ゼネコンに進むか公務員を目指すか、それとも大学院へ進むかで悩んでいる土木工学の学生は少なくないでしょう。
土木系の学科では、大学院へ進む人よりも学部を出て就職する人のほうが多くなっています。令和7年3月卒では、土木建築工学の関係学科の進学率が30.6%、就職率が64.9%でした。ただし、この数値だけで進学か就職かを決めることはできません。施工、設計や計画、公務では仕事の立場も採用条件も異なるため、希望する職域から学位の必要性を考える必要があります。
この記事では、公的な統計で見た土木系の卒業者の進路に加えて、職域ごとの仕事の中身と、同じ建設業のなかでの条件の違いについて解説します。
1.土木・建築系は工学のなかで学部を出て就職する人が多い
土木系の学科は就職が多数派で、その傾向は工学全体の平均よりはっきり出ています。
土木・建築系の進学率は3割で就職率は6割を超える
令和7年3月に土木建築工学の関係学科を卒業した人は12,235人で、そのうち大学院などへ進学したのが3,748人、進学率にすると30.6%でした。就職した人は卒業者の64.9%にあたり、学部を出てそのまま働き始める進路のほうが人数の面では多数派になっています。
なお、この進学率と就職率は、その年の卒業者数を分母として数えた値であり、進路が決まっていない人を含めた全体のなかでの割合です。また、土木建築工学という区分は土木工学と建築学を合わせた集計であり、土木だけを取り出した数値ではないため、ここでは土木・建築系と呼びます。
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 関係学科別状況別卒業者数」
進学率は機械工学や応用化学より低く大学全体の水準より高い
30.6%という進学率が高いのか低いのかは、比べる相手を決めなければ判断できません。同じ令和7年3月卒で、工学の主な学科区分と工学計の進学率は以下のようになります。
- 応用化学 59.3%
- 機械工学 44.5%
- 工学計 40.4%
- 電気通信工学 36.2%
- 土木建築工学 30.6%
工学計の進学率は40.4%、就職率は55.2%なので、土木・建築系は進学率が9.8ポイント低く、就職率が9.7ポイント高い位置にあります。ただし大学の全分野を合わせると進学率は12.0%にとどまるため、工学のなかでは少ない側であっても、大学全体で見れば土木・建築系の大学院などへの進学が珍しいわけではありません。同じ30.6%でも、工学のなかで見るか大学全体で見るかによって読み方が変わります。
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 関係学科別状況別卒業者数」
2.建設業に入る工学系は学部卒が中心で製造業では修士修了が上回る
大学院へ進むほど応募できる企業が増える、という見方があります。ただ、学校基本調査で確認できるのは、応募条件ではなく実際に建設業へ就職した人の学歴別人数です。
令和7年3月に建設業へ就職したのは、学部が21,591人、修士課程修了が2,621人です。このうち工学系を製造業と比較すると、以下のようになります。
| 産業 | 工学系の学部卒 | 工学系の修士課程修了 |
|---|---|---|
| 建設業 | 8,181人 | 1,942人 |
| 製造業 | 12,145人 | 15,696人 |
建設業へ入った工学系は、学部卒8,181人に対して修士課程修了1,942人でした。学部卒が修士課程修了の4.2倍にあたります。製造業では修士課程修了15,696人が学部卒12,145人の1.3倍で、関係が入れ替わっています。建設業では工学系の学部卒に多くの就職実績があることは確認できますが、大学院進学が不要だとまでは判断できません。また、この数値は工学系全体で、土木系学科だけの内訳ではありません。学位の要否は、志望する職種の募集要項で確かめる必要があります。
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 産業別就職者数」
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 修士課程の産業別就職者数」
3.就職先は建設業の内側だけにとどまらない
土木の就職先はゼネコンか公務員かと語られがちですが、土木に関係する仕事には運輸やインフラ、地質調査もあります。以下の産業別人数は工学系全体の実績なので、土木系だけの進路分布ではない点に注意が必要です。
公務と運輸と電気やガスの分野にも工学系の学部卒が進んでいる
令和7年3月に学部を卒業して就職した工学系を産業別に見ると、建設業以外にも就職実績のある産業があります。主な3区分は以下のとおりです。
- 公務(他に分類されるものを除く)2,267人
- 運輸業,郵便業 1,083人
- 電気・ガス・熱供給・水道業 675人
