TA(ティーチングアシスタント)は、多くの大学で導入されている制度で、興味を持つ大学院生も少なくありません。
また、TAに似た制度としてTF(ティーチングフェロー)、RA(リサーチアシスタント)、SA(スチューデントアシスタント)などがあります。
これらの存在は知っているものの、それぞれの違いや特徴については良く知らないという方もいるでしょう。
そこで本記事では、TAとはどのような制度なのか、TAになるためにはどうしたらいいのかについて詳しく解説します。記事の後半では、TAと類似の制度についても併せて紹介するので、ぜひ参考にしてください。
TA(ティーチングアシスタント)とは
TAとは「ティーチングアシスタント(Teaching Assistant)」の略で、大学の授業やその準備を行う教員をサポートし、授業の円滑化を図る役割があります。
一般的に、大学院の修士課程や博士課程に所属する学生が行うことのできる業務です。
この章では、TAについての基本的な理解を深めるため、TAの目的、具体的な仕事内容、給与についてご紹介していきます。
TAの目的
ここでは、TA制度が発足した目的について見ていきます。
TA制度の目的としては、主に以下のようなものが挙げられます。
TA制度の目的
- 授業内でのコミュニケーションを促進し、受講生の理解度を向上させる
- 大学院生が大学教育に携わることで、キャリア形成に役立てる
- 研究者の一員である大学院生の処遇を改善する
このように、TAは、教員にとっては自分の手が回り切らない部分をサポートする存在です。また、TAとして従事する大学院生にとっては給与を受け取りながら大学教育に携わることで自分のキャリア形成に役立てることができる制度といえるでしょう。さらに、授業の受講生にとってTAは、気軽に質問等を行い授業への理解を深めるために頼りになる存在です。
このように、TA制度は教員・大学院生・受講生のそれぞれにメリットがあるといえます。
TAの仕事内容
TAの仕事内容は、「ティーチングアシスタント」という文字通り、大学における授業や実習、演習や実験を含む教育活動全般をサポートすることです。
一言で「教育活動全般のサポート」といっても、具体的な業務内容は多岐にわたります。
例を挙げると、以下のようなものがあります。
TAの仕事内容
- 受講生の出欠管理
- 受講生の質問対応
- 教材の準備
- 実験・実習の補助
- ディスカッションの補助
- 提出物の回収・管理
ただし、一人のTAのみでこれら全ての業務をこなすというわけではなく、担当する授業の形態や受け持つ教員によって仕事の内容や量が大きく異なります。
TAのメリット
TAのメリットは、次のとおりです。
TAのメリット
- 給与を受け取れる
- 受講生とは別の観点から知識を得られる
- 業績としてカウントできる
まずは空きコマなどちょっとした時間を使って学内で仕事をし、給与を受け取ることができる点が挙げられます。
TAが受け取れる給与は、大学、所属課程、業務内容等によって異なります。
例えば、東京大学では1時間あたりのTAの給料は博士課程1,590円、修士課程1,380円という形で所属する課程によって異なります。
他にも立命館大学のように、授業時間中の勤務(90分授業1コマあたり3,000円)と授業時間外の業務(1時間あたり1500円)によって時給が異なる場合もあります。
大学によって、給与額そのものや、給与額の決め方に違いがあることがわかります。
自分の所属大学の制度が気になる場合は、「〇〇大学 TA 募集要項」や「〇〇大学 TA 給与」といったキーワードで検索してみると情報が見つかるでしょう。
また、TAとして授業に関わることで受講生とは別の観点から知識を得られるのもTAのメリットといえるでしょう。授業を受けて理解したつもりでいても、受講生からの質問によって理解不足の点が見つかったり、自分の知識が深まったりすることもあるはずです。
加えて、業績としてカウントすることができるのもTAの利点として挙げられます。飲食店のような通常のアルバイトでは教育経験として伝えられないものの、TAであれば授業の補助業務を経験したとアピールできるでしょう。
日本学生支援機構の貸与型奨学金における「特に優れた業績による返還免除」の審査においてはTAなどの教育補助業務を業績とすることが可能です。このように、奨学金を利用している場合や将来教育現場への就職を目指している場合にはTAとしての経験を業績として生かせるでしょう。
参考:東京大学「TAに関する基本的な情報2020年度 ティーチング・アシスタント募集要項」
参考:立命館大学「TA(Teaching Assistant)制度のご案内」
参考: 日本学生支援機構「特に優れた業績と評価方法」
TAに求められるスキルと適性
ここまでは、TAの目的や仕事内容、そして給与についてご紹介してきました。
TAについて少し知識がつき、実際にTAとして業務を行うことに関心を持った人もいるのではないでしょうか。
