海外でポスドクをしよう—滞在編(10) お金についての話 (2)

博士の日常

 前回に続いて、海外で生きる上で避けて通れないお金の話について紹介します。前回では海外で生活することによってどのような経済的リスクに直面するかについて話しましたが、今回はそれらのリスクにどのように対応するかについての話をします。

簡単にまとめると、以下のとおりです。

  1. 経済的リスクを意識したうえで長期戦略を考えること
  2. 収入源を複数持つこと
  3. 経済的バッファを増やすこと
  4. 年金や社会保障のプランを立てること

 これらの対策を通して、海外暮らしにおける経済面の基盤を整えることが必要です。それでは具体的にみていきましょう。

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①リスクを意識し、長期戦略を立てる

 「経済的リスクを意識するとか、何を当たり前なことを言っているのだ…」と思う方もいるかもしれません。しかし、ご自身の学生時代や新卒時代を振り返ってみてください。そのような早い段階で、自分の経済状況を客観的に分析し、人生の長期的な計画や戦略を考えたことがある人はどれほどいるでしょうか?

 ひとり暮らしが始まり、自分で収入を得るようになったら、自立したことになると、筆者自身はそう思っていましたが、実はそれではまだまだ足りません

 今振り返ってみると、筆者は日本学術振興会特別研究員の収入があった大学院生時代でも、その後ポスドクとして働きはじめた時期でも、将来に続く人生計画の観点から自分の経済状況を管理したことはありませんでした。目の前の毎月の収支バランスがとれること、微々たる貯金を積み重ねていたことに満足し、そのような生活を続けることに対して何の疑問も持ちませんでした。

 結果として、前回紹介したように、海外に移動する時には年金の脱退問題が発生し、納入年数が減ったりや税金を多く支払うことになり、経済的リスクに関して考えることも増えました。その意味では、急激な環境の変化が良いきっかけとなったとも言えます。

 では、長期戦略を立てるためにはどうすればいいのでしょうか?

目標に具体的なイメージを持つ

 漠然と「将来のために考えなきゃ」と考えたところで、どこから取り掛かればよいかなどはわかりません。達成したい目標について具体的なイメージを持ち、そこから逆算して考えると、道筋が見えやすくなります。

 まずは自分のライフステージに合わせて、目標を設定するところから始めましょう。10年の区切りで長期的目標と、3年〜5年の区切りで中期的目標をそれぞれ考えることをおすすめします。若手研究者の状況を考えると、いわゆるテニュア(常勤)職に就くまでは3年〜5年単位で仕事を転々とすることが多いです。そのため、中期目標は自分の転職計画と重ねた上で考えるのが都合が良いかもしれません。

 目標設定では、それぞれのタイミングでどれくらいの状態に達したいか(例えば、車を買う、家を買うもしくは今よりも条件の良い賃貸物件に住む、一定額の貯金をもつなど)、その状態下ではどれくらいの年収が必要でどれくらいの支出が必要になるかについて、計画を立てます。

 特に、海外でポスドクなどの職に就きたいと考えている人は、何年くらいの滞在か/海外ポスドクの期間が終了した後には海外に残るか日本に戻るか/海外ポスドクの経験がその次のキャリアにとってどのように働くか、などを考えるのはもちろん重要ですが、海外ポスドクの経験が自分の短期的・長期的な収入にどのように影響を与えるかなどの経済面についても、詳しく考えた方が良いと思います。

ライフプランニングの技法を知る

 上記のやり方をもう少し洗練させたものは「ライフプランニング」として知られています。近年注目されているファイナンシャルプランナー(FP)という職業がありますが、ライフプランニングは彼らが行う基礎的な技法の一つです。

 ライフプランニングでは、いくつかの表を運用しながら、自分や家族の人生計画を可視化して、計画を立てていきます。

 ライフイベント表では、自分や家族全員について、将来発生するライフイベントを時系列に並べて表を作ります。そして、それぞれのイベントに関連する金額を書き込み、逆算して現在からどうすればいいかを計画します。

 キャッシュフロー表では、現在の収支や貯蓄・資産の状況を表にまとめ、一定の変動率を設定した上で、それらの状況が1年後、2年後…N年後の時点でどれほどの将来価値を持つかを計算します。

FPの知識はとても有用

実際、筆者の考えとして、FP資格試験3級がカバーする知識範囲は、ほとんどすべての人が人生を歩む上で必要かつ実用的なものだと考えています。上記のライフプランニング以外にも、保険、税金、相続などについての基礎的な知識が含まれています。3級の内容なら、すきま時間を活用した独学でも十分ですので、皆さんにもぜひFP3級の内容について知っておくことをお勧めします。