これは就職先の優先順位ではなく、土木系の学生だけを集計した人数でもありません。ただし、公務の技術職や交通・エネルギー設備に関わる仕事も進路の候補になり得ます。候補を探す際は、各企業や自治体の募集職種に土木系の専攻が含まれるかを確認してください。
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 産業別就職者数」
公務へ進んだ工学系の学部卒の8割強は地方公務である
公務員といっても、学部を出た工学系が進んだ先の大半は国ではなく地方公務です。工学系の学部卒2,267人の内訳は、国家公務が393人、地方公務が1,874人で、地方が8割強を占めています。
修士課程を修了して公務に就いた工学系は481人で、学部卒2,267人と比べると規模は小さいままです。採用区分や仕事の中身は自治体によって異なりますが、公務へ就職した工学系の学部卒では地方公務が多数を占めます。
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 産業別就職者数」
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 修士課程の産業別就職者数」
地質調査の会社は建設業の就職者数に含まれない
地質調査を手がける会社は、統計の上では建設業に数えられません。日本標準産業分類では、地質調査業は大分類の「学術研究、専門・技術サービス業」に置かれ、そのなかの土木建築サービス業という小分類に含まれます。
この小分類の細分類である「その他の土木建築サービス業」で内容例示に挙げられているのは、地質調査業、試すい(錐)業(鉱山用を除く)、建築積算業です。そのため建設業の就職者数だけを見ていると、土木に関わる職域の一部が視野から外れます。
出典:総務省「日本標準産業分類(令和5年7月改定) その他の土木建築サービス業」
4.同じ建設業でも総合工事業と職別工事業で条件が違う
建設業をひとつの塊として捉えると、条件を読み違えかねません。産業中分類では、発注者から直接請け負って土木施設や建築物を完成させる総合工事業と、主に下請として工事の一部を受け持つ職別工事業が別に集計されています。
大学卒の25〜29歳で比べると月額にも賞与にも差がある
比べるのは、令和6年の民営事業所に勤める大学卒25〜29歳の一般労働者で、企業規模計10人以上、男女計の平均です。確認するのは、月額の給与と年間の賞与、それに労働時間の内訳です。
| 区分 | きまって支給する現金給与額 | 年間賞与その他特別給与額 | 所定内実労働時間 | 超過実労働時間 |
|---|---|---|---|---|
| 総合工事業 | 約35.7万円 | 約123.8万円 | 166時間 | 21時間 |
| 職別工事業 | 約29.4万円 | 約57.3万円 | 174時間 | 13時間 |
月額にあたるきまって支給する現金給与額の差は約6.3万円、年間賞与その他特別給与額の差は約66.5万円でした。前者は月あたり、後者は年あたりの差なので、大小をそのまま比べられる数値ではありません。きまって支給する現金給与額は月額の支給額で、超過勤務手当を含み、年収ではありません。
労働時間の構成も、総合工事業は所定内が短く超過が長い一方、職別工事業は所定内が長く超過が短くなっています。この差は会社の優劣ではなく、担う工事の範囲と働き方の違いを示す値です。
出典:厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査 一般労働者 産業中分類 第1表 年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(D 建設業)」
30歳を超えると月額の差は縮み賞与の差は残る
この差が年齢とともに同じ形で続くわけではありません。大学卒30〜34歳で見ると、きまって支給する現金給与額は総合工事業が約37.7万円、職別工事業は約35.8万円で、25〜29歳のときより差が小さくなっています。一方で年間賞与その他特別給与額は約136.0万円と約67.3万円となり、差は残ったままです。
平均は年齢や勤続年数の分布に左右されるため理由をひとつに決められませんが、月額と賞与で差の出方が違うことは読み取れます。
出典:厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査 一般労働者 産業中分類 第1表 年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(D 建設業)」
5.志望する会社の区分は規模ではなく主な事業から見当をつける
総合工事業と職別工事業の条件の違いを志望先に当てはめるには、その会社がどの区分の仕事を主にしているかを先に知る必要があります。見当をつける手がかりになるのは、会社の規模や知名度ではなく、その会社が主に手がけている事業です。
