これから研究を始める方、あるいは研究中の方、「研究デザイン」という言葉を聞いたことはありますか?
研究デザインは研究計画を立てていく上で重要なものとなります。
今回の記事では、様々な研究デザインの種類を皆さんに紹介します。
是非自分に合った研究方法を考えてみてください。
研究デザインは研究を進めていく際の「型」のこと
研究デザインは、一言で言うと、研究の「型」と言い換えることができます。
研究では、ある仮説を立てて、その仮説を実証するために介入、観察、調査などを通して客観的な事実(データ)を集めます。
そしてこの事実をもとに新たな見解を得ることができます。
この一連のプロセスの中で、研究対象や介入方法、評価項目の測定方法、評価期間などについて、どのような方法で研究を進めていくのか、その「型」のことを研究デザインと言います。
研究デザインには様々な型があり、自分が研究の中で評価したいことに応じて研究デザインを決定していきます。
研究デザインの分類
まずはじめに、研究デザインの大まかな分類について紹介していきます。
研究デザインの型は大きく分けて
- 介入研究
- 観察研究
- データ統合型研究
に分類することができます。
これら3つの研究デザインについて解説していきます。
介入研究
対象者に対して研究を目的とした「介入」を加える研究のことを介入研究と言います。
厚生労働省「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」 によれば、介入の定義として、以下のように述べられています。
”研究目的で、人の健康に関する様々な事象に影響を与える要因(健康の保持増進につながる行動及び医療における傷病の予防、診断又は治療のための投薬、検査等を含む。)の有無又は程度を制御する行為(通常の診療を超える医療行為であって、研究目的で実施するものを含む。)をいう”
引用:厚生労働省「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」
例えば、「高血圧の患者に対して新しい降圧剤を投与して、血圧に改善がみられるかを確かめる」という場合、新しい降圧剤の投与は介入であると言うことができます。
介入研究を実施するにあたっては、対象者に対して事前にインフォームドコンセントを得る必要があります。
これは人を対象とした医学研究における倫理指針で定められています。
医学研究における倫理規定について、もっと知りたい方はこちらの記事を参照してください。
介入研究には、以下のようにさらに細かな分類があります。
- ランダム化比較試験
- 準ランダム化比較試験
- クロスオーバー比較試験
- 前後比較試験
- シングルケーススタディ
本記事では、この中でも臨床試験でも採用される、ランダム化比較試験について紹介します。
ランダム化比較試験
ランダム化比較試験は、試験対象となる集団を「介入を加える群」と「対称群」に無作為に割り当て、介入による効果を明らかとするための研究デザインで、Randomized Controlled Trial (RCT)とも呼ばれます。
ランダムに割り付けるのは、対象となる集団の背景(性別や年齢、疾患歴)などの要因の偏りをできる限り少なくするためです。
自分たちが調べたい効果(介入による効果)以外の因子(ある関係や結果を生じさせる諸要素)を交絡因子と言い、介入による効果を正しく解釈するためには交絡因子を可能な限り少なくする必要があります。
ランダム化比較試験により得られる結果は、客観性が高く他の研究デザインから得られるデータと比べて科学的根拠の信頼性の度合いであるエビデンスレベルが高いと言われています。
研究デザインとエビデンスレベルについては、この記事の後半で解説します。
観察研究
ここからは観察研究について解説していきます。
対象者に介入を加える介入研究に対して、対象者に直接的な介入を加えず、経過をありのままに観察する研究のことを観察研究と言います。
観察研究では比較対象の有無によってさらに、
- 記述的研究
- 分析的観察研究
に分けることができます。
以下、記述的研究と分析的観察研究の2つについて説明します。
記述的研究
まず、記述的研究について紹介します。
記述的研究は比較対象の無い観察研究のことであり、
- 症例報告
- ケースシリーズ
が含まれます。
症例報告は、ある患者さんについて、未知の病態や新たな副作用などが認められた時に、その患者さんの症例についてまとめて報告するものです。