しかし、TAとは、大学院生であれば誰でも自然になれるというわけではありません。
TAに求められるスキルや適正は、次のとおりです。
- コミュニケーションスキルが高い
- 学業成績が優秀である
- 自立性と責任感が強い
- 将来教員や研究者を目指している
それぞれの内容について詳しくみていきましょう。
コミュニケーションスキルが高い
TAは、教員と受講生の間に立って授業をサポートする存在です。そのため、学生の質問や不安、困りごとなどがあった場合に、丁寧にヒアリングする「傾聴力」と、相手に分かりやすく伝える「説明力」が必要とされます。
特に、相手がどのポイントでつまずいているかを見極めたうえで、専門用語をかみくだいたり、具体例を用いてイメージしやすくしたりしながら伝えることが重要です。さらに、近年増えつつあるオンライン授業を実施する際は、チャットでのやり取りや画面共有など、対面授業とは異なる工夫や配慮をする必要があります。相手の表情や様子が伝わりづらい場面であっても、安心して授業を受けられるような配慮をすることで、学生にとって頼れるTAになれるでしょう。
学業成績が優秀である
多くの大学や大学院では、TAの応募条件として「一定以上の成績を収めていること」と設定しています。つまり、日頃の学業の取り組み方が重視されるのです。
TAは、授業に参加する学生と同じように授業内容を深く理解したうえで、学生に向けて正確に説明したり、アドバイスしたりする立場です。大学や大学院によっては、TAを「学生の手本・見本」として位置づけている場合も少なくありません。そのため、普段の授業にしっかり取り組み、学内で信頼される存在であることが、TAに選ばれるうえで重要なポイントとなるでしょう。
自律性と責任感が強い
TAは、ただ教授や教員の指示を受けて動くだけでなく、自ら考えて行動する力が求められます。
TAは、授業中の出欠の確認や資料の準備、学生からの質問対応など、多岐にわたる業務を担当する必要があります。限られた時間のなかでこれらの業務をうまくこなすためには、自分で段取りを考えて行動に移せる「自律性」が重要です。
さらに、TAは、学生のレポートや出席情報、場合によっては成績といった学生たちの個人情報に触れる機会も多くあります。そのため、教授や教員、そして学生たちから信頼される存在であるためにも、大切な情報を正しく扱うモラルの有無や責任感の強さも大切なポイントです。
周囲から安心してTA業務を任せてもらえるような存在を目指しましょう。
将来教員や研究者を目指している
TA業務は、将来「大学教員」や「研究者」として活躍したいと考えている方にとって貴重な経験となるでしょう。
TAとして授業運営に携わることで、教えることや伝えることの難しさ、教員側の準備の大変さなど、教育現場の「リアルな姿」を体感できます。このような経験は、将来実際に教壇に立つ際に必ず役に立つはずです。
また、多くの大学では、教育職やアカデミックキャリアを目指す学生に対してTAを経験するように推奨しており、未来の教育者育成の一環として位置付けているケースも少なくありません。学びながら教える経験を積むことで、より広い視野で自分の進路をより具体的に考えるきっかけとなるでしょう。
TAになるための応募方法と手続き
TAとして実際に授業に関わるためには、事前の応募や書類提出、面談などいくつかのステップを踏まなければなりません。ここでは、TAの応募から採用までの流れについて詳しく解説します。
なお、今回ご紹介するのはあくまで一般的な流れであり、大学や授業ごとに応募のタイミングや方法が異なる場合があります。実際に応募する際は、自分の所属先の募集要項や案内を必ず確認してください。
応募時期と応募方法を確認しよう
TAの募集は、勤務開始の1〜2か月前に行われることが多く、大学や学部によって時期が異なります。例えば、任期が1年間の場合は、前年度の12月頃に募集されることもあります。学内の掲示板や学内ポータル、研究科の事務室などで、こまめに情報をチェックしましょう。
TAの応募方法は、主に次の2種類があります。
- 学内向けの公募に応募する
- 授業を担当する教員から直接声がかかる
公募の場合、過去の履修状況や適性を確認するために面談を実施するケースもあります。担当する授業によっては、応募条件が細かく定められていることもあるため、募集要項をしっかり読み込み、条件を満たしているかどうかを事前に確認しておきましょう。
選考の流れと必要書類
TAの選考の流れは、次のとおりです。
TA選考の一般的なステップ
- 大学や学部の掲示、学内ポータルなどで募集情報を確認する
- 応募要項に沿って、必要書類を提出する
- 担当教員や事務担当者との面談・ヒアリングが実施されるケースがある
- 選考結果の通知を受け取る
- 採用後、指定の書類を期日までに提出する
- 業務開始前に所定の研修を受講する
上記の選考をクリアして、正式にTAとしての業務を担当することになります。
採用後は、次のような書類の提出を求められるケースが一般的です。
