確定申告の時期になりました。複数の大学で非常勤を受け持ったり、研究職と一般のバイトを掛け持ちしたりしているポスドクにとっては恒例行事でもあります。
確定申告とは
「毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた全ての所得の金額とそれに対する所得税及び復興特別所得税の額を計算し、申告期限までに確定申告書を提出して、源泉徴収された税金や予定納税で納めた税金などとの過不足を精算する手続」のこと。
(国税庁ウェブサイトより)
iDeCoやNISA、ふるさと納税などを活用している人にとっては、控除を受けるために欠かせない手続きですが、副収入が20万円以下の場合は年末調整で納税手続きを済ませることができるため、場合によっては、確定申告をしなくてもいい、という方もいるかもしれません。
iDeCoとは
「・iDeCo(イデコ)は、自分が拠出した掛金を、自分で運用し、資産を形成する年金制度です。掛金を60歳になるまで拠出し、60歳以降に老齢給付金を受け取ることができます。
・基本的に20歳以上60歳未満の全ての方(※)が加入でき、多くの国民の皆様に、より豊かな老後の生活を送っていただくための資産形成方法のひとつとして位置づけられています。」
(iDeCo公式サイトより)
NISAとは
「通常、株式や投資信託などの金融商品に投資をした場合、これらを売却して得た利益や受け取った配当に対して約20%の税金がかかります。NISAは、「NISA口座(非課税口座)」内で、毎年一定金額の範囲内で購入したこれらの金融商品から得られる利益が非課税になる、つまり、税金がかからなくなる制度です。」
(金融庁ウェブサイトより)
ふるさと納税とは
「自分の選んだ自治体に寄附(ふるさと納税)を行った場合に、寄附額のうち2,000円を越える部分について、所得税と住民税から原則として全額が控除される制度です(一定の上限はあります。)。」
(総務省ウェブサイトより)
特に、産育休中や、復帰直後の場合、12月までの所得が規定額よりも少なくなっているという方もいるのではないでしょうか。
ただでさえ年度末は忙しく、子どものことでバタバタしている状態ですから、やらなくてもいいのであれば面倒なことは極力省略したいところではありますが、子育て中のポスドクの方こそ、仮に「義務」が発生していなくても確定申告をすることを、一度検討してみることはおすすめできます。
「義務」がなくても確定申告をやっておくメリット
義務がなくても、確定申告をすることで源泉徴収分が還付される場合があります。ポスドクの場合、このケースに当てはまることは多いのではないかと思いますが、
そのほかにも、「保活」の観点からも確定申告がかかわってくることがあります。
こちらの連載で度々お伝えしているように、「保活」を制するには「公的な書類」を揃えることがかかせません。ポスドクは一般的な会社勤めとは異なるため、勤務実態を説明するため、スケジュール表を作成したり、研究機関へ一筆もらったりと、さまざまな「証明」が必要になるケースがあり、さらにそれらの書類が公的なものとして受理されるかどうかが重要になります。
その際、「確定申告の控え」は、多くの場合「公的な書類」として有効です。
「源泉徴収票」でも同様の扱いになることは多いですが、複数の箇所から収入を得ている場合には、確定申告をすることによって、それらを1枚で提示することができるようになります。
原稿料や単発の講演料など、申告する義務がない金額であったとしても確定申告し、控えを持っておくことによって、後々、自治体に提出する書類として役に立つ可能性があります。
今はまだ子どもを預ける予定がない人も、いつ保活が必要になるかわかりませんし、預け先が決定している場合も、いつ確認の証明書の提出が求められるかわかりません。子育て中の方は、今必要を感じなくても、どこかで役に立つ可能性があるのではないでしょうか。
勤務の証明は、保育所の申し込みの時だけではなく、入所が決まった後や毎年度の更新時にも求められます。また、小学校入学後の学童保育所についても同様です。保育所や学童保育所の申し込みの際には、自治体によっては自営業者の評価が不利になるなどの事情により、あえて「確定申告の控え」は使わないという場合もあるかもしれません。
しかし、入園後の勤務継続の証明については、また別の基準により、「確定申告の控え」が重宝する場合もあるので、覚えておいて損はないと思っています。
保険料、医療費は家族で合算という手も
確定申告の際、税の控除について、家族がいる場合は、誰が控除を受けるべきか、再検討することで節税につながることもあります。たとえば、医療費控除、社会保険料控除です。
医療費、社会保険料は自分のほか「生活を一にする親族」の分を支払った場合にも適応されるため、家族のなかでより年収が高い人が家族全員分を負担し、その人の分の控除対象としてまとめて申告するほうが、家族でバラバラに負担するよりも節税になる場合があります。
よく知られていることではありますが、特に出産をした年度には注意が必要です。出産にともなって発生する医療費も控除制度の対象で、定期検診や検査、交通費を含めた通院費用も対象に含まれます。
