ロジカルかつ、主体性と実行力があるのにビジネスで活きないケース
鬼頭:コンサル業界の中にいる人としてはどうですか?
野村氏:ロジカルな文化はありますよ。基本的に5現主義だったり、ちゃんとファクトを拾ってくるとか。ファクトの中でも文化人類学的なファクトにもなりますけど、「誰がこう言った」というのをちゃんと記録しておくのも当然ファクトやエビデンスにもなりますよね、といったところに基づいて議論を組み立てていけるかどうか。
また、一方でこうあるべきという理想を持ちながら、現状との間にどのようなギャップがあって、それをどういうステップで乗り越えていけばいいか、と話を組み立てていきます。研究もそうですが、こういう結果が欲しいから、こういう風にやっていけば、こういう結果が出るかもしれない、という仮説を立てて実験してみて、失敗したり成功したりする。そういうところはすごく合うのではないかなとは思います。
一方で、コンサル業界はロジカルだから大学院生の能力が確実に活きるかと言うと、業務面ではいけるのですが、ビジネスという観点で果たしてどうなのかはちょっと分からないです。コンサルって費用対効果がめちゃくちゃ高いのです。時給1〜2万円とか、日給8万、10万の世界なのです。どこまで効率を上げていけるかという考え方が、大学で研究している時とビジネスでやっている時とで大きな差があると思います。
ロジカルな仕事はできるのですが、ロジカルに実証するために、仮説全部をもれなくダブりなくひたすら検証しまくって、これが答えです、と出せばいいかというとそうでもなくて。冒頭に「主体性と実行力」をキーワードに出したのですが、ある人は「そうすればいいんだ」と思って突っ込んでいってしまうのです。例えば、全部で10通りパターンが考えられる時に、3通りだけ試せばある程度答えが出るのに、10通り全部やるまで気がすまなくて。下手に実行力があるからやってしまって、実験結果を出すのに3日間で終わる作業が2週間半ぐらいかかっちゃって、10日分ぐらい無駄にしてしまうという行動をしがちな時に、なぜそういうことをしてしまうのかという悩みにぶつかったりしますね。
平田:それはすごくよく分かります。多分私は社会人初期の頃にそれで怒られたんじゃないかな、と思い出しました。
野村氏:もう1つは、コンサルと元大学院生で言うと、「元大学院生の方が意見を出さない」傾向があります。「結果はこうです」というのはいいのですが、どういうものをお客さんに出すのか、結果を踏まえてどうしたらいい、という提案を出すことができない。
例えば
院生コンサル:「こういう結果が出ました」
上司:「で、あなたはどう思ったの」
院生コンサル:「Bのパターンがいいと思います」
上司:「それはなぜ?」
院生コンサル:「いや実験した結果、これが適切だからです」
というやり取りがあった場合、上司が知りたいのは実験の結果だけでなく、それを踏まえた一コンサルとしての意見なんですよね。
現状把握はできるけれど、それを踏まえてどうしたい、という意見を持てない。
鬼頭:確かに、それはあるかもしれません。普段から論文発表の際に極端な解釈をしない、言えることしか言わない点はあります。自分の意見や解釈をさらに上乗せして、相手に合わせた意見を言うことは結構難しい。大学院ではあまり学ばない範囲なのかもしれません。
野村氏:これは個人的な感想なのですが、意見を言うことに関しては学部生の方ができるケースが多い気がします。ロジックはめちゃくちゃでも自信満々に意見を言う。きちんと「ロジックがずれているよ」というフィードバックを返すと、そこでPDCAサイクルを回せるので、ビジネスのスキームに乗っていきやすいと思うのですよ。これに対して、大学院生の「この結果なのでBがいいと思います」に対して「そうではなくて、今回はCが良いんだよ」と話をしても、結果としては自分が正解なのに、なんで別のものが推されているのか分からなくて、PDCAサイクルを回せない場合もあると思います。そういった意味で、学部生の方が素直に伸びる部分もあるかもしれません。もちろん、学部生で意見も言えないしロジックがめちゃくちゃで、どうしようもないパターンもありますが。
鬼頭:営業先の企業に対して、大学院生の説明をするのですが、その時のカウンターとして同じような意見をもらうことは稀にありますね。
野村氏:院生は素直じゃないということですか。
鬼頭:そこまではっきり言われることはないですが、同じような意味のことを言われます。コンサルタントの場合は、ロジックで戦うので、仕事の中ではロジックが活かされると思いますが、他の現場ではどうなのでしょうか。
アカデミアとビジネスの評価軸
野村氏:平田さんはどうでしたか。以前の職場はロジカルな現場だったのでしょうか。
平田:前職がデータサイエンティストだったのですが、そこは割ととロジカルでしたね。ビジネスに貢献しなければデータサイエンスは意味がないので、まずビジネスが先にあって、そのために分析業務があることは最初の方でしっかり教えてもらいました。もちろん専門性や個々の分析スキルは大事ですが、最終的な目的として、ビジネスがあるということを口酸っぱく言われていました。目的をはっきりと教えられていたので、素直に納得できましたね。
野村氏:それはあまりコンサルと変わらないのかもしれないですね。コンサルも基本的に目的ドリブンでやらないといけません。
平田:そうですね。アカデミアとビジネスの場面って、評価軸が基本的に全く違います。もちろん同じ部分もあるのですが、評価軸や目的がそもそも違うことをまず頭に叩き込んでいただかないと、残念な博士が生まれてしまいそうですよね。ですから、教育は必要なんだろうなと思います。博士新卒の方に教育をされることはありますか。
野村氏:博士新卒という括りはないのですが、新卒に一括でやる研修に博士の方が参加されることはあります。あまり年齢を気にしない会社なので。中途の方も多く入ってきますが、苦しんでいる中途の人もいますね。余談ですが、私は中途の面接も担当しているのですが、目的が不明確な中途の方はまず落ちます。「あなたが、『今回の転職が成功した』と思う状態はどんな状態ですか」と私はよく聞くのですが、そこから逆算してうちの会社に入っていることが、なるほどと思えるのであれば方向性は間違っていないと思います。一方で、その方向性とうちの会社が紐付いてないと、悲しい気持ちになりますね。目的のために、うちの会社をどういう風に理解して転職しようと思ったんだろう、ということを考えられる能力は、前提として必要なのかもしれません。
話を戻すと、研修は普通にやっています。その中で、「目的が大事だ」と教えて、OJTという程でもないのですが、社内プロジェクトで「頭では分かっているけれども体がついてこない」という状態の方々に対して目的が大事である理由を示した後に、実際のプロジェクトにOJTとして入ってもらって3か月から半年程度かけて動き方を叩き込みます。結局は投資なので、最初に時間をかけても、その後に回収ができればいいと思っています。
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