「publish or perish」(出版するかさもなければ滅びよ)という言葉もあるほど、研究において成果を発表することは最も重要なポイントのひとつです。中でも学会発表は研究に携わる大学院生・研究者にとって最も身近な研究発表の機会ではないでしょうか。
この記事では学会とは何なのか、学会発表の準備はどんなものが必要なのか、などこれから初めて学会発表に挑戦する皆さまに役立つ情報をお届けします。
学会とは
学会とは研究者の研究成果を発表し、他の研究者・専門家と議論や意見交換を行う場です。また、この学会の企画や開催、学会誌の発刊などを行う機関も学会と呼ばれます。
例えば、「今度の金属学会に出る」などといった場合には前者の意味ですが、正式には「日本金属学会 第X回講演大会」といった名称になっているケースが多いかと思います。
この記事では、機関・団体としての「学会」ではなく、研究発表や研究者同士の交流の場としての学会について扱います。
学会と学術集会や学術大会の違い
「学術集会」や「学術大会」といった言葉を聞くこともあるかと思います。基本的には「学会」と同じ意味で使われることが多い言葉です。しかし、学会に比べて一般の人も参加できるようなよりオープンなイベントで使われることも多いです。
学会より少し敷居の高い国際会議
学会と似ていますが、少し雰囲気の違う国際会議というものもあります。
その名の通り、学会の国際バージョンと理解して頂ければ良いかと思いますが、参加の敷居は少し高くなります。
当然ですが、英語での講演が基本になるほか、プロシーディングスと呼ばれる講演概要も作成する必要があります。プロシーディングスは学術論文ではありませんが、場合によってはそれに準ずる業績として扱われることもあります。また、プロシーディングスは学術論文と同じように公開され、引用も可能な場合が多いです。
研究会やシンポジウムとの違い
研究会やシンポジウムといったイベントが開催されることもあります。これらは学会の一部として同時に開催されたり、学会の地方支部が小規模な学会として開催したりと様々です。基本的には「規模の小さな学会」という理解で十分です。
大きな学会では口頭発表が中心で、聴衆も多いため十分なディスカッションができない場合もありますが、規模が小さければじっくりと議論することもできるため、こうした小規模の学会にも魅力があります。
学会発表の発表形式
学会発表はどんなものなのでしょうか。
学会発表には基本的には口頭発表とポスター発表の2つの発表形式があります。
口頭発表
口頭発表はスライドを使って舞台で発表を行うプレゼンテーション形式の発表です。プログラムは各セッションに区切られていますが、同じ場で発表するのは1人で、聴衆はその発表を集中して聴くことになります。
学会にもよりますが、15分ほどの発表時間が与えられており、その後5分間の質疑応答が行われるなどといった形式が一般的です。事前に形式が決まっているので、しっかり準備すれば発表自体の完成度は努力次第で高くすることができます。質疑応答自体は座長が進行してくれますので、場を回す心配もあまりありません。
ポスター発表
ポスター発表は(通常はA0サイズの)ポスターを作成し、それを掲示した前で発表を行う形式です。会場には多数のポスターが同様に掲示され、発表者がその前に立っています。
聴衆はポスターを眺めながら歩き回り、興味の惹かれたポスターの前に立ち止まります。発表者は聴衆の求めに応じて研究内容の説明を行い、適宜質問にも応じます。
口頭発表と異なり聴衆との相互的なコミュニケーションが可能である点が特徴です。例えば、「3分くらいで簡単に説明して」などと言われ、その発表の重要な点を要約して伝えるといったこともあります。
聴衆からすれば他にも見たいポスターがたくさんあるため、このような質問が出ることもあります。
場合によっては用意してきた内容や伝えたいことが十分に伝えきれないこともあるのがこのポスター発表ですが、何といっても先生方と直接議論できる点は大きな利点です。
学会発表の準備
学会発表がどういったものか分かってきたところで、発表の準備についても確認してみましょう。
「申し込み」、「講演要旨・概要の執筆」、「ポスター・発表スライドの作成」、「発表練習」について順番に見ていきましょう。
申し込み
まずは申し込みです。学会にもよりますが、この段階でタイトルや発表者、300字程度の簡単な概要を提出することが多いです。講演者の他に、共著となるのが誰なのか、申し込みの前に確認しておく必要があります。
講演要旨・概要の執筆
続いて講演概要を執筆します。学会によっては要旨とか講演論文などと呼ばれることもあります。
学会当日の1か月前など、締め切りが決まっているので遅れずに提出しましょう。締め切りに間に合わなかったものは概要集に掲載されないことがあります。