ケースシリーズ研究は、ある治療法について複数の患者さんを集めて、その症状の経過を観察して報告するものです。
症例報告、ケースシリーズ研究は対象者が少なく、また比較対象を置かない研究デザインであるため、エビデンスレベルは低いとされています。
分析的観察研究
分析的観察研究では、比較対象を設定します。
また、分析的観察研究では、要因(結果を生じさせると考えられる主要な原因)とアウトカム(結果)の測定タイミングによってさらに
- 横断的研究
- 縦断的研究
に分けることができます。
横断的研究は要因とアウトカムの測定タイミングが同時である研究のことを指します。
つまり、ある集団に対して同一時点における症状を調査し、その症状と要因の関係を明らかにしていく研究となります。
横断研究は比較的調査が簡単である一方で、症状と要因の時間的な因果関係が分からないというデメリットもあります。
縦断的研究は異なる時点で要因とアウトカムを測定する研究のことを指します。
縦断的研究では、対象となる集団について長期間にわたって症状と要因の関係を調査します。
同一対象者を追跡調査するため、時間的な影響を評価することができる一方で、労力や費用は大きくなります。
横断的研究と縦断的研究についての詳しい解説はこちらの記事をご覧ください。
データ統合型研究
データ統合型研究は、複数の研究論文で報告されている研究結果を統合して分析する研究デザインです。
データ統合型研究には、
- メタアナリシス
- システマティックレビュー
が含まれます。
メタアナリシス
メタアナリシスとは、ランダム化比較試験などの複数の原著論文の結果を集めて、それらのデータを統合して、統計学的な手法を用いて定量的に解析する研究のことを言います。
ランダム化比較試験のメタアナリシスは極めてエビデンスレベルが高い研究であると言えます。
システマティックレビュー
システマティックレビューは複数の専門家がランダム化比較試験などの原著論文を集めて、その内容を厳しく吟味して結果を報告するものです。
メタアナリシスはシステマティックレビューの1種となります。
研究デザインの種類とエビデンスレベル
ここまで、様々な研究デザインの種類についてみてきました。
ここからは、これらの研究デザインとエビデンスレベルの関係について解説していきます。
皆さんは「根拠に基づく医療」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
これは、1990年頃に提唱された考え方で、科学的な根拠(エビデンス)と医療者の専門性、そして患者さんの価値観を統合して、より良い医療を提供するというものです。
上述してきた研究デザインを科学的根拠の信頼性の度合いであるエビデンスレベルの高い順に並べると以下のようになります。
- システマティックレビュー・メタアナリシス(データ統合型研究)
- ランダム化比較試験(介入研究)
- 分析的観察研究
- 記述的研究
比較対象を置かない記述的研究はエビデンスレベルが低いとされ、一方で、集団を対象に比較をおこなうランダム化比較試験はエビデンスレベルが高いです。
そして、このランダム化比較試験のデータを集めて統計学的に解析するデータ統合型研究が最もエビデンスレベルが高くなります。
ただし、エビデンスレベルが高いから良い研究であり、エビデンスレベルが低いから悪い研究だという訳ではなく、臨床的課題の特性、治療方針を決めるにあたって必要なエビデンスのレベル、研究の実施可能性などの要因を鑑みて、どういう研究デザインを採用するのかを考えていくことが必要となります。
参考:中山 健夫(2010)「臨床研究から診療ガイドラインへ:根拠に基づく医療(EBM)の原点から」日本耳鼻咽喉科学会会報、113巻、93-100
まとめ
本記事では、研究デザインについて様々な種類を紹介してきました。
研究デザインは大きく以下の3つに分類することができます。
- 介入研究
- 観察研究
- データ統合型研究
介入研究はさらに以下のような分類があります。
- ランダム化比較試験
- 準ランダム化比較試験
- クロスオーバー比較試験
- 前後比較試験
- シングルケーススタディ
観察研究はさらに以下のように分類できます。
- 記述的研究(症例報告、ケースシリーズ)
- 分析的観察研究(横断的研究、縦断的研究)
データ統合型研究二は以下の2つが含まれます。
- システマティックレビュー
- メタアナリシス
様々な研究デザインの中から求められるエビデンスレベルに応じて、適切な研究デザインを選び研究を進めていきましょう。