「製薬会社の研究職に就きたいけど、難しそう」
「薬学部じゃなくても製薬会社に入れるの?」
こういった不安を抱いている、製薬会社志望の就活生は多くいらっしゃいます。
製薬会社への就職は競争率が高いと言われています。しかしながら、自分の専門性をアピールすることで薬学部ではなくても製薬会社に入社するチャンスを得ることができます。
今回は、製薬会社に興味がある学生向けに、製薬業界の情勢、製薬会社の研究職になるために必要なこと、薬学以外でも製薬会社で活躍できる研究分野、製薬会社の研究職の種類などについてご紹介します。
この記事を読めば製薬会社への就職を考えるための第一歩になりますので、是非最後まで読んでみてください。
製薬業界の情勢
国内の製薬会社としては、塩野義製薬、第一三共、武田薬品工業、中外製薬などが挙げられます。海外ではファイザーやメルクなどの会社が有名です。新型コロナウイルス関連のニュースで耳にしたことがある会社も少なくないはずです。
日本の医薬品は「医療用医薬品」、「一般用医薬品」、「要指導医薬品」の3つに分類されています。医療用医薬品は病院で医師が患者さんに処方する処方薬のことで、購入には処方箋が必要です。
一般用医薬品と要指導医薬品はいわゆる市販薬で、処方箋がなくても薬局で購入することができるお薬です。さらに、医療用医薬品は、いわゆる新薬と呼ばれる「先発医薬品」と、特許が切れ他のメーカーが製造できるようになった「後発医薬品」(いわゆるジェネリック医薬品)に分けられます。
コロナウイルスのワクチンや治療薬開発でも話題になりましたが、製薬会社の競争は新薬の開発力が鍵を握るとされます。こうした創薬には10年以上の時間と数百から数千億円規模の費用が掛かる一方、成功確率は2万分の1以下と言われています。
これまで生活習慣病関連分野における新薬販売の収益が多くの製薬会社を支えてきましたが、近年ではこれらの特許が切れ、収益が悪化する例もみられます。
このように、重要度を増す創薬分野では、ビッグデータ解析、AI、iPS細胞などといった最新技術を駆使した手法が注目を集めており、創薬系バイオベンチャーと呼ばれる企業も現れています。
創薬業界で高まるデータサイエンティスト需要に関する記事はこちらからご覧いただけます。
他方で、後発医薬品では、東和薬品、沢井製薬、日医工などが知られています。後発医薬品の市場はここ10年で2倍ほどに成長しており、2022年3月の後発医薬品の使用割合は79.3 %に上ります。更には「ジャパンブランド」を打ち出しての海外展開も期待されています。
参考: 厚生労働省(2021-09-13)「『医薬品産業ビジョン2021』の策定について」
参考: 日本取引所グループ(2022-11)「創薬系バイオベンチャー企業について」
参考:厚生労働省(2022-12-2)「保険者別の後発医薬品の使用割合(令和4年3月診療分)」
製薬会社の研究者になるために必要なこと
製薬会社の研究者になるためには条件があります。
具体的には、
- 修士課程を修了していること
- 博士課程を修了していること
- 6年制の薬学部を卒業していること
のいずれかを求められることが多いです。
修士課程修了
製薬会社の研究者になるのであれば、修士課程を修了することが最低限の条件です。
製薬会社の研究職には、製薬に必要な専門知識や問題を解決するスキルが求められます。
薬学部の授業で得られるような、まんべんなく幅広い分野の知識だけでなく、専門的な研究経験も求められます。
そのため、製薬会社に限らず、修士以上の学位を取得していることを研究職の応募条件をとしている企業も少なくありません。
将来製薬会社の研究職に就きたいと考えている場合は、修士課程を修了しておくことが望ましいでしょう。
博士課程修了
化学・薬学系の博士課程修了者であれば、多くの製薬会社の研究職にエントリーできます。
研究に真摯に取り組んでいれば、専門知識と研究スキルが備わっているはずなので、先述の研究職に必要な人材の条件はクリアしていると言えるでしょう。
博士課程での研究は、
①研究テーマを決める
②研究計画を立てる
③テーマの解決方法を考える
④実験を行う
⑤結果の考察・レポート作成
⑥次に行うことを決める
という流れで進めることが多いでしょう。
企業の研究部門においても、大学の研究室と似たような流れで業務をしているため、博士課程修了者の場合、即戦力として活躍できる可能性があります。
また、海外での学会発表や民間企業との共同研究経験もあれば、なおさら企業が欲しい人材に近づくでしょう。