工事を完成まで請け負うか一部を受け持つか設計や調査かで区分が分かれる
総合工事業と職別工事業、そして建設業に含まれない事業所の境目は、事業の中身によって次のように分かれます。
- 総合工事業:発注者から直接請け負い、土木施設や建築物を完成させる事業所
- 職別工事業:主に下請として、工事目的物の一部をつくる工事を受け持つ事業所
- 建設業に含まれないもの:建設工事の企画、調査、測量、設計、監督などを行う事業所
日本標準産業分類では、建設コンサルタント業は建築設計業という細分類の事例に挙げられています。地質調査業と同じく、建設業ではなく学術研究、専門・技術サービス業の側に置かれる業種です。
また、区分は事業所ごとに主に行っている活動で決まる統計上の分類であり、会社が自ら名乗るものではありません。志望先の区分を見分けるときも、会社の大きさではなく、主に何をしているかに目を向けることになります。
出典:総務省「日本標準産業分類(令和5年7月改定) 建設業」
出典:総務省「日本標準産業分類(令和5年7月改定) 総合工事業」
出典:総務省「日本標準産業分類(令和5年7月改定) 職別工事業(設備工事業を除く)」
出典:総務省「日本標準産業分類(令和5年7月改定) 建築設計業」
出典:総務省「日本標準産業分類(令和5年7月改定) その他の土木建築サービス業」
土木の会社を主な事業で見分けた例と志望先の確かめ方
上場している会社は有価証券報告書という法定の書類を毎年提出しており、金融庁のEDINETで会社名から検索して「事業の内容」を確認すれば、主に何をしているかが分かります。
| 区分 | 会社 | 主な事業 |
|---|---|---|
| 総合工事業の説明に当たる | 鉄建建設 | 土木工事・建築工事 |
| 総合工事業の説明に当たる | 東亜建設工業 | 建設事業(ほかに建設に附帯する事業、不動産事業、船舶の建造・修理) |
| 特定の工事が主体 | 不動テトラ | 土木事業・地盤改良事業・ブロック事業 |
| 特定の工事が主体 | ライト工業 | 法面保護工事・地盤改良工事を主体とした土木工事業と建築事業 |
| 建設業の外 | 川崎地質 | 建設工事に関連する地質調査・土質調査 |
| 建設業の外 | 建設技術研究所 | 社会資本整備に関する建設コンサルタント業 |
同じ土木の会社でも、主な事業の書き方によって当たる区分が分かれます。総合工事業と職別工事業で比べた給与や労働時間も、会社ごとの値ではなく、当たる区分の平均として扱うことになります。不動テトラとライト工業の区分を「特定の工事が主体」にとどめたのは、職別工事業に当たるかどうかが、主に下請として工事の一部を行うかで決まるためです。
発注者から直接請け負う元請か、元請から工事の一部を請け負う下請かは、事業の内容からは読み取れません。有価証券報告書が見つからない会社は、会社案内に書かれた事業内容で同じ見方をするとよいでしょう。
出典:鉄建建設株式会社「有価証券報告書 第85期(自 2025年4月1日 至 2026年3月31日)」
出典:東亜建設工業株式会社「有価証券報告書 第136期(自 2025年4月1日 至 2026年3月31日)」
出典:株式会社不動テトラ「有価証券報告書 第80期(自 2025年4月1日 至 2026年3月31日)」
出典:ライト工業株式会社「有価証券報告書 第79期(自 2025年4月1日 至 2026年3月31日)」
出典:川崎地質株式会社「有価証券報告書 第75期(自 2024年12月1日 至 2025年11月30日)」
出典:株式会社建設技術研究所「有価証券報告書 第63期(自 2025年1月1日 至 2025年12月31日)」
6.技術検定と技術士試験には在学中から着手できる
資格取得は就職後に行うものと思われがちですが、施工管理の技術検定と技術士の第一次試験は在学中から準備できます。
1級の第一次検定は19歳以上であれば在学中に受検できる
施工管理の技術検定は、令和3年4月1日施行の改正で、それまでの学科試験と実地試験が第一次検定と第二次検定に再編されました。
第一次検定に合格すると「技士補」、第一次検定と第二次検定の両方に合格すると「技士」の称号が与えられます。さらに令和6年4月1日からは受検資格が見直され、1級の第一次検定は当該年度末時点で19歳以上であれば受検できるようになりました。2級の第一次検定は同じく当該年度末時点で17歳以上であれば受検でき、この要件は今回の見直しでも変わっていません。
年齢の要件を満たせばよいため、大学に在学しているあいだに1級の第一次検定を受けられます。
出典:国土交通省「技術検定制度の改正(令和3年4月1日施行)」
出典:国土交通省「「施工技術検定規則及び建設業法施行規則の一部を改正する省令」等の公布~建設業における技術者制度の見直しが行われます~」