- TA申請書
- 履歴書
- 振込先口座の登録書類
- 成績証明書など
書類には提出期限があるため、提出書類に不備がないよう、なるべく早めに準備してください。
さらに、多くの大学では、TAとして業務に携わる前に研修の受講が義務づけられています。研修では、ハラスメント防止や個人情報の取り扱い、勤務時間の管理など、教育支援者として必要な知識や姿勢を学びます。受講生ではなく授業を提供する側として授業に関わる以上、一定の知識や倫理感を身に付ける姿勢が重要です。
TA経験をどう活かす?将来のキャリアプランへのつなげ方
TAとしての経験は、教育や研究の現場に限らず、さまざまな進路で活かすことができます。ここでは、教員志望・研究者志望・一般企業志望の3つのケースに分けて、TA経験がどのようにキャリア形成につながるのかを詳しくみていきましょう。
教員志望の場合
将来、大学や高校などで教員になりたいと考えている方にとって、TA経験はとても価値のある経験となるでしょう。
授業の準備や学生への説明といったTAの業務を通して、「伝える力」や「クラスの流れを管理する力」が自然と身につきます。実際に教える立場に立つことで、教えることの難しさはもちろん、相手の理解度に合わせて言葉や話し方を工夫する大切さをよく理解できるはずです。
大学によっては、教育職を目指す学生にTA経験を積極的に推奨しているところもあります。TAでの経験は、将来の教員採用試験や履歴書にも活かせるでしょう。
研究者志望の場合
研究者を目指している場合も、TA業務を経験することでキャリア形成につながります。大学で働く研究者の多くは、研究だけでなく、授業を担当したり、学生を指導したりする業務に携わっています。
TAとして学生の質問に答えたり、授業の進行をサポートしたりといった経験を通して、教育の現場や実態を理解し、研究者としての将来の業務に活かせるはずです。また、大学院生向けの奨学金に応募する際に「教育経験」としてのアピール材料にもなるでしょう。
一般企業での就職を希望する場合
TA業務は、教員や研究者だけでなく、一般企業への就職を希望する方にとっても、役立つ経験です。
TAの業務で得られる「人にわかりやすく伝える力」「状況に応じて柔軟に動く力」「責任をもって行動する姿勢」は、どのような職種でも求められる力です。特に、教育系・人事系・企画職などでは、TA経験を通じて身につけたコミュニケーション力やサポート力が大きな強みとなるでしょう。
さらに、就職活動の面接では、「自分がTAの業務に携わるうえでどのように工夫をしたか」「TAの経験を通して何を学んだのか」を具体的に語ることで、自分の強みをより伝わりやすくなります。
TA以外の制度
前章では、TAに求められる素質や適性、TAの応募方法についてご紹介してきました。
TAという制度についてある程度理解を深めることができたのではないでしょうか。
では、TAと並んで耳にすることのある「TF(ティーチングフェロー)」「RA(リサーチアシスタント)」「SA(スチューデントアシスタント)」とはどのような制度なのでしょうか。
この章では、これら3つの制度について、簡単にご紹介していきます。
TF・SAとは
TF(ティーチングフェロー)は、教員の指導のもとで授業の計画・進行・管理を行います。TAよりも高度な知識や能力が求められます。TAは修士・博士課程の大学院生を対象とする一方、TFになることができるのは一般的に博士課程の学生に限られるのが特徴です。
SA(スチューデントアシスタント)は、TAと同様に「教育活動のサポート」で、教員の授業運営のサポートを行います。TAと異なるのは、大学院生ではなく学部生が対象であるという点です。また、SAに応募する学部生は、担当しようとする当該科目を既に履修していることが要件として挙げられるケースもあります。
いずれも、TAと同様に授業の補助業務を行うものですが、可能な業務の範囲や業務時間、給与などに違いがあります。
RAとは
RA(リサーチアシスタント)は、大学が行う研究に関してサポートを行うものです。
RAの業務を通して研究を遂行する能力を向上させることが目的とされています。
対象は修士・博士課程の大学院生です。
TAと異なるのはTAは授業に携わる業務の補助であるのに対し、RAは研究に関わる業務の補助であるという点です。
まとめ
今回の記事では、TAとは何なのか、TAとして活躍するためにはどうしたらいいのか、TA以外にどのような制度があるのかについてお伝えしてきました。
ポイントをまとめると以下の通りです。
- TAは、大学院生が大学の授業を支援する制度である
- 給与や仕事内容は、大学や学歴、担当する授業等によって異なる
- TAの利点はスキマ時間を活用して収入を得られること、業績にできること
- TFは博士課程の学生のみが対象で、授業の進行にも携わる
- SAは学部生が対象である
- RAは研究活動の補助を行う
今後、TAやその他の業務に従事する際にこの記事を参考にしていただければと思います。