(参考)国税庁「医療費控除の対象となる出産費用の具体例」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1124.htm
そして、出産に費用がかかった年度は、出産をした本人は産休によって収入が減少し、配偶者のほうが相対的に所得が高くなっているケースがあります。、その場合、医療行為を受けた本人よりも、その年の総所得がより高い配偶者が控除を受けるほうが恩恵を受けられることになります。
(多くの場合、ポスドクには出産休暇、育児休暇に対する手当がありませんが、保険から支払われる手当は所得とは別とみなされることも要注意です)
反対に、出産をした人が産後間もなく復帰をし、配偶者が育休をとって、控除対象配偶者に該当するということも考えられ、家族間での確認が重要です。
また、医療費については、「10万円以上の自己負担があった場合に控除が受けられる」という認識を持っている方が多いことと思いますが、「その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%の金額」を超えて負担していれば、控除の対象となります。
年間所得の区切りは1月から12月までですが、出産や産休育休のタイミングはそれぞれ異なるので、出産時のまとまった医療費だけでなく、出産前後の医療費が年をまたいで発生し10万円未満になるというケースもありえます。そのような場合、所得の減ったほうの基準により、控除を受けられる可能性があるわけです。
16歳未満の子を誰の扶養にいれるか
医療費と保険料の控除を、世帯のなかで一番収入の多い人が申告するという流れから、16歳未満の子どもがいる場合、同様に年収の高い方の親の扶養としている人は多いかもしれません。
しかし、場合によっては、むしろ所得の低い方の親の扶養にすることによって、住民税が節税になる可能性があります。
児童手当制度が始まって以来、16歳未満の子どもは、扶養親族にすることはできても、控除の対象とはならないことになっています。そのため、誰の扶養にはいっていても所得税の控除には影響しないということになります。
所得税には影響はしませんが、実は個人住民税の算出には非課税規定というものがあり、そちらの算出には扶養親族の人数が関係してきます。住民税は、前年度の所得によって負担額が決まるもので、前年度の合計所得額が定められた限度額以内であった場合は課税されません。扶養親族がいる場合には、この非課税限度額が大きくなる算出方法が規定されているのです。
住民税の非課税限度額は、その額以内か超えているかのみが基準となるため、子どもの保護者の双方が限度額を超えた所得を得ている場合には、どちらの扶養に入れても関係ありません。
しかし、被扶養者になることによって限度額を下回る場合には、住民税が非課税になるわけですから、医療費、保険料等の控除とは反対に、世帯のなかで低い方の所得を基準に試算をしてみることが有効になります。
税法上の扶養と社会保険上の扶養との混同によっても見落としがちですが、家族が増えたタイミングや出産や育児にまつわるものだけでなく、今年はCOVID-19の影響で減収したという方もいるかもしれません。
心当たりのある方は、自身の住んでいる自治体のウェブサイトを参照するなどして、住民税の非課税限度額を調べてみてください。すでに年末調整がすんでいる場合でも、改めて確定申告をすることにより、扶養控除の所属の変更をすることができます。
(参考)国税庁ウェブサイト
「No.1181 納税者が2人以上いる場合の扶養控除の所属の変更」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1181.htm
関係各所から書類を集めたり、計算をしたり、なにかと面倒なイメージのある確定申告ですが、保活にいかせたり、節税ができたり、後々にきいてくるメリットもあるかもしれません。家族や勤務先など、周囲とすり合わせや情報交換をしながら、不利益を被らないように的確且つスムーズにこなしたいものです。
税務署が管轄する所得税と、市区町村が管轄する住民税と、管轄のことなる税金が関係してくることなので、複雑な部分があることも事実です。場合によっては、申告義務がないにもかかわらず確定申告をした結果、収めるべき税金が増えてしまうケース、かえって交通費などの経費がかかりデメリットのほうが多くなるケースなどもあるかもしれません。
国税庁は納税に関する相談窓口を設けています。そのほか、多くの市区町村の役場では、納税相談を受け付けているので、無自覚に納税義務を怠ってしまってはいないか、還付の権利を放棄してしまっていないか、判断がつかない方は、こうした公的な相談窓口を利用してみるのも手です。
[文責・子育てポスドクさん]
<筆者について>
人文科学系のポスドク。大学院博士課程を単位取得満期退学後、任期付きポストと非常勤講師を兼任しつつ研究を続ける。
精神的不健康傾向の会社員のパートナーと、特撮大好きな幼稚園年長の娘、頑なに音声言語を話そうとせずにこの頃ハンドサインの語彙を増やしている一歳半の息子との4人暮らし。
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