工学博士の就職率は高い?主な就職先とキャリアの実態を解説

企業/業界研究

大学院は、修士課程と博士課程に分かれており、博士課程を修了すると博士号を取得できます。修士課程修了者は民間企業に就職しやすい一方で、博士号まで取得すると就職が難しくなるというイメージを持っている方もいるかもしれません。

しかしながら、博士課程修了者の就職率については、専攻分野ごとに大きく異なるのが実情です。今回は、工学博士の就職率、主な就職先や年収について解説していきます。

大学の先生方の肩書を見た時、ご年配の先生方は「工学博士」、中堅から若手の先生方は「博士(工学)」となっている場合が多いはずです。

このように表記が異なるため、同じ博士号であっても違いがあるように感じる人もいるかもしれませんが、この表記の違いは法律の改正によるもので、1991年以降に授与された博士号については、博士(○○)という表記にすることが定められています。

この法改正の理由は、多様化する学問領域(特に学際的領域や新たな分野)の学位にも柔軟に対応できるようにするためであると言われています。なおこの表記の違いは、博士号のみではなく、修士号や学士号でも同様であり、現在では修士(○○)や学士(○○)と学位記に表記されます。

本コラムでは、便宜上「工学博士」という表記を用いて解説いたします。

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工学博士取得後のキャリアの難易度と現状

工学博士の難易度は「取得するまで」だけでなく、「取得した後のキャリア形成」にもあります。博士号を取得した人材は高度な専門性を持つ一方で、就職市場では修士卒とは異なるキャリアパスを歩むケースが多くなります。特に大学教員などのアカデミックポストは数が限られており、博士課程修了者の多くがポスドクや民間企業など多様な進路の中からを選択する必要があります。

そのため、工学博士の難易度とは「博士号取得」だけでなく、「専門性を活かせるキャリアを見つける難しさ」も含まれるといえるでしょう。

博士の正規雇用の就職率は低い

博士課程修了後の正規雇用率は、修士課程修了者や大卒者に比べて低いことが知られています。実際に、令和7年度の学校基本調査によれば、修士課程修了者および大卒者の正規雇用率が74.1%および73.8%であったのに対し、博士課程修了者の場合48.4%と低い値になっています

参考:学校基本調査 / 令和7年度 高等教育機関 卒業後の状況調査 卒業後の状況調査票(大学院)表番号82

参考:学校基本調査 / 令和7年度 高等教育機関 卒業後の状況調査 卒業後の状況調査票(大学)表番号75

参考:学校基本調査 / 令和7年度 高等教育機関 卒業後の状況調査 卒業後の状況調査票(大学院)表番号86

このように、博士課程修了者の正規雇用率が低い原因として、次のような理由が考えられます。

  • 修了者本人がアカデミア職を目指したいために、ポスドク研究員など不安定な職に就かざるをえないことが多い
  • 民間企業では博士人材を受け入れる体制が整っていない場合もある

このように、修了時点の正規雇用率が博士課程修了者の場合、低くなっているものと考えられているのです。

博士課程修了者の雇用問題のひとつであるポスドク問題についてはこちらの記事で解説しています。

工学博士は他の博士と比べて、就職率は高い

なお、工学博士のメリットとして、他の分野、特に社会科学分野に比べ就職率や年収が高い傾向にあることです。

この理由として、工学分野では博士課程修了者のうち大学教員になる割合がおよそ10.4%(社会科学分野では21.1%)と比較的低く、民間企業などの教員以外の専門職に就職する割合が約63.6%と高いことが挙げられます。つまり、大学以外にも活躍の場が多い点が工学博士の特徴と言えるでしょう。

一般に、博士人材が就職しにくいと言われる原因は、博士号保持者の就職先がアカデミア(大学など)に限られる場合であると言われています。

一方、工学博士の場合には民間企業にも活躍の場があるというメリットから、他の分野に比べ就職率が良いものと考えられます。

さらに、社会科学分野に比べると、工学博士の年収(400~500万円程度:修了後1.5年経過時)は高い傾向にあります。

参考:学校基本調査 / 令和7年度 高等教育機関 卒業後の状況調査 卒業後の状況調査票(大学院)表番号89

参考:学校基本調査 / 令和7年度 高等教育機関 卒業後の状況調査 卒業後の状況調査票(大学院)表番号86

参考:資料3-3.未来を牽引する大学院教育改革(審議まとめ)参考資料 3-68

「博士人材追跡調査」第2次報告書

博士が就職しにくい理由

博士が就職しにくい理由

博士課程修了者が、修士課程修了者や大学卒者に比べて就職率が低い理由として、主に以下の要因が指摘されています。

博士が就職しにくい理由
  • 企業が積極的に採用していない場合も多い
  • 博士が増えたが、大学教員のポスト数は少ないまま

企業が積極的に採用していない

博士課程修了者が就職しにくい理由の1つ目として、企業が博士人材を採用しない・活用できていないという点があげられます。民間企業のうち、博士人材を毎年採用しているのは5.3%、採用した経験があるのは24.8%と低い水準にとどまっています。