ただし、博士課程で製薬に関連する研究を行ってきたからといって、必ずしも製薬企業から内定がもらえるわけではありません。
一般的に、企業は自社の利益に貢献できるような人材を求めています。
そのため、面接では自分にどのようなことができるかをしっかりとアピールする必要があります。
インターンシップを通じて実際の業務を経験することで、研究での実績をどのように業務で生かすことができるか、アピールしやすくなるかもしれません。
6年制の薬学部を卒業していること
研究職の場合、学部卒では応募条件を満たしていない事も多いですが、6年制の薬学部に通っていた学生は採用の対象になるケースもあります。
医薬品に関する基礎知識など、薬学部でしか学べないことも多く、この点が薬学部の学生が評価されているポイントです。
研究に対する熱意をアピールして、会社に貢献できることを伝えられれば内定が近づくことでしょう。
ただし、企業が研究職として採用する人材に求めているのは、専門的な知識と、研究プロジェクトを管理し自走できる能力であることも多いです。
そのため、たとえ専門的知識を学べる薬学部出身だとしても、学部のカリキュラムだけでは研究の経験が培われにくく、研究職として採用されるのは厳しいかもしれません。
とはいえ、学部卒で研究職の選考を受けられるのは大きなチャンスです。
応募要件を満たしているのであれば積極的にエントリーしてみましょう。
製薬会社の就職が難しい理由
製薬会社への就職は、学部卒や修士だけでなく、博士ですら難しいのが現実でしょう。
難しい理由として、
・募集自体が少ない
・専門性だけではなくコミュニケーション能力も求められる
という点が挙げられます。
募集自体が少ない
製薬会社には研究職も開発職もありますが、募集自体は決して多くありません。
さらに、人気職であることから応募する学生が多く、競争率が高くなっています。
エントリーの倍率は少なくとも10倍〜100倍と言われており、内定を得るにはその中で勝ち残らなければなりません。
内定をもらうためにも、自分の研究にしっかりと取り組みつつ、インターンの参加や業界研究、企業研究、自己分析などの活動も積極的に行うことが必要でしょう。
専門性だけではなくコミュニケーション能力も必要
研究職に就くには、専門分野に精通することも重要ですが、コミュニケーション能力も必要です。
製薬会社の研究部門では、効率よくスピーディーに新しい薬を開発するためにも、違う分野の研究を行っている人たちや別の部門と連携し合って業務を行います。
そのため、報告・連絡・相談はもちろんのこと、自分の研究を知らない人に対しても、研究内容をわかりやすく説明するためのコミュニケーション能力が求められます。
せっかく研究を行う能力があったとしても、コミュニケーションが苦手であれば、面接で不採用になってしまうこともあるでしょう。
そのため、もし苦手な場合は、所属している研究室内での活動のような身近なところからコミュニケーションを意識しておくとよいでしょう。
薬学以外でも製薬会社で活躍できる研究分野
製薬会社では、製薬に関わる専門的な知識と研究スキルがあれば薬学部以外の学生も採用しています。
現在製薬業界では、テクノロジーの進歩や研究の細分化によって、薬学の知識だけで創薬を行うことが困難になっており、各製薬会社でさまざまな専攻の学生を募集しています。具体的にどのような分野が求められているか見ていきましょう。
生物学
製薬会社では、新薬によって人体へどのような影響があるかを知ることが必要になります。
分子生物学、生理学、ゲノム科学などの分野は製薬に大きく関わるため、これらを専門的に研究している生物学科の学生が求められています。
また、製薬会社ではバイオ医薬品の開発も行われています。
バイオ医薬品とは、遺伝子組換えや細胞培養の技術を活用した、たんぱく質が有効成分の医薬品のことです。
バイオ医薬品を作るためには生物系の知識が必要となります。
そのため、生物学系の研究を行っている修士課程、博士課程の学生は就職活動で有利になるでしょう。
分析化学
化学を専攻している学生でも、分析化学の研究を行っているのであれば、採用のチャンスがあります。
分析化学とは、さまざまな物質の特性や構造を分析する学問です。
製薬会社では、医薬品のもとになる物質に対してどのような成分があるかを分析する研究が必要です。
そのため、分析方法の開発や化合物の分析を行う研究をしている大学院生は製薬会社にも不可欠なため、採用している企業が少なくありません。
