横断的研究は、様々な学問分野で用いられる研究デザインの一つです。
本記事では、横断的研究についての理解を深めるために、縦断的研究などのほかの研究デザインと比較しながら、横断的研究のメリット・デメリットについても詳しく触れています。
本記事を読んで、横断的研究への理解を深めていきましょう。
横断的研究とは
横断的研究 (cross-sectional study)というのは、ある特定の集団に対して、ある一時点におけるデータを収集し、分析や検討をする研究デザインのことです。断面的研究とも呼ばれます。
医学・疫学、心理学(特に発達心理学)、生物学などでよく用いられます。
参考:Scribbr「Cross-sectional-study | Definitions, Uses & Examples」
横断的研究の具体例
横断的研究の例を見て、理解を深めていきましょう。
例えば、朝食を食べないことと肥満の関係を調べたいとします。
このとき、横断的研究アプローチだと、朝食を食べる習慣のある集団と朝食を食べる習慣のない集団の、それぞれのコレステロール値や血糖値などのデータなどを同じ時点で集計して分析する、といった形になります。
縦断的研究との違い
横断的研究 (longitudinal study) は、縦断的研究と対に語られることが多い研究デザインです。
そこで、縦断的研究とは何か、また横断的研究との違いは何かについて見ていきましょう。
縦断的研究とは
縦断的研究とは、特定の個人や共通の特徴を有する小集団に対して、継続的な追跡調査を行い、同じ参加者から繰り返しデータを収集する研究デザインのことです。
ある一時点において多数の参加者からデータを収集する横断的研究とは異なり、縦断的研究では、少数の参加者から長い時間をかけて何回もデータを収集します。
縦断的研究の具体例
横断的研究同様に、縦断的研究についても例を見てより理解を深めていきましょう。
先程の横断的研究の例と同様、朝食を食べないことと肥満の関係を調べたいとします。
このとき、縦断的研究アプローチであれば、朝食を食べる習慣のない人のコレステロール値や血糖値といったデータを、1年後、2年後、という風に時間経過とともに繰り返し収集し分析する、といった形をとります。
コホート研究との違い
横断的研究は、コホート研究 (cohort study)と混同されることがあります。
コホートとは、またコホート研究とはどういったものなのでしょうか。
コホート、コホート研究とは
コホートとは、同時期に生まれ、同じような社会経験(同時代、同地域等)をした人々の集団のことです。
そして、コホート研究とは、同じコホートの健常者を対象に、特定の要因・特性・経験の有無などで2グループに分け、長期間の追跡調査を行う研究デザインのことです。
コホート研究は縦断的研究の一種で、縦断的研究の中でも、対象者が同じコホートの人々に限定される研究になります。
横断的研究や従来の縦断的研究の問題点として、コホート差が結果に影響を与えてしまう、という点があります。
例えば、バブル世代の大学生と現代の大学生は大きく異なりますし、戦争体験の有無でも結果に影響が及ぼされるかもしれません。また、住んでいる地域や職業が違うことが結果に影響がある可能性があります。
こうした問題点を解消するために、コホート研究が用いられるようになりました。
しかし、長期間に渡る調査のため、時間とお金が非常にかかってしまうというデメリットもあります。
参考:一般社団法人 日本理療法学会連合「コホート研究 cohort study」
横断的研究と観察研究の関係
横断的研究と並んで観察研究という言葉が出てくることがあります。
横断的研究と観察研究はどういった関係なのでしょうか。
観察研究 (observational study)とは、臨床研究の一種で、研究者の介入なしにデータを収集する研究デザインのことです。
薬や手術、条件の割り当てやアドバイスなど研究者による干渉を一切行いません。
横断的研究や縦断的研究(コホート研究を含む)は、この観察研究に分類されます。
そのため、研究者の人為的な介入がなされたら横断的研究とはいえない点に注意しましょう。
ちなみに、臨床研究には、観察研究のほかに実験的研究 (experiment) があります。
医学的な分野では介入研究 (intervention study) と呼ばれることが多いようです。
研究者による操作がある場合は、実験的研究もしくは介入研究に相当します。
参考:田中・川口(日本臨床麻酔学会, 2016)「観察研究」
参考:日刊ゲンダイヘルスケア「臨床研究の種類 「観察研究」と「介入研究」の違いはなにか」
横断的研究のメリットとデメリット
横断的研究を適切な研究デザインとして用いるためには、横断的研究のメリットとデメリットを理解する必要があります。
ここでは横断的研究のメリットとデメリットを紹介します。
横断的研究のメリット
横断的研究のメリットには以下の点があげられます。
- 時間とお金がかからない
- 大人数からデータを集めることが出来る
- 瞬間を切り取ることが出来る(いわゆる「スナップショット」)
- シンプルな統計分析方法を用いることが出来る
- 繰り返しの影響(学習効果など)を受けにくい
- データの欠測(参加取りやめなど)が生じにくい
特にこの中でも時間とお金がかからない点は最大のメリットと言えるでしょう。
縦断的研究など他の研究デザインでは、研究が長期間に渡るため、研究費が多くかかってしまいます。
さらに、参加取りやめの影響などで最終的に少数のデータしか集めることが出来ない、といった可能性もあります。
縦断的研究の場合は、統計分析方法が複雑なものになりやすかったり、学習効果など繰り返しの影響が見られたりする可能性もあります。
横断的研究は、こうしたほかの研究デザインと異なり、効率的で経済的な研究デザインになっています。
横断的研究のデメリット
一方で、横断的研究にもデメリットがあります。横断的研究のデメリットとしては、
- 因果関係を示すことが出来ず、相関関係にとどまってしまう
- 時間経過に伴う参加者の変化や個人差、長期的な傾向が分からない
- 条件が大きく異なる集団間の比較になる
などが挙げられます。
横断的研究の最大のデメリットは、因果関係を示すことが出来ず、相関関係にとどまってしまうという点です。
相関関係では因果関係を示せないのはなぜでしょうか。
それは、Aを原因、Bを結果と予想し、実際に両者に相関関係が出たとしても、
- 因果関係が逆である
- 相互的な因果関係がある
- 隠れた要因がある
- 全く関係ない
といった可能性があるためです。
そのため、横断的研究の結果だけでは因果関係を示すことが出来ない、という点に気を付けましょう。
横断的研究のデメリットを克服する方法
横断的研究のこうしたデメリットを克服するために、縦断的研究などの他の研究デザインを組み合わせることがあります。
例えば、朝食を食べないことと肥満の関係を調べたいとき、まずは横断的研究アプローチで朝食の有無と肥満との間に関係性がありそうかを調べます。
朝食の有無と肥満との間に相関関係があることが確認できたら、次に縦断的研究アプローチで朝食の有無と肥満の因果関係を調べる、といった形になります。
つまり、まずお金と時間のかからない横断的研究を行い相関関係を確認した後に、縦断的研究を行って因果関係を示すことで、横断的研究のメリットを活かしつつデメリットを克服することができます。
参考:Scribbr「Cross-sectional vs. longitudinal studies」
まとめ
横断的研究は、お金や時間のコストがかかることなく多くのデータを集められたり、同時点での他の集団との比較ができたりするなどの便利さから、多くの学問分野で用いられている研究デザインです。
一方で、横断的研究には因果関係を示すことができないというデメリットもあります。
修士論文や博士論文で横断的研究を行うことを検討している場合には、横断的研究のメリットやデメリットを理解したうえで自分自身の研究に取り入れるかどうかを検討してください。