②収入源を複数持つこと

 単一の収入源に頼る場合、なんらかのトラブルや情勢の変化に影響されると、急激に苦境に立たされることになります。特に海外に滞在している時は、雇用状況以外にも為替レートや国際情勢など、自分がコントロールできない方面からの影響を受けやすくなります。そのリスクを分散するため、主な仕事以外にも何らかの形で収入を確保できると、経済的安全性が大きく上昇します。

 複数の収入源というと、真っ先に思い浮かぶのは副業でしょう。最近では、日本も副業を承認する流れが出来つつありますが、海外では本業に影響がないかぎり問題視されることはあまりありません。(ただし、職業・職場・契約詳細・所持するビザによっても状況が違いますので、必ず自分の状況を確認してください。)外国人研究者の場合、外国語スキルと専門知識を活用した副業が可能です。プログラミング、イラスト、ハンドメイドなど趣味を持つ人は、趣味を生かした副業による収入を獲得することも不可能ではありません。

 しかし、ただでさえ忙しい研究者にとって、時間を割いて副業をするなどは本末転倒。そこで考えるのは、貯蓄などのすぐに使わない資産の一部を金融運用することでしょう。金融運用というと、すぐに投資や株式取引を思い浮かぶ人が多いかもしれませんが、実は、定期貯金運用や純金投資のような貯蓄型の運用や、国債などの債券類の運用、投資信託による運用など、さまざまな方式があります。

 海外では日本よりも金融資産の運用が身近にあるように思えます。最も身近な例が、通常の預金よりも利息が高くなる定期預金や、定期預金よりも制限が緩やかな貯蓄系預金口座でしょう(例えば毎月の残高が前の月より一定額高くなると、ボーナス金利が入るものなど)。これらの低リスクの運用からスタートして、知識や経験を積みながら、自分に合う運用の仕方を身につけると良いと思います。

③経済的バッファを増やすこと

 複数の収入源を持つことにも通じますが、なるべく経済的なバッファが多い方が安定します。バッファは英語のBufferであり、緩衝・ゆとり・余裕などの意味を持っています。ここでは、急な経済的コスト・リスクを負うことになった時に、それがすぐに生活に響かないようになんらかの「クッション」を設けるという意味で使っています。

 バッファとなるのは貯蓄だけではなく、年金や失業保険などの収入に対する保障や、健康保険・火災保険などの病気や事故に対する保障、持ち家などの不動産も入ります。さらに、家庭を築くこと自体も、夫婦が互いに対するバッファーとなることも含意しています。重要なのは、ゆとりがあることと、一種類ではなく複数の種類を用意して、あらゆる方面からのリスクに対応することです。

④年金や社会保障のプランを立てること

 年金のような、老後に向けて長い時間をかけて積み立てていくものは、システムの設計上海外移動のようなイレギュラーなケースに対応していないことが多いです。しかも通常ではそれらを意識できる機会が少なく、いざ海外に実際に移動する時にはじめて詳細を知ることになることも多いです。たとえば前回例にあげたような、筆者の海外移動時の年金脱退問題などは、まさにそういった事前情報の欠如によって影響を受けた例です。

 だからこそ、少しでも早い段階から自分の将来を計画し、そしてそれに合わせて年金・社会保障・保険などの計画を立てることが必要です。制度上不利益を回避できるなら回避の方向を考え、回避できない問題は別のところから補償する(例えば個人で年金金融商品を購入して、公的年金の納入年数が減る分を補う)。このように、自分の人生をさまざまなリスクに対して強いものにしていく努力をしていくことが、結果として豊かな人生につながっていくと思います。

最後に

 「お金は万能ではない、でもお金がなければ万事が不能に(なにもできなく)なる」というフレーズがあるように、現代社会で生きていく上ではお金とうまく付き合わなくてはなりません。それにもかかわらず、お金を増やすことは、とても世俗的な話題としてとらえられています。お金について語ることを恥じらう人、お金儲けの世俗さを穢れにさえ感じる人も、少なからずいます。

 個々人の価値観について特に意見するつもりはありませんが、合法的な手段でお金を儲け、自分の生活基盤を整えることをネガティブに思う必要はない、と筆者はそう思っています。重要なのは、「いかに自分の人生をより良いものにするか」。そのために必要なことをするのみです。

[文責:LY / 博士(文学)]

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