なお、企業が博士人材を採用しない理由について行った調査があり、その結果では以下の回答が目立っていました。

企業が博士人材を採用しない理由
  • 特定分野の専門的知識を持つが、企業ではすぐには活用できないから
  • 企業内外での教育・訓練によって社内の研究者の能力を高める方が効果的だから

博士課程修了者は給与水準が高くなる傾向がある一方で、企業側がその専門性を十分に活用できないと考えていることが、民間企業への就職が進まない背景の一つとされています。

 参考:資料3-3.未来を牽引する大学院教育改革(審議まとめ)参考資料 3-84

博士が増えたが、大学教員のポスト数は少ないまま

1990年代以降の大学院重点化政策以降、博士課程修了者の数は急増した一方、大学などにおけるアカデミックポストは増加しなかったことも、博士課程修了者が就職できない原因の1つとなっています。

実際に、博士課程へと進学した人数は、1990年度の7813名から2000年度には17023名と2倍以上に増加しました。その一方で、大学教員の雇用に関わる予算となる、国立大学法人運営費交付金は年々減額されており、そのあおりをうけ常勤教員の人件費も平成18年度(2006年度)の6882億円から平成25年度(2013年度)の5974億円と徐々に減少し、常勤雇用の減少が進んでいるのが現状です。

このようなことが背景となり、博士が就職しにくい現状へとつながっていると考えられます。

参考:大学における工学系教育の在り方について(中間まとめ)」1P

 参考:資料3-2 国立大学法人の財務運営についての考え方 4P

博士の待遇改善のために国からの支援策が拡充

博士課程の院生や修了者の待遇改善に向けて、国による支援策も進められています。近年では、博士課程の学生が安心して研究に取り組めるよう、生活費や研究費を支援する制度が整備されています。

例えば、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)が実施する「次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)」では、博士課程の学生に対して生活費相当額や研究費が支給され、若手研究者が研究に専念できる環境づくりが推進されているのが特徴です。

また、「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業」では、博士課程学生への経済的支援に加え、博士号取得後のキャリア形成を見据えた人材育成が求められています。大学が生活費や研究費を支給する際には、博士人材のキャリアパスを確保する取り組みを行うことが条件です。

さらに、博士人材の活躍の場を広げる取り組みとして、「ジョブ型研究インターンシップ」も推進されています。これは博士課程の学生が企業で研究開発に携わるインターンシップ制度で、大学での研究と産業界での研究を結びつける仕組みとして注目されているのです。

このように、博士課程在籍中の研究環境の充実だけでなく、博士号取得後のキャリア形成や待遇改善を目的とした政策が徐々に拡充されています。

参考:国立研究開発法人 科学技術振興機構|次世代研究者挑戦的研究プログラム

参考:国立研究開発法人 科学技術振興機構|科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業

参考:ジョブ型研究インターンシップ推進協議会|ジョブ型研究インターンシップ推進協議会

工学博士の主な就職先

工学博士の主な就職先は、以下のパターンが多くみられます。

工学博士の主な就職先
  • 民間企業や公的研究機関
  • アカデミックポストを目指す(まずはポスドク研究員を目指す)

なお、工学分野の博士課程を修了した場合の特色として、他の分野に比べ民間企業に就職する割合が比較的高いという点が挙げられます。

ここでは、工学博士の主な就職先を詳しくみていきましょう。

民間企業や公的研究機関へ就職

近年、民間企業による博士課程修了者の採用意欲は強まっており、ソニー株式会社のように博士課程修了者やポスドク経験者用の採用を行っている企業や、採用情報内に大卒や修士卒のみでなく、博士卒の初任給や年収についても記載がある企業が増えてきています。

このことを示すように、博士課程修了者のうち民間企業等において専門的・技術的職業に就いた者は、令和7年(1991年)の919人から平成26年(2025年)の10,365人と10倍以上まで増加しています。

