「研究者として働きたいけどアカデミアと企業のどちらに行けばいいかわからない」
と悩んでいませんか?
たしかにアカデミアで自分の研究をしたいという気持ちもあれば、与えられた研究でも安定した収入を得るために企業に就職したいという気持ちもあると思います。
進路をはっきりと決めるためには、アカデミアと企業についての違いをより具体化することが大切です。
そこで今回は、今後の進路を悩んでいる大学院生に向けて、アカデミアと企業での研究職の違いについて紹介します。
ぜひ最後までお読みください。
アカデミアとは
「アカデミア」とは一般的に大学や公的研究機関における研究職を指す言葉で、民間企業における研究職との対比として用いられます。
大学での研究者は例えば、教授や准教授、助教などが挙げられます。
公的研究機関とは産業技術研究所や理化学研究所、物質・材料研究機構などの国立研究開発法人のほか、県立工業技術センターなどの公設試験研究機関などが当てはまります。
一方、アカデミアという場合には、これらの大学や公的研究機関に属するポストであっても、研究員以外の技術職は含まないことが多く、あくまでも大学や研究機関で学術的な研究をするか、民間企業で企業活動の一環として研究を行うかの違いについて言及する際に使われる言葉です。
以下では、アカデミアと企業の違いについて詳しくご紹介します。
アカデミアと企業の違い
アカデミアと企業は研究の種類や内容・目的が異なります。2つの違いについて詳しく見ていきましょう。
大学や研究機関(アカデミア)での研究
大学や研究機関では、基礎研究をメインでやっていることが多いです。
基礎研究とは、これまでになかった物質や原理を発見していく技術の土台となるような研究のことを指します。
基礎研究自体は直接利益になるようなものではありませんが、次世代の産業に活かすことができる研究が多くあり、大きな役割を持っています。
成果を出すためには何年もの年月を要するため、大学やアカデミアで基礎研究を取り扱っていることが多いです。
また、研究目的は「社会貢献」や「利益追求」のほか、「学術の発展」や「未知の追求」という純粋に解明されていないものを突き詰めることが目的になっています。
企業での研究
民間企業でも基礎研究を行っているところもありますが、応用研究をメインで行っています。
応用研究は、基礎研究やこれまで行われてきた応用研究などをもとに実用化へ導く研究のことを指します。
新製品やサービスなど会社の売上につなげるための研究が多いため、短い期間で研究成果を出していくというのが特徴です。
企業で行われる研究はその成果が自社の利益につながることが前提となることがほとんどです。
そのため、アカデミアと比較すると、直接企業の利益になりやすい応用研究が盛んに行われています。
アカデミアでの研究のメリット
アカデミアや大学での研究と企業での研究はそれぞれメリット・デメリットがあります。
ここではまず、アカデミアで研究するメリットを見ていきましょう。
具体的には以下のようなものがあります。
- 自分主体で研究をすすめられる
- 多種多様で自由な研究が行いやすい
- 応用研究では社会実装を目指せる
自分主体で研究をすすめられる
アカデミアではあなたが主体となって研究を行えることが多いです。
利益に直接結びつくような研究でなくても、長い年月をかけて1つのテーマについて深く研究できるでしょう。
そのため、自分自身が納得のいくまで研究が可能です。
民間企業ではできない、アカデミアで働くことならではのメリットです。
多種多様で自由な研究が行いやすい
アカデミアでは、利益が目的の研究だけではなく、多種多様で自由な研究を行うことができます。
一般的に研究室のトップの人が立てた研究計画に沿って業務を行いますが、研究結果に繋がりそうなアイデアを出すと、研究をやらせてもらえるかもしれません。
もちろん、研究費や研究設備によって実施できる研究には制限がありますが、民間企業よりも自由度は高いです。
基礎研究には学術的な価値がありますが、民間企業では直接的な利益に結び付きにくいため、取り組みづらいというのが実状としてあります。
もちろん、長期的な成長戦略や社会貢献などといった観点から基礎研究にも積極的に取り組む企業はありますが、少数派と言えるでしょう。
アカデミアでは、分野にもよりますが、むしろ学術的な意義のある基礎研究が評価される傾向にあります。
民間企業では利益に直結する製品開発や技術開発は積極的に行われる一方で、系統的・網羅的なデータ収集や理論的な解析があまり行われないことから、これらの基礎研究をアカデミアで扱う意義があります。
一方、産学連携や産官学連携などと呼ばれる、企業とアカデミアとの共同研究もしばしば行われます。
アカデミアでは基礎研究を得意としており、学術的な展開に興味を持っている研究者が多いものの、社会実装まで漕ぎ着ける研究成果はごく一部です。
民間企業において競合他社との差別化や革新的な技術発展には応用研究だけでは限界がありますが、基礎研究から製品化までの全てをまかなうのは大変です。
共同研究という形でアカデミアと民間企業でうまく役割を分担することで、社会実装が進んでこなかった基礎研究の成果を活用できるのです。
応用研究では社会実装を目指せる
アカデミアの研究の中には応用研究もあります。
中でも工学や医学は学問の追及の先に、研究成果や得られた技術が社会に実装される可能性もあります。
あなたの成果が社会によい影響を与え、大きな達成感を味わえるでしょう。
最先端の研究をしている専門家から助言をもらいやすい
アカデミアでは研究成果を学会や論文などの形で発表し、学内外・研究機関内外の研究者と交流や議論の機会があり、助言をもらえる可能性があります。
ある研究テーマをさまざまな分野の研究者と共同で行う場合には、各分野の専門家と話すことができます。
そのため、自身の研究をより広い視野で見られるようになり、研究成果へと繋げられるかもしれません。