概要はA4用紙2ページ以内や1ページなどと決められており、様式も指定されていることが多いです。また、共著者には事前に読んでもらい、その内容で問題ないかを必ず確認してもらいましょう。
ポスターや発表スライドの作成
講演概要を提出した後は、当日の発表に向けた準備です。
ポスター発表に申し込んだのであればポスターの作成です。A0サイズは普段目にするA4用紙16枚分の大きさですので、作っていると図や文字の大きさがよくわからなくなるかもしれません。迷ったら一度原寸大でA4用紙に印刷してみるのも手です。
また、壁に貼って離れてみたときに文字が小さすぎないか、色合いは見づらくないかなどもチェックポイントです。また、薄い紙だとベタ塗りの部分がふにゃふにゃになってしまいますので、そういった点も要チェックです。A0用紙は気軽に刷り直しができませんから、誤植がないかをしっかり確認してから印刷しましょう。
口頭発表であればスライドの作成です。会場のスクリーンの大きさが分かるようであれば先輩や先生に訊いてみましょう。スライドの縦横比は分野にもよりますが、スクリーンへの投影では画面を広く使えるため、4:3で作るのが一般的かと思います。
また、最近はオンラインでの学会発表が増えています。画面共有でスライドを表示する場合には16:9のほうが画面が広く使えるため、そちらのほうが良いという声もあります。
オンライン開催の場合、ポスター発表形式のセッションではポスターを作成してそれを画面共有するケースと、スライドを使って発表するケースとがあります。
前者の場合にはポスターをPDF化するなどしてスムーズに拡大ができるようにしておくと良いかと思います。後者の場合はほとんど口頭発表と同じような雰囲気になりますが、口頭発表と違って聴衆は他の発表も聴かなくてはいけませんから、発表を要約したスライドを1枚入れておくと良いと思います。
発表練習
ポスターやスライドといった資料が完成したら練習あるのみです。実際に見ながら話してみると資料の修正点なども見えてくるかもしれません。
また、発表内容を先生や共著者と共有しておくとよいでしょう。研究室で発表練習の機会があれば積極的に利用しましょう。発表練習の場で挙がる質問は、実際の会場でも訊かれる可能性が高いと思います。
挙がった質問について、発表の中での説明がわかりにくいためになされた質問なのか、内容が難しかったり手法が特殊なためにされたのか、といった「なぜその質問がなされたのか」という観点から分析し、しっかりと向き合うことで、発表のブラッシュアップに役立つでしょう。
学会の雰囲気は分野ごとに異なる
次に、学会の雰囲気について紹介いたします。学会の雰囲気は分野によって大きく異なります。
例えば、服装に注目してみると、工学系の分野であればスーツに革靴といったフォーマルな服装をする人が多いですが、物理や数学などの分野ではカジュアルな服装で参加する人も多いです。
学会の雰囲気
学会の雰囲気はその規模や分野によって大きく異なりますが、共通しているのは会場に集まる人が同じ専門分野の人であるということです。
大学内での中間報告会などでは、研究テーマによっては指導教員以外に専門家がおらず、議論が盛り上がらなかったり、精一杯説明しても理解してもらえなかったりするかもしれませんが、学会では専門家ばかりですから有意義な議論ができることでしょう。
また、学生の発表が多い学会では企業交流会なども併催され、企業で研究をしている人に話を聞く機会も得られます。普段の生活ではあまり感じられない学会特有の雰囲気があるので、現時点では発表する成果がないという場合でも聴講として一度参加してみるのもおすすめです。
オンライン開催
2020年頃から新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の感染拡大を受けて、オンライン上での学会開催も増えています。直接顔を合わせて議論ができないのは残念ですが、地方開催の学会やふらっと聴講だけ参加したいという場合には、より気軽に参加できるようになりました。
筆者の経験になりますが、学会発表の際に、質疑応答で想定していなかったデータについて質問されたことがありました。しかし、その学会発表はオンライン開催であったため、研究室のPCに入ったデータを見せながら説明することができたのはオンライン開催ならではの利点だったのではないかと感じます。
オンライン学会についてはこちらの記事もぜひご覧ください。
まとめ
今回の記事では学会発表に焦点を当ててご紹介しました。
オンライン開催の学会も一般的になり、時代と共に少しずつ変化している学会発表ですが、研究成果を発表してディスカッションする場であるという基本的な部分は変わっていません。
学会発表で受けた質問によって新たな着想を得て研究が大きく進むことも少なくありません。
まだ学会に行ったことがないという人も、ぜひ一度チャレンジしてみてはいかがでしょうか?