また工学分野の場合は、民間企業に就職する割合が他の専攻分野に比べ高いことが知られています。平成24年度(2012年度)博士課程修了者に占める民間企業への就職割合は、博士学位取得者全体で見た場合には23.7%であった一方、工学分野では44.7%と他の分野に比べ高いことが知られています。

また、工学分野では博士課程修了者が民間企業へ就職する割合が、他の専攻分野と比べて高い傾向があります。企業の研究開発部門や技術職では高度な専門知識が求められることから、工学系の博士人材が活躍する場が比較的多いとされています。

このような背景から、工学分野の博士課程修了者の場合、大学や研究機関だけでなく民間企業への就職を選択肢として検討することで、専門性を活かしたキャリアを早い段階から築くことも可能でしょう。

工学系博士課程出身者が就職している企業例

工学系博士課程出身者が就職している企業の一例を紹介します。

  • ソニー株式会社
  • 日産自動車株式会社
  • 三菱電機株式会社
  • 富士フイルム株式会社
  • パナソニック株式会社
  • 日本アイ・ビー・エム株式会社
  • 中外製薬株式会社
  • 株式会社島津製作所
  • 日本電信電話株式会社
  • JX金属株式会社
  • DMG森精機株式会社

大学院生・理系学生向け就活サイト「アカリク」では、博士向けの求人を掲載しています。ぜひチェックしてみてください。

工学系博士課程出身者が民間企業からも求められている現状をご紹介しました。

先に見てきたように、工学博士の就職率は高く、主な就職先は大手企業やベンチャー企業など多岐にわたります。

民間企業からも工学博士の専門知識や研究能力、問題解決能力が高く評価されており、研究開発分野や新技術開発分野などに特に需要があります。しかし、そうした分野に限らず、学術的なスキルや高次元の問題解決能力は、ビジネスにおいても大いに役立つとされています。

参考:豊橋技術科学大学|令和6年度(2024年度)卒業・修了者の就職先一覧(50音順)

参考:文部科学省「未来を拓け「博士人材」

参考:資料3-3.未来を牽引する大学院教育改革(審議まとめ)参考資料 [3-36] [3-71]

ポスドク

また、博士課程修了者の一般的な進路の1つとして、大学教員をはじめとしたアカデミックポストがあげられます。しかしながら、近年では修了後すぐに助教をはじめとしたアカデミックポストに就くことは困難であることから、まずは“ポスドク研究員”として大学や研究機関で研究を続けることからそのキャリアを始めることが多いと考えられます。

しかしながら、ポスドク研究員は「任期の定めのある職」であることから、博士課程修了後、不安定な職につかざるをえない「ポスドク問題」をはじめとした、博士課程修了者のキャリアパス問題が近年問題となっています。

以下のアカリクコラムでは、特任助教が抱える任期切れ問題について扱っています。ぜひご覧ください。

工学博士は民間企業からも求められている

大学院重点化による「博士課程修了者の増加」や、国立大学法人運営費交付金の削減による「アカデミアポストにおける常勤雇用の減少」により、博士課程修了者がアカデミアの世界で職を得るのは困難な状況にあるのは事実です。

一方で、工学分野における博士課程修了者の就職動向を見てみると、他の分野に比べ「民間企業への就職率が高い」ことが特徴的であると言えます。そして、近年では民間企業による博士人材の採用活動も徐々にではありますが積極的になってきています。

したがって、工学分野における博士人材の場合、民間企業への就職も視野に入れてキャリア形成を考えていくことが大切になるでしょう。

ぜひ、工学分野における博士人材として、本記事を参考に民間企業への就職を検討してみてはいかがでしょうか。

大学院生(修士・博士)・理系学生の就職活動のスケジュールや就活のポイントについては、以下の記事で詳しく紹介しています。

また、民間企業に進むにあたっては、就活戦略を立て、自分の魅力や専門性をアピールすることが大切です。また、企業によっては「博士採用枠」を設けている場合もあるため、チェックしておくことも必要です。

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アカリクリポーターズとは、大学院生としての経験や知識を「リポート」するライター集団です。全員大学院在籍経験があり、これまでの研究経験や知識を活かして、大学院生の皆様に役立つ情報をお届けしています。専門分野は工学・化学・生命科学・心理学・社会学等様々です。

【監修】アカリクお役立ちコンテンツ編集部
博士号所持者/博士課程在籍経験のある編集者が監修しています。

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