一方、民間企業でも助言をもらえる可能性はありますが、知的財産の関係上、情報共有を行えない場合も少なくありません。
企業では学会や論文などの発表よりも自社の技術開発や競合他社との差別化が重視されることが少なくありません。
資金を投じて得られた研究成果が他社に知られてしまうことを防ぐため、せっかく良い研究成果が得られたのに発表できなかったり、自分の業績として外部に公開することができないことがあります。
こういった研究成果がどのように扱われるかといったポイントは研究のモチベーションにも直結するため、「知識の幅を広げたい」「専門家の人たちともっと話したい」という方は、アカデミアの研究ポストを検討することをおすすめします。
アカデミアでの研究のデメリット
アカデミアで働いて研究を行うメリットはたくさんありますが、デメリットも当然あります。
具体的には以下のようなものがあります。
- 研究費を自分で獲得する必要がある
- 研究スピード
- 経済的安定では企業の方がよい
研究費を自分で獲得する必要がある
研究機関によっては潤沢な資金があるところもありますが、基本的にアカデミアでは研究費が限られていることがほとんどです。
そのため、研究者は自ら科研費(学術研究助成基金助成金/科学研究費補助金)などの競争的資金に応募をして、外部からの研究費を獲得する必要があります。
研究スピード
研究の成果が出るまでに時間がかかるということもデメリットとして挙げられます。
アカデミアの場合、共同で研究を行うこともありますが、1人で研究テーマを行うこともあります。
1人では作業量に限界があるため、チームで研究を行う企業よりも研究スピードは遅くなってしまいます。
大学では学生の卒業研究や修論研究として研究を行うケースも多いですが、学生は数年で卒業・修了して入れ替わってしまうことから、一緒に長い時間を掛けてじっくりと研究を進めていくというようなことは企業と比べて難しいと考えられます。
アカデミアでは長い年月をかけて1つの成果を生み出す基礎研究も少なくありません。
先が見えない中で根気強く研究に取り組まなければならないのは、アカデミアの研究におけるデメリットともいえるでしょう。
経済的安定では企業の方がよい
アカデミアの研究者は経済的安定がしにくいのも事実です。
科学技術・学術政策研究所(2022)によれば、アカデミアポストに就いた2018年度に博士課程修了者のうち、「任期なし」の職に就いた人は約33.5%のみであり、残りの66.5%は「任期あり」もしく「任期あり(テニュアトラック含)」でした。
任期のない准教授や教授になれば高収入で安定した収入を得られますが、そのようなポストに就くためには、10年以上の年月がかかってしまうことがほとんどです。
そのため、アカデミアで研究者になるためには経済面において、不安定な雇用形態のもとで研究活動を行う可能性があることを把握しておく必要があります。
参考:文部科学省 科学技術・学術政策研究所(2022年)「博士人材追跡調査」第4次報告書」
企業での研究のメリット
民間企業の研究職でもメリットとデメリットがあります。まずはメリットから見ていきましょう。
具体的には次のようなものがあります。
- 研究成果に早くコミットできる
- 安定した雇用形態であることが多い
- 目的が明確な場合、予算を使いやすい
研究成果に早くコミットできる
研究成果に早くコミットできるのが民間企業で研究を行うメリットです。
民間企業の研究は製品化やサービス化に繋がる応用研究がほとんどです。
そのため、製品によっても異なりますが、あなたの行った研究が数年後には商品となり市場に出回ります。
自分が行った研究が世の中のためになっているという実感が湧き、大きな達成感を得られるでしょう。
安定した雇用形態であることが多い
民間企業の研究職の多くは正社員として雇用されます。
当然成果を出せば昇給や出世ができますし、会社でよほど信頼を失うようなことをしない限りは解雇されることもありません。
そのため、安定した雇用形態のもとで研究を行うことができるといえるでしょう。
目的が明確な場合予算を使いやすい
目的が明確であれば予算を使いやすいのもメリットといえます。
企業では予算が決められていますが、会社の利益に貢献していることもあり、ある程度予算に余裕があります。
そのため、研究に必要な機器や道具であれば、問題なく購入できるでしょう。
ただし、会社の資金ですので、上司や部署の人と相談して購入する必要はあります。
企業での研究のデメリット
企業で研究することのデメリットも紹介します。具体的には以下のようなものがあります。
- 研究成果が出る前に中止や異動になることもある
- 会社の目的に合わせた研究になる
研究成果が出る前に中止や異動になることもある
企業はビジネスをしている以上、利益を追求しなければなりません。
そのため、一定期間の中で成果が見込めない研究テーマについては途中で中止になることがあります。
また、研究の途中でも、別の研究を行っている部署へ異動することもあります。
そのため、たとえ自分が深く関わってきた研究テーマであっても、最後まで関わることができない可能性がある点はデメリットといえるでしょう。
会社の目的に合わせた研究になる
企業の場合、研究テーマは会社の目的によって決まってしまうことがほとんどです。
そのため、アカデミアと比べると自由度が低く、自分の興味のある研究を行えない可能性が高いと言えるでしょう。
また、自分の興味のある研究であったとしても、会社の目的にあわせた研究を行うことが求められるため、必ずしも自分のやりたいことができるわけではないという点は民間企業における研究のデメリットといえるでしょう。
まとめ
この記事ではアカデミアと企業についての違いを紹介しました。
アカデミアでの研究と企業での研究はそれぞれにメリット・デメリットがあり、選択するのはあなた次第です。
自己分析や業界研究、企業研究を行ってどちらで研究したいか明確にして選びましょう。