その他の製薬に関わりのある専門的な研究分野
生物学や分析化学以外でも、製薬と関わりがあれば採用される可能性があります。例えば、工学部の中でも応用化学や、バイオテクノロジーを扱う応用生物工学の専攻出身の研究者もいます。
また、最近では、創薬開発のスピードやコスト削減がより求められており、ビッグデータを扱うデータサイエンティストの募集も多くなっています。
そのため、情報系の学生にもチャンスがあるといえます。
博士課程修了予定者の就活時期について
企業によっては博士採用枠を設けている場合もあります。
博士課程修了予定者は学士や修士の就活とは違い、「3月に説明会開始、6月に選考開始」というような就活ルールがありません。
そのため、一般的に言われている新卒の就活時期とは異なることが多く、注意が必要です。
できるだけ採用される可能性を上げるためにも早い段階で就活をスタートしておきましょう。
製薬会社の研究職の種類
研究職の中にも種類がいくつかあり、主に基礎研究と応用研究に分類されます。
基礎研究
基礎研究では5〜10年後に必要とされるであろう技術の基盤になるような研究を実施します。基本的にその研究単体では会社の利益にならないものが多いのが特徴です。製薬会社においては、新しい成分の発見や病気の原因解明など、薬を作る前に必要な基礎研究を行っています。また、基礎研究は大学の研究室や公的な研究機関でも行われています。
基礎研究に興味のある方は応募してみると良いでしょう。
応用研究
応用研究とは、基礎研究で得られた結果をどのように活かして利益を生み出すかを発見する研究のことです。製薬会社によって応用研究の定義はさまざまですが、一般的には「探索研究」と「非臨床試験」が応用研究に相当するものだと言われています。
探索研究では、基礎研究から解明されたデータをもとに薬の元素を探す研究を行い、これまで企業が培ってきた技術と基礎研究の結果を組み合わせて化合物の生成を行うことが多いです。
探索研究が終わると、非臨床試験に移行します。非臨床試験とは、生成した化合物の効果や毒性などを調べる試験のことです。動物実験や培養した細胞を使った実験を行って評価します。非臨床試験で問題ないことがわかれば臨床試験へと移ることができます。
基礎研究と応用研究の違いについてはこちらの記事もぜひチェックしてみてください。
製薬会社の参考年収(五十音順)
製薬会社は一般的に年収が高いといわれていますが、実際のところどれくらいの年収なのでしょうか。
ここでは2022年3月時点で上場している代表的な製薬会社5社の平均年収を紹介します。
アステラス製薬株式会社
1,064万円(平均年齢42.3歳)
参考: アステラス製薬(2022-06-20)「2022年3月期(第17期) 有価証券報告書」
エーザイ株式会社
921万円(平均年齢43.0歳)
参考:エーザイ株式会社 110期(2022年3月期)有価証券報告書
協和キリン株式会社
885万円(平均年齢42.7歳)
参考:協和キリン株式会社 2021年12月期(第99期)有価証券報告書
武田薬品工業株式会社
1,105万円(平均年齢42.4歳)
参考:武田薬品工業株式会社 第145期(2021年4月1日〜2021年3月31日)有価証券報告書
日本新薬株式会社
806万円(平均年齢41.2歳)
参考:日本新薬株式会社 2022年3月期(2021年度)有価証券報告書
有価証券報告書を調べてみると、大手製薬会社の年収は800万〜1,100万円程度であることがわかりました。ただし、これらの年収は研究職以外の職種の年収も含まれているため、研究職だけの年収の場合は多少変わるかもしれません。
また、国税庁の発表した令和3年の民間給与実態調査によれば、給与所得者全体の平均年収は443万円となっており、製薬会社の年収が高いことがわかります。こうした給与の面での待遇の良さが人気に繋がっていることが考えられます。
参考: 国税庁(2022-09)「令和3年分 民間給与実態統計調査」
まとめ
この記事では、製薬会社の研究職について解説しました。
研究職への就職を希望する大学院生は多いと考えられるため、採用されるためには応募要件や身に着けるべき能力を確認し、就職活動に臨むことが重要になります。
また、博士課程修了予定者の場合は選考スケジュールが修士課程修了予定者とは異なる場合があります。
そのため、できるだけ早めに業界研究などの準備をするとよいでしょう。
業界研究の進め方については、こちらの記事をチェックしてみてください。