JABEE認定課程を修了すると技術士第一次試験が免除される
技術士は、第一次試験で理工系大学卒業程度の専門的学識などを、第二次試験で高等の専門的応用能力を確認する国家資格です。技術部門は建設部門を含む21部門あります。学生の段階で関係するのは第一次試験です。JABEE認定教育課程を修了すると、この第一次試験が免除されます。
第一次試験の合格者またはJABEE課程の修了者は修習技術者となり、日本技術士会に登録すれば技術士補になれます。自分が在籍している課程がJABEE認定課程にあたるかどうかは、進路を決める前に確認しておきましょう。
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7.大学院へ進むかどうかは職域を決めてから判断する
工学系の就職実績だけでは、学位によって応募できる職種がどう変わるかまでは分かりません。大学院へ進むかを考える前に、施工、設計や計画、公務のどこに関心があるかを整理すると、募集要項で確認すべき条件を絞れます。
施工管理と設計や計画と公務の技術職は受け持つ段階と立場が違う
施工管理、設計や計画、公務の技術職は、いずれも公共の土木事業に関わりますが、受け持つ段階と立場が違います。公共の土木事業は、計画・調査、設計、施工、維持管理の段階を踏んで進むのが一般的です。多くの場合、発注する国や自治体、設計や調査を請け負う会社、工事を請け負う会社に役割が分かれます。
| 職域 | 立場 | 主な仕事 | 維持管理での関わり |
|---|---|---|---|
| 施工管理 | 工事を請け負う建設会社の側 | 設計図と仕様をもとにした施工計画、工程・品質・安全・原価の管理による構造物の完成、専門の工事会社や作業員の段取り、発注者や周辺の住民との調整 | 補修工事 |
| 設計や計画 | 設計や調査を請け負う会社の側(主に建設コンサルタント) | 計画の段階での地形や地質、交通、周辺環境の調査と路線や規模の検討、設計の段階での構造物の形と寸法の決定、図面や数量、工事費の見積もりのとりまとめ | 点検・診断と補修設計 |
| 公務の技術職 | 事業を発注する国や自治体の側 | 事業計画の立案、設計や積算、工事の発注と監督(自ら施工はしない) | 計画的な維持補修の立案と発注 |
維持管理には、3つの職域のすべてがそれぞれの立場で関わるのが特徴です。同じ土木の知識を使っていても、事業のどの段階をどの立場で受け持つかによって、日々の仕事の中身は変わります。職域を決めるとは、この段階と立場の組み合わせを選ぶことです。
学位で変わるのは金額の一点ではない
大学院へ進めば給与が上がるという見方は、内訳まで見ると単純ではありません。総合工事業の大学院修了25〜29歳のきまって支給する現金給与額は約39.4万円で、大学卒の約35.7万円との差は約3.7万円です。ただし所定内給与額は約32.0万円と約30.0万円で、差は約2.0万円にとどまり、超過実労働時間は25時間と21時間です。
年間賞与その他特別給与額は大学院修了の約109.4万円に対し大学卒は約123.8万円で逆になり、勤続年数も2.5年と4.3年で違います。学位によって変わるのは月額の総額だけではなく、所定内と超過勤務と賞与のそれぞれに違う形で出ています。
出典:厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査 一般労働者 産業中分類 第1表 年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(D 建設業)」
大学院からも建設業と公務へ進む道はある
令和7年3月に修士課程を修了して建設業へ就職した工学系は1,942人、公務へ就職したのは481人でした。学部卒は建設業8,181人、公務2,267人です。どちらの学歴にも就職実績はありますが、これは工学系全体の人数であり、職種別の採用条件は示していません。
施工管理、設計や計画、公務の技術職から希望する働き方を選び、求人ごとの専攻・学位要件や仕事内容を比べることが、院進を判断する具体的な材料になります。
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査 卒業後の状況調査 修士課程の産業別就職者数」
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8.まとめ
土木・建築系では学部卒での就職が多数派ですが、それだけで大学院進学の必要性は決められません。施工管理なら工事を完成させる立場、建設コンサルタントなら調査・設計を担う立場、公務なら事業を発注・監督する立場になります。希望する立場を選んだうえで、実際の募集要項にある学位要件と、在学中に受検できる資格を照合してください。進学率ではなく、就きたい仕事に必要な準備から逆算することが土木系の進路選択につながります。









