと自分の状況が合うかどうかを確認する必要があります。
ただし、自分の領域にぴったり合致しないといけないわけでもありません。研究関心・手法・対象に共通点が多い近隣分野(例:心理学と行動経済学、マーケティング)にもアプローチすることは十分可能です。また、特に近年では研究領域の壁を破る分野融合型のテーマが推奨されることも多いため、敢えて新しい分野に飛び込むこともできます。
要求される経験とスキル
特にプロジェクトポスドクに当てはまりますが、公募において特定の経験・スキルが求められていることは多々あります。必ずどのような経験(例:大規模実証研究の実施)やスキル(例:統計手法、機材の使用や実験手法)が求められているかについて確認しましょう。
その際、熟練度と即戦力を求められているものと、今後の獲得と成長を期待されているものを区別しておくとよいでしょう。前者をEssential criteria(中心要求)、後者をDesirable criteria(付加要求)としてはっきりと分けている公募もあります。はっきりと分けられていないとしても、羅列される順番や使用される言葉を読み解くことによってヒントを得ることができると思います。
いよいよ書類準備
さて、何が求められているかが分かったので、いよいよ書類作成に入ります。応募するポスドクの種類や応募先によって必要な書類の違いはありますが、共通する書類としては以下のものがあります。今日は履歴書についてお話します。
- 履歴書(CV: curriculum vitae)
- 推薦状
- カバーレター
履歴書(CV: curriculum vitae)
公募の内容を読み解いていると、どのような機関・プロジェクトで、何が求められているポストであるかが見えてくると思います。それを元にCVの方針を決めましょう。
「CVとは何か」を突き詰めて考えると、相手に対する自己紹介になりますが、その目的はコミュニケーションであり、相手を説得することです。その際、いま目の前にいる相手が最も知りたい情報とは何か、最も求めている人とはどういう研究者像であるかを意識することで効率の良いコミュニケーションにつながります。そのためには、自分が持つ能力・スキル・経験がいかに公募に合致するかという点を常に念頭に置く必要があります。
フォーマットは自由に
世界中を見ても、日本ほど書類のフォーマットの画一性にこだわりを持つ文化はなかなかありません。海外ポスドクの公募では、多くの場合は特定のフォーマットを指定することはないため、必要な情報さえ入っていれば、その順番や見せ方、追加情報の出し方などはそれぞれの人の個性の見せ場になります。
とにかく読み手にとって最も重要な情報の要約が、すぐに目に入るところにあり、わかりやすくかつ読みやすく書かれている点を気にかけてください。
英語で履歴書を作ったことがない方は、どこから着手すればいいか迷ってしまうかもしれません。その際は「CV academic」などをキーワードに検索し、ヒットしたテンプレートを複数比較するところからスタートしましょう。いくつか見てみれば感覚を掴むことができ、その上で最も気に入ったテンプレートを選び、それを自分に合うようにカスタマイズすると良いでしょう。ビジネス用のCVを参考にしてももちろん良いですが、アカデミック用のCVとは必要な情報が異なる場合もありますので十分注意してください。
要約と詳細を分ける
参考例として、筆者がオーストラリアのポスドクに応募した時に使用したフォーマットでは、最初に情報の要約を記述し、のちに詳しい情報を提供する方式を取りました。
まずは1ページ目で個人情報、「この人はこのようなな人で、このようなスキル・経験を持っている」ことを5行くらいのSummaryにまとめ、そしてCriteriaと直結するスキル(言語、統計解析、実験手法など)のまとめを提供しました。
実際のCVは下記の図を参照してください。
詳細情報には具体性を持たせる
次のページからは、学歴・職歴などの基本内容を箇条書きで記載しました。その上で、過去に参加したプロジェクトの詳細を、プロジェクトごと・時系列順に羅列しました。プロジェクトの詳細はおおよそ1/4〜1/2ページ前後のボリュームで、プロジェクトのタイトル、PIや共同研究者の名前、プロジェクトの目的、自分がその中で果たした役割などの内容を盛り込みました。
ポスドクに応募する人は、博士号を取って間もない若手研究者がほとんどであり、研究経験が豊富とはいえません。だからこそ、過去の経験からどんなスキルを獲得し、どういう成長を遂げたかについて、具体性を持って示すことが大事だと思います。
無理に盛るよりも具体性で示す
ここまで繰り返し具体性を強調してきましたが、その理由の一つは相手に自分をよく知ってもらうという目的があります。そしてもう一つ重要な目的は、CVの「盛り方」の悩みを解決することにあります。
就活などの場面では時々聞くのは「 (CVを)盛れ」というアドバイスですが、どうすれば良いか悩む方も多いと思います。実力が伴わない嘘の盛り方をしてもすぐにバレてしまいます。また、堅実さ・誠実さが求められるアカデミアの世界では、評価に大きく影響する可能性があるため、無理な盛り方はおすすめできません。
ではどうすればよいのでしょうか?「嘘をつかない盛り方」とは、証拠に基づき自分の長所をアピールすることです。それもあまり簡単なことではなく、特にアジア圏の文化に生きる我々は自己卑下しやすく、自己高揚的な表現が得意ではありません。
だからこそ、具体性が重要となります。
例えば「わたしは統計が非常に得意である」だけでは虚しいですが、「大規模調査の量的データを扱う経験が豊富で、△△の統計モデリングが得意である」というとイメージしやすくなります。さらに「X年〜X年の〇〇のプロジェクトにおいて、XXXX名の対象者から収集した大規模調査データを用いて、△△の統計モデリングで解析をした経験を持つ」になると、より具体性がありますね。
無理して嘘をつくのではなく、自分が研究者として成長してきた痕跡を辿り、その成長に誇りを持ちながら示すことによって、「わたしはこんな研究者だ」というメッセージがうまく伝わるのではないでしょうか?
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[文責・LY / 博士(文学)]
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