【東京大学 酒井雄也氏】お菓子の家の実現と、ゴミからできるコンクリート ー次世代の建築材料開発を目指してー(2)

インタビュー

ー 学生時代の研究室の環境はどうでしたか

 修士のときは、若い先生に指導していただいたのですが、とても細かく指導してくださる先生でした。メールを私に送ってから数分後に私の席に来て「メール読んだ?」と言ってくるような先生で、いろいろと鍛えられて、プレゼンの仕方や論文の書き方も丁寧に指導していただきました。博士のときは、逆に放任主義と言いますか、「自由にやっていいよ」という感じでしたので、修士のときに鍛えられた力を使って、自由にやらせていただきました。この流れは恵まれていたと思います。

 ちなみに、現在の私の研究室は、このお二方の中間くらいの方針です。どちらのメリットもデメリットも経験できたので、その両方を取り入れています。学生のときのコンクリートの研究はとにかく楽しくて、わからないことがいろいろあるのが魅力で、謎を解いていくのが面白くてやっていました。一方で、特に博士のときはマニアックなコンクリートの研究をやっていました。具体的には膨張材という材料をコンクリートに入れて膨らませることによって、ひび割れにくくなるコンクリートを作る研究なのですが、当時は興味を持っている人が少なく、発表してもあまり反応がない苦しさがありました。逆に、今こうやってリサイクルをやっていると、いろいろな方に興味持っていただけるのでありがたいです。一般の方からも「使いたいのですがいつできますか」と、メールで問い合わせをいただいたりしました。

ー コンクリートや工学分野は、今後どのような方向に進んでいくと思われますか

 例えば、鉱山の分野などは大学から学部がなくなったり、廃れてしまっていると聞きます。コンクリート分野も、セメント化学という分野がありますが、それを専門とされる先生も少なくなってしまっている状況です。昔は日本全国にいらっしゃったそうなのですが、どんどん減っていると聞いています。コンクリート分野も、近いうちに減っていくのかなという危機感を持っています。

 コンクリート技術は確立されてきているのですが、原料が足りなくなっているため、大きい転換が必要です。ですので、本格的にコンクリートに代わる材料を研究していきたいと思っています。今、地球上では、水の次に多く使われているものがコンクリートですので、それを使わない日が来るとなると大変革が必要です。どのような材料であればその大変革を乗り切れて、一般の人が安心して使えるかを考えながら、材料を開発していきたいと思い、研究しています。

ー 研究対象をコンクリート以外に変えていく可能性があるということですか

 そうですね。代々、研究室の名前はコンクリート工学という単語がついていましたが、私の研究室名はコンクリートという単語を取ってしまい、「持続性建設材料工学」という名前にしています。コンクリートにこだわっていないわけではありませんが、それ以外にも研究の幅を広げていきたいと考えています。研究室の学生が、コンクリートというものをどのように捉えているのか、詳しくはわかりませんが、学生にはプレスリリースしたような内容を一通り紹介するので、ボタニカルコンクリートをやりたいと言って研究室に入ってくる方も多いです。留学生であれば、コンクリートの原料がまったく取れない国から来ている方もいるので、母国で輸入原材料に頼らずに建設材料を作りたいという気持ちがあるようです。

ー 研究室には何名の学生がいらっしゃるのでしょうか

 今10人程で、毎年学生は10名前後をキープしています。今は、博士課程が3人、修士課程が5人います。日本人であれば、学部から修士へは9割以上が進学しています。修士から博士へ進学するのは1割程度です。修士の学生は、ゼネコン、国交省、鉄道や高速道路、道路関係などへの就職が多いです。博士であれば、アカデミアと民間企業の両方がいます。最近博士課程を修了した学生は、ゼネコンに研究者として就職しました。

ー 学生の就職や進学の選択について思うことはありますか

 個人としては、博士課程に来てくれた方がありがたいです。研究職に就きたいのであれば博士まで行ったほうがいいと思います。ただ、最近では大学教員や高専の教員でも、民間で働いた経験が求められることが多いです。修士を出た後に一度就職をして、その後博士で戻ってきたり論文博士をとってから教員になるというのも魅力的なルートなのではないかと思います。そのような方は周囲に結構いらっしゃって、元々教員になるつもりはなく修士を出て働いてみて、もっと研究をやりたくなった、と博士に戻ってくる話は聞きます。

ー 大学院生に対して思うことや、読者へのメッセージはありますか

 頭で考えすぎてしまうところがあると思います。1回少し手を動かしてみればすぐにわかるようなことなのに、頭で考え続けて結局動けなくなることがあります。失敗が怖いのかもしれませんが、とりあえず手を動かしてみて、失敗したらそのときに考えるような進め方が良いのではないかと思うことはあります。

 研究室の運営や教育としては、「とりあえず手を動かしてみよう」と学生に伝えています。もしかすると、人生も同じかもしれません。私自身も、半年ぐらい頭でずっと考えていて、実際に手を動かしてみると、一瞬で半年の時間が無意味になるような結果が得られたことがありました。コンクリートは乾燥すると縮むのですが、縮むメカニズムがまだはっきりわかっていなくて、何で縮むのか仮説を立てていました。この仮説を使えば何でも説明できると思い、半年ぐらい温めていて、あれにも使える、これにも使えると考え続けて半年が経った頃に、その仮説が本当に正しいのか簡単な実験をやってみました。すると、その仮説が完全に覆されてしまって、成り立たなかったのです。まず試していれば、半年を無駄にせずに済んだのです。その反省もあり、まず手を動かすようにしつつ、知りたいことがあれば、それに詳しい先生に連絡を取って、相談することを心がけています。今回のボタニカルコンクリートも、農業系の先生にアドバイスを求めたり、砂同士の接着についても触媒化学の方に助けていただきました。Googleで検索して出てきたまったく面識の無い先生方にメールを送ったりしています。

ー よく、学会などでほかの先生方と知り合う話は聞きますが

 コンクリート分野であれば知り合いがいるのですが、他分野のことばかりやっているので、異分野の方と繋がるときはGoogleで調べてコンタクトをとっていて、相手が偉い方の場合は、ドキドキしながらメールを送っていました。8割程度の方はすんなり返信をくださります。何かやりたいと思ったら、それについて1番詳しそうな人を探して訊くのが最も効率が良いですし、間違う可能性が低いので、助けていただきながら研究を進めています。もう1つのやり方は、自分でマスターすることなのですが、やりたいことがいっぱいあるので、助けを借りて確実かつ迅速に進めたいと思っています。

プロフィール(インタビュー当時)

酒井  雄也 氏

東京大学生産技術研究所 准教授。1984年愛知県生まれ。2011年東京大学大学院工学系研究科博士後期課程修了。博士(工学)。2011年東京大学生産技術研究所特任助教。2012年東京大学生産技術研究所助教。2017年7月東京大学生産技術研究所講師を経て2020年より現職。専門はコンクリートを中心とした建設材料および新材料の開発。

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